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case.15 歪んだ正義の王

物語は所詮、物語。

現実と混ぜてはいけないよ。



「俺が……負けた? 何故だ……どうして……」



 ガクッ、と地面に膝を付きながら、ベルゼリオはそう言葉を漏らした。


 俺とベルゼリオの戦いは、俺の勝利で幕を引いた。

 『支配』をかけ、ベルゼリオが俺に逆らえないようにした。


 負けて落ち込むベルゼリオに、サタールは近づいて言う。



「途中、焦ったけどよ。―――大将が負けるかも、って。でも良かったぜ。糞騎士野郎が負けてくれて」



 ニイッ、と笑いながらサタールはそう言った。



「何故、そんなに嬉しそうなんだ。それに、俺はちっとも喜べる状況じゃないんだ」


「嬉しそうだァ? そりゃテメェ、嬉しいに決まってるだろうが! テメェの無様な姿をこの眼に焼き付けられたんだからなァ! カカカッ!」


「なっ……にを……! やはり貴様はここで始末しておかなければ……!」



 ベルゼリオは再び剣を手に取り、サタールの方へと歩いていく。

 それに対してサタールも、刀を引き抜きベルゼリオと対峙する。


 さすがに静観できる状況じゃないので、俺は止めに入ることにした。



「おい、2人共。そういうのはまた後でにしてくれ。今やるべき事は喧嘩じゃない」



 俺の静止で、2人は立ち止まる。


 良かった、さっきまでの雰囲気と変わっていて。何か、2人の中で吹っ切れたのかもな。



「ハァ、仕方ない……か」


「そうだな。そんで、今やるべき事って何だよ」



 俺はサタールにそう聞かれ、確認の意味も込めて答えることにした。



「今のやるべき事。それはレオン達転生者を始末すること。アイツらには借りがあるからな……たっぷりお返ししてやらないと」


「確かになァ……アイツらには俺もちょいと礼がしたかったんだ。もちろん協力させてもらうぜ、今回の件の詫びも兼ねてな」



 サタールは、二つ返事で了承してくれた。

 しかし、ベルゼリオの方は難色を示していた。



「ふむ、こうなってしまった以上……俺も貴様らの側につかざるを得ないのだろうが……。しかし、状況は厳しいかもな」


「どうしてだ?」


「もう嘘をつくのは意味がないだろうから包み隠さずに言うが、俺を雇っていた黒幕は―――」



 ベルゼリオが、そこまで言いかけた時だった。





「―――それ以上話したら、分かってるだろうな?」



 


 刹那、場の空気が凍りついた。

 ……気がした。



 それに、さっきまで周りに居たはずの観衆達は消えていた。



 隣に居るベルゼリオは、身体が硬直したかの様に、一瞬たりとも動くことが無く、ただ一点を見つめていた。


 そんなベルゼリオの視線の先に居たのは……



「アーサー……様」



 ベルゼリオは、その人物をそう呼んだ。

 全身に鎧を纏った、男声の騎士を。



(アーサー……って、あの、アーサー王?)



「まさか……」



(アーサーって、この国の王の名前だったよな?)



「ベルゼリオ。裏切るなよ? 私を失望させないでくれ」


「……クッ……アーサー王よ……。俺は……私は騎士、主の為に忠義を尽くすのはもちろん分かっています……。ですが、私は私の役割を果たさないといけない時が来たみた―――」


「―――裏切るんだな?」



 ベルゼリオの言葉を遮って、アーサーは言い放つ。

 ベルゼリオは、答えをしばらく考えた後、アーサーに言った。



「申し訳無い……私は……いや、俺は貴方の雇われ人である前に、かつての魔王に忠誠を誓った《魔帝八皇》の1人なのです。だから、俺は貴方を裏切る」



 ベルゼリオは、とても申し訳なさそうに答えた。

 そしてその答えを聞いたアーサーは、背中の大剣を引き抜きながら言った。



「そうか。私を裏切るのか。ならば―――」



 引き抜いた剣を、ベルゼリオに突きつけてこう言った。



「―――死ね」



 刹那、轟音と共にアーサーはベルゼリオの後ろに居た。



「グァァァァァッ!」



 ブシャァァァッ……と何かが吹き出る音と、ベルゼリオの叫び声が響く。



 一体、何が……?俺は隣を見て、驚愕する。



 左腕が、切り落とされている。切り口からは、血が吹き出ていた。



「ベルゼリオ……ッ!?」



 俺はすぐに介抱しようとしたが、俺が動くより早く、サタールが動いた。



「大将、このクソ野郎の事は俺に任せろ。一応回復魔法も使えるしな。それよりあの王様をどうにかしてくんな」


「助かる。アイツは、俺に任せておけ」



 サタールは、俺の答えを聞いてすぐさま回復作業に移った。


 俺はアーサーの方を向き、考える。



(……勝てるか? あの速さ、尋常じゃないぞ。俺が見えなかったんだから)



 一体何レベなんだ。

 ただスキルとかで速いだけなのか、それとも俺よりレベルが高いからステータス的に速いのか……。

 どちらにせよ、あの速さをどうにか対策しないと、ベルゼリオの二の舞になってしまう。



「おい、そこをどけ」


「嫌だ」



 アーサーに「どけ」と言われるが、俺は当然拒否する。



「私の邪魔をするな。この聖剣の錆にしてくれようか」


「それも嫌だな。というか、お前みたいに頭のイカれた王様の邪魔をするのは、むしろ魔王っぽくていいことじゃないか?」


「私が、頭のイカれた王だと? その私の邪魔をするのはいい事だと? ハッ、ふざけたことを言うのも大概にしろ。私は至って正常であり、その私が行う全ての行動には意味がある。全ては『正義』の名のもとに執行しているのだ」



 『正義』、だと……?

 ベルゼリオを殺そうとすることがか?


 《主神の儀》とやらを行う為に、何人もの人を生贄にすることがか?




 ―――ふざけるなよ。




「何だその顔は? 何か言いたいことがあるのか?」


「……ああ、いっぱいあるさ。だがな、まずはテメェを黙らせる。一発ぶん殴ってから、それから話をしようじゃないか」


「フッ、いいだろう。だが、もし私のことを殴れたのなら、の話だがな―――」



 そうアーサーが言った直後だった。



 ゴォン! という轟音と共に、アーサーが消えた。



「もう、貴様はチェックメイトだ―――」



 アーサーの声は、俺の真後ろから聞こえていた。

 そして背後から香る鉄と血の似た匂い。





 ……どうやら、俺とアーサーの戦いは早速佳境を迎えたようだ。


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