case.3-3 三悪魔、降臨
「―――来たれ、我が下僕たちよ」
そのたった一言で、ルシファーの目の前には無数の悪魔が現れた。
その全てが上級悪魔であり、中には背中の翼が堕天使の物を持つ悪魔も居た。
ラグエルはそれを、“堕天悪魔”と呼んでいた。
本来であれば存在しない筈の種族。
しかしそれは、ルシファーであるからこそ可能にすることができる。
悪魔族を“堕天”させ、本来ならあり得ない種族へと堕とす。
堕天の王たるルシファーにしかできない所業だ。
「さぁ、蹂躙し尽くせ。そしてあぶり出すのだ。魔王と……」
ルシファーはそこまで言ってから、ニヤリと口角を吊り上げ、
「―――我が愚弟子を」
そう、言った。
その一言が、開戦の合図だった。
上級悪魔達が一気にベルゼブブ・ラグエル・ムルに襲いかかる。
『チッ、数が多い……ッ! ―――フン、どうせルシファーはまだ戦わない筈。ならばまずはこの雑魚共をどうにか―――』
「―――させると思ったか?」
ベルゼブブがルシファーを無視して他の悪魔を潰そうとした時だ。刹那にして、ベルゼブブは意表を突かれ真横へと蹴り飛ばされてしまう。
『ガハッ……! ルシファー、お前にしては珍しい……な。最初から参戦するなんてッ!』
「ああ、そうだな。かつての友の顔を見たら少し戦いたくなってきてな」
『―――かつての友、か』
ベルゼブブは驚きと共に、そんな一言を寂しそうに呟いた。
しかしルシファーはそんな彼の気持ちには気づかない。
「フッ、無駄話もここまでだ。さあ、続けようかッ!」
またもや不意打ちで、拳を突き出してきたルシファー。
しかし、今度はベルゼブブもそれに対応した。
「フンッ……!」
腕でパンチを防ぎ、そのまま飛び上がる。
手に雷を溜めながら、周囲の状況を確認した。
「ああもう次から次へとッ! ―――“天誅”ッ!」
「「グギャァァァァァ…………」」
ラグエルは、無限に湧き出てくる悪魔達の排除をしていた。
光の柱によって一度に何体もの悪魔が死んでいくが、その穴を一瞬にして埋めるべく悪魔達は歩んでくる。
「ラグエル様……もう少しお待ちください……!」
そしてムルは、先程ルシファーにやられた傷を癒やしていた。
しかし、それももう終了したようだ。
「海王ムル……行きますッ!」
扇を二つ手に持ち、青い髪と綺麗な和装を風になびかせながら駆ける。
そしてラグエルの後ろで止まり、扇を広げた。
「久々の戦闘だからね……張り切るわよ……!」
ムルは華麗な舞を舞い始めた。
するとムルの周囲には水が集まっていく。
「―――水舞 肆ノ型『水龍』ッ!!!」
直後、咆哮と共に水で出来た龍が悪魔達へと襲いかかる。
「まだよッ! 水舞 壱ノ型『津波』ッ!!」
さらに、文字通り大きな津波が悪魔達へ覆いかぶさるように現れた。
「ほう? あれは厄介な術だな。貴様よりも先に排除した方が良さそうだ」
ムルの放った技が、ルシファーの悪魔達を飲み込み殺していくのを見て、ルシファーはベルゼブブよりもムルに興味を示した。
しかし、
『おい、待てよ。お前の相手は俺と―――』
「―――私よッ!!」
それをベルゼブブと、そしてその元妻のラグエルが許さなかった。
「フフ……フハハ!面白い! いいだろう、それなら貴様らが私を楽しませてくれッ!」
そう言いながらルシファーは、ムルの方向へ手をかざす。
「ッ……何!?」
ムルの目の前に、3つの魔法陣が展開された。
「―――我が忠実なる下僕達よ。愚かな海王に罰を下す為、我が眼前に現れよ!」
すると、その魔法陣から3体の悪魔が現れた。
「―――ゲヒヒ……お呼びですか、我が主よ」
「―――我ら三悪魔、主の命にて此処に降臨致しました」
「―――なんなりとご命令を」
一体は巨大な筋肉質な悪魔。
一体は眼鏡をかけた紳士風な悪魔。
一体は、全身に黒いローブを纏った悪魔。
そんな三体が、ムルの前、ルシファーの眼前、悪魔の大軍の前……そんな場所に現れたのだ。
「ああ、皆。そこの哀れな娘を殺せ。但し油断はするな、彼女は強い―――良いな? ぬかるなよ」
「「「ハッ」」」
「フラウロス、フルーレティ、メフィストフェレス……お前たちがこの戦いで活躍すれば、我の側近として働くことを許そう。大いに活躍してくれたまえ」
ルシファーが、そう言った瞬間だった。
フラウロス、フルーレティ、メフィストフェレスと呼ばれた三体の悪魔は、突然震え始めた。
それは怒りか、悲しみか。
否。否である。
それは、純粋な喜びからきていた。
「フハハ……フハハハハッ! おいテメェら! やるぞォッ!?」
「ええ、任せて下さい」
「ああ」
そう言いながら三悪魔は、魔力を高めていった。
目視できるレベルまで魔力が可視化されている。
相当な魔力量……それは、この場にいた誰もが分かった。
『ムルよ、一人で大丈夫か?』
「ベルゼブブ様……大丈夫ですわ。任せてください。私一人でどうにかしてみせますわ」
『分かった』
そう言ってベルゼブブはすぐさまルシファーへと向き直る。
しかし、ラグエルは不安そうにムルを見つめていた。
『おい、ラグエル』
「何……?」
『不安なら、我とムル……二人のサポートをしろ。貴様はサポートが得意だろう?』
「……二人の……?」
『なんだ? まさか出来ないのか?』
「……ハァ?」
ラグエルは、ベルゼブブの安い挑発に乗ってしまった。
それは後に後悔の種となるのだが、それはまだ彼女には分からない。
「―――いいわ。やってやるわよ!」
『そうだ、それでいい。さぁ、ルシファーよ、待たせたなッ!』
言いながらベルゼブブは溜めていた雷を放った。
「フハハハハッ! 随分と待ったな。まあよい、これから我も、貴様らも退屈などさせぬからな!」
『ほざけ……ッ! “雷刃”ッ!』
ベルゼブブの手からは雷を纏った魔力の刃が飛んでいく。
さらに、
『“招王雷”ッ!!!』
魔王の得意としていた技をコピーして、使った。
ルシファーの上空から落雷と雷刃が彼を襲う。
「―――フフ。無駄だ、この程度では我には届かんさ」
しかし。
ルシファーは人差し指を天に掲げただけで、その全てを打ち消してしまう。
『チッ……クソがッ!』
「“堕天”―――」
ルシファーは間髪入れず攻撃を仕掛けてきた。
“堕天”……空から黒い魔力弾が降り注ぐ“天”シリーズの魔法の一種。
それがベルゼブブとラグエルを襲う。
「だったらこっちもッ!」
しかし、今度はそれをラグエルが人差し指から障壁を展開して防いだ。
『それにしても、まさかあの三悪魔まで従えているとはな、驚いたぞ』
「我も、奴らが共に戦ってくれるなんて、夢にも思わなかったさ」
二人は、真下で繰り広げられている戦いを見ながら、そう言葉を交わした。
「風舞 捌ノ型『天照』ッ!」
ムルの放った風の舞が、三悪魔や後ろの悪魔の軍勢に向かって、上から打ち付けるように襲いかかる。
だが、ムルはその程度では全てを処理できるとは思っていなかった。
特に、目の前の三悪魔と呼ばれた奴らは。
「無駄無駄ァ!」
フラウロスと呼ばれた筋肉の悪魔が突進しながらそう叫ぶ。
さらに、
「相変わらず脳まで筋肉で出来ているのですか? 貴方は」
声が聞こえてきたのは背後。
そこに居たのは紳士風な悪魔、フルーレティだ。
しかし、ムルはそう驚いている暇を与えられなかった。
「この程度の技、ボクならすぐ対処できるよ」
ムルの上空に居た、ローブの悪魔……確か名をメフィストフェレスと言ったか。
が、ムルの放った風を打ち消しながらそう言った。
「さぁ、哀れな海王よ。この状況をどう切り抜けるか、見物だな―――」
絶望的な状況の中、ムルは思う。
―――これくらいなんとか出来なきゃ……ダーリンのハニーは務まらないわ……!
そう、未来の幸せを考えながら扇を強く握りしめた。
うみにいきたいしやまにもいきたい




