case.1 再始動
新章開幕
俺は、目を覚ました。
長い長い眠りから。
不思議と疲れてはいない。
涙が、流れていた。
何故だろうか。
理由は一つも分からない。
俺は寝ている身体を起こした。
ふと、隣を見るとルインが居た。
ルインも涙を流していた。
「どうして、泣いている?」
俺はそう問う。
「分かりません……」
俺と同じ理由らしい。
理由が分からない。だけど泣いている。
それは何故だろうか。
その時俺やルインのように、隣で寝ていたマノン、ムルも起きた。
すると、リガーテたちが勢い良く視界に飛び込んできた。
その時に、その話を聞いたのだ。
アスモフィが消えたという、衝撃の話を。
「何故……止めなかった」
俺は思うように怒れなかった。
悲しくもなかった。
しかし、聞かずにはいられなかった。
「我々も、まさかそんな魔法を使うとは思わず……!」
「申し訳ない……です」
「そうか……焉魔法、か。―――分かった。お前たちは何も悪くない。だから顔を上げてくれ」
深く、深く頭を下げていた2人は、その顔を上げる。
「アスモフィが、命を賭してまで繋いでくれたこの命……絶対に……」
「あ、あの。アスモフィ様は死んでない……みたいですよ」
リガルテはそう言った。
「死んでない……だと?」
「はい……確かに消えはしました。ですが、消える直前、“私は死ぬ訳じゃない”って言ってたんです」
ん? どういう事だ?
寝起きなせいもあって頭がうまく回らない。
だが……
「そうか、死んでないのか。それならいい。またひょっこり現れるだろ、あいつの事だし。―――それで一つ聞きたいんだが、アイツら……サタールとルシファルナは何処に居る?」
「あの2人なら……何か思い当たることがあるって言って何処かへ行ったっきり、帰ってこなくて……」
思い当たること……。
そうか……そうか……。
しかし困ったな。2人と連絡が取れないなんて。八方塞がりじゃないか。
「これから……どうするか。状況は最悪だ」
俺は歩きながら考えた。
もちろん、魔帝八皇を集めるのは最優先事項だが、手がかりが全くない。
さて……どうするか。
「あの、魔王?」
「ムル……どうした?」
「あの、この子、魔帝八皇なんでしょう?」
そう言いながらムルは、マノンを指差した。
「おう……!」
マノンはそれに答えた。
「でしたら、他の魔帝八皇の方と連絡が撮れるのでは?」
「確かに。どうなんだ? マノン」
「……さっきから試してるが、中々繋がらねぇ……」
そうか……。これで、完全に八方塞がりだな……。
何だよ……。せっかく国作りを始めようと思っていたのに……。
「誰か……誰か居ないのか……?」
俺は考える。頭がパンクしそうだ。
何か……何か情報があれば……!
「―――魔王。情報なら、ある」
「……ッ!」
突如、空から声がした。
今までに聞いたことのない声だ。
そしてその声の主は、目の前に一瞬で現れる。
「手短に話す。私は前代の暗殺者枠。名を……ナキリと言う」
「……前代の……。それで、情報とは……何の情報だ?」
「現在の魔帝八皇の所在についてだ」
……ッ!
今、今俺たちが一番欲しい情報だ……。
だが、こんなご都合主義な展開……何か裏がありそうだが―――
「それをまとめた紙を貴様にやる。上手く使うといい。それではさらばだ―――」
そう言い残して、ナキリと名乗る人物は消えた。声的に女だとは思うんだが、全身に黒いローブを纏っていて、体つきは分からなかった。
「主様……これを」
ルインが、落ちていた紙を俺に渡してくる。
これが、魔帝八皇の居場所をまとめた紙……。
俺はそれをゆっくりと開く。皆は、紙を凝視していた。
「『【色欲】【憤怒】【傲慢】は同じ場所に。転生者の特異スキルによって支配されている。場所は“無法都市ムウラ”だ。レヴィーナとルヴェルフェとベルゼリオは分からない。調べる時間が無かった。許せ。ちなみに、【色欲】が消えたのも、転生者のスキルによるものだ。くれぐれも気をつけたまえ。』」
目の前に光が広がるのが分かった。
……良かった、一応無事なんだな。
しかし転生者ときたか……。久々に聞いたな。
勇斗たち以来だろうか。
「よし……俺はこれに書いてある通り、無法都市に向かおうと思う」
「ですが……あのナキリって人が信用できる人間かどうか、分からないですよ?」
ルインは、心配しているのか俺に訴えてきた。
だが……
「すまない、ルイン。情報がこれしかない今、たとえ罠だろうと信じるしかないんだ。行くしかないんだ……」
「…………そうですよね……分かりました。私もお供します。絶対に主様を守ってみせます」
変わったな……ルイン。
何というか、逞しくなったな。
「それじゃあ、私は……そうですね……海底に帰りますわ。ついでに、海上に国を作れるだけの土地を作っておきますわ」
ムルは帰るみたいだ。
だが、何かすごいことをサラッと言った気がする。
「えっ、ちょ、土地をつくる?」
「ええ、どうせ国を作るんでしょう?」
「あ、ああ。そうだが」
「なら土地は必要じゃない。私がやっておきますわ」
……願ったり叶ったりだが、こんなにスムーズにいくなんて。まるで意思疎通が完璧な夫婦みたいじゃないか。
「うふふ、楽しくなりそうですわ」
そう言いながら、ムルは消えた。転移魔法だろうか。
「我々はどうすれば……?」
「お前たちは、このまま魔界に残って、ここを守っていてくれ」
俺は残ったリガルテたちに指示する。
ここを誰も居ない状態にするのはマズイ気がするからな。
「わ、分かりました。どうかご無事で……」
「ああ。マノンも頼んだぞ」
「おう! 任せとけ!」
そう言ってリガルテたちも、建物の外へと出ていく。
彼らは騎士だから、問題なく戦力になるだろう。
それにマノンも居るしな。
「よし、それじゃあ俺たちも行くか」
「はい!」
そして何事も無かったかのように、出発する俺たち。
心のわだかまりは取れないまま、俺たちは行動を開始するのだった。
ブックマークってことでね




