表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そこに居たはずの誰かへ  作者: 作者でしゅ
最終章 君たちが戦うくらいなら、この寿命尽きるまで共に眠ろう
78/83

2話 宮内家訪問

 両家の親は仲が良かったので、神崎さんの家に集合していたそうだ。

 もう少し早い段階で映世のことを教えて欲しかったというのが、ご両親の口から語られた。


 ・夏休みに男もいるのを説明した上で泊まりたいと説得したこと。

 ・三好さんが最初から最後まで中立というか、親御さん寄りだったこと。

 ・前回の京都から改善された点を説明してから、それでも救出作戦が絶対安全とは言い切れないと伝えたこと。

 ・それに加えて未成年のうちは許可がなければ、参戦は諦めてもらうと言い切ったこと。

 ・迷人になった娘を助けたということ。

 ・その相手が幼馴染を救おうとしていること。


 まあ結果としては、これまでの俺や三好さんの対応が功をなしてしまった。

 ただ万が一に娘の記憶を失うことになったら、自分たちに必ず伝えること。


 それを知り精神を病めれば、映世で活動する機会に繋がるかも知れないから。

 あとご両親のどちらかが、京都に同行することに決まりました。


 まあ一番の決め手はさ、2人が友だちを助けたいとの意思を貫いたことだった。


・・

・・


 平日の方が都合は良いとのことで、宮内家には月曜日にお邪魔することになった。そういう職種もあるよね、休みが稼ぎ時とかさ。


 選択授業にて俺はスケッチブックと向かい合っていた。


「……ふむ」


 机上には靴が置かれている。体育館シューズですね。


 スケッチブックを脇に抱え、靴の位置を調節する。


「紐が気に入らんな」


 1ミリずれてる気がする。


「浦部君、そろそろ描き始めましょうね」


「前回先生がどうしても片づけるようにいうから従いましたが、やはりそのままにしておくべきだったんすよ」


 体育の時間はどうするのといった疑問には、最近は外だから問題ないと答えた。でも放課後は美術部でここ使うからダメと言われました。


 それならば仕方ない。

 靴底を指さし。


「あとここにガムをつけたいんですが、教師の前で噛むのは気が引けてしまいます」


 ポケットから口臭対策のそれを取り出す。


「甘いタイプでもないですし、それなら問題ないかもですが、先生の前で言うのは止めましょうね。あと今後も使うんですから、靴底にガムつけるのは如何なものかと」


「芸術のためなんで、こればかりはやむを得ないですよ」


 許可が下りなかったので、想像のガムを絵に加えることにした。


「ガムに毛をつけたいんですが、何本にすべきでしょうか?」


「一本で良いんじゃない」


 真剣に考えてくださいと、強い眼差しを先生に向ける。


「中年男性の細い毛にしようと思ってますけど、女性の長い毛にしたほうが躍動感を表現できませんかね」


「それは毛じゃなくて靴を汚して、使い込まれた風にした方が良いんじゃない。ガムはもう硬くなっててさ、粘着力もなくなって靴底の形に凹んでるの」


 なるほど。さすが美術教師なだけある。そんな水分を失ったガムから、数本の毛が飛び出してる。

 おぉ、その光景が目に浮かぶようだ。


「ありがとうございます。その方向でやってみようかと」


「頑張ってね」


 宮内家訪問のことを忘れて、俺は靴の絵に集中した。


 あっ 思い出しちゃった。

 不安だよぉ。


・・

・・


 美術の授業が終わって放課後。

 正面玄関の外で宮内と美玖ちゃんが来るのを待つ。


 なぜか絵を描いてると、先生以外誰も話しかけてくれないんだよね。

 巻島さんもせっかく同じ授業とってんだからさ、感想とかくれても良いと思うんだけど、最初に様子を見に来てからそれっきりなんだよ。


「絵はけっこう上手い方だと思うんだけどな」


 自称じゃないよ。だっていつも先生褒めてくれるし、うちの部員より君の方が熱心だよってさ。

 中学の時もそうだった。大城さ、美術だけは敵わないって判断したのか、これだけは煽って来なかったのよ。


 もしかすると美術部に入部してた可能性もあったんかな。だけど入学してすぐは無気力だったからな。

 けっきょく部活より、映世を優先させてたんかな。


「お待たせしました」


「美玖ちゃん、授業お疲れさま」


 宮内が来るのを待つ予定だったんだけど。


「兄ちゃんにお願いして、私と2人で帰ることになりましたのでよろしくです」


「そっ、そっすか」


 ちょっと気遅れしながらも、彼女との下校を開始する。


「手は繋いでくれないんですか?」


「いや、さすがにちょっと」


 生徒が大勢いる中でそれは厳しい。


「なんて冗談ですよ。もう浦部さんタジタジですね」


「こんな積極的に攻められた経験がないものでして」


 えへへと笑ったのち。


「もっと意識してください。私の思うツボですよ~」


 もう押しに押されまくってる。


「本当に容赦ないっすね」


「迷惑ですか?」


 頬をかきながら、校門を抜ける。


「嬉しい気持ちもありますよ。本当に迷惑なら拒否しますもん」


「浦部さん女の子が相手だと、断れないだけなんじゃないですか?」


 また突っ込んでくるな美玖ちゃん。


「強引に迫られると、拒否できなくて浮気しちゃうかも。浦部さん最低」


「的を得てるかも知れねえっすよ」


 文化祭のマッサージを思い出す。


「そういう返答をする時点で、たぶん浦部さんは流されませんね。もしそうなら、とっくに白旗あげて私と付き合ってるはずですもん」


 なぜこの話題を振ったのだろうか。


「浦部さんには踏み込ませない一線があって、そこから先は頑強なんです。そんな所が惚れた理由のひとつです」


「……」


 身を乗りだして俺の顔を覗きこまないでください。


「赤くなってます。もしかして惚れちゃいそうですか」


「まあ惚れっぽいんで、すぐ惚れますよ浦部さんは」


 後頭部をかきながら、うへへと気持ち悪い声をだす。


「誰にでも?」


「ご想像にお任せします」


 これから救出作戦のために宮内家へ訪問するんだと、自分に言い聞かせる。


「断れない人だってのは本当だと思うな。デートも強引じゃなかったら、ぜったい浦部さん兄や先輩たちと一緒が良いって譲らなかったもん」


 返答に困ることを言わないでください。


「でもその、なんだ。本当に楽しかったですよ」


 距離を縮めてくる。


「今言葉を悩みましたよね。それが答えです」


「女の子とデートしてみたいって気持ちはありましたよ」


 本当はどうだったのか。


「私を傷つけたくないって、気を使ってくれるところが好きです」


「もう勘弁してください。傷つけたいんじゃなくて、嫌われたくないだけなんすよ」


 それを彼女に知られたくない。


「イヤです、勘弁しません。そんな正直なところが好きです」


 まじで容赦ないよ。


「迷惑なのは承知の上ですから。私は私の都合よく好きな人を動かしたいから、浦部さんの迷惑を顧みず動いてるんです」


 積極的すぎるよ。


「でも浦部さんは私を嫌えません。そんな自分勝手な私のことを」


「自信に溢れてますな、眩しいっす」


 消えてしまいそう。


「だって私いつも見てますもん。四六時中考えてますもん、成績が落ちちゃうくらい。だから浦部さんなら嫌わないって確信があります」


 前を向いてても横目でわかる。めっちゃ見られてると。


「危ないっすよ」


「もしもの時は浦部さんが守ってくれます」


 美玖ちゃん無敵モード突入してる。


「前は私にデレデレしてた癖に、こっちが好意を向けた瞬間にこうなっちゃうんですもんね。本当に浦部さん酷いです」


「……」


 宮内。


・・

・・


 電車の中でも、自宅までの道中も攻められまくった。


 もうヘトヘトになりながら、俺は宮内宅にお邪魔することになる。


「久しぶりね浦部君。美玖と輝樹から話は聞きました、改めてありがとうね」


「このたびは本当にご迷惑をお掛けしまして、なんと言えば良いか」


「ちょっと浦部さん、なんで第一声がそれなんです」


 美玖ちゃんが俺に抗議の視線を送る。


「そうですよ。なぜ浦部君が謝るんですか、助けてもらったのは家の子たちじゃないですか」


「もう三好さんが来てて、あらかた説明してるんすよね。救出作戦についてです」


 彼女が参戦の意思を示したのは俺が切欠だ。


「はい。話は聞いてますよ、浦部君が反対の立場ということも。とりあえずここではなんですので、リビングに案内します」


「はい」


 思わず癖でへいと言いそうになった。


 以前は宮内の部屋に向かったので、こちらにお邪魔するのは今回が初だ。

 とても広々とした開放的なリビング。キッチンと一体ではない様子なので、飯を食うのはまた別の場所なんだろう。

 スッキリとした見た目で、生活感が薄い感じがするけど、温かみはちゃんとそこにあった。


 絵が飾られている家とか始めて見たかも。独創的というよりは、可愛らしい感じだね。


「こちらにどうぞ」


「学校お疲れさん2人とも」


 宮内はまだ帰ってないようだ。


「よろしくお願いします、自分が浦部吟次です。それでは失礼して、お邪魔させてもらいます」


 正式な作法とか分からないので、三好さんとその向かいに座る人物に頭を下げてから、ソファーに腰を下ろす。


「始めまして、吟次くんだね。美玖はそっちに座りなさい」


「嫌でーす」


 俺の隣はちょっと困ると願っても、思いは届かず。


 宮内母はお茶を用意するためいったん離れるようだ。


「まあ嫌なら仕方ない。まずは輝樹のこと、本当にありがとう」


「こちらこそ、彼には世話になってます。映世のことを伝えるのが遅くなってしまいすんません」


 宮内父はうなずくと。


「夏休みの時みたいに京都へ行くとだけ伝えて、内緒で君の友人を助けるって方法もあったんだ。もし僕が君の年齢だったら、たぶんそうしてたよ」


「俺もそうだね、親にはいわなかったかな」


「宮内君と妹さんが成人してたなら、たぶん自分もそうしていたかと思います」


「美玖です」


 眼光が突き刺さる。


「美玖さんが成人していたら」


「そっ そうかい」


 宮内母が紅茶を俺の前に置き、宮内父の隣に座る。

 娘の様子を見て。


「あらまぁ」


「わかる?」


 そりゃねぇと意味深な返答をされた。


「美玖はどうして救出作戦に参加したいんだ?」


「浦部さんが雫さんを救出する瞬間に、そういう空気が発生するのを阻止したいから。歓喜あまって抱き合ったりしたら、絶対に嫌」


「うぉっ こりゃまた」


 三好さんが俺と美玖ちゃんを交互に見た。


「確か君は記憶がないんだったね」


「はい」


 宮内父は三好さんに視線を向け。


「彼女と浦部君はどんな関係だったのかな」


「えぇ、俺ちょっとそこら辺は」


 かわりに美玖ちゃんが説明を始めた。

 姉の意見ではそうは見えないこと。

 俺がそんな隠し事は上手くないという事実。


 絶対にその心配はないとの力説に、いつしか下を向いて黙り込む。


「もしそうだったらお姉さまが気づいてます」


「確かに俺から見ても、吟次君は映世のことで頭いっぱいだったし」


 なんとか話しを反らさねば。


「今は宮内。輝樹くんと美玖さんが参戦するかどうかです」


 隣りから睨まれるが、ここは続ける。


「すでに三好さんから俺の意見を聞いてると思いますが、もしもの場合は責任を取れません」


「君は僕らに選択を託したんだろ。なら、もう君に背負うものはないんだよ」


「許可を出した場合は、私と主人の責任にもなるの」


 だからこそ。


「許可をだすべきじゃない。美玖さんの成績が落ちていると聞きました、俺も人のことは言えませんけど。そんな精神状態だと危険だとは思いませんか?」


「参戦しなくても私の成績は落ちてました。浦部さんのことで悩んでいるからです、これが解消しないと勉強にも身が入りません」


 父親が眼鏡を拭き始めた。手が震えているので焦っているようだ。


「自分たちは戦力が十分じゃないんで、お子さんが力を貸してくれるのは本当に助かる。力量から考えても担当してもらうのは、困難が予想される役割になります」


 三好さんの発言に、2人は少しだけ視線を泳がせる。

 姉たちはシーズンに参加してない。


「救出後に脱出する必要があるんすよ。もう京都の妖怪に関しては三好さんから聞いてますか?」


「彼女がそれを封じてくれたお陰で、君たちは脱出ができたんだったか」


 一通りの説明は終えているようだ。


「雫さんに〖分鏡〗をセットできれば、現世に引っ張り上げることも可能です」


 俺の分鏡を渡すことになっている。


「自分たちは進入地点の鏡に登録してるんで、負けてもそこにに飛ばされます。いざとなれば雫さんの弟が、美玖さんを現世に戻すことも可能っす」


 それを踏まえた上で。


「京都は本当に何が起こるか分からないんすよ」


 宮内母よりも、父に向けて言葉を発する。


「……そうか」


「美玖。本当に雫さんと浦部君の再会を邪魔したいからなの?」


 あっ なんか嫌な予感が。


「それもあるけど。好きな人がそんなところ行くのに、自分がなにもしないなんて耐えられない」


「浦部君。雫さんのこと抜きに、娘のことをどう思ってるのか、聞かせてもらえないか?」


「……言えません」


 額に手を当てながら下を向けば、三好さんが肩に手を置いて。


「タジタジだねえ」


「困らせてるのは承知の上です。けど浦部さんは私を嫌えませんし、そんな私を可愛いって思っちゃうんです」


「貴方、そんな積極的な娘とは知らなかったわ」


 宮内父は宮内母を見て、すぐに視線を反らす。


「自分でも驚いてる。でもここまでしないと、浦部さん靡かないもん」


 両親や三好さんの前でも堂々と。

 俺ここまで惚れられることした覚えないんだけどな。


「私の意見は許可とします」


「成績をこれ以上は落とさないこと。それが父さんからの条件だ」


 俺に頭をさげ。


「娘のことよろしく頼むよ。なるべく都合をつけて、当日は僕らも京都にいかせてもらう」


「浦部君、もう諦めなさい。この娘ぜったい行くわ」


 俺のため。


「違います、私のためです」


「それなら……へい」


「では後ほど、日程が決まり次第お伝えしますんで」


 冬休みは12月25日から1月7日までだったか。


「2人とも良かったら夕食どうですか?」


「遠慮せず、輝樹も美玖も喜びますので」


「そういや息子さん、まだ帰ってきてないっすね」


 本人いないまま、参戦決まっちまったよ。


「じゃあ吟次君、お言葉に甘えさせてもらおうか」


「三好さん、お酒は飲みますかな?」


「飲みたい所ですが、車ですので」


 用事は済んだので、このまま帰ると言っていた。


「なら泊って行きませんか。できれば映世のことをもっと聞きたい」


 美玖ちゃんが俺の腕をつかみ。


「浦部さんも一緒に」


「えっ いや、ちょっと両親が」


 そういうとスマホに手を伸ばし。


「お母さまの許可もらいました」


「えぇ」


 宮内父は嫁さんと娘を交互に見て、どこか懐かしそうにされていた。


「じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかね」


「へい」


 三好さんは宮内父に案内され、キッチンの方で一緒にお酒を飲むらしい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ