アホのこと生徒会8
「おいっ! 綾華……てめぇ、また書類間違ってたぞ!!」
「え、どこが…あ、本当だ、ごめん。桁間違えた」
「……何で、テストではケアレスミスしない癖に、書類になったら、途端にこうも間違うんだ?」
………う、それをつかれると、痛い。
「……えーと、来たるべきイベントを前にすっかり気もそぞろになってしまいまして」
とうとう、来週。来週、姫乃ちゃんが転校してくるのです……!
こうなったら、書類になんか集中していられない……って、いたあ!
「……デコピンやめて! 要のデコピン地味に痛いから!」
「……てめえが、ろくでもないことに気ぃとられて、生徒会の仕事おろそかにしてやがるのが悪い」
「ろくでもなくないよ! だって、ほら、実際編入の書類だって、来てるわけだし」
ビシッと突きつけるのは、先日生徒会に届けられた「生徒名簿」に追加する予定の書類。
その中では、写真に映った済木姫乃ちゃんが、ゲームのキャラデザのまんまで微笑んでいる。
「ついに始まる、乙女ゲームの展開……そしてその瞬間、私の中の女帝様が開花する……!」
「わけねぇだろ、アホ。さっき食ったクッキーの欠片、顔につけてるような奴が、今さら変わるか。どうやったら額の上なんぞに、食いカスつけれるんだ…?」
「なんと……要さん。どこかわからんので取っていただけませんか?」
「鏡を持ち歩けと前言わなかったか?」
「……若いうちはすっぴんのほうが肌にいいのよ。だからね、化粧しなければ鏡も必要ないの」
「………だから朝から口元に歯磨き粉つけっぱなしなのか」
「え、まじ。取って取って……てか、ならもっと早く教えてよ」
「自分で取れ!! いつ気付くかと思って、放置してたら、放課後までつけっぱなしでいやがって……」
……と、言いながらもとってくれる辺り、要、まじツンデレ。
でも、最近、要は結構カリカリしてる気がする。カルシウムが足りてない感じ。……牛乳と煮干し、用意すべきか。
特に、私が済木姫乃ちゃんの話をする時がひどい。
「もっと喜べばいいのに……要の運命の人かもしれないんだから」
だって、要は乙女ゲームのメインヒーローだ。姫乃ちゃんが、要を選ぶ確率は高い。
二人がくっつくのが王道で自然な形かなと、私的には思う。
「……確かに、お前が言ってた『この世界がゲームを基盤としてできてる』という話は、当たってる部分はある。だけど、それを差し引いても、随分元の話と変わって来てるだろうが。元の話の前提で、勝手に人の運命を決めるんじゃねぇ」
「……だけど、それはあくまでゲーム開始前の時点だし。ゲーム開始したら、何らか強制力が働いて」
「俺は認めねぇからな。そんな未来」
……いやー。要が認めようが、認めなかろうが、やっぱり変えられないものってあるだろうし。
運命ばっかりは仕方な……
「……お前の退学が前提の運命なんて、俺は絶対認めねぇ」
……って、あら?
「え、要。私が学園追放されるかもしれないってこと気にしてくれたの?」
「当たり前だろっ! 寧ろ、どうしてお前が気にしねぇんだよ!」
「いや……だって、まあ、黒ウサギルート以外は、普通に転校させられるだけだし。卒業が一年半早まったと思えば……まあ」
要はもちろん、スケバンマッチョさん達や、わんこ武宮、生徒会のみんなもかな? と別れるのはさみしいけれど、まあ遅かれ早かれ、それは訪れる別れだ。
新しい環境は不安はあるけど、わくわくしないこともない。……せっかくだから、愛那ちゃんみたいに留学してみるのもありかもしれないし。今の私の頭脳と、鳳凰院家の財力なら、多分余裕だし。
……そんなことより、やっぱり問題は、姫乃ちゃんがくっつく相手の方だ。
「ねぇ要……今はさ、要は姫乃ちゃんのこと何とも思ってないかもしれないけど、きっと出会ったらすぐ好きになるよ。だって、ゲームでそうだったもん。……だからさ、そうなったら私が、前世の知識を使って、要に協力してあげる! しっかり女帝様をやって、要が姫乃ちゃんとラブラブになれるようにしてみせるから、頼ってくれてよいのよ?」
姫乃ちゃんにべた惚れなわんこ武宮には悪いけど、私が一番かわいくて恋に協力してあげたいのは、自分のわんこである要だ。
それに要は、ゲームの設定に縛られて、今まであまりにもかわいそうな境遇だった。だから、要は、その分もこれから幸せにならないとだめだと思う。他の攻略キャラより、ずっとずっと。
「私のことは気にしないでいーのよ。要。私、要が幸せになる為だったら何十回だって転校するから。要が幸せなら、私も幸せだもん!」
わんこの幸せは、飼い主の幸せ。
たとえ要が、他の誰かのわんこになっても、要が笑ってくれるなら、私は幸せなのです! ふうっ、私ってば飼い主の鑑!
「……じゃあ、転校なんて考えてねぇで、ずっと俺の隣にいろよ」
「……え?」
「俺の幸せを勝手に決めんな、アホ。……なんにせよ、お前が転校する未来だけは断固阻止するからな。お前の犠牲を前提にして幸せになれるほど、俺は図太くねぇよ」
えー、そんな。私が気にしないで良いって、言ってるんだから、気にしないで良いのに。……でも、そっか。そーだよな。要、優しいから。気にしないわけないよな。
良いアイディアだと思ったんだけど、な。……これが、私が要にできる精一杯の愛情表現だし。
だけど要が別の方法が良いと言うなら、何とかして学園追放阻止したうえでの、ハッピーエンドを画策せねば……!
「……それより、綾華。新しい生徒会用制服届いてたぞ」
「おお! 輝かんばかりの、純白! いやあ、一人だけ前の制服でいるの、恥ずかしかったんだよね。周りから、突っ込まれまくるし。良かった。ありがとう」
「しかし、支給して一ヶ月も経たないうちに汚して駄目にするとは……本当、お前仕方ねぇ奴だな」
「う……それは、大変申し訳ないことをしたと反省してます」
「次汚したら、お前用に特注した巨大ハリセンで容赦なく引っぱたくからな」
「え、ちょっと待って、要。そんなもの一体どこで特注したの?」




