アホのことヒロイン
「いくらなんでも、そんな処分間違っているわ!!」
「あら、ここは上流階級の子息が通う学園よ。このような粗相をするようなウェイターいらないわ。しかも他でもない私に対してこのような失敗……解雇が当然でしょう?」
「っ……あなたがそんなに偉いの!?」
「――えぇ、私は偉いわ」
口元を隠していたお気に入りの扇子を音をたてて畳んで、不敵な笑みを浮かべて吠える転校生に突き付けた。
「覚えて起きなさい。無血統の駄犬さん。私の名前は『鳳凰院綾華』この学園の頂点に君臨するものよ。この学園では、私が法律なの」
――決まった。
私かっちょよくね!?
女帝様感バリバリじゃね!?
ついにやって来ました。ヒロインちゃんこと、済木姫乃ちゃん。
とうとう私が毒々しくも華麗な悪の華を咲かせる時です。
……いやさー、大分元ネタからズレ過ぎて、もしかしたらゲームの展開は来ないかな、って思ってたのよね。要と接触した結果、スケバンマッチョさんが姫乃ちゃんを呼び出すこともなかったし。(まあ、接触ぐらいじゃ今のスケバンマッチョさんは、呼び出さないとは思うけど)てか、そもそも要、がっつり姫乃ちゃん避けてたから、そもそも最初の接触自体してないし。
しかし、げに恐ろしきは、ゲームの強制力。
誤って水をこぼしたウェイターを女帝様が解雇しようとして、ヒロインちゃんが止めに入った結果、女帝様の正体判明するイベントが起こっちゃったよ。わお。
……ふっ、やっぱり私は女帝様(笑、なしのね。当然)にならないといけない運命のようだな。仕方ない。こうなったからには腹を括りましょう。ゲーム補正には逆らえないもの。
ここより始まる女帝様vsヒロインの戦い!! いざ、鮮やかな毒花と化して、美しく散らん!
鳳凰院綾華。その名のごとく、今美しい鳳凰になって飛び立ちます!!
……最終的に学園から追放されるのは悲しくないと言えば嘘になるけど、この学園で今までの私の扱いが「アホのこ」なのは事実。ゲーム補正の結果、女帝様としての才能が華開いた私に皆様さぞ戸惑われることでしょう。
ならば、お互い一からやり直した方が、良いだろう。私は別の学園で今度こそトップに君臨することに致します。
さあ、れっつ・ぷれい!!
楽しい乙女ゲームのはじまりじゃい。私の生き様を、皆よしかと目に焼き付けるが良い!!
………しかし、周囲の一般ピーポーどもが、含み笑いで私を見ているのはなぜでしょう。
「女帝サマ(笑) ………格好つけてるけど、その状態じゃ様にならない……っ」
「あれ、ミートソースだよな……あーあ、落ちねーぞ、あの染み。生徒会の制服白いのに……また皇帝に怒られるぞ」
………今の現状を説明しよう。
我が校では王道的な要素として、「生徒会」や、「風紀委員」といった学園の権力者達には、普通の生徒と違った制服を支給される。
生徒会は「純白」をメインとした制服。やはり男性キャラの白ランは大事な萌え要素だったらしい。
元々のゲームでは別格の地位を持っていて豪華絢爛なオリジナル制服を身に纏っていた女帝サマ。
しかし私は「躾」という名目で、本来はヒロインが後に与えられるはずだった「庶務」の地位を要から押し付けられている。その為、着ている制服も、生徒会用の白さが眩しい、絶対これ汚れんだろ、的な制服になっているのです。……この辺り、ちらっと前回の最後辺り出てましたね。今思えば、何というフラグでしょう。
そんな白い制服の、襟からりぼんにかけた胸の部分に思いきり広がる――先程まで食べていたミートソーススパゲティ。
ーーやばい、要に怒られるーっ!!
ゲームでは、服の端に少し水がかかる程度の被害だった。
しかしうっかりそんなイベントを忘れていた、というかすっかり油断してた私は、突然掛かってきた水に素で驚いて、食べていたスパゲティを盛大にひっくり返してしまったのだ。
慌ててイベントを思い出して、咄嗟にゲーム通りにウェイターに解雇宣言を突きつけ、ヒロインを上手く釣り上げたものの、ひっくり返してしまったものは元には戻らない。
私ら女帝サマの、高慢かつかっちょ良いセリフを、ミートソース臭を漂わせながら述べることになってしまったのだ。何という悲劇。
……おい、ウェイター。てめぇまで含み笑いをしてるんじゃない。
誰のせいだと思ってるんだ。本当にクビにさせんぞ。正直ついイベントに乗ってしまったのは、これから要に怒られる原因を作った君に腹が立ったのが一番なんだからな。
要が絶対邪魔してくるし、そんなことしないけどさ!
「――そんなのおかしいわっ!!」
しかし姫乃ちゃんは、そんな外野の反応は無視して、正規のセリフを言ってくれる。
うむ。それでこそヒロイン。
外野の有象無象なんぞ気にしちゃいけない。……てか、これもゲームの強制力だったりして。そう考えると、ちと怖いね。
「そんなのっ、そんな権力が全てだなんて考え間違っている!! それが学園で普通のことだというのなら、私がこの学園を変えてみせるっ!!」
「あら? 貴女のような庶民に何が出来まして?」
片眉をあげて、嘲りを含んだ妖艶な笑みを浮かべてみせる。
なかなか複雑な表情だが、大丈夫。姿は女帝様なのだから出来ているはず。うん、きっと。
おお、すごい。ここまでミートソース以外は、ちゃんとゲーム通りな流れだ。もしかしたら、このまま最後まで……
「貴女が私に逆らうのなら、全力で叩き潰すまで。せいぜい後悔なさい。私に逆らった…っうおお!!」
格好よく言い放つはずだった台詞は、突然頭に襲った衝撃と、食堂中を鳴り響くスパーンという小気味よい音によって中断された。
……ウワー、スゴーイ、音。
そして音に反して、全く痛くはない。あくまで衝撃だけだ。
……うおー、最小限の最小限の被害で最大限の効果を果たすとは、さすが特注品。一体どこで、どれだけの金額積めば、こんなものが手に入るのだ。
……うん、そろそろ現実逃避はやめとくか。
「……まあた、制服を汚しやがって。何枚無駄にすれば気がすむんだ? あぁ? これ特注品なんだぞ」
振り替えると鬼の形相の要が、巨大ハリセンを片手に立っていました。
……やだー! 逃げたいよお!




