case.11 裏切り
よ!
『信用という概念は脆く儚い。』
■ □ ■
「帰ってきたな……」
「はい……随分と久しぶりな気がします」
あの森を出発してから、もう3日くらい経っただろうか。
あれからずっとルインと話しながら、“始まりの洞窟”(勝手にそう呼んでるだけ)に向かって歩いていた。
後ろからはまるでゾンビのように“転生勇者”のパーティーがのろのろとついてくる。
そしてたった今、その洞窟に帰ってきたのだ。
「まずはサファイアと会って現状を確認する。それ次第では、ここを第一の魔族の国にするつもりだ」
「なるほど、です! 最初の私たちの国ですね!」
「ああ、そうだ。じゃあ行くぞ」
「はい!」
若干の期待を胸に、俺たちは洞窟へと入っていった。
■
ぴちゃん、ぴちゃんと上から雫が落ちてくる。
(相変わらずジメジメした洞窟だな)
洞窟内には何も変化は無い。
と思ったが、地面にはかなりの変化があったようだ。
「これは……」
「すごい綺麗ですね……!」
なんと、ボコボコだった地面がしっかりと整備されていたのだ。
さらに壁にはランプも灯っていた。
何という発展具合。
まさに異常進化だ。
「サファイアか……? アイツがこれをやったのか?」
「もしかしたら魔物たちの力を借りてるのかもしれないですね!」
「ああ、そうか。でも、それにしてはやけにこの洞窟静かじゃないか? 一匹二匹じゃ出来るような作業量の工作には見えないが……」
「確かに……言われてみれば、魔物一匹の気配もしないです」
俺は、何か嫌な予感がしていた。
こういう時、俺の嫌な予感は大体当たってしまうから、少し焦ってしまう。
(何事も無ければいいんだが)
「おい、ルイン。少し走るぞ、サファイアが心配だ」
嫌な気配、不安な気持ちを少しでも払拭する為に、俺はルインにそう提案した。
なるべく早くサファイアと合流した方がいいと思ったからだ。
「はい、私もなんだか心配になってきました」
ルインはすぐに頷き、俺たちはその場から勢いよく駆け出した。
(この嫌な予感は何だ……? 最初、洞窟に居た頃……いつもなら視界のどこかにはあのスライムが居たんだ。少し奥の方に行けば、スケルトンも居た。それなのに、今はなんにも居ない。……さすがに少しおかしいよな……? それともただの杞憂か……?)
考えながら、走るスピードを上げた。
「ルイン、すまない! 先に行かせてもらう!」
「は、はい! すぐ追いつきます!」
もし、もしサファイアがやられているような自体であるならば、相手は相当な手練だ。
そんな不確定要素の多い場所にルインを連れて行くなんて出来ない。
まずは俺が先に行って安全を確認する。
(もう、誰にもルインを傷つけさせない)
◆
主様がとてもつもないスピードで駆けて行く。
(さ、さすがに速すぎます!)
実を言うと、まだ復活したばかりで、あまり本調子では無いのだ。
それでも自分のスピードは、他のどんな種族をも上回ると自負していたのだが……。
(やっぱり、主様には敵わないなぁ……)
頬を赤く染めながら、私はそんな事を考えていた。
(それにしても、主様の感じた、“嫌な予感”って……)
多分、私にはなんとなく分かるのだ。
この洞窟に入った時の違和感。
……それは。
(サファイアさんが何かやりましたね……この感じ)
そう、あくまでも推測に過ぎないが、サファイアさんが何かやってるのは確かだと思うのだ。
そう感じた理由は、さっきも確認した『洞窟内の異常な発展具合』。
そして『一切感じない魔物の気配』。
あと……主様には言わなかったけど、洞窟の入り口のところ。あそこには侵入者用のトラップが仕掛けられていました。
さっきの私は、そのトラップが作動しなかった事から、サファイアさんがそういう設備を追加してくれたんだなぁ……程度にしか思ってなかったけど、今は少し違う。
―――主様が言った違和感、それが一瞬で私の心を埋め尽くしたから。
こんな変な理由で、そんな事言うなって感じだけど、でも一言で言い表せないような感情が胸の中を埋め尽くしている。
(主様……どうかご無事で……!)
◆
「ハァッ……ハァッ……!」
さらに走るスピードを上げる俺。
やっぱり、この洞窟おかしいぞ。
絶対こんなに長くは無かったはずだ。
「クソ……もっと、もっと速くだ!」
今、自分が持てる最高スピードで駆け抜ける。
やがて、一つの大きな空間に抜け出た。
「ここは……?」
俺がそう呟くと同時に、暗かった空間内の、その壁にかかったランプが順々に灯っていく。
やがて全てのランプが灯ると、その最奥、真正面に、見知った顔が居た。
「サファイア! 無事だったか!」
『ああ、主殿か。……いや、その呼び方をするのも、今日が最後だな』
「は……? それってどういう……?」
『―――お前たち、殺れ』
竜の手で器用にも指を鳴らしたサファイア。
そしてその音を聞いた魔物たちがゾロゾロと現れ出る。
「……おい、どういうつもりだ?」
『どういうつもり……だと? そんなの簡単な事だ。我々はこの世界を支配する。その為にはお前が邪魔なんだよ。魔王』
「この世界を支配……だと? 何故そんな事をするんだ!」
『フン。貴様もやろうとしている事であろう?』
……言われてみれば。
サファイアにそう言われて、スコシ恥ずかしい気持ちになるが、すぐにそれを払拭した。
『まあいい。教えてやる―――“魔物”の国をつくる。それだけ言えば分かるか?』
魔物の国を作るって……まさか、その為に世界を……ッ!?
「……おい、ふざけた事を言ってんじゃねぇぞ……」
『おい貴様。今自分が置かれている状況を理解しているのか?』
サファイアがそう言うと、周りのゾンビやスケルトン、それに見たことのない竜のような魔物たちがジリジリとにじり寄ってくる。
「……お前こそ、忘れてないか? こっちにはスキル『支配』が……」
「悪いが、その脅しは通用しないぞ?」
「なんだと……?」
そう言うと、サファイアは懐から一つの宝玉を取り出した。
「あ……れは―――」
「――――お前からもらった“支配の宝玉”だ。
これのお陰で、支配状態を解除するのは簡単だった。もちろん、もう貴様の命令は受け付けない。いや、受け付けられない。それに……」
何やら含んだ言い方をするサファイア。
しかし、まさか『支配』が解除されるだなんて……。
「―――それに、お前はもう死んでいる」
「は……?」
刹那、俺の身体は綺麗に二つになった。
「―――我を召喚したのが、貴様の運の突きだったな」
◆
「ハァッ……ハァッ……!」
(やっと、到着ですか……!)
何だか明るい、大きな空間に出てきました……けど、主様は一体どこに……?
「―――フム、今度は魔族の娘か。久しいな」
そんな声が聞こえてきたのは、真正面だ。
私はよく奥の方を見てみると、そこには見知った顔があった。
「―――サファイアさん! ご無事だったんですね! あの、それで、先に到着してると思うんですけど、主様は?」
「ん? ああ、“それ”なら。―――ほらお前の足元に」
「え? あしも…………と―――」
刹那、視界が暗転する。
(え……何これ……どういう……こと? 何で主様の身体が真っ二つに……?)
吐き気がする。
何で、どうして?
そんな思いが脳を支配する。
(いや、何で……何で……?)
「まさか……貴方が殺したんですか……?」
「ああ、我が殺した。実に脆かったな」
その言葉を聞いた瞬間。
「―――お前が……オマエガッ! 主様を殺したのかッ!」
感情が昂ぶり、怒りは最高潮に達した。
(―――もう、許さない。)
やっぱり、無理してでも主様についていくんだった……。
こいつは、こいつだけは許さない!
ゼッタイに コロシテヤル
▶眷属:ルインがスキル『復讐』を手に入れました。
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