チンチンを切った話
※もし本作が規約に引っ掛かった場合、チンチンは伏せ字にします。
前提として、誤解のないように言っておきます。
性転換したわけではありません。
そりゃあ一布は、たまに思うことがありますよ。
「もし女の子に生まれてたら、いつでも好きなときにおっπを見ることができるんだろうなぁ」と。
でも、チンチンがなくなったところでおっπが膨らむわけではないし、むしろ大切な息子を失う分、損失しかないわけですから。
では、なんの話かと言うと。
それをこれから、時系列に沿って順に語っていこうと思います。
発端は、確か三年ほど前のことでした。
朝目覚めると、まずはトイレに行きますよね?
一布は行くんです。朝一発目のオシッコです。
もともと血圧が低く(平常時で上が100弱なんで、起き抜けは多分90弱くらい)、朝フラフラしがちな一布は、その日も例に漏れずフラフラしながらトイレに行きました。
ちなみに朝一発目のオシッコは、便座に座ってします。
もし低血圧が祟ってオシッコの最中に貧血で倒れたら、トイレが大惨事になるので。
んで、トイレに到着し。
パンツを下ろして、便座に座ってスタンバイ。
朝イチの勃……もとい、朝イチの起立をしている息子を下に向けて、その日一発目のオシッコをしようとしたときでした。
それは、息子の棒っこの、丁度中間くらいにありました。ボコッと膨らんでいたんです。大きさは、概ね親指の第一関節までくらいでしょうか。
「まさか性病!?」
低血圧もなんのその。一気に目が覚めました。
朝イチの起立をしている息子だけではなく、頭にも血を巡らせて記憶を辿ります。いつ、どこで、誰と、性病に罹るようなことをしたのか。
記憶を辿り、考えて、考えて。記憶を、それこそ一年前くらいまで遡って。
……心当たりが、まったくない。
もう、悲しいくらいに心当たりがない。
身も心も乾き切って、性病に罹る隙もない。
性病に罹ることはないけど、それはそれで悲しい。
ではなく。
とりあえず、この膨らみは性病ではないはずだ。
では、何なのか。
見たところ、腫れのような赤みもない。鬱血のような紫でもない。正常な、何の変哲もないチンチンの色だ。
触ってみても、押してみても、特に痛みはない。ちょっとだけプニッとした柔らかさはあるけど。
一通り息子の膨らみを観察し、触診し、考えを巡らせ。
その場で、一旦結論を出しました。
――病気じゃないなら、とりあえず放っておこう。そのうち治るだろう。
こうしてチンチンにできた膨らみを放置し、体にもチンチン自体にも何の異常も起こらず、年月が経ち。
今年になって、一布はあることに気付いてしまいました。
最初はプニッとしていたチンチンの膨らみが、時間の経過とともに固くなっている。それはもう、普段はフニャっとしているチンチンが、出動時には「キンキンに固くなってやがるっ!」というように。
膨らみが、キンキンに固くなっているんです。出動時でもないのに。元々は柔らかかったのに。
この膨らみは何なのか。
約三年の時を超え、一布は泌尿器科へと足を運んでみました。
病院に着き、受付をし、待ち、呼ばれ、診察台でパンツを脱ぎ、借りてきた猫のように大人しくなってるチンチンを丸出しにし。
触診した先生に伝えられた病名(?)が、これでした。
『陰茎部の皮下腫瘤』
まあ、要するに腫瘍のようなものだそうです。
もっとも、悪性が良性かは触診だけでは不明なので、切除を勧められました。
正直なところ、悪性ではないと思っていました。
だって、でき始めてから三年も経ってるんだし。
もし悪性なら。
何の治療もせずに三年も放置していたら、全身に転移して死んでいても不思議じゃないと思う。
とはいえ、悪性の可能性がゼロなわけではない。
もしかしたら、途中で悪性に変質したかもしれない。
そんなわけで、切除することに決めました。
手術自体は難しいものではなく、局所麻酔で日帰りでできるものとのこと。
なので、その日は手術の予約だけして帰宅。
チンチンを切るという男なら震え上がるような手術を、死刑執行を待つ罪人のように待ちました。
そして、手術当日。
手術衣に着替え、手術室に行き、手術台に横になり、下半身を丸出しにします。
手術の際の酸素値を計る機械や血圧計、心電図のようなものを体に着けられました。
チンチンは、恐怖で縮み上がっています。
チンチンの先っぽを亀頭と言いますが、一布のチンチンには、隠れるための甲羅がありません。身を守ることができないのです。
ただただ無防備に、ただただ恐怖に震えながら、切られる瞬間を待つしかないのです。
「はい、チクッとしますねー」
先生の一声の後。
チンチンに、プスッとした痛みが走りました。麻酔の注射です。
チンチンに、ジーンとした感触が伝わってきます。歯医者で麻酔をしたときのような、鈍く感覚が薄れていく体感。
その、直後でした。
一布の視界は急速に反転し、横になっているのにグラグラと揺れ始めました。
一気に気分が悪くなり、無意識のうちに呼吸が荒くなります。
吐き気とは違う、でも吐き気に似た気持ち悪さ。
呼吸はできているのに、酸素が体に入っていかないような息苦しさ。
手術室の雰囲気が変わりました。
すぐに、酸素マスクのようなものが口に着けられました。
後から聞いた話ですが、このときの一布の血圧は、上が60まで急降下していたらしいです。
点滴の用意もされました。
看護師さんが、一布の左手の甲をアルコール消毒しています。
ちなみにこのときの一布は、気持ち悪さに包まれながらも意識はありました。
で、こんな状況にも関わらず、看護師さんに我が儘を言ってしまったんです。
「手の甲はヤです……」
看護師さん、ごめんなさい!
我が儘言ってごめんなさい!
でも、一布の腕の血管ははっきりと浮き出てるんで、いいですよね!?
針、ブッ刺し易いですよね!?
許してくれますよね!?
まあ、看護師さんが嫌というはずもなく。
点滴の針は、無事左腕にブッ刺されました。
こんな状況なので、そのまま手術というわけにもいかず。
一布の調子が戻った後、先生に言われました。
「キシロカインにアレルギー症状が出たのかも知れないね」
キシロカインとは局所麻酔によく使われる麻酔で、歯医者などでも使用しているそうです。
ちなみに一布は、今年の二月に虫歯を抜きました。が、何の問題もありませんでした。たぶん、アレルギーではなく迷走神経反射だと思うのですが。
チンチンに針を刺すなんて、男性の99.9%が恐怖を覚えるものでしょうし。
とはいえ、一回問題が起こった以上、同じ方法の手術ができるはずもなく。
しかも、血圧の上が60まで低下した場合、そのまま放置すれば死ぬ恐れさえあるようで。
そんなわけで、手術は日程を変えて全身麻酔で行われることとなりました。
――ここまでの結論。
一布は、チンチンに麻酔を打って死にかけた男なんです。
大事なことなので復唱します。
チンチンに麻酔を打って死にかけた男なんです!
なんというか。
人生ってネタだなぁ(遠い目)
とにもかくにも。
後日、あらためて日程を決め、入院、手術いたしました。
んで、改めて入院。
入院日の翌日の朝、点滴をされ。
手術室に入り。
またも、恐怖に縮み上がるチンチンを手術台の上で丸出しにし。
全身麻酔で意識を失い、無事、チンチンの腫瘤は切除されました。
切開したチンチンは、見事に腫れ上がっていました。
チンチンの先っぽのことを「亀頭」と言いますが、手術後のチンチンは、亀というよりツチノコでした。幻の生き物です。
抗生剤や痛み止めの点滴、および経過観察のため翌日まで入院。無事退院。帰宅。
んで。
息子が幻の生き物に変身した状態で、このエッセイを書いています。
もう笑うしかねーな。マジで。
笑ってやってください。人生ネタなんで。
ところで。
一布の書く長編(10万文字以上)は、その全てがひどく重い内容になっています。
凄惨なシーンも多々ありますし、やり切れないシーンもいっぱいあります。場面によっては、読むのが辛すぎるという感想をいただいたこともあります。
もし一布の長編を読んで悲しかったり辛かったり苦しくなったら、このエッセイを思い出してください。
「こいつ、こんな重い話書いてるけど、チンチンに麻酔して死にかけた奴なんだよな」と。
そうしたら、重い内容もマイルドな感じで読めると思います。たぶん。
まあ、何を言いたいかというと。
他作品の宣伝です(笑)
余談ですが。
チンチンから切除したモノは、専門機関に病理検査のため提出するそうで。
結果は、一週間~十日ほどで出るそうです。
悪性か良性かは、現時点で不明。
結果が出たら後書きにでも追記しようと思っています。
良性だったら、まあ、助かったな、と。
もし悪性で、一布が帰らぬ人となったら。
「こいつの死因って、チンチンの腫瘍なんだ」と笑ってやってください。
人生とは、自分がどれだけ感情豊かに生きられるか。
同時に、自分に関わった人の感情をどれだけ動かせたか。
……と、思っているので。
どうでもいいけど、悪性腫瘍だった場合の病名って、何になるんだろう?
やっぱ、「陰茎癌」とかかなぁ。まさか「チンチン癌」とは言わないだろうし。
医療に詳しい方、どうか教えてください。
ではでは。
※上記の通り、検査結果が出たら後書きにでも追記します。
検査結果が出ました。
結論から申し上げますと。
悪性ではなかったです。
報告によれば、チンチンに異物が入り、その異物に体内の組織が集まって大きな固まりになってできたモノだそうで。
そんなわけなんで、医師に訊かれました。
「何か、性的な意味で異物を入れたりした?」
してませんて!
一布は異物に頼ったりしません!
自分の体ひとつで勝負します!
自分の力で勃……もとい、自分の力で立ち、自分の力で成すべき事を成します!
まあ、それはともかく。
悪性ではなかったので一安心です。
これで、気兼ねすることなくチンチンを本来の用法で使うことができます。
ただ、当分の問題は……。
本来の用法で利用できる予定がないということでしょうか。
一難去ってまた一難。
一布の明日はどっちなんだろう。
一布の息子の明日はどっちなんだろう。
(おしまい)




