重い想い2
「え? ……要は、そんなことしないよ。だって、何だかんだ言って、優しいもん」
「……だから、もしもの話だ。もしもの」
真っ直ぐに向けられる信頼に、どうしようもなく胸が苦しくなる。
仮定はあくまで仮定。現実で必ずしも起こるわけではない。
……だけど、もし綾華が俺以上に大切な相手が出来た時、その仮定は間違いなく現実になることを俺は知っている。
誰かに取られるくらいなら、いっそ壊してしまいたい。……そんな身勝手な欲望は、既に俺の中にはあるから。
追い詰められた俺は、間違いなくお前の信頼を裏切るだろう。
俺はけして、お前の信頼に、値する男ではない。……その事実を知ったら、お前は一体どんな反応を見せるのだろうか。
俺を、幻滅するだろうか。
「うーん……じゃあ、とりあえず境遇改善を求めて抗議するかな? 月一くらいは、せめて外出たいし」
「……んなもん、監禁を決意をした俺が、聞き入れるわけねぇだろ」
「えっ、月一すら無理なの!? ヤンデレ要、心狭過ぎ………うーん、じゃあそうだな……」
俺の胸の内なんて、さっぱり知らない様子で、綾華は暫くの間腕組みをしてうなっていたが、やがて笑ってこう続けた。
「じゃあ、ま、最終的には足掻くだけ足掻いたら、諦めて状況を受け入れるんじゃないかな? ……要と二人ぼっちで生きられるなら、それはそれで悪くない気がするし」
………本当にこいつは、どこまでアホなんだろうか。
何で、そんな結論になるんだ。
「……何で、そんなこと平気で言えるのか、理解に苦しむな。監禁されてんだぞ。監禁」
「え? だって要だよ。他の人ならともかく、要なら私は最終的には許しちゃうよ、多分」
「……お前を監禁するくらいまで、とち狂った俺をか? 何で、そんなことを簡単に言えんだよ。お前は」
理解、できない。
そんな犯罪者、拒絶して遠ざけて、当たり前だろうに。
いくら仮定の話にしても、なんでお前は、そんな風に事態を軽く捉えられるんだ。
「……だって、どんなんでも、要は要でしょ? 人を監禁するくらい、とち狂ってようが、何だろうが」
だけどそんな俺の詰問にも、綾華はただ不思議そうに首を傾げるだけだった。
「要が、要でいる限り、私は何だかんだ言って、最終的には何されても、許しちゃうと思うよ。……だって、どんな要も、大好きだもん」
ーー……ああ。本当に、お前は。
「……どこまで、アホなんだよ」
「え? 今の流れで何故、罵倒!? ここは感動して泣き崩れる所でしょ!」
……アホだよ。綾華。お前は、本当に、アホだ。
俺の胸の内に潜む泥ついた感情に一切気付いてないくせに、あっさりとそれを許容するのだから。
俺が、お前に醜い感情を抱いていることなんて、知らないままに、それを許すのだから。
「………アホが………」
腕の中のぬくもりを一層強く抱きしめると、伏せたままの瞳から、生暖かいものが零れて来たのがわかった。
ーー綾華、お前はどうしようもなくアホだ。
どうか、これからも、同じようにアホなままで、いてくれ。
お前がアホなままで俺の隣にいてくれる限り、俺はきっとお前に、この醜い感情を隠し続けるから。
「優しい要」のままで、お前の傍にい続けることが出来るから。
……だから、どうか。
「……変な要」
だから、どうか、これからも、俺の重過ぎる想いに気付かないままでいてくれ。
俺が、お前の望む姿を取り繕えるように。
お前が望むヒーローの姿のままでいれるように。
「……まあ、そんな要もかわいいけどね! さすが、私のわんこ!」
………例え気付いたとしてもお前は、「要は要だ」と言って、あっさり受け入れてしまうのだろうけど。
「ーー綾華。もし、お前が、知らないうちに俺と婚約してると言ったら、どうする?」
「え……まあ、びっくりするけど、要とお父様なら、あり得るね。こう、外側から埋めてきそうだもん。二人とも」
「事実だと、言ったら?」
「………………え」




