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第281話 邪悪なる勇者の力

「ど、どうしてこんな簡単に魔王城へ……っ?」


 魔王城へ入るには城主である俺への忠誠心を示す魔法が必要だ。しかしこいつはそれを使わずに、転移ゲートで普通に入って来た。


「魔王様っ! 今すぐに兵をっ!」

「い、いや待てっ! 兵を送っても無駄だっ! 俺が……」

「見てるか魔王様よぉ」


 小田原がカメラに向かってニヤつきながら言う。


「あんたは今からここへ来ようとしている。けれど俺はあんたがここへ来る前に魔王城のすべて吹っ飛ばせるぜ」

「……っ」

「俺はまだあんたとやる気は無い。魔王城を吹っ飛ばされたくなかったらそこでおとなしくしているんだな」

「こいつ……」


 小田原の言うことなど信用できない。

 しかし奴に魔王城を吹っ飛ばせる力があるかもしれないのも事実。


 どうしたらいいか決めかね、俺は動くことができなかった。


「とりあえず手は出さないように兵たちには伝えろ」

「わ、わかりました」


 ジグドラスは慌てた様子で通信機を取り出して、兵士らに俺の言葉を伝える。


「誰もが知っての通り魔王城へは簡単に入ることはできない。しかし俺には簡単なことだ。魔王様の目の前にだって転移できるぜ」


 そう言いながら小田原は魔王城の玄関を通って中へと入って来る。


「はははっ、兵士どもが睨んでくるぜ。どうした? 攻撃してこないのか? ふん。どうやら手を出すなとでも命令されているらしいな」


 そのまま小田原は階段を上って魔王の間へ向かう。


「まさかここへ来るのか?」


 やはりやり合う気か?

 ならば都合が良い。ここへ来た瞬間に仕留めてやろうと思う。


 階段を上りきった小田原と撮影者は、とうとう魔王の間の扉前へと到達する。


「この先に魔王様がいるはずだぜ。けど今日はあいさつ程度にしておくか」


 と、小田原は扉に手を置く。


「まあ、あいさつで死んじまったらそれまでだけどな」

「なに? ま、まさかっ!?」


 俺は急いで自分とジグドラスの前に障壁を張った。瞬間、


「うあっ!?」


 黒い炎が扉を吹き飛ばし、魔王の間全体を焼き尽くす。


「く、くそっ!?」


 なんて威力だ。


 神法で作り出した障壁が剥がれていく。


「ま、魔王様っ! ここは撤退を……」

「くっ……」


 始めから転移ゲートで逃げておくべきだった。

 奴の力を侮った自分の愚かさを反省しつつ、俺は転移ゲートを開く。それからジグドラスをそこへ放り込む。


「魔王様っ!?」

「先に行けっ!」


 しかしもう遅い。

 俺が転移ゲートへ入る前に障壁が剥がれて黒い炎が俺を……。


「なっ?」


 燃え盛っていた黒い炎が消失する。


 なぜだかはわからない。

 しかしもし消失していなかったら、今頃は……。


「なぜ炎を消した?」


 こちらへと歩いて来た小田原に問う。


「こんなので終わりにしちゃあ、視聴者もつまらないだろ? 演出ったやつさ」

「この……っ」


 相変わらずふざけた奴だと憤る。

 しかし神法の障壁でも防げないとは恐ろしい力だ。そんな力があるとすれば、恐らく神そのものが使う力……。


 奴が神そのものの力を使うとすれば、今の奴は神とほぼ同等の存在だ。神の力を借りて行使する神法では勝つことができない……。


「安心しろ。まだ殺さない。俺は慈悲深いからな。お前に悔い改める時間をくれてやるぜ」

「なに……?」

「俺はお前なんかいつでも始末できる。それはわかったな? だったらしばらくはおとなしく悔い改めやがれ。そんで俺に土下座をしたら許してやるぜ。ひゃははっ!」

「……っ」

「ふん。それじゃあ今日の配信はここまでだ。俺に協力したい奴は連絡をくれ。俺と一緒に邪悪な魔王を倒そうぜ」


 そう撮影者へ向かって小田原は言う。

 それからこちらを見て邪悪な笑みをしたかと思うと、転移ゲートへ入ってこの場からいなくなった。


「と、とんでもないことになったな……」


 小田原がいなくなったことで緊張が解け、俺はその場へ崩れるように膝をつく。


 あの力は強過ぎる。

 俺の力では勝てない……。


「こんにちは」

「えっ? あ……」


 声をかけられ顔を上げると、そこにはあの女神が立っていた。

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