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放課後RPG  作者: グゴム
3章
22/100

22 帰還

          挿絵(By みてみん)            

22


 腕を組み思考する。ふと見ると死神ヘルは隣の席でぐーぐーと居眠りをしていた。どうやら話が長すぎたらしい。はしゃいでたしな。


 魔王アンラの言い分は分かった。確かに異世界人が魔王・モンスター側に組するなどあまり無いから、こいつらとしてはさっさとお帰り願いたいのだろう。一応、六道は魔王達の立ち位置に向かっているようだが、完全に仲間になるつもりじゃない。むしろその地位を乗っ取ろうとしているんだしな。


天界アースガルズへ行くにはどうすればいい?」

「人間が、天空の神々の助け無しに天界アースガルズに行こうとするならば、ユグドラシルの樹を登るしかないでしょう」

「ユグドラシル?」

「ええ。世界の中心にて世界を支える世界樹です。そこから天界アースガルズに登ることができる。ただし、魔石十二宮(ジェムストーン)が必要ですが」


 また新しい単語が出てきた。そろそろお腹が一杯だ。


「なんだそれ。太陽の石で虹の橋でも架けるのか?」

「太陽の石? 虹の橋? よくわかりませんが……魔石十二宮ジェムストーンは地上に存在する12種類の強力な魔石のことです」


 なるほど、大体あってる。


「この世界には12種類の魔術があります。火水土風の4大魔術。闇光時空の2対魔術。雷爆波界のはぐれ魔術で12種類」

「まてまて、おかしいぞ。地上の街で、もっと種類があるって聞いたんだが」


 魔術ギルドのおっさんが言っていた。【竜術】【神術】ってのは、どうなったんだよ。

 

「それは、人間達の無知です。【竜術】というのはおそらく、ドラゴンと人間のハーフが使ったドラゴンの力の事ですし、ヴァナヘイム教国の教皇が使うという【神術】というもの、あれは【光術】です。まあ普通の人間が【光術】を使える事自体、珍しいですが」


 なるほど。じゃあ【光術】を使える王子は、その教皇とやらと同じ力を使えるってことか。


「4大魔術は地上ミズガルズでもポピュラーですが、2対魔術が使える人間は数百年に一度現れるだけ、しかもほとんどが異世界人です。そしてはぐれ魔術にいたっては異世界人ですら使えた者を知りません。神、天使、上級悪魔まで含めた使用者でも、現在知られているのは【雷術】の使い手・雷神トールと【爆術】の使い手・破壊の君フェンリル、そして【界術】の使い手・境界神ユミールぐらいでしょう」


 その言葉に、少し驚いた。今アンラが挙げたはぐれ魔術4つも、クラスメイトの中に使い手がいたからだ。



「さて、すこし話が逸れました。魔石十二宮(ジェムストーン)の話です。地上ミズガルズには魔術に対応した12個の魔石が存在する。伝説では、それを集めてユグドラシルの樹にささげた時、天界アースガルズへの道が開かれると言われています」


 予想通り。そこはテンプレなんだな。わかりやすくて助かる。


魔石十二宮(ジェムストーン)は何処にあるんだ?」

「すべては存じません。私も所詮しょせん魔界ニブルヘイムの住人ですので。ただ、いくつか心当たりがありますから、この話を受けてくださるならお教えしましょう」

「そうか」



 さて、どうするか。


 魔王の言う通りに行動すれば、魔石十二宮ジェムストーンを集める→ユグドラシルの樹に捧げる→天界アースガルズに行く→神様ロキと話をつける→外の世界に帰る――って感じか。いかにもRPG的な話ではあるが、まあ筋は通っている。


 それに、魔王アンラが元の世界に戻る方法を知らないというのなら、次は天界の神々とやらとコンタクトを取るべきなのは確かだろう。異世界召喚物ってのは大体、召喚者は神様か王様か魔王って相場は決まってる。魔王は知らないといい、王様にも人物に心当たりが無い以上、元の世界に戻りたければ神様に会いに行けって言うアンラの提案は、納得できる。


 じゃあ逆に最悪の事態ってのはなんだ?


 例えば、ロキが異世界人を召喚しているなんて全部嘘で、俺たちを利用して天界アースガルドへの道を開こうとしているだけとか。


 例えば、ユグドラシルの樹に魔石十二宮ジェムストーンを捧げるって行為が、実はこいつらを悪魔達を地上に復活させる儀式であり、復活させてしまった魔王たちが地上ミズガルズを滅ぼしてしまうとか。


 まあ、悪いほうに考えれば、キリが無い。しかし、色々不安もあるが、結局はアンラの提案に乗るしかないだろう。


 そりゃそうだ。今まで元の世界に戻る有力な情報なんて無かったんだ。ノーヒントで歩んできたこの世界にやっと現れた道筋(フラグ)。たとえその情報が、悪魔の教示者(デモニックチューター)によるものだとしても、試してみる価値はある話だ。


 それにこの話、現状では情報不足すぎる。ならば、真偽にかかわらず、ここはとりあえず話に乗っておいて、また情報を集めて考えるのがベターだろう。何もしないよりは、遥かにましだからな。



「わかった。お前の話は戻ってみんなに伝える。他の連中がどう行動するかまではわからないが、少なくとも俺は天界アースガルズの神々――特に人神ロキに会いに行ってみるよ」


 アンラが立ち上がって頭を下げる。


「ありがとうございます。ロキと魔石十二宮ジェムストーンの話を伝えてくだされば十分です」

「おぉ? おぉおぉ。やっと話がまとまったか」


 話も一段落し、計ったようにヘルも目を覚ました。


 その後は雑談に興じて、アンラとヘルから魔石十二宮ジェムストーンの情報や迷宮、魔石、モンスターなどなど。この世界について様々なことを教わった。代わりに外の世界――俺達のいた世界の話をしたら、2人は随分と興味深そうに話を聞いてくれていた。ヘルは終始楽しげに大笑いしていたし、アンラは特に、現実世界における科学的な話にとても興味を持っていた。



……



 いつまでも話しているわけにも行かないので、そろそろ地上ミズガルズに帰ることを告げると、ヘルが口を尖らせた。


「なんだ。なんだなんだ。クーカイもう帰るのか。つまらんのう」

「まあ六道もいるし、相手してやってくれよ」

「むー」


 ふくれっ面で拗ねるヘル。その姿は子供らしくて愛らしい。しかし、さっきの雑談の中で、こいつの年齢は10000を超えていると言っていた。とてもじゃないがそんな年上には見えない。


「そうだ。最後に聞きたいことがあるんだが」

「なんだ? 申せ」

「さっき、死者は全員ヘルのもとに来るって言ってたけど、死んだ人間を生き返らせる事って出来るのか?」

「それは無理だな」


 ヘルはフルフルと顔を振った。


「死ぬということは我らと同じ魔界ニブルヘイムの住人になるということだ。基本的には、地上ミズガルズには戻れぬ」


 まあ、さすがにそうか。もしも生き返れるのなら、この先の戦いで無茶もできるかと思ったが、そこまで甘くはないか。


「そうか……じゃあさ、これから異世界人が死んで冥界に来たら、お前が面倒を見てやってくれないか」

「それは構わぬが、なぜだ?」


 ウルドの町で王子と別れる際、残りのクラスメイト全員で元の世界に返ることを約束した。だが、現実的に考えればそれは難しい。おそらく、この後何人かは、死ぬだろう。


 それは仕方がない事だと考えていた。街に閉じこもって生活するだけならまだしも、外を歩けばモンスターが居るこの世界で、全員が生き残りつつ、現実世界に戻るなど、不可能だと。


 だが死者が集う世界が存在し、死んでしまったとしても、そこで存在するのだったら。もしかしたら死人でも現実世界に戻れるかもしれない。勿論、そんな都合の良い事は考えづらいだろう。だが、可能性がゼロでない限り、布石は打っておくべきだ。



「クーカイ?」

「あぁ。悪い。まあうちのクラス、面白い奴ばっかだからさ。誰が来ても、退屈はさせないと思う。まあ、よろしく頼むよ。死者の女王」


 そう言うと、ヘルは楽しそうに胸を張った。


「うむ。うむうむ。任せておけ」

「ああ。それじゃ……」

「待てクーカイ。貴様にこれをやろう!」


 そう言って、ヘルは右手に持った大鎌を放り投げた。無造作に投げられたそれを、俺は慌てて受け止める。


「我と貴様の友情の証だ。受け取れ。生ある者には過ぎた武器ぞ」

「でもこれって、大事な武器なのでは?」


 俺が言い切る前に、ヘルは空手になった右手をくいっと動かす。すると同じような大鎌を抱えた金色のスケルトンが現れた。


「見ろ。お揃いだ。アハハハハ!」


 新たな大鎌を受け取り、振り上げ、楽しそうに笑うヘル。気持ちは嬉しいんだが、こんな大鎌もらっても、微妙なのだが……



「ああ。言い忘れておった。刃の付け根にある髑髏されこうべを回せ」

「これか?」


 カチリという音と共に、底の装飾が半回転する。すると一瞬で大鎌は刃渡り20cm程の短剣に変形してしまった。体積は大幅に小さくなっているのに、元の大鎌時と重さは変わらず、そのまま密度だけを増しているようだ。


 これは、素直に助かる。そういえば俺の短剣、最初の町で買った初期装備のままだったからな。


「貴様は短剣使いであろう? 我は鎌モードでしか使っていなかったから、貴様のほうがその武器は使いこなせると思うぞよ」

「ありがとう。ヘル」

「よい。よいよい。我はとても楽しかった。また来るがよい! 歓迎するぞ」

「っは。もし来るとしたら次は死んだ時だな」

「アハハハハ! それもそうだな」


 銀髪をなびかせてカラカラと笑う骨少女。死を司る神にして冥界の盟主。煉獄の管理者にして死者の女王。ヘルは、最後まで笑顔の似合う死神だった。



「話は終わりましたか?

「ああ。待たせたな」

「では、地上ミズガルズの迷宮に送りましょう。希望はありますか?」

「人里に近いところがいいな」

「それなら、エ・ルミタスの迷宮にしましょう。最奥91階層の転移陣に送ります。あそこは街の地下に位置するので丁度いいでしょう」


 いやいや、ちょっと待て。数字がおかしい。慌ててアンラを止める。


「91階層は深すぎる。地上に出るまでに死んでしまう」

「大丈夫ですよ。転移陣のある大部屋の奥にある財宝部屋には地上への転送陣ワープがあります。それを使えば一瞬で地上です。ああ。ついでに財宝もお使いください」


 ああ。それなら大丈夫か。


「でもいいのか? 宝なんか貰っていって」


「はい。どうせ私達には必要ない物です。遠慮なく持っていってください。それでは行きますよ」


 アンラが両手をかざすと、俺の足元に巨大な魔法陣が現れた。それはすぐに光に溢れ、視界を真っ白に染めていく。消え行く視界の中、大きく手を振るヘルに、俺は右手を上げて応えていた。



 そして、魔界ニブルヘイムから帰還した。





一橋空海

Lv44


HP 1324

STR 147

DEX 183

VIT 111

AGI 232

INT 99

CHR 201


スキル/死35,短剣30,ダッシュ22,風術19,水術22,隠密30,眼力26,開錠17,聞き耳5,魔石加工11

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