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第31話 捕らわれた女王(鹿田無未視点)

「どういうことだ?」

「それはなぜこいつらが殺し合っていないのかという質問か?」


 確かにそれも気になる。

 被害者に感染者がいるならば、感染した者同士でも殺し合いは行われるはずなのに集まった者たちにはそうする様子が見られなかった。

 しかし最初に気になったのは、


「こいつらは我とお前に襲い掛かる様子が無い。これはどういうことかと聞いている」


 さっきの感染者は問答無用で襲い掛かって来た。

 周囲に集まった者たちにその様子が無いことに無未は違和感を感じていた。


「知りたいか? だったら教えてやるよ。こういうことだ」


 寺平と名乗った男の鎧の下からヒルのような生き物がわらわらと這い出てくる。その生き物は寺平の全身を覆うように張り付いていた。


「俺のスキル『寄生隊』だ。こいつに寄生された奴は殺人衝動を催して、俺の言うことをなんでも聞くようになる。こいつらがおとなしくしているのは俺がそう命令をしているからだ」

「つまり貴様が事件の犯人ということか」


 なぜこんな事件を起こしているのか?


 理由はわからない。それはこの男を捕らえたのち、国家ハンターが尋問をして聞き出したあとにでも知れることだ。


 寺平の足元からズズズと黒い手が生えてくる。


「おっと、俺を殺す気か?」

「殺しはしない。捕らえるだけだ」

「女王様はおやさしいな。けれどそれもやめたほうがいいぜ。俺が頭の中でこいつらに死ねと命じればすぐに自殺をする」

「っ!?」

「こいつらは俺のスキルで正気を失っているだけだ。自分たちの意志で殺しをやってるわけじゃない。おやさしい女王様はそんな連中を見捨てられるか?」

「そ、れは……」

「できねえよな。たいして金にもならねぇ国家ハンターの依頼を受けて人助けをするようなおやさしいあんたにはな」

「う、うう……」


 この男を捕らえるのは簡単だ。

 だがそうしたらスキルで操られているだけの人たちが……。


「甘いな女王様っ!」


 瞬間、男の両手5指から伸びた白い糸が無未の身体を雁字搦めに縛る。


「くっ……これはっ?」

「俺のスキル『蜘蛛糸地獄』だ」

「こんなもの……」


 たいしたスキルではない。


 無未のスキル『闇を統べる女王の観衆』は最上級クラスのスキルだ。

 この程度のスキルは容易く打ち破れる。


 地面から生やした黒い手で蜘蛛糸を切断しようとするが。


「待て。その蜘蛛糸を1本でも切ったらこいつらを自殺させるぜ」

「貴様……っ」


 いっそ殺してしまうか。


「怖い目だ。俺を殺そうと考えているのか? それもやめとけ。そんなことをしたらこいつらはもとに戻らなくなるぜ」

「装備を壊せば戻るはずだ」

「そうかもな。だが確証はあるか? もしも戻らなかったらどうする? こいつらは死ぬまで殺人者としてダンジョンを徘徊し続けるんだぜ」

「げ、外科手術で寄生虫を取り除くという方法も……」

「無理だね。そうしようとすれば寄生虫は宿主の脳を食い破るからな。取り除く前に宿主は死ぬ」

「ぐっ……」


 彼らを元に戻すにはこいつを生かしておかなければならない。


 捕らえることができない。殺すこともできない。ならばどうしたらいいのか?


 蜘蛛糸に捕らわれた無未に手段は思いつかなかった。


「へっへっへ、こういう事件には必ずあんたが出てくると思ってたぜ。ここで張ってた甲斐があるってもんだ」

「わ、我をこのように捕らえてどうする気だ?」


 殺される。


 そう思うと恐怖が沸き上がってきた。


「あんたを俺の奴隷にするのさ。あんたほどの実力者を支配下に置ければ俺は無敵だ。深層も楽に攻略できる」


 それが目的か。


 こんな奴の言いなりなるなど、死ぬよりも怖いことだった。


 寺平は人差し指に寄生虫を乗っけて無未へ近づく。


「や、やめろっ!」

「やめないさ」


 この男の言いなりになればきっと多くの人を殺すことになってしまう。

 それを避けるためには……。


「やめてほしければ俺を殺せばいい。できるものならな」


 その決断ができない。

 ただ正気を失わされているだけの人たちを見殺しにする決断が無未にはできなかった。


「さぁて、奴隷にしたらまずなにをさせてやろうか。少し楽しむのもいいな」


 いやらしい目つきで舐めるように見られて、ますます怖気が増す。


 怖い怖い怖い。


 無未は恐怖に泣きそうだった。

 しかし泣いても状況は変わらない。誰も助けてはくれない。


 小太郎おにいちゃん……。


 頭に浮かんだのは小太郎の顔。


 子供のころならきっと助けに来てくれた。

 けれどもう自分は大人だ。助けてくれる小太郎はいない。


「痛みは無いから安心しな」


 目の前まで寄生虫が迫る。


 小太郎おにいちゃんっ!


 目を瞑った無未は小太郎の名を心の中で叫んだ。そのとき、


「……うわっちっ!?」

「えっ?」


 目を開くと寺平の指に乗っていた寄生虫が燃えていた。


「な、なんだっ!? なにが起こったっ!」


 困惑した様子で寺平が周囲に首を巡らす。


「ここだ」

「なにっ!? ごふっ!」


 無未の目前に降り立った何者かが寺平の顔面を殴り飛ばす。

 勢い良く地面を転がった寺平はうつ伏せに倒れた。


「大丈夫?」

「あ……」


 振り返ったその者の顔には白い仮面があった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 会話して負けるやつ嫌いだわ アホにしか思えないから
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