case.9 傀儡
よ!
目の前に突如現れた魔法陣から現れたルインは、目を開き、辺りを見渡し、やがてその目は俺を捉えた。
「主……様? 主様なのですか……?」
「……ッ、ああ、俺だ。俺だよ……」
そんな俺の言葉を聞いて、ルインの瞳には涙が溜まった。
「うっ……ひっぐ……あるじ……さまぁ……! こわ、かった……ですよぉ……!」
「すまない、ルイン……! 怖い思いをさせて、すまなかった……」
「あるじ……さまぁぁぁっ!」
怖がり涙を溢れさせるルインを、俺はすぐに抱き寄せた。
ルインは何も言わず、ただひたすらに涙を流して、俺の背中をぎゅうっ……と強く強く掴んでいた。
(結局……守れなかったじゃないか……!)
守るって誓ったのに。
もう泣かせないって、誓ったのに。
結局俺は口だけで、まだこの世界をゲームの世界だと思って……。
何も出来ていない。
“魔王”としても。
この世界の人間としても。
でも、ルインは帰ってきてくれた。
これが、最後のチャンスだ。
(今度は、失敗しない。絶対に、絶対に守ってみせる)
しかし、そんな決意を新たに固めた矢先の事だった。
「主様、もう、私は大丈夫です……。ありがとう、ございます!」
そう言って、泣いていた顔が一変、抱きしめたくなるような笑顔に変わっていたのだ。
彼女は、そうやってまた笑いかけてくれる。
それだけで、俺の心に空いた大きな穴は満たされていくような気がして。
「―――お、おい! 何呑気に抱き合ってるんだ!」
しかし、そこで俺たちを見かねた勇斗が突っかかってきた。
(―――邪魔をしやがって)
今度は俺の気持ちが急変。
幸せで、でも真剣だった俺の気持ちは、一気に怒りの感情で満たされていった。
俺の心の中でイライラが募るなか、俺の胸元に居たルインは、そのまま俺の隣へと並び立ち、俺に、
「主様、アイツ殺してもいいですか?」
と、淡々とした様子で言い放った。
その言葉を受けて俺は言ってやった。
「ああ、いいぞ。―――今度は俺たちの番だ」
そう言った俺の言葉を聞いたルインは、一つ頷くと俺から離れ、動き始める。
素早く、且つ綺麗なフォームで走るルインの手には二本の短剣が握られていた。
「お……おいッ! もう一度殺されたいのか!?」
「そんな訳ないじゃないですか。次に死ぬのは―――貴方たちですよ?」
そうルインが呟くと、勇斗たちの目の前から、ルインが消えた。
「えっ……消え、た?」
俺にも分からなかった。
どんな原理で消えたのか。
予想は出来る。
魔法の類の物か、スキル、もしくは超高速での移動のどれかだとは思うが……。
「お、おいミミッ! 周囲にバリアを貼れ! あ、後は魔法を撃ちまくれ!」
勇斗はミミに向けて指示を出した。
しかし、彼女は一向に動く気配が無い。
「ミミ、どう、したの?」
「おい、早くし―――」
勇斗がミミを急かして、方を叩いた時。
―――その振動によって、ボトリ……とミミの首が落ちた。
「―――主様。そのゴミ、どうにかしといて下さい」
何処からともなく、そう淡々と言い放つルイン。
―――次です。
そんなルインの言葉が聞こえてきたと思えば、今度は真奈美の首が切り落とされた。
音もなく、ただただ静かに首が落ちる。
「……お、おいっ! 何だ……何をしているんだっ! 魔族の分際で、ゆ、勇者であるこの俺に、ち、近づくなっ!」
一体、あの勇者には何が見えているのか。
ルインは今だに姿を現していないが、あの勇者には何かが見えているようで、その何かに怯えているようだった。
(まるでクスリやってる奴みたいな反応だな)
俺はそんな光景を見ながらふと思い返す。
そういえば、あっさりと人が死んでいく現状に、何も感じない自分が居たのだ。
既に二人が殺された。
それも、強いルインが、弱いゴミ共を。
いくらゴミと言えども、これは“蹂躙”と呼べる物なのだろうか。
いや、多分呼べる。
でも、さっきも言ったが、俺は何にも不快な気持ちを抱いていなかった。
何故だろう。
嫌いな行為のはずなのに。
まるで、そうする事が当たり前かのように思ってしまった。
そして俺が変わったように、ルインも何かが大きく変わった気がする。
初めて会った時と、明らかに今の雰囲気は違う。
少し、怖い感じがする。
「―――主様! そこのゴミも一緒にお願いしますね!」
多分、真奈美の死体の事なのだろう。
(何も……何も、感じない)
触りたくなど無い。
それでも、俺は動いた。
まるで身体が、そうすることを望んでいるかのように。
「―――任せろ。ゴミ処理は俺の専門だ」
(……確か『死配』って)
ふとある事を思いつき、ステータス画面を開いた。
そこからスキル欄の『死配』を選択し、効果を読む。
スキル『死配』の効果は、
『対象の生死と、その他ありとあらゆる行動を操る。『支配』の上位互換である』
という物である。
完結に纏めると、対象を自由自在に操れるようになる力、だ。
そして“生死が操れる”ってことは、多分死者を動かす事も出来るはず。
それなら……
「―――この場合、ミミと真奈美の死体にかければいいんだろうな。……おい、勝手に死ぬなよ? ―――『死配』」
▶スキル『死配』を発動しました。
するとミミと真奈美に向かって、紫色の衝撃波が飛んでいった。
俺のスキルを受けたのか、ミミと真奈美の首無し死体がヨロヨロと立ち上がる。
どうやら成功したようだ。
「―――俺の駒と成れ」
「―――あははッ、次は貴方です。転生勇者様……」
俺と首無し死体2体が、一歩ずつ、着実に勇斗へと歩み寄る。
木々の隙間からルインの声が響く。
「……おい、や、や、やめろっ、く、来るな、来るなよオォォォォッ!!」
怖いのか、ブンブンと持っている剣を振り回す勇者サマ。
そんな憐れな光景を見て、俺は言った。
「―――もう、終わりにしよう」
スキル発動の準備をしながら、俺はこう言った。
「―――お前も、俺の傀儡となれ」
▶スキル『死配』を発動しました。
◆◇◆◇◆
《Tips》
『死配』……対象の生死を問わず、生死を操る事が出来る。
『憤激焉怒』……人格を持つスキル。『怒り』に身を任せる事により、ありとあらゆる能力を限界値まで引き上げる事ができる。
使用者の性格は、その使用者が感じている『怒り』具合によって変化してしまう。
『守護』……対象を物理防壁・魔力防壁によって完全に守る。
再生などの治療効果もある。
『転生』……使用者が死んだ場合、記憶・持ち物・能力全てを引き継いだまま復活できる。
対象は自分のみ。
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