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そこに居たはずの誰かへ  作者: 作者でしゅ
9章 デートと文化祭
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4話 デート



 11月最初の祝日。

 学校をでるのと同じくらいの時間にお家を出る。


 駅での待ち合わせが良いとのことで、美玖ちゃん家の最寄りで待機することになった。


「まだちっと時間があんな」


 駅前の広場にはベンチがあったので、そこに座って美玖ちゃんを待つ。


 巻島さんから暗記するように言われていた文章を、昨日からずっと読んでいたので。


「たぶん問題ないな」


 手鏡を取り出して画面を操作。


「巻島さんが宝箱から〖光十字〗をゲットしたんだよね」


 ・敵の攻撃、圧力を軽減(極小)するが、どんなに弱くても必ず通す。

 ・最大数1。

 ・1名につき1つまで。

 ・離れた味方にも使用可能。

 ・MP消費(中)


 ・10秒間両手を合わせたままでいると、30秒間名称が〖光十紋時〗に変化して、中心に時空の紋章が現れる。

 ・攻撃圧力の軽減が1段階上昇。


 めちゃくちゃ優秀なスキルだ。全員が欲しいと言っていた。

 離れた味方にも使えるし、今後最大数が増えるだろう。


 

 俺が兄と戦ったのと同じころ、一階に大型の牛が出現したらしく、これがけっこうな強敵だったそうだ。

 他の敵も出たっていうんで、吹き抜け広場だったこともあり、応援要請をして巻島さんに駆け付けてもらった。

 そんで念願の〖牛特攻〗をゲットできたんだけど、〖縦断〗の兼もあってお悩み中ですね。


 もうすぐレベルもマックスになると思うから、それまでにスキル枠どんだけ増えるかだな。たぶん2つ空けば良い方だと思う。

 

 合成で〖攻猿〗と交換するって手もある。

 実は俺も〖閃光〗と〖神聖視〗で悩んでいます。


 10万くらいだからスキルの中じゃそんな高くないし、今のところ誰も使ってないからな。ギルド枠に7万ほどで入れるで皆と交渉してみるか。

 ただ〖闇に紛れる〗を手持ちにしたばかりでしてね。


 これまで誰の物でもなかったスキルは所有権を決めて、それぞれがポイントをギルド枠で受け取れるように調整しました。〖炎の斬撃〗はケンちゃんとかね。


 美玖ちゃんの〔一点突破(槍)〕も今はギルド枠に入れられており、巻島さんが〔突剣(+5000p)〕にして使っている様子。返却時に戻る仕様なんだって。


 宮内の〖岩腕と岩壁〗とかさ、土魔法って感じに合成できたりすると良いんだけど。


 あとマキマキは〖海賊〗も所有になっている。微妙な顔をしてたけど、今ごろ荒木場でゲスゲス言ってんじゃねえかな。


「なにニヤニヤしてるんですか」


 手鏡を取られてしまった。


「おはようございます」


 見上げると可愛いお顔。


「今日は手鏡を控えてくれると嬉しいなぁ」


「へい」


 返してもらいました。


 とってもオシャレをしている美玖ちゃんが眩しい。


「ベージュの落ち着いたパーカーですね。花柄のロングスカートが秋らしく、歩くたびにふんわりと揺れてフェミニンな印象がします」


 俺は何を言ってるのだろうか。


「朝晩の冷え込みに備えて、オーバーサイズのブルゾンを準備しておくとは、さすが美玖ちゃんですだ」


「えへへぇ」


 あとは足もとだな。


「ショートブーツが大人っぽさを演出しております。ていうかもう大人の女性です」


「やったぁ」


 良し、完璧だ。なにを言ったのかは覚えてないけど。


「浦部さんも格好良いですよ、先輩方にお任せして良かったです」


 その後、お返しで上着から順々に褒めてくれたけど、ごめんなさい専門用語が多すぎて。


「俺が選んだのも捨てたもんじゃなかったと思うんですけど」


「なんで蝶ネクタイなんですか」


 オシャレです。


「花束も用意しようかと」


 そんな気遣いはいりませんと断られてしまった。


「じゃあそろそろ行きましょうか、公園まで一緒に歩きましょう」


 手を差し出される。


「あっ しょの、よっ よろしくです」


 ハンケチーフでお手てを拭いてから、震える指先で美玖ちゃんの掌にそっと触れ、恥ずかしさからあっと胸元に引っ込める。


「はいはい、そういうの良いですから。さっさと掴んでください」


「へぃ」


 照れから会話もできず、横目を見ると美玖ちゃんは満面のニコニコ顔で歩いていた。

 手を繋ぐだけでこんな顔をしてくれることに、すこし嬉しさと不安と暖かな気持ちをををを。


「あの……最近、浦部さんに対して口が悪くてごめんなさい」


 俺があまりにも特殊な状態だもんな。


「素が煮え切らない態度なのに、強制的に煮え切らない状況ですからね。気にしてくれてありがとう」


「私、浦部さんのこと……格好悪いなんて思ってません。ごめんなさい」


 気持ちしょんぼりしている様子の美玖ちゃん。

 修学旅行前のことか。


「自分の発言や行動を振り返って、あんなことするんじゃなかったって思い悩むことあるよね」


「……」


 まあ実際に情けないですけどね俺。


「今日は難しいこと考えないで、楽しみましょう」


「はいっ!」


 こういうとき強く手を握ったりする度胸があれば良いんだけど。


・・

・・


 5分ほどで公園に到着すれば、散歩をしている老夫婦やジョギング中の女性など、けっこう賑やかな様子だった。


 遊歩道を歩いていると。


「でも一輪だけ渡されるのは、ちょっとステキかも。ちなみになんのお花にするつもりだったんですか?」


 姉ちゃんの少女漫画から。


「青いバラとかどうっすか」


「不可能、神の祝福、夢かなうだったかな」


 詳しいっすね。


「作れないらしいですけど」


「あっ もう成功してますよ」


 そうなの、知らんかった。


「ほへぇ」


「でもデート向きの花はもっとあるんじゃないですか」


 そうかぁ。好きな物を話し合うべきだったなあ、事前に。


「お花畑とか見に行くでよかったか」


「それは次に期待しておきます」


 やがて池に到着。ぐるっと一周するコースになっているらしい。


「良い場所ですね」


「ボート乗りましょうよ、定番じゃないですか」


 何組か伺える。


 この公園によってからショッピングモールとのことだったから、自分も調べてボートには乗りたいなと考えていた。


・・

・・


 受付でスワンボートを眺めていれば。


「却下です」


「そうっすね」


 でも普通のボートちょっと怖いかも。


 料金を払って、係員さんに案内される。


「足もとに気をつけてお乗りください」


「へい」


 唾を呑み込んでから。


「ここは男を見せねば」


「がんばれぇ」


 勇気を振り絞って片足を前にだせば、すこしだけ水に沈むような感覚にひぇっとなるも、ぎりぎりで持ち堪えてボートに乗り込む。


「少々お待ちを」


 ハンケチーフを座る位置におく。


「ズボンで手を拭いたのち、すこし緊張した面持ちで美玖ちゃんに手を差し出す」


「声に出てますよぉー」


 いかんいかん、緊張のあまり。


「ここに座って良いんですか?」


「へい」


 直でもそんな汚れてないけどね。


「漫画でみてこれが気づかいかと学びました」


「嬉しいけど、言わない方が素敵度高いかもですよ」


 しまった。


 美玖ちゃんはゆっくりと腰を下ろす。


「うぅ、スカート失敗だったかなぁ」


「確かにボート乗るなら、ちょっとあれかもっすね」


 とりあえず上着を脱いで、美玖ちゃんのお膝にでも掛けとくか。


「……」


「では漕ぎますか」


 オールだかパドルを握ると。


「最初にやっても良いですか?」


「あっ どうぞ」


 挑戦精神旺盛な美玖さん。


「やったー」


「では少し押させてもらいますね」


 係員さんがゆっくりと船体を動かし、陸地から離れることに成功。


 お礼を言ってからパドルの操作を始める。


「よいしょ、よいしょ」


「進んでますよ、良い感じっす」


 いちに、さんしとリズムよく。


 うん。けっこう桟橋から離れた。


「やっぱちょっと怖いですねぇ」


「ここ人工池らしいから深くないそうですけど、それでも底が見えてるわけじゃないから不安もありますな」


 美玖ちゃんはボートを漕ぐのをやめ。


「調べたんですか?」


「ええまあ」


 今日一番の笑顔を頂きました。


「さあさあ、浦部さんの番ですよ」


「では失敬して」


 パドルだかオールを貰い、慎重に漕ぎ進める。


「もっと思いっきりやって大丈夫ですって」


「へい」


 逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだと力を少しだけ込める。


 水の抵抗を腕に感じながら、持ち手を引く。


「……」


 よし、進み始めたぞ。


「……」


 周囲を観察して、他のボートがないことを確認してから始めるべきだったか。


「……」


 後方、前方確認。右良し左良し。


「視界は良好。前方にスワンボートを確認しました。船では早い段階から動きださなければ、衝突の危険があるとのことです」


「……」


 こちらが右に曲がろうとすれば、向こうも同じ方向に進路をとってしまった。


「とりーかじいっぱーい」


 取舵とりかじは左に舵を切ることだ。


「この船をタイタニックにするわけにはいかない。こんな時に限って、あのゲスは何処に行きやがった」


「うらべさーん、もどってきてくださーい」


 はっとなって美玖ちゃんを見れば。


「いったん止まって曲がってもらいましょう」


「なるほど、その手があったか」


 ちょっと落ち込みながら。


「操船技術は美玖ちゃんに一日の長があるみたいですね」


「私も今日が初めてなんだけどなぁ」


 人はそれを天賦の才と呼ぶ。


・・

・・


 公園を後にして、電車に揺られること1時間と少し。

 

 県内最大のショッピングモールとのことで、バスの数も多い。


「一緒に学校カフェいった時のこと思いだしますね」


「そうっすな。あのときは色々ありすぎて、バタバタした感じで終わっちゃいましたが」


 夏休み前だったか。


「もうお昼時過ぎちゃいましたね、到着したらご飯にしましょう」


「映画の予約してからの方が良いかな」


 そんな話をしながら、バスは国道を進んでいく。


・・

・・


 祝日とあって込んでますね。


「人込みで手を繋ぐのは、なんか恥ずかしいっす」


「無理させても疲れちゃうんで、いったんやめにしましょっか」


 ありがたい。


「帰りはまたお願いしますね」


「へい」


 兄と戦った映画館にて。


「どれにしましょっか?」


 上映内容は把握してあるが、当日一緒に選びたいとのことで、俺たちは壁のモニターを眺めていた。


「ここはデートらしく恋愛物で良いんじゃないでしょうか」


「俺、鼻血が心配なんすけど」


 キスシーンとか。


「うーん」


「そうっすねえ」


 関節剣・土竜返りか。


「時代劇はあの、ちょっと。でも浦部さんが観たいなら」


 妹から兄への遠慮のなさも羨ましいと感じていたが、こういうのもなんか嬉しいな。


「まだ何も言ってませんって、一緒に決めましょう」


 交渉ってのは話し合う内容をいくつかに別け、譲れるか譲れないかの優先順位を照らし合わせること。


 アニメも良いなあ。


「美玖ちゃん普段アニメ観ます?」


「はい、ジャンルにも寄りますが」


 恋愛物のアニメもやってんじゃん。実写でなければ大丈夫だろうか。


「これにしますか」


「お鼻は問題ないですか?」


 たぶん。なんか恋愛よりも青春が優先っぽいか。


「へい、任せてください」


「じゃあこれにしましょう」


 販売機で予約をして、40分くらい時間があるので飯にする。


「今回は回転寿司にしましょう。以前行けなかったじゃないですか」


「おお、いいっすね」


 普段はフードコートで済ませてたし、調査で行ったときもパスタだったけな。


・・

・・


 向かい合わせの席に着き。


「バカッターはしちゃダメですよ」


「了解しました、肝に銘じておきます」


 気の緩みが人生を狂わせる。


「冗談ですって、本気で返事しないでください。浦部さんルール重視なこと知ってますもん」


「赤信号は絶対に渡りません。黄色も基本は止まります。たぶん車の免許証とったら、俺は嫌われるタイプのドライバーになると思います」


 法定速度。でも煽られるのは怖い。


 50キロのところは60キロにしてもらいたい。国土交通省の皆さま、大臣さまぜひご検討のほどを。


「浦部さん、そんなに悩まないで、今はご飯にしましょう」


「へい」


 ヒラメの縁側とサンマを頼む。


「今年は秋刀魚が豊漁だそうっすね」


「あっ それニュースでみました」


 美玖ちゃんはタイと卵とのことで、それを注文した。


 俺はスマホを取り出す。


「えぇ 寂しいなぁ」


「ちっとまってくださいね」


 検索すると。


「AI による概要。秋刀魚が豊漁となった主な理由は、①海水温がサンマに適した状況になったこと、②春から夏にかけての餌(動物性プランクトン)が豊富だったこと、③国際的な漁獲圧が減少したことが複合的に重なったためです。特に、近年は海水温の上昇と外国漁船による大規模な漁獲で不漁が続いていましたが、これらの要因が好転しました」


「ほうほう、なかなか便利ですね」


 俺は強くうなずくと。


「デート初心者な自分は会話が途切れないよう、対策を考えておりました。こまった時のAI頼みです」


「でも今まで普通に話せてますけどね」


 確かにそうだった。


「そういや映世の話でなくても、けっこう問題なく会話できてますね」


「えへへ、そう思ってもらえると嬉しいです」


 めちゃくちゃ良い子だな。


・・

・・


 食事を終えて吹き抜け広場からエレベーターに乗ろうとしたところ。


「みんなぁー なにかあった時のために、天使さん募金をよろしくねー」


「大丈夫だよぉ ボクたち天使さんだから、勝手に使わないから安心してー」


「スポーツチャンバラ体験も出来ますよー、天使さんといっしょに世界を守ろー」


 なんか募金活動してるよ。相変わらず、世界を救おうとしてらっしゃる。


「小さいとき何時も見てました、テンテン体操まだ踊れるかなぁ」


「俺の時はド天使音頭でしたね」


 それも知ってますとのことなんで、せっかくだから一緒に歌う。


「「どてんどてん♪ 夢のなかからコンニチワ、およびじゃないのねサヨウナラ♪」」


 俺が武田節の詩吟風に。


「それぇぇでぇえはぁ みなぁあさぁぁん」


 よし決まった。

 

「「どってん音頭で、まった明日ぁ~♪」」


 懐かしさに2人で笑い合う。


「体操の方は兄ちゃんと一緒に送ったんですよ、嫌がってましたけど」


 番組内で放送されるんだっけ。美男美女だから、さぞや可愛かったんだろう。


「どうだったんすか?」


「今でも録画したの保管してありますよ」


 みっ 観たい。


「うちに来てくれたら見せましょうか?」


「きっ 機会があれば」


 そうこうしているうちに映画館へ到着しました。


・・

・・


 手と手が触れ合った瞬間、横を向けば視線が交わり、2人して赤面して下を向く。


 そんな場面がスクリーンに映っておりました。


 俺は音を立てないよう、ポップコーンをゆっくり噛む。

 視線を感じて横を向くと、ニッコリと笑う合う。


 

 ポップコーンとジュースはプラスチックのお盆にあり、肘置の窪みに差し込んでテーブルがわりになっていた。

 美玖ちゃんは飲み物だけで良いと言ったが、いりますかとポップコーンをさす。


 細くしなやかな指先が一欠けらを摘まみ、自分の口へと運ばれる。


 ちょっと嬉しくなってほんわかしていれば、再び指が伸びてきて、今度は俺の口もとに。


「……」


 そちらを向けば、美玖ちゃんがニッコリ。


 ぽかんとしていたら、口が開いていたようで放り込まれた。


 先ほど唇に触れていた。これは関節キッス。


 鼻から一筋の液体が垂れてきたようで、美玖ちゃんが慌ててティッシュを探し始めたが、ハンケチーフがあるから問題ないと親指を立てる。


・・

・・


 主人公が屋上から叫んでいた。


「たーまやーっ!」


 花火なき春の夜空に木霊する。


「たーまやーっ!」


 俺は耐え切れなくなり、鼻血つきのハンケチーフで自分の顔を覆う。


「たーまやーっ!」


 虚しく主人公の声だけが響いていた。


「浦部さん」


 言われて顔を上げた瞬間。


「かーぎやーっ!」


 透きとおる女性の返事が響き渡り、音楽が感動的なものへと変化した。


 美玖ちゃんが俺の肩に触れ。


「よかったですね」


「へい」


 本当によかったと、俺は泣き崩れた。



 エンドロールが終わるまで僕らは席に残った。他の観客が次々に去っていく。


「お見苦しい姿を」


「そんなことないですって、私も泣いちゃいましたもん」


 2人して上映部屋をあとにし、通路へと進む。


「トイレ寄ってきますか」


「そうですね」


 用を足して手を洗っていると、鏡に文字が浮かんでいた。


『アイテムチェストを確認してください』


 あっ すっかり忘れてた。


 あんな見てくれでも、性能は凄まじかったからな。


 数値を確認すると、やはり上級。


『現在、向こうの鏡は透きとおっております』


 いつも教えてくれると助かるんだけど、それじゃあ曇り消しや補修テープの意味がなくなるか。


「除き見とかマナーに反するっすよ」


 ごめんなさいとの返事があった。

 やっぱしてたんかい。


 帰ったら校長モードの長文で、ゲーム運営とプレイヤーの距離感について送るべきか。


 何人体制でやってんだろうか。大勢なら、関わったのは一部って可能性もある。

 もしそうなら上役に超怒られてたりして。


・・

・・


 合流後、美玖ちゃんに映世へ移るようお願いした。


「どうしたんですか」


「勇者の剣ですね」


 事前に話はしてたので、彼女もすっかり忘れてましたとのこと。


「運営、覗いてたみたいです」


「えぇぇ」


 あとで割引券を要求しようという結論に至る。


「見てくれがすげぇ悪いんですが、性能はやばいんで」


 差しだしたそれに美玖ちゃんが視線を移す。


 〔勇者の剣〕

 魔王の心臓を貫いた木製の短剣。


 〖勇者の木短剣〗

 ・総HP増加(小)

 ・総MP増加(小)

 ・雷耐性強化(小)

 ・属性耐性(極小)


 〖???〗 宮内美玖専用。

 ・〖電磁波の膜〗をまとい敵の攻撃と圧力を軽減(極小)。

 ・雷撃を落とすたびに身体強化(極小)。

 ・最大まで雷撃を宿すことにより、木剣が属性限界突破を10秒得る。

 ・雷撃を落とすたびにMP消費(中)。


「美玖ちゃん専用のスキルが名前不明なんすよ」


 返事もなく、こちらに手を伸ばしてきた。


「大丈夫っすか?」


 指先が震えていて、目の焦点も定まっておらず。


「……」


 片手で受け取ったそれを、両手で抱かえ込む。


「……」


 次の瞬間だった。

 潤んだ目で俺を睨みつけ、頬を思いっきり叩かれた。


「へ?」


「あ……すみません」


 凄い威力だったようで、HPが削られましたよ。


「ごめんなさい」


「いや、まあHPが機能してますんで」


 俺がなにかした……わけじゃないな。


「ごめんなさい」


 前世関係か。


「ごめんなさい」


 混乱しちゃってるようだ。


「勇者の護衛だった話を皆にもしましたけど、追加スキルからしてたぶん美玖ちゃんだったんかなとは思っています」


「……」


 病死したことは言ってない。


「なにか意識混ざったりはしてますか?」


「……」


 うなずいたけど、その直後に左右へ髪が揺れる。


「私、わたし」


「まあ、前世の俺が悪いってこんっすよ。あれだけの威力なんすから」


 返答はなく。


 しばらく何も言わずに寄り添うことにした。


 やがて美玖ちゃんは目元を拭い。


「お願いごと聞いてもらってもいいですか」


「難しいことはちょっとあれですけど」


 力強い眼差しを向けられる。


「そんな無理なこと頼みません」


「へい、そんなら」


 内容は教えてもらえず。


「いっしょにやりたい事があるんです。ぐ、浦部さんそのとき大怪我しちゃってたし、頼める状況じゃなかったし、でもその私すごくしたかったんです」


 今世じゃないなたぶん。


「それに言ったら浦部さん絶対嫌がります。恥ずかしいしガラじゃないって、わかりますもんずっと一緒にいたし」


 今嫌がるんなら、当日言われても嫌がるんじゃないだろうか。今日一緒だったってことか、出会ってからじゃまだ数カ月だし、やっぱ前世のこといってるよな。


「わかりました、まあ自分もう了承しちまったんで」


 少しだけ笑ってくれたので、手を差し出して立ってもらう。


「じゃあ文化際で、それっぽい雰囲気のがあったら、お誘いしますね。なかったらこっちで探します」


 なにを探すんだろうか。


・・

・・


 そこからは会話もほとんどなく、バスから電車を乗り継ぎ、美玖ちゃんちの最寄りに到着する。


「もう意識の混ざるの抜けたころっすかね?」


 俺や宮内妹兄は良くあるけど、巻島さんやケンちゃんはまったくない。神崎さんはごく稀にっていってたか。


「はい、なんかすみません。あぁ、でもお願いは継続でお願いします。本当にやりたかったみたいなんで」


「そっすか」


 お家まで送り届けるのは当然だけど、やはり気まずい。


「あの……すごく楽しかったです」


「ええ、自分もとっても」


 ビンタされたことをもう一度謝られたので、俺の前世が悪いとだけ伝えておく。


「帰りも手を繋いでくれて嬉しいです」


 前世も含めて、こんな良い子を泣かすんじゃありませんよ。



 やがてお家に到着すると。


「最後は笑顔にしましょう」


「すね」


 2人して笑い合う。ちょっとぎこちなかったが。


「じゃあまた」


「へい、あったかくして寝てくださいね。最近は寒くなってきましたんで」


 手を振り合って、俺は駅に向けて歩きだす。


「浦部さん!」


「ん?」


 そちらへと振り返ると。


「服買ったときのことは全部筒抜けですからね、私知ってるんだから」


「うへっ!」


 そうなの。


「京都行くって決めました。兄ちゃんも親も口説き落します」


「……危険ですよ」


 睨み返された。


「絶対に負けませんから」


 そう言葉に残し、美玖ちゃんは玄関の中に入っていく。


「……」


 しばらく呆然としたのち、踵を返して歩きだす。


「……」


 なんも考えられん。


 そうか。

 俺は今。


「たーまやー」


 青春の只中にいる。






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