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そこに居たはずの誰かへ  作者: 作者でしゅ
9章 デートと文化祭
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5話 文化祭準備

 美玖ちゃんは帰宅後にさっそく兄へ参戦の意思を伝え、そのまま両親に言おうとして兄に止められたそうだ。

 翌日。学校の昼休みに呼び出され、空き教室で宮内と合流する。


「とりあえず三好さんには伝えたから、彼が予定を調節するのをちょっと待ってくれると助かる」


「まあ、そのなんだ。忙しい時期に悩み事が増えたりして、困ってたりしないか?」


 もし俺が美玖ちゃんの兄なら、ぶっ飛ばしてるところなんだけど、宮内くんは凄いな。


「本当に困ってたり嫌だったりしたのなら、たぶんデートも断ってたよ」


 俺の認識だと幼馴染はケンちゃんだけでさ、今まで同年代の親しい異性なんて姉くらいだったことになっている。慕ってくれる可愛い後輩を意識しないわけがない。


「軽率だったかなとは思ってるけど、後悔はないさ。なんて兄に向って言うことじゃないか」


「世の中には酷い人間なんてのは沢山いるからな。恋愛関係で人生が狂うのは良くある話だから、身内の彼氏が信用できる知り合いってのは、微妙な気分でも安心はできる」


 誰だって自分の要望を通したい。両方が同じ熱量なら問題もないんだけど、差ってのは出てくる場合も多いし、時間の変化で変りもする。

 相手を思い通りに動かしたい、言うことを聞かせたい。従わせたい。


 どっちかって言うと性悪説よりの考え方だから、これが根本にあるのは否定しない。俺にも宮内がいう酷い奴の側面はあるわけさ。


「ただ一つ懸念がある。もし5年10年と救出作戦が上手くいかなかった場合、どうするかだけは早めに決めて欲しい」


 元来、人間なんて碌なもんじゃない。


「お姉さんの話では付き合ってなかったんだよな。ただ公にしてない場合もあるか」


「宮内くんからみて、自分そういうのを上手く隠せるようには見える?」


 姉ちゃんは鈍くない。映世と関わる前から、俺の変化に気づいてたらしいし。


「上手くはないな。だけど一定のラインを越えると、すこし違ってくるってのが美玖の意見だ」


 自覚してコントロールできるかどうか。

 良い奴を最後まで演じ続けられるかどうか。

 本性を悟られないように、ずっと堪えられるかどうか。


「槙島のいう映世では頼りになるって部分だ。俺から見ても別人に思える時がある」


「しょ、しょうですか」


 ちょっと照れてしまった。


 俺が完全に性悪説が正しいって言い切らないのは、人の多面性によるところだ。

 あの映画を見て泣いたのも俺だし、女の子をスケベな目で見るのも俺。


「だから隠す内容による。その点で言えば異性関係だと、浦部は隠すのが下手かも知れん」


 異性が酷い目にあうエロ作品に興奮するのも俺で、ピュアな話にときめくのもまた俺なんだ。



 ケンちゃんが召喚する姉のシルエットを思い浮かべる。小柄な子だったか。

 どんな相手かは覚えてないけど、もし付き合ってたなら間違いなくウッキウキだったろう。


「姉ちゃんに隠し通せる自信はないな」


「そうか。だとすれば後は惚れていたかどうか、惚れられていたかどうかになる」


 ただの幼馴染か。片思いか、両片思いか。


「色々とすまんね」


 こういうのは曖昧にしない方が良い。

 ちゃんと決めておくべきだ。


「社会にでるまでに、もし救出ができなければ……その時点でまだ想ってくれてたら」


「そうか」


 色々と考えが整理された気がする。


「美玖ちゃんには自分から伝えるよ。俺が決めた期間以内に救出が成功した場合は、改めてちゃんと答えを出すってさ」


「いや、そのなんだ。すまん、その必要はない」


 音を立てて扉が開かれる。


「はいっ 確かに言質いただきました、二言は許さんぞ浦部」


 巻島さんを先頭に、神崎さんと美玖ちゃんが入場してきた。


「浦部くんってルールにうるさいもんねぇ」


 美玖ちゃんは空き教室の黒板に紙を固定して、ペンで文字を書き始める。


「働き始める前までに救出ができなければ、浦部さんにはそれまで私をキープした責任を取ってもらいます。救出成功した時は近いうちに答えを出してもらいます」


 宮内を見つめると、頼まれたんだとの返答。


「アタシとしては美玖ちゃんに肩入れしすぎた感があるわけよ。だから本当は怖いけど、サトちゃんと話し合って京都行くことに決めたから」


「浦部くん前に真希と相談するよう言ってくれたよね。助かったよ、もしかしたら喧嘩になっちゃってたかも」


 ありがたい話なんだけど。


「俺と三好さんの方針は家族の意向優先です」


 それと美玖ちゃんの方を見て。


「参戦の理由が自分と関係があるので、宮内くんのご家族に伝える時は同行させてもらいます」


「でたな映世浦部」


「負けないぞ映部くんめぇ!」


 なんすかそのあだ名。


「改めて両親に紹介しますね」


「いや、そういう事じゃなくて」


 美玖ちゃんの目が怖い。想いに応えるのが不安でたまらない。


「あと俺はルール絶対じゃないっすから。もしそうなら映世で活動とか絶対しませんし」


 車の運転だって後続を気にしてスピード出しちゃう可能性が高い。


・・

・・


 教壇には委員長が立っていた。


「はいそれじゃあ学園祭での出し物を決めたいと思いますので、意見があったら挙手してください」


 斉藤先生はお魚図鑑を熱心に読んでおり、そっちに集中してる様子。おい仕事しろ。


「食い物系がいいんだなあ」


「試食とか余りを食べれるけど、それ以外は食べちゃだめだよ」


 お前どうせ他のクラスでも食べて回るだろ。


「はいはい、うち喫茶店が良いと思いまーす」


 村瀬くんがちょっと照れ臭そうに。


「メイドや女装男装とかか。化粧とか女子にお願いすればいいのかねえ」


 女装することより化粧してもらう際に、ちょっと触れ合うのがウへへなんだよね。


 芝崎が黒板から委員長へと視線を移し。


「僕はコスプレメイドより、ガチメイド派です」


 確かにイメージとしては委員長そっちの方が似合ってるか。


 神崎さんが手を上げ。


「大正の袴とか着たいかなぁ」


 男子の声が大きくなる。


「レンタルできるか確認しなきゃだね」


 俺はボソッと。


「私服」


 村瀬が拾ってくれた。


「それ良いかもな、修学旅行でなんか新鮮だったし。ふだん皆制服だしよ」


「でも2日目は一般客も入るから、紛れちゃわん?」


 里中の彼女さんが反対意見を述べる。

 確かにそうか。


「浦部くん、蝶ネクタイって組み合わせが大切なんだよ、ちゃんと相談して選ばなきゃ」


 シルクハットにステッキ。紳士の嗜みっすね。

 ジェントルメン浦部。いい響きだ。


「へい」


 できれば映世活動したいから、準備少ないのが良いんですがね。


 里中くんが机に頬杖をついたまま。


「大正ロマンかぁ、良いなあ」


 鎮まった瞬間に囁いてしまったようで、彼女さんがちょっと恥ずかしそうにしていた。


 神崎さんの意見ということもあり、その方向で話が進んでいく。


「教室の飾りつけも和洋入り混じる感じにして、提供するのも羊羹とか緑茶でいっか」


「うちの祖母ちゃんちに、それっぽい置物とかあったから持って来ても良いぞ」


 小物類やテーブルなどはそんな感じで集まりそうな方向だ。あとは壁紙とかで、良さげなのを張ったりすれば見た目も整うかな。


 先生は図鑑を鞄にしまうと、海の描かれた絵本を取り出し。


「だれかスマホ持ってる奴、袴のネットレンタルで調べてくれ。エプロンだけなら学校の備品であるかも知れん」


 生徒たちは苦笑いを浮かべながらも、先生の指示に従って何名かが検索する。


「袴のみなら5000から2万くらいっすかね」


「予算的に全員分は無理だな、赤字分はお前らで出し合うことになるぞ」


 頑張っても4万くらいだってさ。


 村瀬が唸りながら。


「客集めかあ。なんか出し物とかどうよ、三味線とか」


「弾ける奴いんのかあ?」


 大正レトロな音楽くらいなら流せるけどね。


 まあ、そんなこんなで少しずつ話がまとまっていく。


「そういや浦部」


 太志が俺の名前を呼び、視線が集まった。


 嫌な予感がしたけど、すでに時遅く。


・・

・・


 この日から文化祭の準備が始まったのだけど、俺は重い足取りで帰宅の路についていた。


 駅のホームに入ると。


「あっ 浦部さん」


 いつぞやのお友達と一緒にいた美玖ちゃんが、こちらへと駆け寄ってきた。今回は御友人も一緒に来る様子。


「愛美でーす」


「千明って言います」


 自己紹介をしてもらったので。


「うっ 浦部です、よろしく」


 人見知りを発揮してしまった。


「おお、生の浦部先輩だぁ」


「先輩よろしくお願いします」


 えへへ、先輩だってぇ。


「2人とも先輩呼び禁止」


「えぇ、なんでさあ」


「先輩は先輩じゃん」


「僕は帰宅部だし、先輩呼ばれるの嬉しいっす」


 圧力を感じて我に返り。


「浦部さんでお願いします、やっぱその方が良いです」


「じゃあ美玖いないときは先輩って呼びますね」


「任せて浦部さん」


 ご不満な様子の美玖ちゃんが。


「文化祭の準備は良いんですか?」


「いや、これからその関係で帰宅するんすよ。美玖ちゃんたちは展示系かあ」


 1年の時は俺らもそうだった。


「はい、お地蔵さんの場所とか地図に乗せるんですよ。あと寺や神社を回ります」


「美玖ちゃんがうちの学校って、昔は神社だったかもっていうから、それを調べてみることになったの」


 大鳥居の関係か。


「まったくそんな痕跡ないんだけど、ちょっと面白そうだし」


「校歌とかに含まれてたり、石碑みたいなのも敷地内にないっすもんね。うちの校名も神とか社とか入ってないし」


 図書館とかで調べるのと、地蔵を探し回るのと、寺社を巡る班でわかれるんだろうな。


「誤りでも正しくても記事にはできますので」


「もしかして新聞部だったり?」


 千明さんだったかな、彼女はそうですと嬉しそうにうなずいた。


 しゅごい。美玖ちゃん以外の後輩ともお話できてるよ、僕ちょっと感動中。


「はいはーい、浦部さんと話したい事があるから、2人ともちょっと離れててね」


 ぶーと不満を口にしながらも、お友達はベンチへと向かう。


「美玖頑張れぇ」


「うるさい!」


 やっぱ彼女らとも女子話はするもんね。


「あの、筒抜け過ぎはちょっと自分の心臓に悪く。もしかして遊びに行った繊細な内容とかも知られちゃってたりします?」


「すみません。内容は言ってませんけど、デートする事と楽しかったよ的な」


 それくらいなら安心かなって思っていたら。


「先輩2人にはその……なんと言いますか」


「そっ、そか」


 ここで嫌だっていうと、束縛的になんのだろうか。


「まあ、そのなんつうか程ほどにしてもらえますと」


「ゴメンなさい」

 

 人に言いたくなるほど楽しかったと感じていたなら、俺としても嬉しいことは嬉しいんだけどさ。

 あぁ、めっちゃ落ち込んだ顔になっちゃってる。


「浦部さん最低って内容は、オブラートに包んで話しても良いんで」


「えっ、そっちがオッケイなんですか?」


 惚れた方が立場的に弱いってのは事実で、たぶん現状それは美玖ちゃんなんだよ。

 俺は惚れないように頑張ってる感じだし。


「調子乗らないための戒めですね」


「そう、ですか」


 けっきょくのところ行動を制限しても、そんなの無理な話さ。


 そんで気を抜かなければ、そんだけ警戒もできるし、惚れた状態で雫さん救出作戦に参加するのは避けたい。


「……」


 気づくと美玖ちゃんがじっと俺の顔を見つめていた。


「なっ なんすか」


「いえ、なんでもありません」


 どうしよう。ものずごく強い眼差しを向けられている。


「後夜祭のとき、時間をください」


「へい、了解しました」


 例のお願いに関してだった。


「今からお家に帰るんですか?」


「へい」


 ものすごくまっすぐ見つめられて、正直視線を反らしたい今日この頃。


「文化祭の用事?」


 かくかくしかじかと理由を説明したら、私も同行したいとのことで、あれよあれよと電車に乗り込む。


 友達たちとは方向が違うとのことで、手を振ってバイバイしてた。


「あの、練習するから、ほとんどお構いもできませんよ」


「見たいだけなんで」


 美玖ちゃんの最寄り駅を通り過ぎる。


・・

・・


 自宅に帰宅。


「ただいま」


「お邪魔しまーす」


 母ちゃん今日は夜勤明けだったよな。

 飯の準備をしていたので、事のあらましを説明する。


「あのさ、今度うちの学校で大正喫茶することになりまして。


 結果。

 どうやら火をつけてしまったようで、俺はこれから週に2回ほど、先生のもとへと通うことになってしまう。

 そして帰宅後のお稽古。

 美玖ちゃんも展示準備の合間に、時々練習の見学に来てくれた。


 いつの間にか母ちゃんとも仲良くなったようで。

 

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