case.? 神を追う者たち
「ベルゼリオ……ッ!?」
そこに居たのは、紛れも無く《魔帝八皇》のベルゼリオだった。まさか、こんなにも仲間に早く見つかるなんて。
これじゃあ俺が、逃げ出した……というか一人で特訓に出たのが恥ずかしいじゃないか。
まだ特訓の「と」の字もやってないのに!
てか、見つかったってことは……連れてかれる??のか?
なんて思っていたのだが、そんな俺の想像とは打って変わって、ベルゼリオは俺の前で膝をつき頭を下げると、こう言ってきた。
「ハッ、このベルゼリオ。不肖ながら只今我が主の下へ参上仕りました。到着が遅れて大変申し訳ありません」
「……え?」
「やっと来たね、僕たちの援軍」
「―――えん……ぐん?」
まさか、じゃあコイツが……ルヴェルフェが“呪った”っていう?
しかし、どうしてコイツが……?
ダメだ、まだ頭の整理が追いつかない。
詳しく事情を聞きたいところだが、今は状況が状況だ。
ベルゼリオの攻撃を受けて一時後退していたインドラが、すぐに体制を立て直していた。
つまり、また戦いが始まる。
『チイッ……また邪魔か……ッ! まあいい、何人増えようが所詮は我の足元にも及ばぬ雑魚よ!』
「ベルゼリオ、早速で悪いけど僕たちに協力してくれるかな?」
「了解した。色々話したいことはあるが、まあひとまずはお前たちに協力しよう」
と言いながらベルゼリオは錆びた剣を構えて立ち上がった。
同時にインドラも体制を整え終えた様子で、こちらを見ていた。
ふと、俺はベルゼリオの剣を見て思い出した。
「あ、そういえば」
「如何が致しましたか、主様」
「う……む? ベルゼリオ、お前そんなキャラだったか?」
俺は、またふと思った疑問をベルゼリオへと投げかけた。
確か、もっと高圧的な感じだった気がするのだが。
「ああいや……失ってから気づく物もあるというか、主の存在が思ったより大きかったというか、騎士としての忠誠心を思い出したというか……まあ、そんな感じの心境の変化があった訳でして……」
「―――なるほどな」
ちょっとだけウルッと来てしまった。
今地味に結構嬉しいこと言われたような気がするぞ。
「ま、まあ……無理をしないように、お前の好きな話し方、態度でいいからな?」
と、俺が頬をポリポリとかきながら言うと、
「ハッ。畏まりました」
と、ベルゼリオが再び膝をついて頭を垂れてそう答えた。
そしてそんな状態のまま、俺はさっき思い出した事について話した。
「それで、ベルゼリオ。お前に渡したい物がある」
「渡したい……物、ですか?」
「ああ」
顔を上げたベルゼリオに、俺は“異空間”から収納していたとある物を取り出した。
「―――泣いて喜べ。お前の為に創っておいた“神器”だ」
以前、渡そうと思って作成していた俺特性の武器シリーズ、通称“神器シリーズ”の一つ。
武器種は“片手剣”、そして騎士の象徴である“片手盾”だ。
二つで一つの武器となっている。
「これは……」
俺は、その二つの武器を渡しながら、説明した。
「こっちの剣は、“神竜護剣ミルティアス”。んで、こっちの盾が“絶盾ベルゼ”。どっちもまだ特別な効果や力はなくて、ただ“神特効”“神耐性”がついているだけだが―――」
「―――有難き……幸せッ……!」
と、装備の説明をしていると、ベルゼリオを泣き始めてしまった。
「えっ、ど、どうして泣くんだよ……?!」
「申し訳ありません……つい、嬉しくて……ッ!」
ベルゼリオは、持っていた錆びた剣を投げ捨てて、俺から受け取った装備を大切そうに身に着けていた。
「ま、まあ喜んでくれたなら何よりだ。とりあえず、しばらくはそれを使ってくれ」
「はい……ッ!」
「さ、準備はいいかな? 二人とも」
と、そこでルヴェルフェが仕切り直しの合図を出してきた。
「ああ、俺たちは……」
「大丈夫です、行けます!」
よし、俺もベルゼリオも準備オッケーだ。
「ちょっと? 私も忘れないでくれるかしら??」
「チッ、サラッと入ってきやがってこの糞天使め」
「ハァ?! テメェこのドワーフがッ! マジで殺すわよッ!?」
と、ルヴェルフェとミカエラが喧嘩を始めてしまった。
さらにそんな所へインドラがやってくる。
『フハハッ! 我を前にしても臆することなく、しかも喧嘩まで始めるとはなッ!!! ―――随分と我も舐められた物だな……ッ!!』
一瞬にしてその神気の質を濃く、強くすることで威圧をしてきたインドラ。
それに一瞬だけ気取られるが、すぐに気を奮い立たせて俺はインドラを見る。
「4対1……か。まあ、どうにかならん事もないか……?」
『フッ、ほざけッ! “神帝武流・速”ッ!!』
刹那、インドラは加速した。
「―――絶盾よッ!!」
しかしその神速に、ベルゼリオを対応して防いだ。
だがその程度でインドラは止まらなかった。
『―――なら……ッ! “神帝武流・弄”ッ!!!』
今度はベルゼリオの裏手に回り込み、背中を蹴る体制に入った。しかしそこはミカエラがカバーした。
「光剣よッ!」
『チッ、小賢しいッ! “神帝武流・破”ッ!』
ファンネルのようにインドラの妨害をする光の剣たち。
それをインドラは衝撃波を撃ち放って壊し尽くした。
さらにその一瞬の隙を突き、今度は俺とルヴェルフェが動き出す。
「“残月”ッ!!」
「“呪天”ッ!!」
双鎌による切り裂きと、呪いの魔弾が降り注ぐ。
『良い連携だッ! ―――だが、我にはまだ届かんぞッ! “神帝武流・守”ッ!』
そう言うと、インドラの周りをドーム型のシールドが囲み、俺たちの攻撃を拒んでいた。
それに続けてインドラは、
『―――“神帝武流・豪速”ッ!!!』
今度はパワーとスピード、二つの折混ざった攻撃だ。
さらに“速”と言っているようにスピードが尋常じゃない。
一瞬でルヴェルフェの下に辿り着き、殴る体制に入った。
「ルヴェルフェッ!」
「大丈夫! こんな時の為のコレさッ……!」
そう言いながらルヴェルフェは、指を地面に向けて、そしてその指先から小さな魔力弾を放った。
『フッ、何をするかと思えば。それで終わりなら、遠慮なく貴様から殺す―――』
しかしインドラがそう言った直後、再びルヴェルフェは笑った。
「―――“地獄異形観音手呪”」
『―――ッ!?』
ルヴェルフェがそう呟いた刹那、地面が……いや、ルヴェルフェが描いていた地面の魔法陣が紫に輝き出し、そこからインドラを逃がすまいと異形のモノの手が現れて、インドラの足を掴んだのだ。
当然インドラは逃げようと、その手を退かそうとするが、
『―――なんだ……ッ! これは!』
殴っても切っても、次々と現れて、次第にその数を増やしていく異形の手は、やがてインドラの脚を包むまでになった。
「これが僕の……『対神様用の呪い付与術』さ」
『対神用……だとッ!?』
「そう。ずっと研究してたんだ。世界最強の存在、“神”に真っ向から戦って打ち勝つ方法を。そこで真っ先に思い浮かんだのが、僕の得意魔法“付与”を使うことだったんだ」
『―――“付与”だと……!? そんな下等な魔法で』
「いいや、下等なんかじゃないさ。“付与”は―――最強の魔法だよ」
『ほざけッ! 適当な事を言うなッ!』
「いいや、適当なんか言ってないぞ。僕の“付与”は、どんな物でも付与することが出来るんだ。だからその証拠に、今お前にはある“付与”がなされている」
『なん……だとッ!?』
「―――文字通り、『地獄の呪い』さ。地獄の亡者たちが、対象を死んでも離さないように“付与”してやったんだよ」
そうして説明をしている間も、その“地獄の呪い”はインドラを蝕んていた。
「さ、トドメをさそう! 僕の手にかかれば、《十二神将》なんてこの程度なんだよッ! すごいでしょ、僕!」
「あ、ああ……確かにすごいが……」
こんなんで終わるのか……?
絶対、有り得ない。
▶ああ。まだ、アレも使ってないしな―――
『フフ……フハハッ』
「……ぁん? 何笑ってるんだよ」
『いいや、可笑しくなってな』
「何が……?」
『―――憐れだな、と思っただけだ』
直後、インドラの身体が異形に包まれた。
その瞬間だった。
『―――『神威』』
光と共に、インドラは身にまとわりついていた悉くを吹き飛ばし、そして何事も無かったかのようにそこに君臨していた。
『さあ、第2ラウンドといこうか。貴様らがとてつもない愚者であった事を今から証明して―――』
そう、インドラの圧倒的な力を目前にした瞬間。
『―――時間だよ、インドラ。例の天使が見つかった』
声が、空から響いた。
その声を聞いたインドラは、戦闘態勢を解除し、脱力したように項垂れていた。
『ンだよ……まだまだこっからって時に……』
『文句言わないよ、インドラ。今は邪魔な天使たちを殺さないといけないんだから』
『わーってるよ。アレだろ、魔王軍と敵対してる天使たちを先に始末しておけば、寝返る可能性も潰せるってやつだろ?』
『そ。分かってるならいいよ。それじゃ町の中心部へ行くよ? そこに二人の天使たちがいるらしいから』
『りょーかい。それじゃあな、愚者共よ』
そう言って、インドラは飛び去っていった。
謎の声も聞こえなくなった。
「今のは……?」
「てか、私も天使なんだけど……? あと、他に二人って……」
ルヴェルフェとミカエラが、それぞれの疑問を零していたが、やがてミカエラが「ああっ!」と突然大声を出したので、皆ミカエラの方を向いた。
「ど、どうしたんだよ」
「もしかして……二人の天使って……! ラグマリアとラージエリ……? 何だか嫌な予感がする……早く助けに向かわないとッ!」
そう言って、今にも飛び立ちそうなミカエラを、ルヴェルフェは静止しながら言った。
「魔王様、一つだけ聞きたい!」
「何だ?」
「今、天使たちが死ぬとマズイ事ってあるか?」
今、天使たちが死ぬとマズイ事……か。
別に問題は無いように見えるが……もしそれが《天帝八聖》と呼ばれる天使だったら?
てか、さっきのミカエラの反応……あれはまさか……
「恐らくだが、ミカエラとさっきの謎の声が言ってた二人の天使ってのが死んだら、マズイ事ってやつになると思う。―――《天帝八聖》だろ? その二人も」
「ええ、そうよ。私の推理が間違ってなければ、多分のその二人ってのは《天帝八聖》の二人の天使……だから助けにいかないと!」
俺はその言葉に頷き、言った。
「皆、悪いが俺もミカエラの意見に賛成だ。今すぐインドラたちを追おう」
「了解致しました」
「あいよ、魔王様がそう言うなら行くよ」
「皆、ありがとう! それじゃすぐに行きましょう!」
そう言って俺たちは、ミカエラに先導されるまま飛び立った。
向かうはディブリビアゼの町の中心部。
天使たちをインドラから守ることが今回のミッションだ。
「―――私も《天帝八聖》なんだけどなぁ……?」
ミカエラのそんな悲しい呟きが、風に流れて聞こえた。




