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第266話 唆されているイレイア

 無未ちゃんと同じくイレイアも天使に唆されている。


 俺はそう考えた。


「イレイアは天使に唆されているんだな?」

「は、はい。ご承知でしたか……」

「うん……。天使と一緒にいる女が知り合いでな。あの子も天使に唆されて使われているようだからイレイアもと思って」

「天使と一緒にいる女……それはロゼッタのことですか?」

「なにか知っているのか? 唆された理由とか……」

「いえなにも……。天使と一緒にいるのを見ただけで、ロゼッタがどういう理由で天使と行動をともにしているのかはわかりません」

「そうか……」


 ジグドラスがなにか知っていればよかったのだが……。

 やはり自分の言葉で本人から聞き出すしかないようだった。


「イレイアのほうもなにを天使に言われて、魔王の力に手を出したのかはわかりません。魔王様が去られてからあとを引き継いだ我々は共に協力し合って世界を統治していたのですが、いつの日か現れた天使がイレイアへ魔王の力を得るように唆したようです。それからあいつは力に支配されて、いろいろとおかしなことを平気でやるようになってしまって……」


 俺が知っている限りでは巨乳美女への迫害と世界吸収か。強大な力を得たことで支配欲が増してすべての世界を支配してやろうと世界吸収を始めたのはわかる。しかしなぜ巨乳美女を迫害し始めたのかは不明であった。


「なぜイレイアは巨乳美女の迫害を始めたかわかるか?」

「そ、それは……」


 ジグドラスは言い淀む

 理由を知っていそうだった。


「理由を知っているのか?」

「いえ、イレイアから聞いたわけではないのですが、恐らくの理由は……」

「なんだ?」

「それはその……魔王様がイレイアから直接に聞いたほうがよろしいと思われます」

「えっ? どうしてだ?」

「私の口から言うべきことではないように思いまして」


 ジグドラスの口からは言えないこと。

 一体どういうことか? しかし意味も無くこの男がこんなことを言うはずは無い。そうしたほうがいい理由がちゃんとあるのだろう。


「わかった。けどイレイアと話そうにも魔王城へ入る方法がまだ無くてな。ジグドラス、協力をしてくれるか?」


 ジグドラスならば魔王城へ入ることができる。

 俺を裏切ることもないだろうし、協力者として最適だった。


「もちろんです。イレイアのことをお願いします」


 そう言ってジグドラスは頭を下げた。



 ……


 …………


 ……………………



 そして次の日、俺たちはアカネちゃんちの庭へと集まっていた。


「庭から行けるのかの?」


 雪華は不思議そうな表情で俺を見上げる。


「異次元空間にあるからどこからでも入れるんだ。通行証になる魔法があればな。それじゃあジグドラス、頼む」

「はい」


 虚空へ向かってジグドラスが手をかざす。……と、そこへ巨大な門が出現する。


「こ、これって……」


 驚きの表情でアカネちゃんは扉を見上げる。


「これが魔王城の入り口だよ」


 懐かしい。

 二度とは通らないだろうと思っていた扉を見上げて俺は感慨に浸った。


「アカネちゃん、雪華、コタツ、千年魔導士。ここからはかなり危険だ。一緒について来てくれるって言うのは嬉しいけど、やっぱり待っていたほうが……」

「なに言ってんの」


 と、アカネちゃんが俺の腕を抱く。


「どんな危険な場所でも、なにがあってもわたしはコタローと一緒だよ。と言うか、コタローの側が一番に安全だと思う」

「それは……そうかな?」

「そうじゃ」


 雪華は俺の手を握る。


「小太郎が最強なんじゃ。わしらを心配するなら一緒に行くのがよい」

「きゅー」


 頭の上で鳴くコタツも同意見のようだ。


「私もそう思います」


 千年魔導士もそう言って俺を見上げていた。


「わかった。みんなで行こう」


 そして無未ちゃんとイレイアを説得して天使に唆された状態から解き放ち、世界を正常へ戻すことを俺は心に誓った。

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