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case.1 龍の隠れ里へ

停滞しがち……気ままにやります



「はい。ということでシュデンに到着よ」


「あっという間だったな……」



 僕たちは一瞬にして《護王国シュデン》へと辿り着いてしまった。

 というのも、ここに居るガネーシャの力のお陰なのだが―――



「その姿は一体何だ……」


「あ、これ? どう、かわいいでしょ」



 そう言ってガネーシャはくるりとターンをした。

 ちなみにガネーシャは治療中だった魔王をインドラに渡して、一人で楽そうに歩いている。


 いや、そんな事よりも……だ。


 ガネーシャはもともと、《象神》と呼ばれる存在で、その文字通りさっきまでのコイツの姿は、れっきとした“象”だったのだ。

 ……と言っても、人型ではあったが。



 それが今はどういうことか、溢れ出る神気を抑え、人型の象の姿をしていたはずが可憐な乙女……いや、絶世の美女とでも言うべき姿になっていたのだ。


 全身を黒いドレスと紫の花かざりでコーデし、腰の辺りまで長く伸びた黒髪と、大胆にも開いている胸元の部分が、彼女のセクシーさをより一層引き立てていた。



「そしてお前もだ……」



 僕はそう呟きながら後ろを振り返った。



「おう、どうだ! 我もなかなかカッコいいだろ!」



 そう言ったのはもちろんインドラだ。


 もともと金髪で上裸で筋骨隆々だったインドラは、その身体の大きさと周囲を凍てつかせる程の神気を抑え、今ではすっかり普通の人間と同じサイズになってしまった。


 が、それ以外は特に変化もなく、金髪で、上裸で、筋骨隆々としていた。

 そしてさらに二人は、どういう訳か自分の名前を偽りだしたのだ。

 



「いい、今の私はガネーシャじゃなくて“ガネリア”。リアって呼んでよね」


「じゃあ我は、インドラではなく“ディラ”と名乗らせてもらおう」



「「何故だ」」



 僕とベルゼリオは当然のように疑問を浮かべた。

 すると二人も、当然のようにこう返してきた。



「いやだったアンタら、私たちが同行してる時点で結構ヤバいのよ」


「我らは《創造神アダム》様に監視されている身故、現在のこの状況もバレていることだろう」


「はぁ? それって結構マズイんじゃ……」


「ああ、そうだ。だが、向こうもすぐには手を出せないはずだ」


「どうしてだよ」


「だからアンタらバカなの? 私たちはこれでも《十二神将》なのよ? たまたま貴方たちに負けちゃったけど、これでも結構……というか世界崩壊レベルには強いんだからね?」



 あ、そう言えばそうだったな。

 僕たちが勝ったから、少しだけ忘れかけていたが、確かにコイツらは《十二神将》なんだよな……。



「そして、アダム様の陣営には残っている神がもう半分しか居ないの」


「半分?」


「ああ。ゼウス、ハーデス、アルテミスの計三体だ」


「だけど、アルテミスは恐らく戦わないでしょうね。なんてったって今彼女は、お兄ちゃんをどうにかする事しか考えてないものね」


「そうだな……確かにアイツは出てこないだろうな」



 冷静に考えれば、今僕たちはかなりすごい会話を聞いているんじゃないか?


 これって《創造神アダム》の陣営の内情を聞いている訳だろ?

 ってことはかなり重要な情報じゃないか。



「フム、先程ゼウスと言ったか」


「ん? ああ、確かにいったな」


「ヤツとは一度戦った事があるな。まあ、あの時は分身体だったようだが」



 そう言ったのはベルゼリオだった。

 コイツもコイツでなかなか凄い情報を急にブチこんできたな。



「分身体……分身体……? って、ああ……そうか」


「インドラ……じゃなかった、ディラも分かったのね?」


「ああ。ベルゼリオ、と言ったな。それは多分ハーデスの仕業だ」


「ハーデスの……?」



 ベルゼリオは当然、事件を知らない僕も疑問を浮かべた。

 それにインドラ……改めディラが答える。



「ああ。ハーデスの能力はそう言った分身を繰り出すことの出来る能力なのだ。それだけ聞けば一般的な術と変わらないように思えるだろうが、ヤツのは規模が異常なのだよ」


「規模が?」


「ああ。恐らく、だが……分身体の兵隊だけで軽く世界は五つ滅ぼせるだろうな」


「世界を五つも!?」


「しかもそれを幾億の時の間、維持し続けることが出来る。さらに『不死』の神と言うだけあって、その兵士が死ねばすぐに蘇るのだ」



 おいおいおい……待ってくれよ。

 ソイツ結構ヤバいヤツなんじゃないか……?


 しかも兵士とは言ってるが、ベルゼリオが言ってたように、一体一体がかなり強力な存在なんだろ……?

 確か、ゼウス……だったか?


 そういう神の分身体まで作れて、しかもそれをかなりの数出すことが出来て、さらにそれを幾億の時間、維持し続けることが出来ると来れば……



「最強じゃん」



 僕は気づいたらそう呟いていた。



「うむ。ヤツは最強だ……。だがもちろん弱点もある」


「弱点……」


「それは、ヤツ自身がとてつもなく弱いという事だ」


「ほう?」


「周りばかりを強くすることに執着して、自らを鍛える事は一切しなかった……それがヤツなのだ」



 つまり、戦う時は周りの兵士ではなく、本体を狙え……そういう事だな?



「まあそういう訳で話を戻すとだな」


「アダム様をお守りするのは、そんなハーデスと、ハーデスの兵隊って訳」


「なるほど……な」



 確かに、それなら例え監視されていようと、それ以上の事は迂闊に出来ないという訳だ。



「そしてさらに話を戻すと」


「私たち神が、そのまま名前を名乗ったら頭がおかしいと思われるでしょう?」


「だから姿も変えて神気を抑え、名前も変えることで違和感を無くしたのだ。とは言ってもお前たちからしたら違和感だらけだと思うがな」



 ああ、そこでそう繋がるのか。

 確かにそれなら納得だ。



「して、一つ我らからも聞きたいのだが」


「今から向かう所はどんな所なの?」



 インド―――ディラは、魔王様とミカエラを淡い金色の光で包み込みながら、そしてリアもそれをサポートしながらそう聞いてきた。


 治療も滞りなく進んでいるようで、僕は少しだけ安心しながらベルゼリオに質問に答えるように目で促した。

 ベルゼリオは僕の視線に気づいて、頷き、答え始める。



「我らがこれから向かうのは、《龍の隠れ里》という所だ」


「龍の隠れ里……ねぇ」


「我が居た頃は、長閑のどかな村……と言った感じだ。言葉にするなら心頭滅却出来る場所……そんなイメージだろうな」


「……む? だが、そんな場所になんの用があるのだ?」



 ベルゼリオの回答に対して、ディラは疑問を投げた。



「あそこには……我が師範が居るのだ。人の身にありながら、若くして“龍神”の位に至り、数々の死戦を潜り抜けてきた数少ない猛者だ」


「ヘェ……それは一度お手合わせ願いたいところだな」


「そんなあの方なら、我らを鍛えてくれると思い、それで《龍の隠れ里》へと向かうことにしたのだ」


「なるほどね。つまりアンタたちは強くなりたいって訳か」


「その通りだ」


「でも……その《龍の隠れ里》とやらには一体いつ着くの? もう結構歩いてるけど……全然まだ街中よ?」



 確かに……僕も今回の目的地である《龍の隠れ里》の場所を知らない。

 ベルゼリオだけが知っている秘境なのだが……



「もうすぐだ、もうすぐで到着する」


「え? ベルゼリオ、お前マジで言ってるのか? だってここはシュデンの街中だ―――」



 そこまで僕が言いかけた時だった。



「―――ここに、転移用の魔法陣があるのだ」



 そう言って、建物と建物の隙間……小さな細道を指差してベルゼリオはそう言った。


 そしてその道へ躊躇いもなく入っていくベルゼリオに、渋々僕たちは続いた。

 そしてベルゼリオが建物の壁に手をかざし、何かを呟くと……




「フッ、ほらな?」



 そう、勝ち誇ったように言ってきた。

 目の前には魔法陣が浮かび上がっていた。



「いや……マジなのかよ……」


「うむ。では行こうか」



 そう言ってベルゼリオは魔法陣の中へと消えていく。



「ちょっとだけ楽しみね」



 今度はリアが消える。



「フム。治療に専念出来る場所ならいいのだがな」



 最後にディラが消えた。



「まあ……行くしかないんだけどな」



 そう呟いた僕は、三人に続いて魔法陣の中へと消えていったのだった。

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