アホのことヒロイン8
「……別に、私もずっと姫乃ちゃんとお昼を一緒にする気はないよ。なんか、流れでそうなってるだけで」
最初の一回だけ、お弁当を食べたら、あとはまた要と一緒に食堂で、食べる気だったんだ。
ただ、毎回毎回姫乃ちゃんに対する突っ込みにばかり気をとられて、ずるずるとこのまま来てしまっただけで。
だから、私は要さえ受け入れてくれるなら、明日にだって、また。
「……嘘だね」
「う、嘘じゃないよ!」
「私が知ってる『鳳凰院綾華』は、もっとはっきり自己主張できる娘だよ。……鍛え抜かれた体の私達に囲まれてなお、自分を曲げなかったくらいにね。そんな娘が、変態に迫られたくらいで、流されたりするもんか」
「え? 何、私今蔑まれてるの? ゴミクズのように扱われてるの?」
「……ちょっと姫乃ちゃんは黙ってようか」
「ああっ! こんなアホな娘にまでぞんざいに扱われるだなんて……快・感!」
……話が進まないので、姫乃ちゃんにはこれ以上突っ込まないでおこう。本人も、その辺に転がるゴミクズのように扱われるのがお好みなようだし。
「なあ……あんたが、今この変態に付き合ってるのは、何か考えがあってのことなんじゃないのかい? じゃないと私はとても納得できないのさ」
「…………」
「……あんたは、『深友』に胸の内を打ち明けられないのかい?」
……ずるいよ、スケバンマッチョさん。
「……考えなんか、ないよ」
『深友』だなんて……そんな風にスケバンマッチョ言われたら、本音を口にしないわけにはいかないじゃないか。
「ただ……私がこのまま、要の隣にいて良いか分からなくなっただけだよ。……私が隣にいることが、要の可能性を奪ってるんじゃないかって、そう思っちゃったんだ」
どれ程私が要を好きになっても、どれ程飼い主とわんことしての絆を深めたとしても、それはきっと乙女ゲームが始まる前だけの期間限定のことだと思っていた。
いつかこの学園にヒロインが来たら、私は運命に従わないといけないんだって。
要とは別れることは、最初から決まってるんだと、ずっとそう思っていたのに。
やって来た姫乃ちゃんは、原作のゲームのヒロインとはあまりにもかけ離れていて。私が女帝様として転生した瞬間から、どっかおかしかったゲーム設定は、ますます迷走していく一方で。
分からなく、なってしまった。
私は、このおかしなゲーム設定のまま、今まで通り要といて良いのか。
……それとも、ゲーム設定に縛られなくなったからこそ、要を自由にしてあげるべきなのか。
「……よく分からない娘だね。私があんたを要様から引き離そうとした時は、絶対に離れないって言い張った癖に。今さらだろ」
「あの時とは違うよ……だって要の世界は、あの時よりもっと広がったもん。今なら、要はきっと誰とだって仲良くなれるし、どこへだっていけるもの」
私は、アホだから、よく分からない。
何が要にとって、一番良い道なんだろうか。
どうすれば、要が幸せになってくれるんだろうか。
要は、私が犠牲になるような幸せは要らないって、行ったけど、転校しないで距離を置く分には良いんじゃないだろうか。
……ああ、だけど、やだな。
要の傍に、いたいな。
離れたくないな。淋しいな。
隣に、私以外の誰かを置いて欲しくないな。
思考回路がめちゃくちゃで、自分で自分が何がしたいか、分からない。……やっぱり私は、アホだなあ。自分のことすら、分からないだなんて。
馬鹿は死んでも治らないって言うけれど、一度死んだんだからアホは治して欲しかったな。そしたら、きっと、一番良い道を選べただろうに。
「……本当、見ててじれったくなるほど、不器用だねぇ。あんたも、要様も」
呆れたように溜息を吐いて、スケバンマッチョさんは私の頭をガシガシ撫でた……うお、痛い! く、首ゴキッていったよ! 今!
「あんたが思っていること、とりあえず全部要様に、ぶちまけちまいな。話はそっからだよ」
「だけど……」
「だけども、へったくれもない! 生徒会選出の時に、一人で昼食を食べるのは淋しいって縋って来たのはあんただろ? 自分が嫌なことを要様にするんじゃないよ。せめて、ちゃんと理由を説明するくらいのけじめは必要さな」
そう言うとスケバンマッチョさんは、放置プレイを食らってウズウズしてる姫乃ちゃんの首根っこを掴んだ。
「……あん……っ!」
「……変な声出すのはやめておくれ……とりあえず、私がこの変態引き取っておくから、放課後要様に会うまで、頭を冷やしてよく考えてな。午後の授業は、体調不良で欠席すると、先生には伝えておいたげるから」
そう言い残すと、スケバンマッチョさんは陶酔しきった気持ち悪い表情の姫乃ちゃんをズルズル引きずって行ってしまった。
……なんというか、スケバンマッチョさんの明日が心配で仕方ないのだけど、大丈夫だろうか。ドエムに新たにタゲられたりしないかしら。あれ。




