case.7 急襲
《魔王ルミナス視点》
「―――ッてぇ……」
突然の足場崩落によって落下したせいだろうか。
体の節々が、少しだけ痛い。
見える範囲に目立った外傷は無く、奇跡的に命は助かったようだ。ということは、落下したのは少ない距離……という事だろうか。
まあ、こうして考えてても仕方ない。
今はとにかく状況を整理しつつ、脱出方法を探してみよう。
「あそこから落ちてきたのか……?」
上を見上げると、目視できる頂点の部分に崩れている天井があったので、恐らくそこから落ちてきたのだろう。
しかし、ここは洞窟……なのか?
俺はそのまま周囲を見回すが、あれだけ人が居たはずなのに、もうここには俺しか居なかった。
それにしても、だ。
まさかここに魔王軍メンバーが現れるとは予想だにもしていなかった。
俺が確認できたのは、レヴィーナと皇兄妹の二人だ。
全員、驚きが勝って行動に遅れが出たのだろうが、そこは流石俺と言うしかないだろう。
咄嗟に思いついて“煙幕”を焚けなかったら、危なかった―――
▶―――おい、魔王よ。一人で自惚れてるのもいいが、周囲の警戒をした方が良さそうだぞ?
(え……? ハヌマーン、それって……?)
『Urugaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!』
刹那、洞窟内に化け物のような叫び声が響いた。
俺はその声を聞いて、すぐに双鎌を取り出して戦闘態勢に入る。
▶神の気を感じる。気をつけろよ?
(了解。 ……って、神の気だと―――?)
『Gauuuu…………』
なんて考えていると、そこには超巨大な象……のような生物が現れた。
明確には象では無い。
象の体に鼻、それに巨大な双翼。身体の横から飛び出した鶏のような首。
まあ、簡単に言うとだ。
「―――合成獣……か?」
その答えに辿り着いたのもつかの間、ソイツは突進して来た。
『Guaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!』
叫び声を上げながらソイツは、その巨体に見合わぬ高速でこちらへと一直線に向かってくる。
「チッ、速えッ!! “招王雷”!!」
まずは攻撃が聞くか試さないとダメだ。
こういう類のモンスターは、“再生能力”みたいな厄介な能力を持っていることが多いからな。
俺の放った魔法は、辺りに落雷を撒き散らす。
もちろんキメラにも直撃している……が、効いている様子は無かった。それどころか、全体的に白かった身体の色が、黄色に染まっていく。
▶属性吸収……か。気をつけろ、ヤツは受けた攻撃の属性に変化して、その攻撃を回復として吸収するぞ。
(ハァ!? 厄介すぎないか? ―――いや……だったら属性が無い攻撃をすればいいのか!)
「それなら―――“十字斬り”ッ!」
俺は双鎌を持ったまま飛び上がり、文字通り十字型にキメラを斬った。
のだが―――
「効いていない……!?」
『Urugaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!』
再びキメラは、高速で突進してくる。
▶我がスキルを使ってみろ! 神の力ならば、ダメージが通るかもしれないぞ!
(スキル……? ―――ああ、分かった。とにかく試してみるとするかッ!)
「―――“猿神之天雷”ッ!!!」
ハヌマーンに言われて、俺はすぐに神雷を放った。
閃細な雷撃がキメラに直撃する。
『Gauuuu…………』
よし……どうやら効いているようだ。それなら……ッ!
「“猿神之天雷”ッ!!」
『GYUUUUUUUUUUUUUUUUUUUNN!!!!!!!』
いけると確信した俺は、すぐに同じ技を放つ。
だが、キメラは咆哮して、大きく旋回しながら走ってきた。
しかしそこへ俺の雷撃が向かう。また直撃すれば、歩みは止まる。これなら、勝機はあるはずだ。
それなのに。
「―――ッ!?」
キメラが、消えたのだ。
『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAO!!!!!!!』
さらに直後、俺は、腹部に強烈な一撃をもらってしまう。
「―――ッグゥゥゥゥッ!!!」
勢いよく横に吹き飛ばされ、俺は一瞬だけ気を失いかけるが、何とか意識を保たせた。
しかし、未だキメラは見えない。
(ハヌマーン……お前には見えるのか?)
▶いいや、全く見えないぞ。
(マジかよ……ってことは……勝てない……?)
「とにかく……“王壁雷”ッ!」
一旦距離を取らないと―――そう思って俺は周囲にバリアを張って、後退しようとした。
が、
「―――グァァァァァッ!」
すぐにまた腹部への一撃をもらい、後ろへと吹き飛ばされた。
傷穴が広がっていき、そこからだくだくと血が流れ落ちていく。
「クソが……!」
▶『天魔』で治癒するぞ。
(助かる……!)
「消えてると……神雷は当たらない? なら……どうすれば―――」
ハヌマーンのサポートのお陰で、少しずつ傷口は塞がっていっている。
しかし、状況は最悪だ。
どうにかして突破口を見つけないと。
「ってか……そもそもなんでこんなヤツが迷宮の地下に……?」
そうだ……こんなこと、有り得ていいのか?
神の力を受けても死なず、透かすことも出来る強力なキメラが、帝国の地下の洞窟に……?
『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAHAA』
しかし、キメラの方は俺に考えごとをさせる時間をくれないようだ。
今まで2回とも横から、腹部への攻撃を喰らったから、次も同じだとすれば……
▶来るぞッ!!
「“魂喰”ッ!!」
“死神”の力を鎌に込めて、左右に鎌を振った。
すると、右手側の鎌に、何かを切り裂いた感覚があった。
これは……!
『GYAAAAAAUUUUUUUUUU!!!!!』
(よし……効いてるぞ……ッ!)
▶どうやら、神の力と死の力ならば対抗出来るようだなッ!
今のところ分かってるのはそれだけだな。
だが、それさえ分かれば―――!
▶よし、治癒は完了した! 駆けろッ!
「了解ッ!!」
『RUAAAAAAAAAAAAAD!!!!!!!』
「今更そんな叫び声に驚くとでも思ってるのかよ……っと!!!」
言いながら俺は鎌を支柱に宙へと飛び上がり、そのまま双鎌で切り裂きながら落下していく。
身体に回転をかけて、一気に全身を切り裂くイメージで動いた。
鎌には切り裂いた感覚がある。
これなら、相当なダメージが―――
『GYHAHAAAAAAAAAAAAAAAAHYAA!』
「嘘……だろ!?」
結構な力を込めて放ったはずなのに、ダメージが通っている様子は無かった。
むしろ、さっきより元気になっているような……?
▶そうか……属性吸収したのか……! “死”はもう効かないのでは無いか……ッ!?
嘘……だろ。
これは、上書きなのか……それとも同時に並列存在しているのか。
もし、雷と死の属性の二つが透かせるのならば、かなりキツくなってくるな。
▶―――マズイ、背後だッ!
「後ろ……って―――クソッ!!」
ハヌマーンに言われて背後を振り返ると、そこにキメラが構えていた。
俺は何とか突進を躱し、態勢を立て直そうとするが、
『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAHAA!!!』
キメラは超高速で動き回り、壁を破壊しながら俺へ向かって何度も突進してくる。
次第にキメラの突進スピードが速くなっていくので、それについていくことが難しくなってきてしまった。
そしてついに―――
▶後ろ―――
『HYAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!』
「グァァァァァァァァァァァッ!」
再び腹部への一撃を喰らう。
しかしさっきよりも強い一撃。
一発で数発の攻撃を喰らったみたいだ。
もちろん傷口はまた現れて、そこから血が流れている。
▶クソ、今すぐ治癒を―――
『GAGAGAGAGAGAGAGAGAGAAAAAAA!!!!!!』
(―――ッ!嘘……だろ!?)
気持ち悪い笑い方をしながら、キメラはすぐに突進してきた。
もちろん、傷を治癒しようとしていた俺は、それに対応する事が出来ず……
「クッ……」
歯噛みをして、奇跡が起きることを祈った。
しかし……もうそれも届かない祈り……か。
そう、思っていたのだが。
キメラの突進はいつまで経っても俺には当たらなかった。
▶―――この気配は……!
俺は何が起きたのか、確認するべく恐る恐る上を見上げた。
するとそこに居たのは―――
「―――アニキ! 助けが遅くなってすいませんッ! 勇者、皇白夜。今ここに参上致しましたッ!!!」
禍々しく光る剣を二本携えた、勇者の降臨だった。




