アホのことヒロイン3
私は即座に要の陰に隠れて震えた。どうやら、ヒロインは恐ろしい人種だったらしい。
とても関わり合いになりたくない。
「いや……でも中身がアホでも、スペックが女帝様なら調教次第では、理想の女帝様に……私の手腕ならきっと」
「ひ、姫乃ちゃん、それなら私より、副会長辺りがちょうどよいんじゃないかな!」
恐ろしい独り言をのたまう姫乃ちゃんに、私は愛那ちゃんを売ることにした。Sに調教されるなぞ冗談でない。……一瞬、要を推すべきかと悩んだけど、却下だ。
だって、このヒロインちゃんじゃ、要は幸せになれない……というか、ドエスが開花して笑いながら姫乃ちゃんを虐げることに幸せ感じる要とか、嫌過ぎる。まだ、幼児プレイ好きのがましだ。
「穏やかで、誰にでも平等な博愛主義なのは、仮の姿! その実態は、二重人格腹黒眼鏡! まさに、姫乃ちゃんにぴったりな物件じゃないか」
……まあ、アホのこなツンデレだけどね!
だが、ゲームでしか愛那ちゃんを知らない、姫乃ちゃんには実態は分かるまい。ゲームでは一応ちゃんと、二重人格腹黒っぽいからね。(モーションはあれだ……ゲームだからパターン少ないから仕方ないと都合良く解釈してくれ、頼む)
愛那ちゃん……君の尊い犠牲を、私は忘れないよ! さあ、内に秘めたるドエスを解放して、幸せになっておくれ。君なら高笑いしながら、鞭を打つくらい余裕さ!
……あ、でもドエスになっても、差し入れは忘れないで欲しいな。次はマカロンが食べたいデス。ラズベリー入りの。
しかし、私が必死に副会長を推したのに、姫乃ちゃんは鼻で笑った。
「私は女王様に虐げられたいの。男なんてお呼びじゃないわ」
どうやら彼女は私の想定以上の変態だったらしい。
……愛那ちゃん、中性的な女顔なんだから、いーじゃん、別に!
きっと、SM女王様ファッションだって、似合うよ。おっぱいだけ、偽乳で何とかすれば。
「……よくよく考えると、アホをドエスの女王様に調教するというのも燃えるわね……その報われなさがどM心を擽るわ。学園に在籍している間で、貴方を私の理想の女王様に調教してあげる」
私は女帝サマ(笑)……でなかった、女帝様です。女王様ではありません。
獲物を狙うように舌なめずりするのをやめてください。にじり寄ってこないでください。
「……要」
「………何だ」
「後は任せた!」
「はあっ!? ……綾華、てめえ、待て!」
待ちません! 三十六計逃げるに如かず!
変態を要に押し付けて、場を収集させることで、制服を汚したこともうやむやにできる一石二鳥策! 私ってば、やっぱり頭いい!……って、ぬおっ! 服誰かに捕まれた!
「……なーに、人のことを大声で腹黒二重人格とか言ってくれやがってるんですか」
……振り返った先には、口端をひくひくさせてる怒れる愛那ちゃん。
「……あれ、愛那ちゃん、いたの?」
「いましたよ! ずっと近くで、貴女の良く分からない寸劇見てましたよ! 何で私が、あの流れで巻き込まれないといけないんですか!」
「いや、だってほら、ドエスになりたい愛那ちゃんにはぴったりな物件かと思って。姫乃ちゃん、かわいいし。いいじゃない」
「ーー誰が、いつ、ドエスになりたいと言いましたか! 私はいくら、顔がかわいくてもあんな変態ごめんです!」
「どうどう、副会長サマ、落ち着いて。いつもかぶってる皮、剥がれてるから。穏やかな博愛主義者が、公衆の面前で怒鳴ったら駄目よ」
「公衆の面前で、人を腹黒二重人格と叫んだ人が何を言ってるんですか! ……もう、いいです。今更。変に取り繕うのも、馬鹿らしくなりました。実際、素で話しても、あまり驚いてる生徒もいませんし」
「あら、愛那ちゃん。キャラチェン宣言? 良いと思うよー。実際表の顔より私、素の愛那ちゃんのが好きだし。これからはツンデレ属性全面に出してきなよ。そっちのが人気でるよ、多分」
「ツンデ……誰がですか! ……もう怒りました。今日は差し入れにエンジェルハートのマカロンを購入していたのですが、貴女にだけあげないことにします」
「ええ!? そんな……それ、もしかしなくてもラズベリーもあったり……?」
「ええ。もちろん。一番人気のフレバーですから」
「愛那ちゃん、ごめんなさい、ごめんなさい! 謝る、反省するから、マカロン食べさせて!!」
「知りません」
「愛那ちゃーん!」
……結局その後、要に捕まってこってり絞られました。
なんとか説得して、ヨダレ掛けだけは勘弁してもらいましたが、次汚したら拒否権はないそうです。……うう。
そして、ツンデレ愛那ちゃんは何だかんだで、ラズベリーマカロン食べさせてくれました。「今日まで賞味期限で、人数分買ったから、仕方なくですからね!」って言いながら。……愛那ちゃんの優しさが、胸に突き刺さるね。ごめんね、愛那ちゃん。変態に売ろうとして。
そして、例の変態は、いつの間にか姿を消してました。
とても、嫌な予感しかしません。
「ーー随分朝ゆっくりなのね。駄目よ。早寝早起きしないと。だから、そんなに身嗜みが雑なのね」
「……なんで姫乃ちゃん、私の寮部屋の前で待ち構えてるの」




