case.10 最終奇跡VS終焉魔法
「喰らえ―――」
『跪きなさい―――』
大気が震える。
お互いに雷を使った技の為、肌伝う空気には電気が感じられ、心なしか訓練場内も暗くなってきていた。
『―――“最終奇跡”執行。【忍耐】を冠する我の名は天使ラグエル! これより【忍耐】の奇跡を執行する!』
手に雷光を纏い、“最終奇跡”の準備が整った様子のラグエル。
(【忍耐】の奇跡……確か、我の記憶が正しければ、それは自分の防御を超絶級に上昇させ、その耐久力は神の攻撃を何度もノーダメージで受けられるほどの物だった気がするな)
―――我が使えるのは、先程も言ったが、“暴食焉雷”だけだ。
たった一度きりの魔法で、ラグエルに致命傷を与えられればいいのだが、どうやらそうもいかなそうな気がしてきた。
▶それなら、もう少し我が手を貸してやろう。
(何だと? 貴様にはもう借りるつもりなど―――)
▶まあそうカッカするな。魔王には、我のスキルを授けたんだ。それも使うといい。
(スキル……? 確か、貴様の名前がまんま入ったスキルだったな?)
▶そうだ、我の力を全て託したスキルなのだ。貴様は魔王の中で我と魔王の戦いを見ていたのだから、分かるだろう?
(フン……仕方ないか。いいだろうとも、任せろ。雷使いの大罪が、雷を操れなくてどうするんだ)
やってやるさ。
この老いぼれが、ラグエル相手にどこまでやれるか……むしろ楽しみになってきたぞ。
―――さあ、始めようか。簡易詠唱開始だ。
「―――喰らえ、喰らえ、喰らえ。我が放つ雷は、全てを喰らう破壊の権化なり! 滅べ、滅べ、滅べ。我が放つ雷は、世界を破滅へと導く終末の権化なり!」
……本来なら、ここで“終焉魔法”の詠唱は終わらせてもいいのだが、さらにここに“猿神”たるハヌマーンの力を混ぜるべく、追加で詠唱を加えた。
「―――内に秘めたるは猿神。我が放つは神雷―――」
『……えっ……? 何……それッ!』
どうやら詠唱に続きがあることか、もしくは“猿神”というキーワードのどちらかに驚いたのだろう。
ラグエルの表情が、まさに動揺しているそれだ。
「悉くは神の前に平伏し、“支配”の王たる魔王と、“暴食”の罪たる我、そして“神雷”を繰りし神の力で、汝に真なる絶望を与えようッ!」
『受けて立つわッ! ―――最終奇跡……』
「―――終焉魔法……」
互いに、全ての準備が整った。
矛と盾、どちらが勝るか、今この瞬間に分かる。
さあ、解放の時だ―――
「―――“暴食焉雷”ッ!!!!」
我の手から、一筋の黒き雷光がラグエル向かって一直線に飛んでいく。
【暴食】の力と、“猿神”の力を込めた、我史上最高火力の魔法だ。
そして、我がそれを放ったのと同時に、ラグエルも溜めていた光を解放した。
『―――“忍耐”』
自らの名前を冠した、その技はまさに神の如き神々しさを放ちながらラグエルの身体に光を纏わせていく。
そんなラグエルに我の放った黒雷は直撃する。
『……クッ……!』
どうやら、彼女の反応から多少は苦しいのだと受け取れる。
このまま、押し切れば我の勝ちだ。
これは、どうやら我の―――
『―――アハッ♡』
勝ち、と言う訳にはいかなそうだな。
『―――余裕だわ』
そう言いながら、ラグエルは光を解き放ち黒雷諸共吹き飛ばしてしまった。
(チッ……相変わらずアホみたいな硬さだな、あの女)
『あ〜あ、つまんないの。せめて貴方が本体だったら面白かったのにね』
「それは、我も同感だ。我の身体であれば……クッ!」
突然目まいに襲われた我は、その場に膝をついてしまう。
(チッ……そろそろ活動限界、か)
『あら、もう終わりなの?』
「すまないな。どうやらそうみたいだ。今の我にも活動限界があるということだ」
『じゃあ、この後は……』
「この身体の持ち主と戦ってくれ」
『……仕方ないわね、いいわ、但し殺しちゃっても文句は言わないでよ?』
「フッ、そんな戯言はヤツと対面してから言えってんだ」
『ヘェ……貴方がそんなことを言うなんてね。やっぱり彼には何かがあるみたいね』
(……魔王、後は任せる。済まないな、中途半端なところで終わらせてしまって)
―――おお? おお! ようやく俺の出番か! オーケーだ、任せときな!
それでは、バトンタッチだ。
そうして、我の意識は魔王の心の中へと戻った。
■
……帰ってきたぞ。
手を握り、ほどく。
それを繰り返し、自分の身体が戻ってきたのだと実感する。
少し、魔力が減っているな。
しかし、こんな物は誤差に過ぎない。
武器は、特に変化はないようだ。
怪我も対して負っていないし、単純に現界時間に限界がきたってところか。
『魔王』
「ん?」
俺はラグエルに呼ばれて、首を傾げる。
『手加減はしないわよ?』
「ああ」
本当に一言ずつ、そう会話しただけだ。
ラグエルの言葉には、とても強い殺気が籠もっていた。
だが、俺には分かる。
あれば“演技”だ。
ベルゼブブに、あの時の仕草の真意を聞けていなければ、そうだとは思わなかった。
(えっと……多分俺がラグエルを『支配』しちゃえば、それで大体解決出来そうだよな?)
『―――“天誅”ッ!』
(はっ!? 不意打ちかよ……卑怯な天使だッ!)
俺は空から落ちてきた光の柱を、横に飛んで避ける。
『あら、不意打ちでも避けられるのね』
「昔から逃げるのだけは得意だったんでね」
『あらそう』
なんだろう、すごいサバサバした感じになったというか……。
(うう……ん? やっぱりベルゼブブと戦いたかったのか?)
「な、なんかすまないな」
『あら、貴方が謝ることじゃないわ』
髪の毛をクルクルと弄りながら、そういうラグエルの目は、うわの空だった。
「―――とっとと決着つけるか」
『ええそうね、これ以上不毛な争いをしても仕方ないわ』
そう言った俺たちは一気に戦意を失い、何だか先程感じた彼女からの殺意も気のせいだったんじゃないかと思うくらいには、この戦いがどうでもよくなってしまっていた。
一体、この戦いは何処へ向かっているのだろうか。
何処へ向かってるんでしょうね




