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case.16 タスケテ



「多分、声はこの辺りから―――」



 俺は飛行しながら、下の木々を見渡していた。

 想像以上に木が多くて、意外にも何も見つからない。


 だが、確実に近づいてはいる。

 そんな思いが強まる。


 すると、刹那……轟音が響いた。




―――ゴォォォン…………




 音がしたのは―――



「そこかッ!!」



 俺視点から、右の木々の中だ。

 俺は急いでそっちに下降していき、と同時に有事の際に必要であろう武器を両手に構えた。



 地面に着地し、そこからは自らの足で移動をする事に。

 木々を、草むらを掻き分け、音のした方へ急いで駆けていく。


 そして、木々の隙間から木漏れ日が差し込む地点、そこを見つけた俺は急いでそこまで駆け抜ける。

 勢いよく木々の間を飛び出した俺は、そこでようやく事の重大さに気づき、現状何が起こっているのかを即座に把握した。





 ―――腹を貫かれた、二人の天使。





 ―――血まみれの剣を持った、漆黒の天使。





 全ての視覚情報が、俺の脳内でパズルのように組み上がっていき、一つの結論を導き出した。



「ミカエラ―――」



『ァアア……ァァッ!』



 ミカエラはゆらゆらと揺らめき、そして今では消えそうな灯火……そんな雰囲気をしていた。

 一体何があったのか、説明するまでも無いだろう。



「―――殺したのか?」



『殺し……テ』



 “殺して”?

 なぜ、俺にそんな事を頼むのだ。


 もし。

 もしミカエラが自分の意思でこうする事を望んでいないのだとしたら。


 この黒くなった現象が、自分の意志とは反するものなのだとしたら。



「また……厄介な事になったな」



 コイツ救わないと、か。

 俺は双鎌をしまい、剣を引き抜いた。



 そしてもう片方の拳を握り締め、スキル発動の準備を開始した。


 俺が、俺たる所以。

 魔王の力、『支配』の力でアイツを救い出してやる。



『―――“殺しテ”……殺して……コロシテ……殺シテッ!!!!』


「ミカエラ……」



 短い付き合いだったが、ありがとう。

 なんて言葉は絶対に口にはしない。


 どんなに短い付き合いであろうと、俺にとって、そしてコイツにとっては大事な記憶の一部になっているはずなんだ。



「……だから、お前を助ける。お前のことをよく知らないから助けないんじゃない、助けた後、これからお前のことを知っていくんだ」



 まずはミカエラの無力化、そしてその後ろで倒れている二人の天使の治癒……それを俺一人でやるんだ。


 多分、大丈夫。

 これは自分への試練だ。


 乗り越えた先に、きっと何かがあるはずだ。




▶旅の目的が少しは果たせそうだな?



(フッ……確かにな。少しはこの戦いで強くなってみせるさ)



 ―――“支配者”……頂点に立つ者としてな。



▶なれば、我は今回の戦いにおいて、助力はしない。加えて“雷”の魔法に制限をかけさせてもらうぞ。



 ああ。いいぞ。

 “縛りプレイ”ってやつだな、燃えるじゃねぇか。



▶精々頑張ってくれよ。まあ、今回の戦いは余裕だと思うがな。




「任せておけ」



 俺はさらに左手に新たな剣を取り出し、戦闘態勢に入る。

 武器種は刀。右手には“神剣・神滅かみごろし”を持ち、左手には“神剣・救創リライフ”を持った。


 俺が暇な時間に作っておいた“神剣”も、こういう時に使わないと、作った甲斐が無いからな。



「さて、始めようか―――」



『ゥ……ア……ァァァァァァッ!』



 俺がそう呟いた直後、ミカエラは一直線に飛んできた。


 俺は、視線を前方に集中させ、ミカエラをギリギリまで引きつけた後、スライディングでミカエラの下をくぐり抜け、倒れている二人の天使の下へと駆けた。




「―――『天魔アーク』発動。“天魔癒園アークガーデン”ッ!!」



 スキル『天魔』を使った治癒空間を作り出し、二人の天使を囲んだ。

 出血が酷いから、コチラを優先して治療しないと―――



『―――“雷切ライキリ”ッ!!!』


「まぁ……そうだよなッ!!!」



 右手の剣を振り、背後から急襲してきたミカエラの攻撃をいなした。




『コロシテ……コロシテ……ッ!!』


「嫌だなッ!! “炎天えんてん”ッ!!!」



 俺は、ミカエラを二人の天使から距離を離し、“炎天”でさらに目くらましをした。

 そしてすぐに天使達の方へ戻って、治療を再開する。



「―――まずはこっちか」



 左手側に倒れている天使、コイツのほうが出血が酷いな。

 腹と右胸を大きく貫かれている。


 傷口が大きいから、その分だけ出血が酷くなっている。



「クソ……回復が間に合えばいいが―――」



 スキル『天魔』で治癒の力を左の天使に集中させ、傷口を癒やしていく。

 魔法……スキルとはすごいもので、大きい傷穴は少しずつ塞がってきている。


 だが、そんなに悠長にもしてられない……かッ!!



『―――“雷天らいてん”ッ!!』


「“潜影せんえい”ッ!!」



 ミカエラの攻撃を影に潜ることで躱し、すぐ直後飛び出した俺は剣を振るう。



「少しだけ痛い目にあってもらうぞ……ッ!!」


『コロシテ……コロシテ……コロシテコロシテッ!!』


「―――“螺旋らせん”ッ!!」



 ミカエラの身体をグルッと一周し、その一瞬でミカエラの全身に小さな切り傷を作っていく。



『ァ……アアアアアアアアアアアアアアアッ!』



 小さな痛みが重なり、ミカエラは倒れてしまう。

 そうして出来た隙に、俺は再び二人の天使達の下へ駆けた。



(クソ……この繰り返しになるのか……?)



 だが、文句を垂れている暇は―――





『―――タスケテ』




 背後から聞こえる声。



 涙と、嗚咽の混じった声。




『―――っぐ……助けてよぉ』




 恐る恐る背後を振り返る。



 そこでは、子供のように泣きじゃくるミカエラがいた。



 その背中についた両翼は、半分だけ白くなっていた。




「―――クソッ……! 俺は一体どうすればいいんだッ!!!」



(俺は魔王なんだぞ……!?なんで……こんな状況すら打開できないッ!)



 二人の天使を治療して、ミカエラを助ける。

 だが、それには明らかに人手が足りない……!


 人手を増やすには……増やすには―――




「いや……待てよ」



 二人の天使達はまだ生きている。

 流石は天使の生命力といったところか、それとも何か死ねない想いがあるのか。


 分からないが、まだ息はしている。


 俺の張った“天魔癒園アークガーデン”も機能しているお陰だろう。



 となればまずは、ミカエラを助けるのを優先して……。

 そして助け出したミカエラに、二人の治療を手伝ってもらえれば―――



「―――ハハッ」




 そうだ。それでいい。



 冷静になれ、少し考えれば分かる。



 焦らなくてもいい。



 もちろん、天使達の治療は怠らない。


 死んでしまっては元も子もないからな。



 だが、まず優先すべきはミカエラの『支配』だ。


 あの状態をどうにかすれば、希望も見えるはずだ。




「久々だな―――」



 俺は右手の“神滅かみごろし”をしまい、そのままスキル発動の準備を完全に整える。




「―――ミカエラ。お前も……俺の傀儡くぐつとなれッ!!!」

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