アホのこと生徒会6
「まあ、そういうわけだから週末は他をあたれ」
そのままベリッ引き離すように腕を引かれると、要は私だけに聞こえる小さな声で、囁いた。
「……怯えてんじゃねぇよ。馬鹿。俺が、あいつに手を出させるわけねぇだろ。どっちの意味でも」
ーーーうわあああ! うちのわんこ、超イケメン!
やばい、家事万能かつ、超絶有能で、しかも主人に忠実とか、要ってば、どれだけイケわんこなの!? もう、要さんってば、大好き!
「えへへへ。……ありがとう、要」
「……こう言う場で、そういう締まりねぇ笑顔見せるな。アホ丸出しだぞ」
……て、やっぱりひどい!
武宮はヒロインちゃんに『俺……お前の笑顔、好きだ……心が、あったかくなる』ってゲームで言ったのに……だから要ははっきりとわんこキャラに認定するには、微妙なラインなんだ……!
もっとたくさんデレくれ。デレを! しっぽ、振って!
「……あーあ。なんか見せつけられちゃったなあー」
肩を竦めながら、海棠隼はすぐに引き下がる。
……あれ、案外あっさり引いてくれたな。もっとしつこいかと思ったけど。
「じゃあ、次の長期休み! 一緒にカフェ行こーね。約束だよー」
……って、引いてなかった! しかし、ウインクうまいな……私両目つぶっちゃう……って、そんなことはどうでもいい。
「……予定が合えばね」
とりあえず無難そうな言葉でここは流しておこう。下手に冷たくして、ヤンデレに殺されたくないし。「女帝様(笑)悪い娘じゃないから、腕折って退学すれば許してあげよ」って、何とか最悪の事態を寸で留まれるくらいの、好感度目指そう。……いや、腕も折られたくないけど。殺されるよりは、まだ。
……そして要さん、なぜちょっと不機嫌そうなんですか。
「……その、話は終わったか? なら、そろそろ今後の生徒会活動について、相談したいのだが」
ーーって、うおおっ! いつの間にいたの。武士系書記こと、大河 孟司さん!
全く気配なかったよ!
「ああ、悪いな。大河。勝手に庶務を決めたことも含めて」
「そのことならば、別に俺は構わない。鳳凰院は色々しでかすこともあるが、基本的には優秀だと聞いている。俺は部活が忙しくなると、生徒会活動に集中出来なくなるだろうから、優秀な人材が来てくれるのはありがたい」
……そして、ゲーム通り、いい奴だ! 大河さん。
表情こそ、あんまり変わらないけど、大人で優しい。
どこぞの愛那ちゃんとは、大違いだね!(あ、名前言っちゃってる)
「……大河。貴方はこのアホ丸出しな女を前に、何故そうも楽観的にいられるのです。理解に苦しみますね」
「だが、斎ノ原。中等部は三年間交換留学してたうえに、今もグローバル科に在籍するお前だって、その目で鳳凰院の実力を確かめたわけじゃないだろう? ……何、俺達が無駄な心配せずとも、竜堂寺が何とかしてくれる。お前だって、竜堂寺の実力を認めているはずだ」
「…………」
おお、愛那ちゃんが黙った! 流石スポーツ特進科を……いや、欧洞学園を代表する兄貴キャラ! 通称武士ニキ!
そう、大河孟司さんは、文武両道、質実剛健。噂に左右されず、真実は己が目で確かめる慧眼持ち。剣道の腕は全国レベルなのに、けして奢ることはない、ストイック系武士さんなのだ! ……そして密かに甘いものが好きだが、男らしい顔に似合わないことが恥ずかしくて、秘密にしてるというギャップ持ち! くう……素敵!
……実は私、武士ニキは、武宮に続いて、推しキャラなんだよね。どうも、男らしいガタイ良いキャラに弱くて。(要は、王道細マッチョ)
ただ武士ニキは、武宮に比べて、正統派過ぎて面白みがかけると言うか……完璧過ぎて、ちょっと近寄りがたい印象あって、武宮が一番だったわけだけど。こうやって実際目の当たりにすると……良いな。実に、格好良い。アニキ! って、呼びたいな。
ツンツン愛那ちゃんと、隠れヤンデレウサギと一緒と言う事実にげんなりしてたけど……武士ニキと一緒なら、このメンバーも悪くない、かな。仲良しになって、是非舎弟にして欲しい……って、あかん。女帝様から益々遠ざかる。
……でも、同じ生徒会メンバーとして、友達になるくらいなら……。
「ああ、メンバーが決まっていた時点で考えたのだが……大河、お前、持ち帰りで仕事任せてもいいなら、全員参加の会議がある時以外は生徒会室来ないでもいいぞ。部活休みたくねぇんだろ?」
………なぬっ!?
「……それは、ありがたいが、良いのか? 放課後は生徒会室に、誰かしら必ず待機しなければならないのだろう」
「規定では一人いれば問題ないことになってる。俺は放課後、よほどのことがなければ生徒会室にいる予定だから、部活があるお前が無理に残る必要はねぇだろう。……まあ、持ち帰りで業務するのがきついなら、別の方法考えるが」
「いや、スポーツ特進は、他の課に比べて授業の課題が少ないから全く問題はない。……大会も近いから助かる。感謝するぞ。竜堂寺」
……え、ちょ待って。待って。待って。私の癒し。
「えー、大河っちばっかり、ずるいよー! 俺だって放課後女の子と遊びたいのにー」
「……じゃあ、お前も持ち帰りにするか?」
「え? いーの」
「その変わり、業務は毎日厳しく取り立てるけどな。絶対逃がさねぇから、間違ってもサボろうと思うなよ」
「……えー。大河っちに比べて俺、信用なさすぎじゃない? 俺こー見えて、やることはやるこよ。……まあ、でも正直俺、周りに人いると集中できないし、持ち帰りでやらせてもらおーかな。生徒会室って堅苦しいし」
……あ、ヤンデレウサギも抜けた。ラッキー。
「……ちょっと待って下さい! 貴方達がいなくなったら、私一人で、この二人と一緒に業務しないといけないじゃないですか!」
「……なら、斎ノ原、お前も持ち帰りにするか? 間違ってもサボってると勘違いされねぇように、ちゃんと今期生徒会のシステムとして、明文化して広めてやるから」
……あー、サボってると思われて、リコールされる可能性もあったのか。その辺まで気が回るとか、要ったら、さすがだな。
……あれ? なぜここで愛那ちゃんの顔が赤くなってる。
「……わ、私まで持ち帰り業務にしたらっ!」
「……したら、どうかしたか?」
「あ、貴方達は、神聖な生徒会室で、い、いかがわしいことをしたりしませんか……!?」
………いいか、がわしい? ……じゃない、いかがわしい?




