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そこに居たはずの誰かへ  作者: 作者でしゅ
9章 デートと文化祭
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1話 運営より御活躍の皆様へ

 修学旅行が終わり、土日を挟んだ月曜日。ケンちゃんは部活だけど、俺らはいつものファミレスに集合していた。


「最近は冷えてきたな」


「だねぇ」


 宮内くんはホットのコーヒーを一口含み、手鏡に目を通す。


「意見をくれか」


「ますますベータテストだわこれ」


 手鏡からのメッセージで改善点やらあれば書き込んでくれとのことだった。全て反映できるわけでないとの一言を添え。


 ご丁寧にスマホみたいな文字打ち機能が追加されてました。


「手鏡でメッセージ送り合えないんすかね」


「まずはそれですね、兄ちゃん書き込みお願い」


「了解」


 神崎さんは頬張っていたポテトを呑み込むと。


「運営さんってすごい力持ってるけど、妙に人間臭いよねぇ」


「だから神のごとき種族を名乗ってるんだろ」


 失敗もするし、思い悩みもするってことだろうか。


「とりあえずだけど、手鏡が壊れる機能はいらないっすよね」


「うんうん、あれなくてもお金普通に減ってくしさぁ」


 巻島さんはストローをいじくりながら。


「このシーズン限定コンテンツってなにさ」


「たんにレベル1にするだけじゃ客は寄りつかないわけっすよ。だから今回は大幅なスキルの強化や、装飾品にショップといった要素を釣り餌にしてるわけっす」


 なんの旨味もなければ人は寄りつかない。


「今後もそれじゃだめなんですか?」


 美玖ちゃんは紅茶か。飲む姿も様になってますな。


「強くし過ぎればインフレを起こします。強化要素が増えすぎてもシステムパンクしちまう」


 だから自動で報酬を拾ってくれるペットとか、見た目のスキンを用意したりするわけだ。


「映世内を移動できる乗り物。今期の限定はお馬さん、来期の限定はバイクとかどうっすか。同じ動物とか乗り物でも見た目を変えりゃ良いし」


「そっか、月ごとのログインボーナスみたいなもんね」


 ソシャゲやってたりすればわかるもんな。ていうか運営、あんたら既存のゲームとか絶対プレイしてるよな。でなけりゃこんなハクスラ的システムは準備できねえだろ。


「ある程度活動したら入手できるって感じかなぁ」


「〇〇回以上戦闘をするとか、条件を定めるんね」


「スキンって見た目だけなんで、俺としちゃそんな魅力ないんすよ。だからシーズン限定の強化要素にしか反応しないプレイヤーもいますわ」


 初期のままで良い。


「えぇ 見た目重要だよぉ」


 服装やメイクをするのが目的のゲームもあるか。


「浦部さんオシャレ興味ないですもんね」


「あるけど酷評されるんです」


「アハハ」


 巻島さん、なんか笑いが渇いてますよ。


「シーズン専用の強化要素か。真っ先に思いつくのは、合成を2種まで可能にしてくれると嬉しい」


「クロちゃんに〖武器操作の触手〗と〖肩腕〗を混ぜれるってこんね。ずっとそうして欲しいんだけど」


 もし〖闇に潜む〗を合成すれば、〖闇豹〗も消えれるようになるらしい。現状だと巻島さんと妖精だけだからな。


「スキル玉とスキル玉の合成も私は欲しいかなぁ」


 確かにな。


「シーズン中じゃないと敵のスキルや武具はでないんですよね。これだけでも十分だと思いますけど」


「せっかく強敵と戦ってんのに、報酬でないなんて悔しいもん。だから私は絶対に毎回シーズンにするもん」


「あとは金を稼ぎたいってのもいるはずだから、そのままだと換金率が低下するとかも必要か」


「それをするなら上級のビー玉に限りってした方が良いかも知れん」


 ここで忘れちゃいけない点かある。


「自分で言うのもあれですけど、俺らって上澄みなんすよ。映世での活動は、始まる時点で個々人に差があるんだ」


 美玖ちゃんもポテトをつまむ。


「三好さんたちって、あまり強いスキル持ちの人はいないんでしたっけ?」


「彼ら目線でも考えるべきか」


 たぶん〔武器〕があったとしても。


「〔天使装備セット〕みたく、攻めや守りのバフだけなんかな。一般の敵もスキルってそんな感じっすよね」


「武具すらない人もいるって、前に浦部いってたよね?」


 前世が動物だったりすれば、ミノタウロスの【牛特攻】や、動物召喚的なスキルを持ってるかもだけど、人間より弱い生物も沢山いる。


「その場合は自分にHPMPが設定されてるんで、ボス戦で負けても二軍装備に切り替えやすいってのはあるけど、デメリットの方が多いっすね」


「通常難度って強制脱出だから、復帰にも20分かかるしねぇ」


 スキルも使用不可にはならない。


 宮内兄は腕を組み。


「まず上級まで到達可能な装備を揃えるのが厳しいな」


 前世の技術を得られてるから、俺らって最初からけっこう戦えてたけど、この面も他の連中だと薄いかも。


「アタシらも序盤を抜け出すの大変だったわ」


「夏休みになってから参戦した私とケンジ君は、皆さんのお陰で苦労はしませんでしたけど」


「姉ちゃんたちが手伝ってるんかな。経験値は歩合制なんすけど、まったく入らんってことはないですしね」


 ショップの武器やスキル玉を買えるようになれば、来期にも持ち越せるけどレベルは1になる。


「序盤の脱出か」


「皆さんが修学旅行中に経験した海賊のイベントって、そんな難しくなかったんですよね」


「序盤から中盤ってとこでしょうか」


 〖伝令の幻影〗だけど、攻撃力は手持ちスキルじゃ一番高いし、〖選択しなかった行動〗の枠組みからも外れている。俺の分身は実現可能な動きしかできないからさ。


「ボスに直撃したのは〖転移突進〗と〖ゴブさんの無断〗だけで、生身にもならんままHP0で消えてましたんで」


 〖幻のゴブ〗は〔脇差〕のレベルに合わせたもんで、本物の【幻影】とは比べるまでもない。


「そういや浦部って砲弾に直撃してたけど、HPダメはどんくらいだったん?」


「1発目は盾で防いで、2発目がもろでしたけど、それで全体の4割くらいっすかね」


 俺が優秀だって感じてたのは連射速度であって、攻撃力とは違う。ボスは水属性だし時の要素があったんじゃないかな。砲員の素早さ強化とか。


 あと闇にも空間の要素はあるかも知れん。黒の原罪って転位使うしさ。


「もしイベントの発生元が斉藤先生でなく、船長の方だったら難易度は上級だったか」


 神崎さんはうんうんと頷きながら。


「大波のスキルそのものは厄介だったよ。水中だとうまく動けないし」


「海の中で武器扱うのも大変そうでしたね。太志のは文句なしに上級イベだわ」


 皆で旅装束のゴブリンを思い浮かべる。


「状態異常治癒でも、回復妨害治らないのは辛いっつの」


「軽減はされるんだけどな」


 デバフの名称からして、状態異常治癒も妨害してんだろう。回復妨害が(最強)から(並)くらいには出来てたか。


 それはさて置き。


「特定の場所を指定して、序盤向けのイベントを用意するとかどうっすかね?」


「なるほど。でも頻繁過ぎてもあれだな、3日に1回くらいで良いか」


 既存のゲームでよくあるやつだから、俺が考えたってわけじゃない。


「運営さんたちって、自力でも敵は用意できるっぽいかなぁ」


「弱いのだけじゃなくて、めっちゃ強いのだって可能なはずっすよ」


「彼らの目的は迷い人を減らすって感じで良いのか?」


「自分たちじゃ直接対処できないから、アタシらに頼ってるんだっけ。なんか制限とかでさ」


 だから映世なんてシステムを苦労して作ってるわけだ。


「私たちは活動でお金を稼げてますよね。仕事としてなら、無理に面白くしなくても続ける人はいるんじゃないでしょうか」


「占いや(まじな)いで生活費を稼いでる人は今でもいますけど、全盛期ってこんなもんじゃないっすよね。GHQの政策で日本人が宗教離れした面もありますが」


 安倍晴明とか蘆屋道満だけでなく、もっと日本に宗教が根づいていた時代。


「異世界の汚染された魂が輪廻を通ってくるのは、大小の波があるんじゃないっすか。だから運営としては映世の必要性が薄くなっても、継続するシステムを構築したいとか」


「これまでも俺たちみたいな者はいたけど、そのたびに廃れていた」


 爺さんの時代と俺らの現代。


「かなり大きな波が押し寄せる前兆を、運営が感じ取ってる可能性もあります」


 恐ろしい話だけど。


「狼男とか吸血鬼、平将門に法徳天皇でしたっけ。人が化け物になる伝承は今も残ってるから、映世に隔離してんじゃねえっすか」


「映世でなく現世でもってこん?」


「さすがにそれは無いと信じたいなぁ」


 神のご加護をってか。



 いつの間にか美玖ちゃんがジト目を俺に向けていた。


「浦部さん……どうしてそういう面を日常に活かせないんですか」


「アハハっ そこが浦部クオリティ」


 映世の時だけは頼りになるって評価か。


「意識して切り替えてるわけじゃないんで。というか自分普段から真面目に生きてますもん」


 人込み苦手とか飛行機怖いとか。


「そういうとこじゃなくて、なんと言いますか」


 だから美玖ちゃん何で心読めんのさ。


「でもバカなとこも憎めませんし、アホな浦部さんも嫌いじゃないんで、やっぱそのままで良いです」


「良かったね浦部」


「デートで良い所みせなきゃねぇ」


 なんで知ってるんすか。


「女の子に慣れるためなら、アタシともする?」


「私も良いよぉ」


 もう両手で顔を隠すことしかできない。


「良かったな浦部、これもお前の人柄故だ」


 神崎さんも巻島さんも、あれ完全に面白がってる目ですよ。


「自分、前世で徳を積んだようです」


「咎人ですけど、そう思ってるの浦部さんだけかもですね。だって原罪さん属性デバフあるけど、味方してるじゃないですか」


 そういう見方もできるんだな。


「雫ちゃんだって、浦部くんに力貸してるもんね」


「……」


「そういや彼女の時空剣ってさ、身隠や幻影なん?」


 違う。


「〖黎明の剣〗〖真昼の影〗〖黄昏の斬〗ってのが、雫さんの時空剣っすね」


 ・剣が青く銀色に光る。

 ・影の触手が攻撃のたびに連鎖する。

 ・最後に触手を断ち斬れば、夕焼け色の光が弾け、生身であれば血が飛び散る。


 これが黎明から黄昏までの流れだ。


「姉ちゃんが言うには夜だと弱体化するそうです。そんで晴れてると強化されるんだったかな」


「あんま遅い時間に活動しないから、夜に強化されるよりそっちの方が良いね」


「ケンジ君は使えないんですか?」


 宮内は手鏡に文字を打ち込みながら。


「今のとこ時空剣っぽいのは、空刃斬と残刃だけだったよな」


 こんなもんかと顔を上げ。


「とりあえず書き込んで見たんだが、みんな確認を頼む」


「さすが兄ちゃん、仕事が早い」


「ありがとー」


「どれどれ」


「……うん、良くまとめられてんじゃん」


 あとはそうだな。


「チェストの共有枠は信頼関係が成り立ってるからこそ、みんな自分のをそこに入れて、参加できない時に仲間内で使ってるわけです」


「人が増えてくればそうもいかんな」


 モラルの低い人って何処にでも絶対いるからね。


「でもスキルのレベルは上げたいじゃん」


「だから借りパクの対策をすりゃ良いんすよ。優先権ってのがスキル玉やチェストにあれば、日付が変わる時刻に自分の枠へ移るって感じで」


「0時にセットから外れるって事前にわかってれば、事故も防げるな」


 設定のし忘れ対策もあると良いけど、そこからはプレイヤーの責任だ。間違えて売っちゃった、破棄しちゃったはどのゲームにもあるからさ。


「自分の感がでるから、私は大賛成」


「肉切り包丁、基本は巻島先輩かケンジ君が使ってますもんね」


「貸し出す時にポイントを支払うってのがあると、神崎みたいな例でも徳はあるかも知れん」


 宮内君が追加で書き込む。


 さてさて例の物は頂けんのか。


「これでスキルの割引券もらえるんだっけぇ?」


「サトちゃんすぐ使っちゃダメだかんな、今後も販売許可証は増えると思うし」


「浦部さんずるいですよね、私たちより多めだなんて」


「〖伝令〗がナーフされましたんで、そのお詫びだそうっす」


 幻影が1体増えて、そのぶんゴブさんの出現率が上がってさ。


「確かに今までの2倍出てくるのは強力すぎたか」


「昨日の一般駐車場戦、ちょっと浦部くんヤバかったもんねぇ」


 強力な前世はいなかったので、連戦のボスはバフを盛られた一般の敵を多め。


「正直いえば校庭初挑戦の方が苦戦したっすよね」


「たしかにあっちの方が楽しかったかなぁ」


「俺たちが強化されたのもあるが、運次第で数値が当てにならんこともあるわけか」


 巻島さんが手を叩き。


「じゃあ最後にギルド名を考えんとね」


 チェストに共有枠というのを入れるに当たって、これを決めてくださいとの通知があった。

 

 映世全体の枠を作るのはもうちょっと時間が掛るらしい。


「ケン坊からは、心のお助け隊だって」


「中二とは思えませんな」


「映世活動部でどうだ」


「えー そんなのつまんないじゃん」


 宮内の意見は却下だね。


「燃えよ闘魂で決まりっ!」


「それ著作権的に駄目です」


 もっと独創的なのをですね。


「放課後〇外活動部、または自称特別捜〇隊、あとは心の怪〇団とかどうでしょう」


「なにそれ、ちょっと格好良いじゃん」


「うぅ なんか負けた」


「浦部さんにそんなセンスがあったんですね」


「それペル〇ナだろ」


 しまった、宮内は知ってたんだった。

 皆に説明されてしまった。


「人のこと言えないじゃん!」


「浦部さん最低」


「やっぱ浦部だわ」


 巻島さんはコホンと咳ばらいをして。


「アタシの案はストレスバスターズね」


「巻島さん、幽霊退治の映画からですか?」


 目を背けられた。


 残るのは美玖ちゃんだけ。


「イチョウの花言葉が鎮魂なんです。英語読みだとGinkgo (ギンコウ)だから、ギルド名としては変かな」


 銀行と勘違いされてもあれだし。


「レクイエムは格好良すぎるっすね」


「格好良い方がいいじゃん」


 中二病明けの高校生は拒絶反応がでるんですって。


 宮内がスマホを手にして。


「長寿の木でツリーオブロンジェビティ、すこし長いか」


 中々決まらなかったけど。


「魂鎮め隊」


「うぅ、もう良いよそれで」


 神崎さんはちょっと不満そう。


「いつでも変更できますんで、また考えましょう」


「有料だけどな」


 運営さあ、金集めてどうすんのよ。まあ無課金なんですけどね俺ら。


・・

・・


 こうして俺たちは今日の活動に移る。


 体育館にて。


「……ゴブリン!」


 姿を見た瞬間にテンションが上がったらしく、神崎さんが〖屈辱の角〗を発動させた。


「浦部は何時でも咎人メイスできるように、宮内は私以外に守護盾、美玖ちゃんは真・雷光剣の準備に入って!」


「……え?」


「早くしろ美玖!」


 皆に〖鎖〗を放てば、滑車や命中対象から〖細鎖〗が伸びる。


 巻島さんが精霊合体を発動。


 宮内が〖憎悪の触手〗をゴブリンに伸ばす。


「当たった?!」


 〖触手〗だけじゃなくて、まさか〖細鎖〗も命中するとは。


「うそっ!」


 神崎さんが〖叫び〗を上げながら飛びかかり、大剣を振り落とす。


「〖炎の斬撃ぃっ!〗」


 修羅鬼が燃え上がる。




手鏡が壊れる機能は作者も不要な気がします。


とりあえず区切りの良い文化祭前まで。4話ですね。

文化祭はちょっと時間開くかと。

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