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case.5 【憤怒】の大罪サタール(4)



 しかし……どうしたものか。

 あれだけ啖呵を切っておいて、負けてしまうのは情けない。


 何か手を考えないと。



 っと……何で悩んでいるかと言うとだ。

 多分、スピードだけだったらあのサタールに追いつけないこともないのだが、恐らくその後で耐えられてしまって、反撃を喰らいジ・エンドという未来が見えているのだ。


 サタンの力で、多少は強くなった俺だが、それでもサタールには遠く及ばないだろう。


 サタン曰く、一時的な能力上昇が俺にはかかっているらしいが、それも所詮は“一時的”な物だ。

 速攻で倒すしか無い。




 さて。

 そこで俺が思いついた方法は2つ。


 1つは魔法による身体強化。

 “敏速”や“強化”、“潜影せんえい”といった身体強化系魔法や、補助系魔法はギリギリ使えるようにしておいた。

 から、そういう類の魔法でサタールを翻弄する。


 もしくは2つ目。相手が避けられないような、範囲攻撃の連発。

 この世界ゲームにはMPという概念は存在していない。この世界における魔力とはRPGとかでいうMPと同義であるのだ。/(魔力=MP)

 だから魔法を連発することに抵抗は全く無いし、むしろこっちの方がゴリ押し感があっていい。



 さて、どうするか。




―――あのよ? 思ったんだが。




 どうした? サタン。




―――いや、迷うくらいならどっちもやっちまえよ。



 あ。



―――あ。って、気づいてなかったんか?!



 ああ。



―――マジかよ……。マヌケな魔王様も居たもんだなァ。




 ……うるせぇ!余計なお世話だ!




 でも……そうか。全部やればいいのか。

 そうすれば、それこそ文字通りゴリ押しになる。

 パワーisゴッド、だな……!



「フフ……フハハ……」



 つい、笑いがこぼれてしまう。



「なんでい、何がおかしいんだ?」


「いいや? これからお前が俺に下される姿を想像したら笑えてきてな」



 ピクッ、と一瞬だがサタールの眉が動いた。



「ほう? お前さんが俺っちに勝つ、と?」


「ああそうだ。いいか? だって俺はな―――」



 俺は“魔剣”を両手に生み出しながら、一歩ずつサタールへと歩み寄る。


 そして、言葉の続きを言い放つ。



「―――魔王だぜ? 魔を統べる王だ。そんな奴が魔帝八皇なんざに負けてらんねぇんだよ!」



 そうだ、俺はルインと誓ったんだ。


 絶対に負けないって。魔族を……ルインを守ってみせるって。


 こんなところで負けてられるか。



「いいぜ……ェ? 来いよ……!」


「“敏速”……“強化”……“見切り”……“心眼”……“潜影”……!」



 俺は魔界を旅立ってから、コイツに出会うまでの短い期間で覚えた少ない身体強化系魔法の全てを使う。


 『敏速』は一定時間(約10分間)の間、脚力を上昇させ、移動スピードを大幅に速くする魔法。

 『強化』は使用対象(腕・脚・胴体など)に一定時間、それぞれの箇所の能力強化(腕=腕力・脚=脚力・胴体=耐久力や忍耐力)を施す魔法。

 『見切り』は戦闘中にのみ発動可能で、自分に大きなダメージを与える攻撃が発生した時に、それを100%回避出来るという状態にする魔法。

 『心眼』は聴力の超強化と、相手が目視できなくなった時に、それを見えるようにする魔法。

 『潜影』は気配遮断の魔法。文字通り影に潜んで姿を完全に消すことのできる魔法だ。



 と、まあ今俺にかけたのはこんなところだ。


 向こうの剣は“魔剣”で受け止める。

 向こうが魔法を放ってきたら“魔力変換チャージ”で吸収する。


 ……と、いうか“魔力変換チャージ”の存在をすっかり忘れていたのは内緒だ。



「ァン……? 何処に隠れやがった……!」



 よし、しっかり気づいてないみたいだ。

 さすが暗殺者御用達の魔法“潜影”だ。



 俺はそのままサタールの背後に回り込み、そして―――



「後ろだよ。“飛剣”」


「なっ……! グァァァッ!」



 全身を切り刻む。

 しかしまだサタールは倒れない。



「チッ……何処だ……何処にいやがる!」


「まだだ……! “豪剣フルパワーブレード”ッ!」



 重い、一撃。

 それがサタールを襲う。


 しかし……



「そこか……ッ!」



 その技はカキン―――とサタールの剣に弾かれてしまう。



「なっ……!」


「見えたぜェ? そら……そこに居るんだろ!? “迅雷”ッ!」



 刹那、後ろに居た俺はそのままサタールに斬られる。


 そして攻撃を受けたことにより、“潜影”は解除されてしまった。



「やっぱりかい。何となく掴めてきたぜ!?」


「チッ……だが、それも無駄に終わるだろうよ」


「なんだって……?」



 俺は空に手をかざす。



「お前さん、まさか……ッ!」


「気づいたか?」


「クソがッ! んなことたぁさせねェぞ?!」 


「もう遅い。―――“高速詠唱アクセルマジック”」



 俺はサタンから受け継いだスキルの一部である、とある魔法を使った。


 それは、本来であれば1日1回……いや、何ヶ月かに1度が限度といったところの、超強力な魔法―――『焉魔法えんまほう』。


 その内の一つ、サタンのみが使える魔法を。



「―――『焉炎えんえん』ッ!」



 サタンがくれた、最強最悪の魔法。

 サタンがサタンたる所以の魔法。


 これはサタンが負った、生前の憎しみの炎。

 それが今、皮肉なことに子孫であるサタールを襲う。




―――ソイツを、使えるとはな。魔王ってのは、酷え存在だァ。




「……何故貴様がその魔法をッ!? ―――『魔断』ッ!」



 サタールは刀で魔法を打ち消そうとした。


 しかし、俺が天に放った黒い焔は、サタールを襲う。



「……グァァァァァァァァァッ!」



 黒い炎は、サタールの身体を包むが、やがてそれは消えた。


 そこへ、俺は“縮地”を使って詰め寄った。



「―――さあ、これが最後だ。もう一度言おう。お前も俺の傀儡くぐつとなれ」

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