2話 センス爆発
金曜日は太志や隆明と集まり、俺らは広い公園に赴いていた。
「では行きまずぞ」
指でプロペラを回せばゴムが捻じれていく。
「いよいよだなあ」
「おう」
隆明が木製のゴム巻き飛行機キットを買ったとのことで、飛行テストを実地することになったのである。
制作段階から見学していたから、我々の思い入れも強い。
蠟燭で木を炙りながら曲げるといった、プラモだとあまりしない工程もあり、中々に面白かったでございまする。
お陰でここ2日ほど、映世に潜れておりません。
良い息抜きになったよ。
「僕らの青春を乗せて!」
「飛び上れ、青の一号!」
夕暮の空に向けて。
「ポポポポーンっ!」
飛行機が舞い上がる。
「追いかけろぉ!」
「落ちるな、重力なんかに負けんじゃねえ!」
駆け抜けたこの日々を、俺たちはきっと忘れない。
着地後も興奮冷めず。
「やりました、やりましたぞぉー!」
「「「飛んだっ 飛んだっ 飛んだっ」」」
しばらく飛行機の周りを飛び跳ねていた。
「あっ すまねえ、ちっとごめんなあ」
太志はスマホを取り出して操作を始める。
「そういえば明日と明後日はどうですか皆さん」
「ちっと買い物があって、すまんな。日曜日も申し訳ない」
太志はしばらくスマホを操作していたが。
「俺も日曜は用事があんな」
「太志もとは珍しいですね」
もしかしてメッセージの相手、委員長じゃないだろうな。お父さんは許しません。
お前にはまだ早い。
「僕は1人でゲームでもしましょうかね」
ちょっと寂しそうな隆明。すまん、俺も太志のことは言えんな。
「最近、学校ではどうなん?」
「修学旅行のお陰もあって、以前より皆さんと話せるようになりましたよ。有難い限りです」
もともと穏やかな性格で嫌われる要素なんないからな。
・・
・・
お家に帰宅したのち、部屋でダラダラしていたら。
『アタシとサトちゃん日曜参加できんから、明日みんなどうするん?』
『神崎さんもとは珍しいっすね』
『学校で吹奏楽の応援するの。だからさ、土曜日に荒木場行きませんか』
吹奏楽の全国大会があり、うちの学校でそれを配信してくれる。
「そういやんなこと先生言ってたな」
スポーツだと野球部だけど、それ以上に吹奏楽部は期待の星です。
『すんません、自分ちょっとショッピングモールに行く予定なんで』
明日は宮内も美玖ちゃんも何時もの用で無理か、ケンちゃんも部活かな。
『今ならかなり成長してますし、2人でも校舎内や外周であれば問題ないんと違いますかね』
ハクスラって毎回最高難度に挑戦するわけじゃない。装備集めとかって安定した周回の方が重要だから、一回のボス戦でヘトヘトになるのは避けるもんだし。
『買い物でもいくん?』
『ええ、まあ』
『デートって11月初めの祝日だっけ、もしかしてお洋服とかかな』
美玖ちゃんは2人に話しているようで、全て筒抜けなんすよ。
『へい』
しばらく返信がなくなった。
『ちょっと待っててね、真希が美玖ちゃんに電話してるから』
理由は分かりますけども、俺だっていつまでも母ちゃんにお洋服選んでもらうの嫌なんよ。
既読数が3に増える。
『すみません。本当に申し訳ないのですが、お願いしても良いでしょうか?』
『良いってことよ。可愛い後輩のためだ、ここはアタシらが一肌脱ぎますか』
『責任重大だね、うん任せて』
俺が服を買いに行くのは、そんなにヤバイ事なのだろうか。
そんなセンス悪いかな、言うほどでもないでしょ。
『せっかくだからさ、大きい方のショッピングモールにしようよ』
姉情報によると、あそこは込み具合でマイナスになる事もあるそうです。
・・
・・
宮内は土日ともにサッカー部の公式戦があるとのことで、そちらの応援に参加するそうだ。
「いつも年明けに全国大会してっけど、その予選でしたっけ?」
「あいつからすると因縁だよね」
選手生命を絶たれるレベルの大怪我を負った。
「もう全速力じゃなければ問題ないって話だったかなぁ」
そろそろお医者さんも驚く感じになってきそう。
電車からバスを乗り継ぐ。
まさか女の子2人とお買い物をする日が来るとは。
人込みの苦手な俺が、すこしだけ息を呑むレベル。
「マイナス5よりは下がらんっすね」
攻略本だけどさ、たぶん姉たちと合流するのを分かったうえで制作したんだろうね。
8月までの繋ぎ的な意味で。
「理由はやっぱ人口密度?」
「質より量のほうかぁ」
「相手の前世にも寄りますね」
沖縄の司令部壕は過去にとんでもないストレスが掛った場所だから。もし観光客が疎らでも、その数値はマイナス30くらい。
まだ囚われの兵隊さんが残ってるかも知れないと考えたら、いつかは挑戦しないとな。
忘れ去られると共に通常難度へ戻ってくんだと考えりゃ、終戦直後はたぶんマイナス50はあったんだろう。
沖縄そのものどころか、日本の各都市部も上級エリアだった可能性がある。
空爆回数とか動画で観たことあるけど、規模の大小あれど爆弾落とされなかったのって、石川県だけなんだと。それでも停泊中の輸送船を魚雷で狙われて、数十名亡くなってるらしい。
「ねえねえ、浦部君の服買ったらさ、階層ごとにソロしてみようよぉ」
「えぇー」
やっぱ巻島さんは乗り気でない。
「荒木場で急にやるよりは、ここで試した方が良いのは確かっすね」
「ねっ 真希ぃ、おねがーい」
「うーん、もう仕方ないなあ。怖いけど挑戦してみるか」
神崎さん、妹モードで勝ち取ったな。
「ゲス野郎は屋内だから無理か」
たぶん巻島さんが指揮できるようになったのは、召喚が主体だからだろうな。
吹き抜け広場からエスカレーターに乗り、合流地点の先は長い通路になっていた。
御二方が前を歩き、俺は少し離れた後方。
「浦部よ。デートは無理しないで、こういうとこにした方が良いぞ」
「なるほど」
あたりを見渡す。
有名なブラントの店舗があった。主に財布やバッグとか小物入れなんだけど。
「金がありゃな、ここの服素敵っすよね」
「まあ、物による」
「だねぇ、良いのもあるよぉ」
あれ、反応がちょっと微妙。
中学生くらいの男子が、弟と思われる子供と手を繋ぎながら、映画館に入っていく様子が映った。
横切ったさいに何気なく彼らに意識を向ける。
「福引当てたのボクなんだからね、兄ちゃんありがとして」
「はいはい、ありがとな。でも期間が今日だけなんて、変な割引券だよね」
両親は別の場所で買い物してるのか、それとも2人でここまで来たのだろうか。
「なんか食べたい」
「ポップコーンで良いか、お前こぼすなよ」
チケットを買うために販売機の前に立つ二人。
「まだ上映まで時間あるし、もうちょっと後でな」
「うん」
声変わりはまだみたいだから、中学1年生ってところか。
「浦部なにボケっとしてんのさ」
「すんません」
兄ちゃんか。
「ほら行くよー」
いつの間にか立ち止まってたみたいだ。
・・
・・
安さが売りの大き目な店舗へ足を踏み入れる。
「母上に相談すると自分で買うのは許してもらえないので、予算は小遣いとお年玉貯金からとなります。1万円が限界っすね」
「あの水着だもんなぁ、私が浦部くんのママでもそうするかも」
神崎さん納得しないでくだせえ。
「まあとりあえず、一回自分で選んでみ」
個人としては自分で選びたい欲もあるんで有難い。ところで俺の水着って、そんな変だったのだろうか。
「好きな色とかあるの?」
「黄色っすね。たぶん前世から好きでした」
「また適当なこと言って」
目指すは高〇純〇の兄貴っす。
しばらく店舗内を物色。
「服は時間かけるんだねアンタ、他のは早いくせに」
「ことごとくダサいダサい言われてるんで、センスがない自覚はありますんでね」
「雑誌とか読めばいいじゃん」
一応、頭の中でデートの服装はこれだろという構想は練ってある。
「バレンタインもハロインも商売目的っすよ、流行だって売るためのもんじゃねえっすか」
「そんな捻くれたこと言うなら、チョコやらんぞ」
えっ くれんの。
「母と姉からしか貰った記憶がないので、もしよろしければ頂けますと嬉しいです。抱いて寝ます」
「抱いて寝たらとけるってぇ、雫ちゃんからも貰ってたんじゃない?」
「雫さん……うーん」
悩んでおりますな巻島さん。
「すんませんな、色々と」
「なんだよアンタ、気づいとったんか」
俺の声色で女の勘が働いたのか。
「浦部君、鈍い人じゃないもんねぇ。映世だと特にさ」
「敵の特徴とか真っ先に捉えんの、いつもアンタだしね」
本当に有難いことですよ。嬉しいし、心臓が飛び出そうにもなるし、不安で仕方ない。
「情けない話ですが、怖くて堪らないんです」
人と深く繋がること。
「作戦実行前には美玖ちゃん動くと思うよ。そうしんと勝ち目ないって本人は思ってるみたい」
「救出成功するまで返事は保留にするけど、ちゃんと考えてあげてね」
「へい」
2人に相談するくらい、かなり悩んでるんだな。
「とりあえず、こんなもんか」
「……」
「……」
ちょっと暗めの黄色ズボンと、明るい黄色のワイシャツをカゴに入れた。
「あとは蝶ネクタイっすね。赤で行こうかと思うんですが、茶色の方が大人っぽいですか?」
「……」
「……」
試着もさせてもらえませんでした。
・・
・・
御二人の協力を得て、当日の服装を選んだのち。
「んじゃあ、気持ちを切り替えて行こう!」
「っすね!」
「そういやソロなんだっけ。ねえ、やっぱ皆でにしん?」
神崎さんは満面の笑顔で巻島さんの提案を却下する。
エスカレーター前のトイレで映世に移る。
「こっち問題ないっす」
「共有トイレ行けるよぉ」
もし現世で使われてた場合は、ちゃんと相手が出てから戻れるようになってるらしい。
宝箱が各所にあるから探検だね。連戦は用意されてないようだ。
「下が混んでると思うから、私が一階ねぇ」
神崎さんは迷いなく、意気揚々と歩きだした。
「吹き抜けになってるんで、強敵がでたら叫んでください」
位置によっては届くかも知れん。
「わかったぁ」
巻島さんはすでに妖精と天使を召喚済み。
ため息をつき。
「じゃあアタシは3階にさせてもらうわ」
そいつがなんか寂しそうな顔だったので、俺はちょっと悩んでから。
「ベルさんもよろしく頼むな」
妖精は俺の方を向くと、ちょっと照れ臭そうにはにかんだ。
「やれば出来るじゃんか浦部」
「まあ」
妖精が俺に近づいて、なにかすんのかと身構えてたら。
「ふへっ」
「ベル、あんた大胆ね」
ほっぺにキッスを頂戴しました。
「浦部モテ期到来かぁ」
「へ、え?」
巻島さんとベルさんは手を振ってエスカレーターを上がっていく。
ドキッとしちまって、しばらく動けませんでした。
「自分の前世なのに堂々としてるあたり、さすが姐さんですわ」
別の人格だって認識してるんだろう。




