case.14 勇者のターン
『フフ……フハハ……フハハハハハッ!』
「どうした? 何がおかしいと言うのだ」
ルシファーは、突然笑い出したベルゼブブに疑問を投げた。
すると、ベルゼブブはこう答えた。
『いや、お前が律儀に組んだ対戦カードが、逆に悪手となったのが面白くて、ついな』
「だが、まだやられたのは数名。まだまだ勝負はここからではないのか?」
そう、ルシファーの言うとおり、堕天軍でやられたのは、フェンリル・フルーレティ・リガルテの計3体。
まだまだ戦闘中のメンバーも多いのだ。
それでルシファーは余裕そうにしていた。
しかし、それを聞いてもベルゼブブの表情や態度は変わらなかった。むしろ、より傲慢になった。
『まあ、見とけよルシファー。すぐに結果は出るだろうさ』
「何……?」
ベルゼブブの言葉に、ルシファーは疑問を浮かべた。
そして、その後。
ベルゼブブの言葉が、真実になるのだった。
■
「残りは、バラキエル・エレボス・アルカナ・メフィストフェレス・フラウロス……そしてルシファルナさん、か」
俺は、確認するようにそう言った。
しかし、どこの戦いも苦戦の様子は無く、均衡しているか、圧倒しているかの二択だった。
「まあ、強いて言えばルインの嬢ちゃんのとこと、ラグエルのところが危ねえ感じだな」
と、サタールさんは言った。
現在ここには、俺と月夜、それにサタールさん、アスモフィさん、マノンさん、レヴィーナさん、スレイドさん、クサナギさんというなかなかのメンツが揃っているわけなのだが。
「そろそろ、残ったアイツらも帰ってきそうだしなァ……」
「あぁ、そうだな。でも、そうしたらオレたちはどうするんだ?」
「そうねぇ……マノンの言う通り、私たちは余った時間を何に使えばいいのかしら」
「ま、妥当なのは休憩して、来たるべき時に備えて体力や魔力を回復させておくこと、じゃないかしら」
「あぁ、なるほどです! レヴィーナさん、天才です!!」
「あらやだ、月夜ちゃんったらお世辞がうまいわね」
なんてトークが繰り広げられていた。
加勢に行く必要が無いなら、休憩して力を蓄えておこうというレヴィーナさんの判断に、皆が首を縦に振った。
「それにしても、ルシファーたちは何がしたいんでしょうかね……?」
スレイドさんのその疑問に、俺たちは少し考える。
確かに、ルシファルナさんを攫って洗脳し、兄貴ではなく俺たちを襲いに来た……それは何か目的があってのことだろう。
しかし、その目的が見えない。
「私はラグエルから、ルシファーは私たちの魔王様を怖がってたみたいだーって聞いたけど」
「兄貴を?」
「《七つの大罪》のメンバーが3人も魔王に支配されて、少し焦ってるのかしらね」
レヴィーナさんはそう言った。
まあ、確かに一応それなら納得はいく。
だが、そんな単純な理由でこんな軍勢を引き連れてくるとは限らない。
恐らくだが、他にも何か理由があるはずだ。
例えば、ルシファルナさんを攫った理由。
洗脳した理由。
これがまだ分からない。
きっと……きっと何か裏があるはず。
それなら、少し警戒しておいたほうが、自分の為にも、仲間の為にもなる……かな。
そう思って、俺はまだ不確かな考えを胸に、また周囲で起きている戦いに目を向けるのだった。
―――なんて思ったのもつかの間。事件は再び突然起こった。
「―――終わりだッ!!!」
「キャァァァァァァァァッ!!!」
地面を抉るような轟音と共に、遠方で人が吹き飛ばされていた。俺たちは急いで視線をそちらへ向ける。
すると、そこはエレボス・アルカナと、戦っていたラグマリア・ラージエリさんが居たところだった。
「何が……!?」
「分からないわ、とにかく確認しに行きましょう!?」
レヴィーナさんにそう言われ、俺はすぐさま駆け出した。
「えっ、にぃ!?」
『神速』を使って、一瞬で。
何故だが分からないが、心配でならなかった。
そう思ったら、身体が勝手に動いていた。
「私が彼についていくわッ!」
そう言って、俺の後方からはレヴィーナさんが追いかけてきた。が、彼女が追いつくよりも早く、俺は目的地に辿り着いた。
「―――フン、初戦は天使もどき。雑魚よ」
「そうね、早く魂を食べちゃおうかしら」
エレボスとアルカナは、土煙の前に立っていた。
「一体……何が?」
「ほう。次の敵は貴様か」
「美味しそうな坊やね」
現場に到着した俺を見たエレボスとアルカナが、舌なめずりをしながらそう言ってきた。
俺はそれに構わず、戦っていたであろう二人を探した。
さっき、吹き飛ばされていたのは、まさかあの二人……?
なら、奴らの反対側に居るはず……!
「二人とも……ッ!」
俺は、エレボスたちの見ている方向、土煙の中へと走っていった。
すると、予想通りそこに倒れている二人を見つけた。
「ラグマリアッ! ラージエリさんッ!!」
良かった。
二人とも、大した怪我はなさそうだが……。
ラージエリさんは、頭を強く打ったのか、気絶しているようだ。となると後はラグマリアだ。
俺は、ラグマリアを抱きかかえ、怪我の状態を確認する。
目立った外傷は無く、こちらも気を失っているだけのようだった。
「良かった……」
なんてホッと一息ついていると、背後に猛烈な殺意を感じ取った俺は、すぐに前方へ飛んで、背後を確認した。
「ほう? 第六感が鋭いのか、貴様」
「いいや? そんなタダ漏れの殺意じゃ、ステルスなんて出来ないぜ」
「フッ、最近は口が達者な奴ばっかりと対峙するな」
そう、嫌味を吐くように言ったエレボス。
背後に立っていたのは、黒い大剣を構えた筋肉の男、冥王エレボスだった。
俺は、抱えていたラグマリアを地面に寝かせ、剣を構えてエレボスと向かい合った。
「お前だけは、絶対に許さないからな……!」
何故か湧き出る怒りをそのまま口に出し、怒りで剣を震わせた。それを見て、エレボスは笑った。
「フハハハッ! 威勢のいいガキだ! おいアルカナッ! コイツはいい餌だぞ!?」
「―――そうねぇ……。本当に、美味しそうな魂……!」
アルカナが、突然目の前に現れたかと思えば、俺の身体を物色するように、舐め回すように見てきた。
と、そんな時、遅れてやってきたレヴィーナさんが到着した。
「ハァ……ハァ……遅れたわ……! 状況は?!」
「えっと―――」
俺はレヴィーナさんに、今起きたことを説明しようと思ったが、それはすぐに遮られてしまった。
「―――説明など、不要だ。今すぐにでも勝負を終わらせても構わないだろう?」
エレボスがそう言って、俺たちにその答えを聞く前から攻撃を仕掛けてきた。
「レヴィーナさん!!!」
それに素早く反応し、持っていた剣でエレボスの攻撃を弾いた俺は、そのままレヴィーナさんに指示を出した。
「レヴィーナさんは後衛で、俺のバックアップをお願いしますッ!」
「ッ……! 分かったわ!」
俺は覚悟を決め、剣を握る手に力を込めた。
「さぁ、来いよ人間ッ!!!」
「あぁ、言われなくても……ッ!」
俺は駆け出した。
まずはエレボスからだ。
アルカナは放置しておく。
「あら……私は無視なのかしら……ッ!?」
そう思ったのだが、アルカナの方からこちらへ仕掛けてきた。
大きな鎌を凪いできたので、俺はそれを間一髪の距離で飛んで避ける。
だが、今度はそこへエレボスが仕掛けてきた。
「フ……ンッ!」
大剣を振り下ろしてきたので、今度は剣で攻撃を受け流しながら地面へと着地した。
そしてそのまま流れるようにエレボスへ仕掛けた。
「“神速一閃”ッ!!!」
スキル『神速』を併用した剣技。
高速で相手を斬りつけるこの技を、俺は目の前のエレボスへと仕掛けた。
「な……ッ! グオオォォォォォ………!」
エレボスの前後を何度か斬りつけるが、その持ち前の筋肉の硬さが、俺の刃を拒んでいた。
ダメージは通っているようだったが、それもごく微小なものだろう……。
「一筋縄じゃいかない相手、って訳か……」
エレボスのドがつくほどのパワーや筋力を見ながら、俺はそう思う。
「神の如き速さを持つ人間、か。クハハ……面白いッ! アルカナよ、もしかすると本気でかからねば負けてしまうかもしれないぞ?」
「あら、そうなの? だったらその言葉を信じて少し本気を出させてもらうわ」
(……ッ)
俺は、二人のその言葉を聞いて、これからさらに激しくなるであろう戦いに打ち震えながら、何故か頭の中では、傷ついたラグマリアのことを考えていた。




