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そこに居たはずの誰かへ  作者: 作者でしゅ
最終章 君たちが戦うくらいなら、この寿命尽きるまで共に眠ろう
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7話 練習試合



 試合中はそっちにできるだけ意識を向けたいし、映世での活動も終わったあとだ。さすがに途中で抜けるのは申し訳がない。


 斜め前方にはネットを挟んで我が校のベンチがあった。俺は宮内の隣に腰を下ろす。


「サトちゃん座らんの?」


 巻島さんは俺の隣。


「私とりあえずここで良いやぁ」


 宮内の腕に捕まりながら、額を彼の肩に当てて思考に耽る。


 [異世界1]

 ・俺(傭兵司祭)。傭兵団団長。クレメンス。アドルフ。ハイデ。

 長い時間経過。

 ・(アニキ)。宮内(一点突破系、マスター)。太志(メッセンジャー)。団長→戦神。

 長い時間経過。

 ・俺(光の騎士団)。美玖(一点突破系)。雫(一点突破系)。


 [異世界2]狂った原初の精霊。

 ・宮内(雷光剣、時空盾)。美玖(雷光剣)


 大まかにまとめるとこんな感じか。

 宮内が〖一点突破〗を使えるなら、光の騎士が装備切り替え可能なので、同じ世界ってことだ。

 でも傭兵団のころ、その機能は広まってなかったと考えれば、長い歴史のなかで変化した。


 高校1年の俺は今よりも弱かった。

 各鎖スキルも敵か味方かは選択。俺なら〖白と赤〗は味方に使いたいから、〖青と黄色〗あたりを敵にしたかな。


 もし《同じ個体に2つ放てる》が2つあったとしても、牢獄は4方面が限界だろう。


 なにより《白鎖解除時、これまで受けた属性デバフの強弱に比例して身体強化》がないと、〖咎人のメイス〗は〖鎖・味方〗を自分に使うだけのスキルでしかない。

 武器は両手メイスに変化するけどさ。


 俺が記憶を失った理由は精神を病みかけてたってのもあるけど、このままだと雫さんを救出できないと判断したから。


 原初の精霊よりやばいマスター。アホみたく強いメッセンジャー。

 異界の神々は対策したわけだ。それが各装備ごとの〖スキル〗なんだろう。


「浦部ぇ、返事しろー」


「おーい?」


「……」


 [異世界3]人類と魔族が戦っている。

 ・俺(勇者の護衛)。美玖(勇者、木短剣)。隆明(兵士)。太志(兵士)。雫(氷の牢獄、勇者の護衛?)


  魔法陣に使われてる日本語は、たしか古代文字みたいな扱いだった。

 ひらがな・カタカナ・漢字とあって、覚えるだけでも難しいんだよね。これが解読必要って状態だったら、すげえ大変だろ。


 日本からの集団異世界転移。

 神からの使者で魔法陣、または魔法そのものを異世界に広めた。

 そんで当時の日本人拠点が遺跡だと考えりゃ、流れで各国の勇者村が日本人の子孫なんじゃね。


 巻島さんが俺の背中をバシバシ叩く。


「宮内にしがみついてないで、アタシと手をつなぐぞー」


 神崎さんが指で肩をつついてくる。


「ほーらっ 浦部君の大好きなボディタッチだよぉ」


 構ってもらうのは嬉しいけど、今はやめてください。あと好きと言った記憶はありません。


「お前らそろそろやめてやれ、浦部が怯えてだろ」


 宮内の腕を強く握りしめ、額を肩に押し付ける。


「よしよし、怖かったね浦部」


 ぺしぺしからナデナデに変化した。


「嫉妬の視線にさらされたいってこと、美玖ちゃんに言っちゃうぞぉ」


 ツンツン攻撃が強まった。

 やめてください。次に手をつなぐ場面があったら、俺やばいことになる。


「ほら、もう始まるぞ」


「遊んでないで応援しんとね」


 立っていた神崎さんは巻島さんの隣に移り。


「怒られちゃうや」


 俺も宮内から離れよう。

 うちにも荒木場にも2軍とかはあるんで、別の場所でも試合をしているそうです。


「これ良かったら飲んでくださいね」


「ありがとう」


「わーい」


 女子マネが俺らに暖かい麦茶だか、ほうじ茶だかを用意してくれた。


「すんません」


「わるいな」


「いえ、今日は応援ありがとうございます」


 宮内のお礼に頬を染めて、彼女はお盆を抱えて去っていくと、女子マネ仲間と一緒に飛び跳ねていた。


 捕手が立ち上がり、メットを取ると叫ぶ。


「ラスト!」


 センターがライトに球を投げ。


「ファーストっ!」


「へイっ!」


 1塁手が流れる動作でキャッチャーへ帰すと、ミットでホームベースを弾く。


「アタシもサトちゃんもルールよく分かんないんだよね」


「とりあえず味方が攻めてるときだけ、頑張れって応援すりゃいいんすよ」


「敵が打ったボールをギリギリでキャッチしたりすれば、ナイスプレイって声をかけたりもする」


「はーい」


 うちが後攻なので、今は守備だ。


「守りの時は応援しなくて良いん?」


「アウトとったら拍手でいいかと」


 中学時代陸上だったし、良く知らないんだけどさ。


「村瀬はベンチなんだな」


「あいつは一芸特化ですんで、ここぞって場面っすね」


「アタシそれ知ってる、代打だっけ」


 まあ代打ではあるか。


「足が早かったりすれば、代走で盗塁ってのもあるな」


 少しして練習試合が始まった。


 うちのピッチャーは背番号1。

 初球はストレート。ボールでした。


「あれは速いほうなの?」


「見た感じけっこう」


 まあ高校級だと思います。

 その後。もう1球見送ったのち、ファールで2ストライク1ボール。


「あと1つでアウトなんだよね」


 巻島さんが拍手の準備を始めるが、続く球を打ち返えされる。


「うわぁ、うたれたっ」


「でも外野とれそうっすよ」


 ライトがちょっと下がってキャッチ成功。これで1アウト。

 4人で拍手を送る。


「そういやアタシら、夏休みは応援行かなかったか」


「準決勝くらいまで進んでりゃ、連絡あったかもですけどね」


 多くの高校が半強制だったりするけど、うちはそこまで厳しくはない。

 他だったら3・4回戦でも、荒木場みたいな強豪と当たれば応援に行くんだけどさ。


「熱中症のリスクもあるからな」


 半強制を問題視する声もけっこう上がっていると聞く。


 2番打者は内野ゴロ、3番は塁に出たが4番が内野フライで攻守交替。


「いい感じで行けたよね」


「荒木場の打者だけど、投手の球を観察している感じがした。次くらいから分らんぞ」


「あっ 向こうのピッチャー浦部君の友だちじゃん」


 まあこうやって試合見にくるほどだし、友達でも良いのか。


「ほぼ俺が全敗のライバルみたいなもんっすよ」


「それライバルなん?」


 わざわざ謝るために、文化祭まで足を運んでくれたしさ。雫さん救出後も、上手いこと記憶が整理されてくれたら良いんだけど。


「勉強も含めて勝てた記憶がないっす。美術は俺の不戦勝っすけどね」


「……」


 巻島さん、俺の絵を思い出してるんだろうな。


「そっか」


 なっとくしてくれたようだ。



 幾度かボールを投げたのち、我が校の1番バッターが打席に入る。


「坂下ガンバっ!」


「頑張れぇ!」


 あっ 一番打者君、スイングの動きが硬くなった。


 1ストライク2ボール。


「またボールだぁ」


 たぶん、これワザとだな。


「フォークがヤバいな、ここからでも落ちたのがわかったぞ」


「そうなん?」


 いくつか変化球あるけど、決め球って奴かね。


「でも竹中の方が球は速いんと違う?」


 うちのエースそういう名前なんか。


「イメージだと剛速球なんだけどねぇ」


「キャッチャーのサインは分らんけど、ミットの動きを察するに、たぶんすげえコントロール良いっすよ」


「ここから残り全部入れてくるなら、確かにそうか」


 続く1球は内角ギリギリ。

 フルカウント。


「あぁ残念、ゴロになっちゃったぁ」


「打たして取るってやつだな」


 野球そんな詳しくないけど、確かに三振狙いって感じではないね。


「坂下ドンマイ」


「次ぎ頑張ろぉー」


「顔あげろ坂下」


 悔しそうな坂下君。

 あと3人とも凄いっすね。俺、拍手くらいしかできないや。


 我が校の野球部が塁に出ることはなかった。


・・

・・


 5回裏になると2対0で負けていた。

 それでもなんとか塁に出た打者が盗塁を成功させ、ライトへの犠牲フライにより3塁まで進む。


「ナイス柿島!」


 彼が例の柿島君なんだね、丸刈りだったとは。


「確かにイケメンだ」


「そだねぇ」


「1年ちゃうかな、アタシ知らんし」


「なんどか話したことある。有望株だな」


 こういうとき優越感湧いちゃうの、やっぱ格好悪いよな。

 今は応援だ。


「これは村瀬の出番かな」


「そうなの?」


 1アウト3塁。


 監督が動き、代打として村瀬が立つ。


「なんか敵チーム全員前に出てない」


「え、代打って強打者じゃないん?」


「スクイズか」


 バント職人って奴だ。相手チームもこんだけあからさまってのは、もう打ってくるとは考えてないレベルか。


「2人とも応援はいったん控えてください」


「なんでさ」


「逆に緊張するかも知れんな」


「そっかぁ」


 村瀬はルーティーンっぽい動きを幾つかして、集中力を高めているようだ。

 まさにストレスは最高潮。


 外角低めを見送る。カーブかな。

 捕手が球をキャッチするより先に、村瀬が3塁に待ての仕草を送ったから、走者はすぐに急停止して戻ることができたようだ。


 続くサインにうなづくと、大城が投げたのはインコース高めのストレートだった。


 すでに3塁走者は走り出している。さっきよりも迷いがないので、どうやら最初の1球は様子見すると伝えてたのかも知れん。


「ちっと打ち上げちまったか」


 それでも弾いたのは良い位置だった。大城が飛び込んでキャッチしようとしたが、寸前で地面に落ちて転がった。

 すぐさま片手で拾い上げれば、大城は片膝をつけたまま迷わず1塁に送球。村瀬はアウトになったけれど、3塁走者が帰還を果たす。


「やったっ!」


「村瀬君おめぇ!」


「ナイスプレイ!」


 嬉しそうに片手を上げるも、頬を赤く染めながら意識を試合に戻す。


「よっ 仕事人」


 不満点はあるだろうけど、見事な職人技でした。1芸でベンチを勝ち取っただけのことはある。


「ちょっとアタシ、トイレ行くついでに確認してくるね」


 映世には移れないので、事前にできることはあんまない。数値は現在マイナス39と、これまでで一番低くなっている。



 次の回で大城はマウンドを降りることになった。


「エースは出ないんだねぇ」


 大城は11番で、彼の代わりに出るのは18番。1年生っぽいな。


 怪我のお陰で順番が回ってきたと言ってたな。


「故障中かも知れねえっすね」


「たぶん彼だな」


 宮内が視線を送った選手は、綺麗な姿勢でベンチに座りながら、ニコニコと試合を見守っていた。


・・

・・


 時刻はもうすぐ午後3時を回る頃。

 結果としては3対1で我が校の敗北となりました。


「今日はわざわざありがとうよ。3人も休日に感謝です」


 大城は帽子を掴んで軽く頭を下げる。


「俺の負けっすね」


「浦部の連敗記録更新だ」


 すこし気まずそうに笑い。


「ちげえっすよ。人付き合い勝負だと、俺に勝ち目はなさそうだ」


「そんな勝負はしてないけどさ」


「見事な投球だったよ」


 照れ臭そうに。


「どもです。んじゃ、整備ありますんで」


 1年任せにはしないらしい。


「お疲れさまぁ」


 もう一度お辞儀をして、彼はグラウンドに戻る。


・・

・・


 俺の知り合いは村瀬と同中の数名だけれど、2人は顔見知りもけっこういるようで、挨拶にけっこう手間どっていた。


 神崎さんも話せる人は少ないようだ。つっても同中の奴とは俺もそんな仲良くないんだけど。


「付き合ってくれて感謝です」


 人付き合いにうんざりしていただけあり、彼女の交友関係はそんな広くはないようだ。


「いいよいいよ。それにこれからが私らの本番だしねぇ」


 ネットの外にトイレはあるんで、俺たちは一通りの挨拶を交わしてから、そちらに向かうことになった。


 映世にて。


「あっ そうだ、金はもう取ったか?」


「忘れてた」


 ギルド枠に〖光壁〗の許可証を入れたきりでした。回収させてもらっておく。


「男子便所は割れてるぞ」


「こっちも駄目だわ」


「俺らの方に使わせてもらっても良いっすか?」


 ついでに補修シートを取り出す。


 脱出時は先に男が出て、確認してからいったん戻る方法になる。


「使うの女子マネだけだし、こっちの方が良いんと違う」


 話し合いをして、不安でたまらないけど女子便所にシートを張ることになった。


「数値がマイナス39なんで、今回は報酬増加とリスクは止めときましょう」


「えぇ」


 神崎さんが不満そう。


「試合のため特殊イベントだってさ」


「本当に?!」


 俺と宮内は顔を見合わせたのち。


「美玖ちゃんの時はなかったよな」


「上級だからか」


 すでに神崎さんは外に出たらしく。


「ねえねえ、すごいよっ! もう戦ってんじゃん!」


 言われてトイレからでると、我が野球部の誇る鋼鉄リーガーと、荒木場野球部と思われる敵が戦闘を始めていた。


「混戦か」


 映世だとここまで敵が沢山ってあんまないんだよね。一戦一戦が貴重な経験値です。


「このまま様子みして、疲弊するの待ちますか?」


「私が納得すると思うのかな」


 ごめんなさい。


「それだと報酬が減るってさ」


 神崎さんが巻島さんに振り返り。


「うそっ!」


 テンションが高いらしく、〖屈辱の角〗を発動させた。


「敵が敵を倒すと報酬なしって感じっすね」


「早くバフちょうだい!」


 守護盾をもらい〖鎖〗を放つ。


 三つ巴が始まった。




野球描くの始めてでして、難しかった。

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