case.8 恋に落ちる音がした。
次から新章開幕です。
「―――アンタね、まさか“堕天化”を使うなんて思わなかったわよ!? 反省しなさい! こんなに沢山の人に迷惑かけたんだから!」
「あう」
「大体ね、アンタは昔からそうなのよ! いっちょ前にカッコつけるのはいいけどね、それならそうと失敗しないでよ! いつものアンタの尻拭いをしてるのは誰だと思ってるの!?」
「はう」
「ちょっとね、アンタ! さっきから“あう”だの“はう”だの、まともな返事は出来ないの!?」
「うぅ……ごめんなさい……ごめんなさいいぃぃぃぃっ!」
ラージエリさんによる大説教が辺りに響き渡る。
今はラージエリさんが無事元に戻ったラグマリアに怒りの鉄槌を下しているところだ。
俺が使ったスキル『逆行』は無事機能し、ラグマリアの時間を30分戻すことができた。
そして何が何だか分かっていない様子の、最初の出会った頃のラグマリアに、姉のラージエリさんが事情を説明して、そのままお叱りコースという訳だ。
「だってぇ……だって魔王がぁ……」
「魔王様に何言ってるの! アンタだって助けて貰ったじゃない!」
「でもぉ……でもぉ……!」
(ん……? 今魔王がどうとかって……気のせいじゃないよな?)
兄貴の情報があるなら……聞き出したいところだが。
それは俺の役目じゃなさそうだな。
「―――あの!」
俺も聞きたかったことを、この中で一番聞きたいのは、他でもないルインさんなんだから。
「少し、お話を聞かせてください」
「はい。私たちに分かることでしたら、何でもお答えさせていただきます」
「ありがとうございます。それでは……」
ラグマリアはリスみたいにプーッと頬をを膨らませて拗ねているようだが、ラージエリさんは申し訳なさそうにしていた。
性格の差……まるで親子だな。
「―――貴女たちは、主様を…………魔王ルミナス様を知っているのですか?」
直球だ。
まあ、包み隠す理由も無いからな。
「―――はい。知っています。私たち姉妹は、彼に助けられたのですから」
「ッ……それは、昨日の事ですよね?」
「はい。仰る通りです。昨日、私たちは双神アダムの襲撃に合いました」
(……ッ!? アダムの……襲撃だって?!)
アニキから教えてもらった……。
今のアニキの最大の敵。“双神”の片割れ、創造を司る神“アダム”……。
それが、《天帝八聖》を襲った……?
何の為に……?
「アダム神の……!? い、いや。それよりも……です。今主様は何処に居られるのですか?」
「それは……分かりません」
「……? 分からない?」
「はい。彼は、私たちには気づいていなかったようですから」
(……ん? どういうことだ?何かおかしくないか?)
言っていることが矛盾しているような気がするが。
「順を追って説明致します。まず―――」
そう言って、ラージエリさんは昨日……つまり魔王城からアニキが消えた日の夜のことを話し始めた。
曰く、事件が起きた場所は俺たちの予想通り、《死国ディブリビアゼ》だと言う。
彼女ら姉妹は、前にラグエルさんが言ってたような理由と同じ理由で、出撃していたそうだ。
彼女ら《天帝八聖》の目的は、《魔帝八皇》の殲滅。
そのために、出撃していたそうなのだが……。
たまたま姉妹でディブリビアゼに来ていたところ、《魔帝八皇》を従える魔王を見つけてしまったらしいのだ。
もちろん、彼を追いかける姉妹だったが、その途中で突然、創造神アダム―――正確には、アダムの配下の《十二神将》の一人が襲ってきたらしい。
その神の名は、“神帝インドラ”。
しかしそのインドラも、魔王を見つけたことにより、姉妹を襲うのを止め、対象をシフトチェンジしたらしいのだ。
それが、「助けられた」ということらしい。
「それに……彼、もう一人ローブの男を連れていたのよね」
「ああ、私も見ましたよ。あの体格からして……種族は“小人族”で間違いないでしょうが……」
小人族の、ローブの男?
それが、兄貴と一緒にいるということは。
まさか。
「恐らく、ルヴェルフェ様だと思います」
「ええ、俺も師匠だと思うッス」
やっぱり。
それにしても、僅か一晩で《魔帝八皇》最後の一人を仲間に引き入れるとは……さすが兄貴と言わざるを得ないな。
「……まあ、という訳ですので、彼が何処へ行ったのかは分からないのです」
「なるほど……手がかりは無し……ですか」
「すいません、お力になれなくて……」
「ああいえ、お気になさらず」
さて……これで、また手詰まりになったな。
(クソ……アニキ、一体何処行っちまったんだよ……!)
「それでは、一度帰還しましょうか。新たな収穫も沢山ありましたし」
そう言ってルインさんはテキパキと転移門を開いた。
気づけば、空から日は消えていた。
「そう、ですね」
俺は、静かに答える。
「さぁ、早く帰還しましょう? 少し……疲れましたので……」
「あ、はい。あの、帰るのはいいんですけど……彼女たちはどうするんですか?」
俺は、居場所がなさそうに居座っているラグマリア、ラージエリ姉妹を見ながらそう言った。
「ああ、そのことですか。もちろん、連れて帰りますよ?」
「「うぇぇぇっ!?」」
ルインさんのその答えに、超高速で反応したのは他でもない天使姉妹だ。
「私たちを、連れて行くですって!?」
「そりゃあ、もちろんですよ。先程の勝負に勝ったのは私たちですから、私たちに従ってもらいますよ?」
……勝ってはいないと思うけど……まあ、ルインさんに反論したら殺されそうだからいっか。
「何よそれ! アンタたちが勝ったわけじゃ―――っぷ!」
「は、はい〜、分かりました。何でも言うこと聞きます〜!」
「ちょ、は、ハァ!? 馬鹿姉貴! 何言ってんの!?」
「いいのよ、ここは素直に従っときましょう?」
ラグマリアの言葉を遮って、ラージエリさんは俺たちについていくことを選んだようだ。
もちろん、その事にラグマリアは不満たらたらのようだが。
「話は纏まりましたね。まずは一度帰還してからまた話しましょう」
そう言いながら、ルインさんは転移門へと消えていく。
「それじゃあ俺も行く宛が無いんで、ついていくことにするッスよ」
続けて、スレイドさんも転移門へと入っていく。
「私たちも行こ? にぃ」
「ん? あ、ああ。そうだな」
俺たちも二人に続いて転移門に入ろうとしたら、
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
と、ラグマリアに呼び止められてしまった。
「どうかしましたか?」
「その、ちょっと話がしたくてね!」
話だと?
ルインさんにでなく、わざわざ俺に言うってことは、何か俺に関わることなのだろうか。
「あの……その……やっとあの女も消えたし……」
「……?」
「―――あ、ありがとっ! ありがとね! 貴方が、私を助けてくれたんでしょ? えへへ、すごい助かったわよ!」
(あっ……)
満面の笑みで、さっきまでのラグマリアとは大違いな雰囲気でお礼を言われてしまった。
―――その姿は、さながら天使のようだった。
「さ、私たちもアダム神に裏切られたって分かった以上、わざわざそんなやつの指示に従う義理も無いわ。貴方たちの仲間になってあげる! まあ、それに―――えへへっ」
(えっ……?)
「あらあら、うふふふふふ」
何やら不敵な笑みを漏らしながら、ラージエリさんも転移門へと消えていった。
さらに月夜までもが、
「やったねにぃ!」
なんて言って転移門へ入っていった。
(え、は? 一体何なんだよ!?)
「えへへ、さ、さ〜私たちも行きましょ?」
「え、ちょ、待っ―――」
腕をガシッと組まれ、そのまま転移門へと引っ張られていく俺。
(何だ何だ? コイツ、突然一体どうしたというのだ……?)
「んふふ〜ついに見つけちゃったのかも、私……!」
ラグマリアは、まるで心が入れ替わって、外見も中身も“天使”となってしまったのか?
それくらい、今の彼女は―――
―――とても可愛かった。
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