アホのことわんこ
さて、何だかんだ色々ありましたが、ついに私、鳳凰院綾華高等部に進学致しましたー。
「箱庭の虜囚」の正規ヒロインちゃんは一個下かつ、なんかハプニングに見舞われて5月に編入してくる予定なので、もう1年ちょい時間はありますが、いよいよって感じですね。こう、転生もいよいよ大詰めといいますか。……まあ、もう今の時点でかなり原作クラッシュしてるけどね! もし、正規ルート期待してたら、ごめんよ、ヒロインちゃん!(まあ、どう考えても、私が原因の歪みだよね。あはは……一応ちゃんと女帝様らしくはするつもりだったから許してくれ)
しかーし、原作ゲームの設定が変わっていても、変わらないものもあるのですよ。
「ビバ! 武宮京成欧洞学園加入ー!」
前世での私の最推しわんこが、長いイギリス生活を経て高等部から編入してくるところとかね!
やっほいー。 生武宮! 生わんこ!
既に彼が、編入して来たことは確認済み。(ガタイが飛び抜けてデカイし、金髪碧眼なハーフだから、すぐわかる)
あとは武宮の生息地……じゃなかった。彼が勝手に私物化している温室に押しかけるのみ!
うふふふー。さあて、ちょっくらわんこと戯れに行って参ります。
「ーーなんだ、お前」
………ああ! この警戒心丸出しで睨んでくる、野良犬感……実に、イイ! 本物だ。本物の、生武宮だ……!
「あら? この温室は高等部の生徒なら、誰でも出入り自由なはずでしょう。あなたに睨まれる筋合いはないわ」
「…………」
私の最も過ぎる言葉に武宮は、顔をしかめた。
……ふふん。ゲームでは何故か武宮の場所ってことで、みんな近付かないけど、そんな規定どこにもないもんねー。武宮に文句言われる筋合いないもんねー。
「……あら? どこへ行くつもり?」
「……お前、うるさい。帰る」
片言の日本語でそう言って、一瞥もしないで去ろうとする、武宮に思わず笑みが浮かぶ。うふふ……いーね。いーね。さすが、ヒロイン一筋の一途わんこ。くうっ、この忠犬っぷりに痺れるぜ……!
しかし。このまま警戒されて、以後わんこに近づけなくなるのも、ヒロインちゃんとのイベントが起こるこの場所にわんこが近づかなくなるのもアレなので、ここは敢えて爆弾を投げ落とすことにした。
「あら、良いの? 私をそう無碍に扱って? ……せっかく、私は貴方にとって耳寄りの情報を持ってきたのに」
「…………?」
「ーー貴方の、初恋の相手である斉木 姫乃ちゃんのことよ」
「っ!!」
……お、どうやらこの反応を見る限り、武宮はちゃんと正規乙女ゲームルート行っているようだな。
よかった。よかった。正規ヒロインちゃんである姫乃ちゃんのことは、ちらっと要に探ってもらって存在してることはわかってたけど、武宮とのイベントまでは本当に起こってたか分からないもんなー。
「なんで……姫乃のこと、知って……」
「全部知っているわよ? 貴方が6歳の頃、三ヶ月だけ公立学校に通っていたことも。日本語がろくに話せず、見た目も日本人離れしていることが原因でいじめられていたのを、たまたま通りかかった一つ下の斉木姫乃ちゃんがかばってくれたことも。それから、ずっと貴方が彼女を想い続けてることも、私は全部知ってるわ」
「……なんで……」
ふっふふ……驚いてる。驚いてる。まあ、それもそうか。普通だったら知るはずない情報だもんね。
しかし、私は残念ながら普通ではないのだよ!
「……そう言えば、まだ名乗ってなかったわね」
私は動揺を露わにする武宮に、にっこりと微笑んでみせた。
「私の名前は、鳳凰院綾華……覚えておくといいわ。武宮京成くん? 鳳凰院家の手にかかれば、こんな情報簡単に手に入れられるのよ」
ーーと、言いつつ、情報源は全部前世のゲーム知識ですけどね……!
五回周回な私の記憶を舐めるなよ!
「お前……何……何で、俺、探る……」
「そんな警戒しなくて良いのよ? 武宮くん。ちょっとした、気まぐれよ」
言ってることは、何というか自分でも最高にミステリアスちっくかつ、過去最高に女帝様っぽい気がするが、本当に大層な意味がないから困る。
……いやあ、君のわんこキャラが好きだから、傍で観察できる距離感が欲しいだけとか言えないよね!
しかしミステリアス………いい響きだよね、ミステリアス。いまいちこう日本語訳がピンと来ない形容詞だけど。
「ただ私は、面白い話を耳に挟んだから、貴方に教えてあげたくなったの」
「……面白い、話?」
「そう……貴方の初恋の君が、欧洞学園の学園長に気に入られて、現在養子縁組の話が進められているって話よ」
「っ」
「箱庭の虜囚」の基本設定だけども、これに関しては完全に裏が取れてる。
情報収集をした要が「本当に、お前が言ってたゲームのシナリオ通りに現実が進んでるんだな」と、引きつった顔で口にしてたし。
……てか、まだ半信半疑だったのか、要ひどくない? まあ、ゲームの本筋には今まで至ってなかったから仕方ないと言えば仕方ないかもだけど。……最初の告白の時は、私が嘘ついてないのはわかるって断言してくれた癖に。最近益々口悪いし、なんてかスレてきてるよね……うう、歳月の流れは無情なり。
「まあ、これはまだ推測の段階だけど……来年くらい学園長、斉木姫乃ちゃんをこの学園に編入させようと思っているんじゃないかしら?」




