表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家出少女は昔振られた幼馴染と瓜二つ  作者: ナックルボーラー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/66

63話 思い出

 動物園と遊園地が併設されたテーマパーク『ファミリーパーク』を目的地として、俺達はバスを利用した。

 運良く俺達がバス停に到着した時に丁度バスが停車していた、1分も待たずに乗車。

 ゆらゆらと揺られながらにテーマパークに向かう最中、隣に座る鈴音は楽しみにしているのかワクワクを隠そうともしない。

 鈴音から聞いた話だと、鈴音は遊園地にあまり行った事がないらしい。その数2回。

 1回目は凛と細やかな家族旅行で、2回目は小学生の頃の修学旅行。

 高校は一旦退学になっているからは別として、中学は?と聞いたら。


「私が通っていた中学は厳しくてね。理事長が、『修学旅行はあくまで”修学”です。遊園地で何を修学するのですか? 折角遠い地に足を運んでいるのです。その土地の歴史を学ぶことこそが修学旅行の本来の形です』って。その所為で寺や城巡りで遊園地なんて行ってないよ」


 とのこと。

 確かに本来の言葉からはそうだが、修学旅行は友達と楽しんで青春の1ページを埋める為の物だろ。

 と、会った事のない理事長に対して疑念を感じている間に、目的の『ファミリーパーク』に辿り着く。


「うわぁ……。やっぱり休日だからか人が多いな」


 バスを降りて、バス停から見える入場口を眺めて俺は陰鬱に呟く。

 今日は土曜日の休日。その為カップルや家族連れで入場者が多い。

 このテーマパークはネットで調べた感じだと一日中遊んでも飽きない程に充実していて評判も良い。

 なら、折角の休みなら来てみたいと思う人も多いだろう。俺達もその内の1組だからな。

 俺が入場口を眺めていると、急かす様に鈴音が俺の腕を引っ張る。


「なにボーっとしているの、早く行こうよ」


「あ、あぁ、そうだな。内心、アトラクションに1つ乗るのに長く待たされるんだろうな……って思ったけど、ここで立ち呆けててもしょうがないよな」


「そうだよ。それに、遊園地は待つのも醍醐味じゃん。順番が回ってくるまで私とお喋りしてよ。そうすれば早く済むよ」


 俺の待ちに対する憂鬱を払うために鈴音はそう言って、俺を引っ張り進ませる。

 入場口で俺は一日中遊べるパスを購入。このパス1つで遊園地と隣になる動物園を自由に行き来できるらしい。値段も思った程高くなかったし、今度凛も連れて来てみるのもいいな。

 けど、今日はこのウキウキしているお姫様の相手に集中しないとな。


「それじゃあ康太さん。最初はあれに乗ろ!」


 興奮気味に鈴音が指さしたアトラクションに俺は顔を引き攣らす。


「あれは…………ジェットコースター」


 最初からフルスロットルなアトラクションのチョイス。

 乗客から歓喜と恐怖の絶叫が聞こえる遊園地の定番中の定番だが、そう言えば思い出した……。

 俺、絶叫系が苦手だったことを。

 中学の修学旅行で、ジェットコースターではない絶叫系だが、あまりの恐怖に隣に座っていた凛の手を強く握りしめて、後から凛にマジで怒られた事があった……。

 ヤバい。その時のトラウマが蘇って来て足が……震える。


「あれあれ~? 康太さん、なんか足震えてないかな~? もしかして、怖かったりする?」


 俺のジェットコースターに対する反応に気づき、揶揄する鈴音。

 ヤバい。ここは大人であり父親の威厳として。


「ハッ。馬鹿なことを言うなよ小娘が。誰が怖がってるって? 上等だよ。お前こそ乗る直前に怖気づくなよ!」


 恐怖を虚勢で覆い威勢を張る俺に対して、鈴音は鼻で笑い。


「誰が怖気づくって言うの。たかが高速の急落下、急カーブ如きでビビったりするわけないじゃん」


 おお? 偉い大口叩くな。あまり遊園地に行ったことが無いって言っていたが、乗り成れてるのか?

 だけどこの自信。鈴音の前で無様に泣き叫ぶわけにはいかないな。心の無にして挑むしか……。

 

「まあ、一回も乗ったことがないけどね」


 ……今コイツ、なんて言った?

 サラッと乗ったことが無いって言わなかったか?

 なんだろう。なんか嫌な予感がするぞ。前にもこのパターンがあったような。

 経験が無い癖に大口を叩いて痛い目に遭う……。


 俺はこの時、鈴音をジェットコースターに乗るのを止めるべきだった。否、一緒に乗るべきではなかった。俺はこの後、後悔することとなる……何故なら。


「ぎゃあああああああああああああああああ!」


「ぐぁあああああああああああああああああ!」


 いざ、ジェットコースターに乗車するや否な、鈴音は泣き叫ぶように絶叫した。

 そして隣に座った俺は、まさか俺が中学の頃に凛にした強力な掌掴みを喰らうなんて……。

 人って男女関係なく、恐怖が臨界点突破すると有り得ない程の力を出すんだな……火事場の馬鹿力的な。掌か来る激痛の所為で全然絶叫する景色が目に入らず、違う意味で絶叫をあげた。

 昔の凛に俺、こんな酷い事をしていたんだな……今度お詫びでなんか服買ってやろう。


「な、なんなのあれ……一気に前から風が来るわ、体が浮いたり落ちたりする感覚が来るわ、これはもう……拷問だよ。誰あれ考えたの? ぶん殴りたいんだけど」


 本人曰くの初ジェットコースターを終えた鈴音だが、案の定って言うのか腰を抜かしていた。

 席から降りる事も困難で、俺がおんぶをして近くのベンチに休ませると、今の様な発言をする。


「お前、乗る前はあれだけ大口叩いていた癖に。てか、乗ったことが無いのに良く言えたな……」


「仕方ないじゃん! 言ったのはどっちも小学生の頃で、その時は身長で絶叫系なんて殆ど乗れなかったんだから! てか、こんだけ怖かったら、その時に乗れたとしても、今頃もう乗らないよ!」


 逆切れ気味に怒りだす鈴音。今回のが教訓になって二度もジェットコースターに乗らないだろうな。

 ついでに言うと、娘や俺が絶叫系を怖がるが、凛は大の絶叫系好きなんだよな。

 うん。やっぱり凛と遊園地行くのは止めよう。行くとすれば平和な動物園か水族館だな。


「それで、これからどうするんだ? 絶叫系が嫌だって言うなら、アトラクションの選択肢は減るが」


「あんな怖い思いをするならもう絶叫系はいいよ。それに、遊園地なんだから、絶叫系以外でも楽しめるアトラクションはあるはず…………そうだ! あれ乗ろ! 観覧車!」


 鈴音が指さした方角に遊園地内を一望できる程の高さがある観覧車があった。


「あれに乗って遊園地内を一望して、次乗るアトラクションを決めよ!」


 鈴音の提案に俺は了承する。今日一日鈴音が乗りたいアトラクションに乗ると決めてるしな。

 観覧車からの絶景に鈴音は歓喜し、ゆっくり回る間にパンフレットと観覧車からの景色で次のアトラクションを決めて、そこに向かった。

 その後は特に語ることはない。

 ごく普通に様々なアトラクションを楽しみ、屋台で食べ歩き出来るお菓子を買ったり、売店でグッズとかを買ったり、遭遇したテーマパークのマスコットキャラと写真撮影をしたりと、遊園地を満喫した。

 

 昼に差し掛かり、俺達は遊園地内にあるレストランで、割高なハンバーグランチを食べる事にして、その最中。


「うーん。思ったよりも他の客は絶叫系に集まってくれたおかげで、絶叫系じゃないめぼしいアトラクションには乗れたな。鈴音は次どれに乗りたいんだ?」


 俺はハンバーグを美味しそうに頬張り、頬にソースを付ける鈴音に尋ねる。


「そうだね……。お化け屋敷も行った、シューティングゲームも行った、水上系のアトラクションにも行った……まだ乗ってないのは沢山あるけど、惹かれる物は無いな……。そうだ。隣の動物園に行こうよ」


 動物園?と俺は鈴音の頬に付いているソースを拭きながら首を傾げる。


「そう言えば動物園も併設されていたな。けど、動物園に行って何を見るんだ?」


 動物園は遊園地と比べて遊ぶってよりも観覧が大半だ。俺的には遊園地の方が有意義だと思うが。

 今日の主役である鈴音は一緒に貰っていた動物園のパンフレットを眺め。


「そうだね……。うん! ここがいいかな!」


 鈴音がパンフレットに指を差した場所は、


「ウサギと……ふれあい広場?」


「そう! 私ウサギが好きなんだよね! 小さくてモフモフだし! ここで一杯ウサギと戯れようよ!」


 善は急げと鈴音はハンバーグランチを早々に平らげ、俺も食べきった所で鈴音は俺の腕を掴み走り出す。


「おいおい。そんなに急がなくても、転ぶぞ」


「何を言ってるの。もう一日の半分を過ぎたんだよ? それに、少しでも多く康太さんと楽しみたいし、急いで損はないよ」


 急ぐのはいいが転んで怪我を……って、それを言うのは野暮なのかもな。

 俺は鈴音に引っ張られながら遊園地から動物園に通じるゲートに入る。

 今日一日動物園と遊園地を自由に往来できるパスを購入しているから、それを提示するだけで通行が

可能。パスが無ければ通る度に別料金が発生するから、購入していたのは正解だった。


 動物園は遊園地と比べると機械の稼働音は無く、動物の鳴き声が聞こえる。

 俺達は目的のウサギふれあい広場に向かう。

 

 ウサギふれあい広場は動物園でも人気のスポットなのか、人集りが多い。

 円状の柵が囲い、その柵内の多色のウサギたちが放牧されている。そのウサギを自由に触れたり、抱えたり出来て、子供のみならず若い女性がウサギに触れている。


「それじゃあ、俺は柵外から眺めておくから、鈴音は思う存分ウサギに触れあって来い」


「えぇー。康太さんも一緒に入らないの?」


 1人で行く様にと言われて不服そうにする鈴音に俺は申し訳なく思い。


「悪いな。俺はあまり動物に触るのは得意じゃねえんだ」


 半分はそうだが、もう半分は、子供や若い女性が多い所に混ざるのに抵抗があるんだけどな。

 鈴音も苦手な人を強引に巻き込むのは嫌なのか、一回溜息を吐いた後。


「ちぇ~つまんないな……」


「俺の事は気にせずにウサギと戯れて来い。俺はここから見守っておくし、お前がウサギと戯れている姿を写真で納めておくからよ」


 遊園地からだが、俺は今日楽しむ鈴音の姿をスマホで写真に納めている。

 後で凛に今日の事を話す為と、思い出を形として残す為に。


「分かったよ。ちゃんと見ていてよ」


 分かった、と俺が返事をすると鈴音は柵の入り口に向かう。

 柵内に入る前には消毒をする様で、手と足に消毒液を掛けられた鈴音は、柵内に入る。

 柵内に入った鈴音は多色多数のウサギを物色して、気にいったのを発見したのか、そのウサギに近づく。鈴音が抱えたウサギは薄茶色のウサギ。

 そのウサギを無邪気な笑顔で抱えた鈴音は、それを俺によく見せる為に柵の方に速足で来る。


「ねえねえほら! 可愛いでしょウサギ! こんな小さくてモフモフなウサギを、苦手なんて理由で触らないのは勿体ないよ!」


 鈴音が抱えながら突き出すウサギが、つぶらな瞳で俺を見る。


「分かった……分かったから、可愛いのは認めるが、あまり人が嫌がる事はするなよ」


 俺が注意すると鈴音は口を尖らす。

 だが素直に言う事を聞いてくれた鈴音は、ウサギを愛しむ様に頬擦りをする。

 ウサギと笑顔で戯れる鈴音の姿を、俺はスマホで写真に納める。本当に楽しそうだ。

 一枚、二枚、と鈴音を撮る俺の視界に、小さい子供が鈴音と同じ様に父親らしき男性にウサギを見せていた。


「ねえねえパパ! ウサギさん! 可愛いね!」


「ああ、そうだな」


 父親らしき男性は笑みを綻ばせる。

 その笑顔はウサギに対してではなく、無邪気な笑顔を浮かばす子供に対しての様に思えた。

 俺はそんな親子のやり取りを見て、そして子供と鈴音を交互に見る。


「鈴音にも、この子供の様に小さい時があったんだよな……」


 この子供の父親は多分、この子が赤ん坊の頃から成長を見守っていたんだろう。

 けど俺は、鈴音の事は、今の鈴音しか知らない。

 

 前に凛から鈴音の成長記録として残るアルバムを見せて貰った。

 

 鈴音が生誕した頃。

 初めて寝返りを打てるようになった頃。

 ハイハイが出来る様になった頃。

 初めて言葉を話せるようになった頃。

 幼稚園の入園と卒園。小学校の入学と卒業。中学の入学と卒業。高校の入学。

 その間にあった様々なイベントを通った鈴音の姿。

 当たり前だが、その写真に俺はいない。


「本当に残念だよ……。もっと、小さい頃からアイツの成長を見守っていたかったな」


 しかし、残念がっても意味が無い。俺は、鈴音の父親になるんだ。

 小さい頃だろうが、大きい頃だろうが、俺は、これからアイツの成長を見守っていく。

 そう。決めたんだ。


「ねえ康太さん。上の空だけど、どうしたの?」


 思いに耽ていた俺を鈴音の声で呼び戻される。

 俺が意識を戻らした時、鈴音が胸にウサギを抱えて不思議そうに俺を見ていた。


「鈴音…………悪い。少し考え事をしていただけど。それよりも、どうしたんだよ」


「どうしたじゃないよ。写真を撮るって言ってたのに全然撮ってないじゃん。ボーっとしていると、このウサギに鼻嚙ませるよ」


 ニシシッと笑いながら俺にウサギを近づかせる鈴音。

 多分、嫌がらせをして俺の反応を楽しみたいのだろうけど、俺は楽しそうな鈴音の頭を撫で。


「なあ、鈴音……楽しいか?」


 俺の突拍子もない頭撫でに鈴音は困惑するが、直ぐに頷き。


「勿論! 楽しいよ!」


 その笑顔を見て、俺の中の鈴音の成長を見届けられない悔しさが少し晴れた。

 そうだよ。確かに小さい頃から見守れてなくても、俺達にはこれからも先がある。

 コイツが進む道を見守り、これからももっと、家族皆で思い出を作ろう。これまでに作れなかった思い出よりも、濃い思い出を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ