case.13 神ごっこ鬼ごっこ
「―――『邪神化』ッ!!」
「―――『龍神化』ッ!!」
刹那、洞窟内の大気が震えた。
オーラの柱が立ち上がり、その気に引き寄せられるように、先に逃げていたレヴィーナも、後ろから追いかけてきていたインドラも立ち止まった。
「嘘でしょ……?」
『クッ……クハハハッ! 流石は魔王軍幹部と言った所かッ!』
僕のスキル『邪神化』は、呪術を司る“小人族”の先祖が、邪神だという伝説から生み出されたスキルだ。
小人の神が存在しないこの世界で、他種族とは明確な差が生まれてしまっていた我ら“小人族”の、まさに救いとも言える力。
魔王軍幹部……《魔帝八皇》になった者、つまり《七つの大罪》の子孫である者にしか扱えないないスキルの一つである。
スキルを使えば、しばらくはこの状態が解除される事は無い。
角が生え、背丈が通常の人間と大差無いくらいまで伸び、見た目的な筋肉こそ増えないものの、内面的な基礎能力は全て限界以上まで引き上げられる。
スキル『神化』シリーズの効果自体は大して変化は無い。
簡単に言い変えれば『本気モード』になるだけだ。
だから隣にいるベルゼリオが使った『龍神化』も、見た目の変化と基礎能力の変化程度で終わっているはずだ。
見た目以外の要素のオリジナリティは一切無い……はずのスキル故、面白みが無いのがこのスキルの特徴なのだ。
『それが、貴様らの本気なのか?』
「ックク……その通りだ。さぁ神帝サマ、ここからが本当の鬼ごっこの始まりだぞ?」
そう言いながら僕は手を絡ませ、“呪術”を発動した。
『ほう? それは楽しみ―――』
「―――“無限肉壁”」
後方……今は前方だが、インドラの方に向かって無限に“死霊”が生まれていく。
“呪術”は、こういう事が得意なのだ。
『ほう? それで? まだ何かあるのだろう?』
「……それはどうかな?」
言いながら僕は後ろに駆け出した。
「ちょ、急にこっちくるなっ!!」
「レヴィーナ! 僕は一足先に逃げるぞ!」
「なっ、ひ、卑怯よ!?」
「お前がそれを言うなッ!」
僕たちは、走りながら会話していた。
後ろからはベルゼリオ、インドラと順番に追ってきている。
ちなみに僕が出したゾンビたちはインドラが軽々しく薙払っていた。
「ベルゼリオ!」
「なんだッ?!」
「僕たちは左右に分かれてこの洞窟の直線上のゴールを目指すッ! ついてこれるか?!」
「直線上とは、この直線の方向だな? それなら容易いッ! 無論、心得た。任せたまえッ!」
よし、これで作戦は決まったな。
ベルゼリオが一緒で良かった。
どこぞの自称天才とは全く大違いだ。
「ちょ、わ、私は!?」
「知らねぇよッ! お前に戦う気があるなら、『妖神化』にでもなりやがれッ!」
「う……嘘でしょ?? 嫌よ……あれを使うと何だか負けた気になるから……」
「それなら文句言わねぇで逃げろッ! 今一番遅いのはお前なんだぞ!」
事実、僕とレヴィーナの距離は少しずつ開いていっている。
そして気づけばベルゼリオは左の道に消えていた。
インドラは……やっぱり僕を狙うか。
『クハハッ! いくら逃げようが、策を弄しようが我の前には全て塵芥と化すのだッ!!』
「なら試してみるといいさッ!!」
僕はレヴィーナに軽く合図を出してから、右手側に現れた道に消えた。
「ちょ、待っ―――」
レヴィーナの声は、すぐに風の音で掻き消え、聞こえなくなった。
『フハハッ! 我は貴様以外に興味は無いッ! まずは貴様から潰させてもらうッ!!』
「ああ、それでいい! ―――“呪盾”ッ!!!」
走りながら後方に魔法の盾を生み出し、インドラとの距離を少しでも開こうと試みる。
が、
『“豪”ッ!!!』
―――バリーン!!と音を立てて“呪盾”は崩れ去る。
「チッ……クソ脳筋野郎が……!」
『フハハッ! それは、我には褒め言葉だぞ!!!』
何処をゴールとするかが分からないのが痛手だが、とにかく前に進まないと……。
しばらく足場がゴツゴツとした細い道を走っていたが、少し遠くの先の道に光が見えている。
『ほう……そこが出口かッ!? 開けた土地なら大歓迎だッ!!』
あと少し……あと少しで光の中に―――
「ッ……!」
光の中に飛び込んだ僕が、洞窟から抜け出た先は森だった。
「―――森、か。フフ……好都合だな」
大丈夫、まだインドラは来ていない。
が、すぐ来るよな。
「だったら……」
時間遅延ができる妨害は思いつくだけやってみよう。
まずは洞窟の穴を埋めて―――
『クハハッ! 追いついたぞッ!!』
(……マズいッ! もう来やがったのか……!)
どうする……?ベルゼリオは何処にいる……?
考えろ、考えろ……!
左の道も同じようにこの森に繋がっているのだとしたら、多分、ここから左に進んでいけばベルゼリオと出会えるはずだ。
だが、この道からはレヴィーナの奴が来るから……
「クソッ! レヴィーナよりかはマシかっ!」
『フハハッ! まだ鬼ごっこを続けるのか! 面白いッ! ―――が、もう鬼ごっこは飽きた。我はそろそろ本気を出させてもらうぞッ!!』
「それなら僕は全力で逃げさせてもらう!」
そう吐き捨てながら僕は洞窟を抜け出た所から左に、木々を掻き分けながら逃げ始めた。
さらに器用な僕は、レヴィーナが一目見て分かるように、目印となる“呪術用の紫のインク”を所々に垂らしながら逃げた。
『―――“神帝武流・速”ッ!!』
しかしインドラの奴が、僕を全力で追いかけてくるから、それの妨害も考えながら走っているのだ。
無数に生えた木々と、『邪神化』のお陰で何とか逃げ切れているが、これも時間の問題だろう。
「読みが当たっていればいいが……ッ!!」
『―――ええい小賢しいッ! “神帝武流・爆”ッ!!』
しかしそれもインドラにとっては邪魔な物だ。
だから、それを全て、悉くを、薙ぎ払い、そして破壊し、さらには燃やしながら僕のことを全力で追いかけて来ていた。
「無茶苦茶だろ……!」
頼むから早くベルゼリオと当たってくれ……それだけを祈りながら僕は全速力を尽くして走った。
『遂に……追い詰めたぞ―――』
(マズい……もうこんな近くに……ッ!もう、僕一人で戦うしか無いのか……!)
「―――チッ……! 少しダルいが、まあ仕方無いか……! 自分でつけた泥は自分で払わせてもらおう」
僕は走る足を急ブレーキで止めて、後ろに振り返る。
上手く耐えることが出来れば、後ろからはベルゼリオが、前からはレヴィーナが駆けつけてくれるかもしれない。
『―――ほう、逃げるのをここでやめるのか。見たところ、周囲には何もないようだが』
「ッ……ああ。ってか、もともと目的地なんて無い。ここには初めて来たからな」
『ックク……それもそうか。まあ、貴様はよく我から逃げれた方だ。それは賞賛に値するだろう』
「お褒めに預かり光栄だ」
『だが、それもここまで。精々無駄な努力と知り、悲しみの中に朽ち果てるが良いッ!』
クソ……なんて威圧だ。
神気が肌を焼き尽くすような……『邪神化』してなかったら、もう僕はとっくのとうに……。
頼む、二人とも……。
「―――僕はあまり戦闘が得意じゃないんだ」
そう、呟いて、僕は右手に僕専用の短剣を取り出して、戦闘態勢を取るのだった。
『さあ、そろそろ終幕と洒落込もうかッ!!』
「望むところだッ……!」




