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放課後RPG  作者: グゴム
5章
42/100

42 顛末

          挿絵(By みてみん)            

42


 昼過ぎ。人々が最も活動する時間に差し掛かり、ヴァナディースの中心部に位置する神殿周辺はどの道も人で溢れかえっていた。その中を明らかに異常な――最高に怪しい雰囲気をさらけ出しながら、俺達は街の外へと急いでいた。


 全身ボロボロの集団、気絶中の女、そして極めつけは外套の隙間からちらちらと白骨の手足が垣間見える、銀髪の少女である。


 当然、徐々に周囲の人々がその異様さに気付き、騒然とし始めた。



 その状況に対応したのは三好だった。使ったのはユニークスキル【扇動】【ネガティブモード】――使った瞬間から、ざわざわとした街のトーンが一気にだだ下がりし、どこの葬式だというくらいに、街中の人々が落ち込んでいた。


 使われた感じとしては、確かに少し気分が落ち込んだ気もしたが、先に効果と使うタイミングを説明されていた為か、そこまで急激に変化する感じではなかった。なんというか、30分しか寝れなかった日の寝起きの気分という感じ。


 三好に言わせると、レベルが低い相手のほうが効きやすく、しかも効果範囲はヴァナディースの街全体を余裕でカバーできるほどに広い。要するに大人数で、しかも一般人相手に使用する時に真価を発揮するスキルのようだった。



 とにかく、三好の【扇動】によって、なんとか無事にヴァナディースの街から脱出した。そのまま俺達は、エ・ルミタスに戻る方向へと進んだ。


 ヴァナディース周辺の田園地帯を通り過ぎると、街道は森の中を抜ける。道路はしっかりと整備されており、通常時はエ・ルミタスとヴァナディースを往復する人々がごった返すそうだが、現在は先の教国のエ・ルミタス襲撃騒ぎによって通行量が激減していた。そんな人の気配が少ない街道を、俺達はヴァナディースから離れる為に走り続けていた。


 途中、石内に痛めつけられた俺の体は、あっという間に全快した。異世界人仕様は恐ろしく、1時間も経たないうちに、抜けたか折れたかという肩の痛みが嘘のように無くなってしまったのだ。


 一方、気絶した姉御はなかなか目を覚まなかった。途中でさあきと交代して俺が担いでいたのだが、結局起きたのは日が暮れようかという時刻だった。


「うがーー!」


 背中で気絶し続けていたよこたては、起きてすぐにジタバタと暴れ始めた。うっとうしいので地面に放り投げてやる。


「いってー!」

「うらなちゃん! よかったー。やっと気が付いた!」

「お? さあき? ここは……街の外?」


 キョロキョロと周囲を見渡し、姉御はつぶやいた。


「そうだ。随分のんびりと気絶してやがったな」

「って事はなんだ、結局クーの計画通りになったのかよ。腹立つなぁ」


 どうやら、最初の計画通り【デストラクト】で蹴散らした後、俺とさあきが姉御を回収して街を脱出したと勘違いしているらしい。


 確かにお前が気絶するまでは予定通りだったが、そこから先はまったく予想外な事が続いたんだよ。


「予定通り? どういう事? クー」


 三好が聞いてきた。俺がその質問に答える前に、よこたてが顔色を変えて叫んだ。


「てめー! 三好!」

「ん? なに、姉御さん」

「どうしたのじゃねーよ。何で、てめーまでいるんだよ」

「っ? 何でって言われても……」



 どう説明すればいいのか……三好はそう呟いた。確かに、なんか色々有りすぎて説明が面倒だな。

 

「三好。とりあえず、エ・ルミタスを襲った事を謝っとけ。なんか色々こんがらがってるが、姉御が気にするのはそこだけだ」

「ああ。そうか。それもそうだったね――姉御さん」


 三好は、ぽりぽりと頭を掻いた後、軽く頭を下げながら言った。


「ごめん。エ・ルミタスの街を襲った事は謝る。悪かったよ。もうしない」



 うーん……確かに謝れとは言ったが……軽すぎるんじゃないか? 随分とてきとーな印象だ。さすがにこれじゃあ、姉御も納得しない気がするが……



「三好。歯、食いしばれ」

「え?」


 その言葉に顔を上げた三好の顔面に、よこたての見事な右ストレートが炸裂した。三好の丸顔が一瞬で角張るほどに強烈な一撃だった。


「よし! 許した」


 一件落着。さすが脳筋よこたて――単純すぎる。あほらしい。


「そういや、三好。友森の奴はどうしたんだよ」

「えーっと……」


 姉御が聞くと、三好は殴られた箇所を痛そうにさすりながら、困り顔で唸った。


「それと、このガキはなんだ?」 


 続けてよこたては、二人のやり取りを興味深げに見ていたヘルに指を向けた。ちょっと説明するのが大変そうだな。ここらで一旦、落ち着いて話すか。


「さあき、追っ手は見えるか?」

「ん。今のところそれっぽいマーカーはないよ。森の中にモンスターがいるだけ」

「おーけー。もう教国からも結構離れただろう。じきに日も暮れるし、ここらで休むか。さあき、森の中で野営できそうな場所を探してくれ」

「はーい」


 俺達は街道沿いを避け、すこし森に入った地点で野営の準備を始めた。



……



 よこたてに気絶してから起こった事――石内の襲撃と友森の死、そして唐松の暗躍とヘルの登場など、一連の出来事を順に説明した。


 姉御は一々驚いたり怒ったりとリアクションを見せていたが、結果クラスメイトが二人(石内もあわせると三人)も死んでしまった事を知り、気を失って何も出来なかった自身を嘆いていた。


 その中の一人、唐松を殺したのは他でもない目の前の死神ヘルだったのだが、よこたてはあまり激情を見せる事無く、ただクラスメイトが死んだ事実を悲しんでいた。



「唐松は、石内を使って友森を殺したんだろ? それなら自業自得だろ。それより、いきなり殺された友森と、無理やり使われた石内の方が可哀想だ……」


 よこたてはそんな事を口にした。姉御にとって、唐松に使役された石内が友森を殺した――その事のほうが、唐松が殺された事よりも重要なようだ。先に友森を殺したのは唐松なのだから、文句は言えないという事か。


 まあ、確かにそうだろう。今回は途中から完全に後手に回ってしまい、場をコントロールできる状況ではなかった。たまたま、本当に偶然ヘルが現れなかったら、おそらく俺達はまとめて唐松に殺されていた。


 その意味ではヘルに感謝しているし、唐松が死亡する事になった結果も、今は納得している。だが、それでも俺は、できれば唐松を殺したくは無かった。


 何とか、あの場さえ切り抜けてさえいれば、とりあえず友森以上にはクラスメイトに被害は出なかったはずだ。あんな奴でも、一緒にこの世界に来たクラスメイト。『みんな生き残って元の世界に帰る』――王子と約束した言葉が、俺の中で空しく思い出されていた。



……



「最近、連続して冥界から死者が消えるという事件が起きたのだ。しかも、死んですぐの奴ばかり。これはおかしいと思って、ここ数日、冥界の入り口を張っておったら、今日になって異世界人がやってきたのだ。トモモリとか言っておったかの? 我はクーカイとの約束を思い出して、そのトモモリとやらと話しておったのだ。あの男、我がちょっと脅すだけでガタガタと震え出してな! クーカイと同郷の者とは思えぬ肝の小ささだったぞ! で、そうこうしていたら、突然あの触手が現れて、トモモリを連れ去ってしまったのだ。我は全て理解した。これがこの誘拐事件の元凶だとな。そしてすぐにまた、大量の触手が現れたので、我はそのうち一つに飛びついたのだ」


 体全体を使い、身振り手振りを振り回しながら、死神ヘルは語ってくれた。


 どうやら唐松はタイミングが悪かったようだ。姉御達の魂を奪おうと冥界に侵入させた触手、それがヘルの目の前に現れてしまった。ヘルはその正体不明の触手に飛び乗って、地上ミズガルズまでやって来た。そういう状況だったらしい。


「って事は、俺達がいる事は全然知らなかったわけか」

「うむ。うむうむ。我もびっくりした。まさかクーカイがいるとはな。危うく殺してしまう所だったぞ」

「どういうことだ?」

「なに。本来なら【死の左手(レフトハンドデス)】の光は周囲の魂を根こそぎ刈り取るものだからの。我が本調子なれば、貴様らは全員仲良く冥界行きだったぞ。おしかったな! アハハハハ!」


 この野郎、恐ろしい事を言いやがる。笑えねーよ。まあ、結果助かった事に間違いは無いんだが。


 とりあえず、その【死の左手(レフトハンドデス)】とやらは危ないので、あまり使わないように言っておいた。



 一通り、それぞれの説明が終わった頃には日が落ちていた。ろくな準備もせずに街を飛び出してきたため、満足な食事も無い。そこで常に持ち歩いていた携帯食と、さあきが趣味で持ち歩いている紅茶(のような何か)で、今夜は乗り切る事にした。


 まあ、これはエ・ルミタスなり次の街に行けば問題無い。それよりもこれからの事だ。


「姉御。お前はエ・ルミタスに帰るのか?」

「ん? ああ。そのつもりだよ。用事は済んだしな」

「俺は残りの魔石十二宮ジェムストーンを集めに旅に出るけど、一緒に来て手伝ってくれないか?」


 さあきは黙っていてもついてくるだろう。よこたての奴は色々と問題は起こすが、こいつの戦闘力はかなり役に立つ。できれば戦闘要員としてパーティに欲しかった。


「んー。手伝ってやりたいが、ちょっと今回はやめとく。エ・ルミタスでの後始末もあるし、教国がまた攻め込んでくるかもしれないからな。また落ち着いたら、手伝ってやるよ」


 エ・ルミタスの名前を出して、ヴァナヘイム教国の上層部を根こそぎにしてしまったんだ。これから教国がどう動くか知らないが、確かにエ・ルミタスは危ないかもしれないな。


「三好。お前は?」

「僕? 僕はどっちでもいいけど……」

「三好は私と一緒にエ・ルミタスに来い。さっきので一応手打ちはしてやるが、てめーの性根は私が教育しなおしてやる」

「……だってさ。ごめんねクー」


 よこたての睨みに、お手柔らかにね――と苦笑していた。


「それじゃ後はヘルか。お前、これからどうするんだ?」

「我は魔界ニブルヘイムに帰るぞ」

「でもさっき、戻る方法を知らないって言ってなかったか?」

「うむ。うむうむ。だが、当てが無いわけではない」


 ヘルはさあきの淹れた紅茶もどきを口に含み、嬉しそうな表情を浮かべた。


「これは美味い飲み物だ。なんというものだ?」

「お茶だよ。銘柄は知らないけど――っていうか、そんなの無いのかな」

魔界ニブルヘイムには無いものだ。なるほど地上ミズガルズも良いものがあるではないか」

「……話、戻していいか?」

「ん? んん? あぁ、魔界ニブルヘイムに戻る方法だったな。知らないと言っても、我が知らないというだけだ。知っておる奴の所に行って、聞けばよかろう」

「なるほどね。誰の所に行くんだ? ああ、ヨルムンガンドか」


 太古の地(ドラゴンズホール)で出会った、世界蛇ヨルムンガンドが頭に浮かんだ。確か、ヘルとヨルムンガンドは兄妹とか言ってたな。だったら兄に助けを求めに行くのは当然か。


「いや。いやいや。あのバカ兄者なんかの所に行っても、帰り方なんてわからんぞよ」

「あれ、そうか」


 はずした。違うらしい。


地上ミズガルズの魔王。大悪魔、傲慢の君ルシファなら、魔界ニブルヘイムに帰る方法をきっと知っておるはずだ」


 ヘルが挙げた名前は、俺が次に訪ようとしていた相手だった。





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