case.19 一縷の望み
次回から新章
あれから一週間が経った。
海底で行われた勝負の結果は酷いものだった。
ムルとルインは互いに激昂し、魔法を……拳を撃ち合った結果、2人とも大怪我。勝負は引き分けとなった。
その結果治療室には4人の患者が。
しかも全員、ほぼ一週間が経つというのに誰一人として目を覚まさないのだ。
原因を探る私であったが、私一人では限度があり、4人分の治療を連日連夜していた事もあり、疲労で今すぐにでも倒れたいくらいだった。
でも、ここで倒れるわけには行かないと、自分に鞭を打ちながら、頑張っていた。
さらに。
私のそんな様子を見たサタールとルシファルナが、「思い当たることがある。もう少し頑張ってくれ」なんて言って何処かへ言ってしまったのだ。
残されたリガーテくん、リガルテは戸惑いながらも、私のサポートをしてくれた。
(それにしても、2人の『思い当たること』って何なんだろう……?)
私はそんな思考を巡らせながらも、魔法による治療を続けた。
大丈夫、まだ私は頑張れる。
■
「さて、これからどうするよ。軍師サマ」
「その呼び方はやめてくださいよ」
「カカッ、いいじゃねぇの。それより、本当にどうするんだ。これから」
俺は隣を歩くルシファルナに聞いた。
この男が何を考えてるのか知りたかったから。
本当は、これからどうするのかは決めてある。
「……こちらがそれを聞きたいのですが……」
あっ、コイツ何も考えてねぇや。
仕方ねェか。俺は俺の思い当たることをルシファルナに話した。
「いいか。お前さん、あの海底の会場に、明らかに敵意のある奴が居たのに気づいたかい?」
「マノン……ですか?」
「んー、まあ結果的には間違っちゃいねェんだがよ、それよりも前。第一回戦の時から、ソイツは居たんだわ」
そう、周りの奴らは誰一人として気付いていなかったみたいだがな。
「感じた事の無ェ魔力……俺にしか感知出来なかった……。アレは……魔王サマに一番近い魔力だった気がするんだがなァ……? ―――なァ? そこにいる奴らよォ」
俺は、後ろに向かって言葉を吐いた。
すると、予想通り2人の人間が現れた。
「―――よく、気づきましたね」
「そりゃあな。こっちの作戦通り、平原みたいな開けたとこ歩いてたらノコノコ現れてくれると信じてたぜェ?」
見たところ……2人とも武装はしていないようだが……。
「魔法の類の使い手……かい?」
「ええ。ご察しの通りですよ」
見た目が紳士風の男が、俺と会話を広げる。
ルシファルナと、その紳士風の男の後ろにいる太った男は口を開かず、会話の行く末を静かに見守っている。
「お前さん、あの時海底に居たよなぁ? そんでもってうちの大将たちに何かしたよなァ? それを教えな」
「それを、僕が簡単に教えると思いますか?」
「ああ、教えるサ。俺たちが実力でねじ伏せてからなァ!」
俺は腰にある刀を二本抜き、戦闘態勢に入った。俺には“魔断”がある。武器も持たない魔法使いになんて負けねェ。
―――そう、思っていたのだが……。
「ああ。我々に戦う気は有りませんよ」
「ンだと……?」
「我々は戦わずして勝つのです。ウフフフフフ…………」
その男が両手を上げると、突然視点が動いた。
(あ、れ……視界が……歪んで……?)
「おい、ルシ……ファ……ル……ナ?」
隣を見ると……ルシファルナも目をトロンとさせて、今にも倒れそうだった。
(クソ……精神攻撃の類だったか……!
よく見たら、後ろのデブ野郎……何か魔法を使ってやがる……!)
ああダメでい……思考が纏まらねぇ……あぁ!
「クソったれがァァァァァッ!」
俺は勢い良く、刀を振り上げ、そしてそのまま……
―――グサリ。
そう、自らの脚を貫いた。
「ほう……? 驚きました。まさか、自滅するなんて……」
「痛ぇ……がよォ。これで精神攻撃は解除出来ちまうぜェ……?」
「ああ。そうですか。そんな事で勝ったと思っているのですか?」
「ンだとォ? さっきから生意気だなァ!」
俺はイライラしてたせいもあって、痛みを我慢しながらも突進した。
だが、男たちはニヤニヤしながらただ立っている。
「そろそろ……ですね。ふふ……これは面白くなりそうだ」
「何言ってやが……ッ! あ、あれ……な……何……がッ―――」
―――そして突然、俺の意識は消えてしまった。
そしてそのままその場に倒れてしまう。
それと同時にルシファルナも倒れた。
一体何が起こったのか、分かる者は誰一人として居ないのだった。
その場にはただ、二人の男が残る。
彼らは呟いた。
「さぁ、これでほぼ振り出しの状態に戻せましたね……。ゲームはここから楽しくなるのです……ウフフフフ―――」
■
「はぁ……はぁ……」
倒れそうになりながらも、私は治療を続けていた。サタールたちを信じて待っていた。
何か解決策があるのだと、そう信じて。
「アスモフィ様……そろそろお休み下さい!」
「そ、そうですよ!」
そうリガルテたちは私を無理矢理にでも休ませようとしてくるが、
「駄目よ……。今ここでやめる訳にはいかないの……少しでも治療を怠ったら、この子達はみんな―――」
そうだ。
諦める訳には行かない。
この昏睡状態を治す手段……私にできる、“唯一”の“限界”。
今の私の、本気の治癒魔法。
それを、使うしかない。
「―――もう、こうなったら最後の手段を使うわ。貴方たちはそこで見ていなさい」
「は……はい」
2人は仕方ないといった様子で、私を見つめていた。
いや、正確には手出しが出来ないと諦めた様子で、か。
サタールたちの帰還を待ちたいところだけど、もうあれから3日が経った。さすがに私も限界が近づいてきてる……。
だからこそ、もう最後の手段を使うしかないのだ。
―――焉魔法を使おうと思う。
本来なら、正しく『大罪』の力を受け継いだ者しか使いこなせない魔法。“焉魔法”。
ただの子孫でしかない私には、使うだけでかなりの消耗があるだろう。
最悪……いや、ほぼ確実に存在が消えかけるだろう。
だが、死ぬ訳では無い。
だから、後はこの人たちに託そう。
「……二人とも、あとは宜しくね?」
私は振り向いて、リガルテたちに微笑んだ。
「え……な、何を言って……?」
「―――“高速詠唱”。……“四重詠唱”」
私は2つの魔法を使う。
これで準備は出来た。
私は残りの全魔力を集中させ、魔法を行使する。
私の、存在をかけた本気の魔法。
「焉魔法……伍
―――『福音』。」
そう、私が呟くと。
天使のような暖かな光が辺りを包んだ。
しかし、それと当時に私の視界は黒に染まる。
もう、目を開くことすら辛い。
(さすがに……無理し過ぎちゃったかな……。)
その場に倒れ込む私。
意識と……身体が消えかかっているのが分かる。
焉魔法は代償が大きい。
だから私は消える。ただそれだけ。
私が消える直前、何とか様子を確認しようと目を見開くと。
そこには起き上がるルミナス様たちと、驚いた顔で叫ぶリガーテくんたちが見えた。
そんな光景を見ながら、私は微笑みながら涙を零した。
「だい、じょうぶ……死ぬ訳じゃない……から。また、会いに来るんだから……!」
そう言い残して、私は―――
■
この日、世界から三人の魔帝八皇が消えた。
それを魔王ルミナスが知るのは、起きてすぐのことだった。
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