アホのこと中等部11
「な、なんで姉御!?」
「そっちの方が、上下関係が分かりやすいだろ。あんたは、形はどうであれ、私を負かしたんだから、それ相応の呼称は必要さね」
い、いやだからって姉御と言うのは……。それに、私が要のファンクラブのみんなを従えるのも違う気がする。
「……要のファンクラブは、スケバンマッチョさんが作ったんだから、やっぱりトップはスケバンマッチョさんであるべきだよ」
「しかしだね……これは私なりのけじめ……」
「だいたい! 私は要のファンなんかじゃないもん! 私は要を崇め讃える気は一切ないし!」
むしろご主人様は私! 要は私のわんこです!
自分のわんこのファンクラブの頭になるほど、私は落ちぶれてないぜ……むしろ要が「鳳凰院綾華ファンクラブ」を設立すべき!……いや、まあ、絶対作ってくれないし、そもそもメンバー集まらんのも知ってるけど。
「じゃあ、解散するかい?」
「そうじゃなくてさ! いいじゃん、別に。そこに上下関係作らなくてもさ。スケバンマッチョさんは、そのままファンクラブの会長続けてさ……わ、私とは別の関係築けばいいじゃない」
友達とか親友とかソウルメイトとか、ほら、色々あるでしょ?
拳で語りあった仲じゃない? 強敵と書いて、「とも」じゃない?
「呼び方だって、もっと気さくに『女帝様』と……」
「どこが気さくだ、どこが。アホ」
少しでも原作に近付きたいという、ちょっとしたかわゆい下心からの提案は、すっぱり要に一刀両断されてしまった。
「気、気さくじゃない! こう、渾名で呼び合うマブダチ関係的な! 私がスケバンマッチョさんと呼んで、スケバンマッチョさんが私を女帝様と呼ぶ……それぞれ二人だけの特別な呼称! 素敵じゃないか!」
「……だから、お前のスケバンマッチョとかいう渾名すげぇ失礼だと何度言えば解る。だいたいお前みたいなアホ、『女帝様(笑)』が良いとこだろ」
「(笑)! なんて、よけいかつ、言いづらいものを語尾につけるの……! 要、渾名と言うのは、呼びやすくする為につけるものだよ? 無駄に長くしてどうするのよ!」
「うっせぇ。鳳凰院よりは呼びやすいだろ、女帝様(笑)」
「うわーん、真顔で、呼ばないでよー! なんかマジで定着しそうじゃん!」
涙目でぽかぽかと要に教育的指導を与えようとするが、片手で額を押さえつけられ、手が届かない。
……な、なんだこのリーチの差は! 確かに要はモデル体型だけど私だって十分に手足は長いはず………って、これは身長の差に起因してるのか?
畜生! 成長期め! つい先日までは私とほとんど変わらないか、小さいくらいだったのに急ににょきにょき伸びやがって……!
「……本当に、あんた達仲が良いねぇ。あの要様が、まるで子どもみたいじゃないか」
そんな私達を見て、スケバンマッチョさんはくすりと笑った。
……いや、要がガキっぽいのは同意しますが、今のやり取りは仲が良いというか、私がいじめられているだけな気もするんだけど。
「鳳凰院綾華……やっぱり、あんたは要様の隣にいるべき女だね」
「……スケバンマッチョさん」
「だからこそ、私も要様の案通り『女帝様(笑)』と呼ばせてもらおうかね」
「いやいやいやいや! おかしい! その流れ、おかしいから!」
まずい……! これは下手したら、本気で定着しそうだぞ……! 何とかして軌道修正を……。
「なんだい? 特別な渾名で呼び合うのが、親友の証なんだろ? あんたが私をスケバンマッチョさんと呼ぶのなら、私も拳で語り合った友情の証として、あんたを女帝様(笑)と呼ぼうと思ったんだが……」
「是非とも、女帝様(笑)とお呼び下さい」
……友情の証なら、仕方ないね! うん! 諦める!
…………と、思っていたのに。
「女帝様(笑)って、美人なのに今日も残念だよな~」
「なあ? それなのに皇帝ファンクラブを従えた猛者だって話、信じられないぜ……まあ残念で抜けてるからこそ、あの助田にびびらないで接せるのかもしれないけど」
「実際助田を停学まで追いやってるのに、友好関係築いてるのすごいよな……裏で鳳凰院家が釘を刺したのも一因らしいが、どう見ても助田絆されてるよな」
「絆されもするよ……皇帝のことで敵視していた女達も、最近はあまりに女帝様(笑)が残念過ぎて、生温かい目で見るようになっているし。うん、あれは一種の才能だ」
「皇帝が女帝様(笑)の前だけ、保父さんにみえるよな。まあ……皇帝をあんだけ振り回せるのは女帝様(笑)だからだけどな」
な・ん・で、一般生徒にまでいつの間にか定着してるのー!?
「女帝様(笑)って呼ぶのは、スケバンマッチョさんだけなはずでしょ! ……それにゲーム通りとはいえ、サラッと要の『皇帝』呼びも浸透してるし! ずるい、要ばっかり(笑)がない!」
「……言っておくが、俺の皇帝呼びは、綾華、お前のせいだからな。お前が女帝様(笑)なら、隣にいる俺は皇帝ってセットで広まっただけだ」
「嘘だ! 本当は前から陰でこっそり言われてたけど、今までは要が絶対嫌がるから、スケバンマッチョさん達の圧力もあって表に出てなかっただけに決まってるもん!」
「……まあ、否定はしないが」
「ほらーっ! だいたい女帝様(笑)って呼び方だって、要があからさまに広めてたじゃん!」
確かに、スケバンマッチョさんにこれからもっと積極的に人と関わるようにするって宣言してたけど、その結果がこれっておかしくない? 完全にいやがらせよね?
これ、スケバンマッチョさん達の時より、下手したらよっぽどいじめ行為じゃない? やっぱりこのわんこ、反抗期か何かなの?
「ーー……せっかく、スケバンマッチョさんだけの特別な渾名だったのに」
……こんなに浸透しちゃったら、一般化しちゃうじゃないか。これじゃあ、親友の証とは言えない。
またなんか新しい渾名考えてもらおうかな。
「……だから、広めたに決まってるだろ」
「え?」
「いや……結果的に、この渾名が広まったことで、学園の生徒がお前を受け入れる状態になったんだから、結果オーライだろ。綾華。……まあ渾名が広まり過ぎて、ちゃんとお前の名前を呼ぶのも俺くらいしかいなくなったけどな」
「なんてこったい……!」
女帝様も、ほぼ女帝様としか呼ばれてなかったから原作ゲームに近いと言えば近いけど……どう考えても、おかしいよね、この流れ! だいたい学園を牛耳るとか、カースト制築くとかどうなったのよ? これ、下手したら原作ゲームの大前提ほぼ崩壊してない?
……いや、きっとこれから三年間でまた状況が変わるはず……うん……まさか、本当にこのままってことは、ないよね?
どうなるんだ、これ。切実に、誰か教えてほしい。




