3話 テスト期間での検証
無事ではないけど、なんとか校庭の連戦を攻略して、俺らはテスト期間に突入した。
そういや屋上の大鬼戦で巻島さん強制脱出しちゃったけど、報酬もちゃんとあったわな。
ただ戦えて満足とも言ってた。
俺が太志とソロで戦った事の方が、彼女からすりゃ不満だったんでしょうね。
2軍の武具スキル構成とか考えとくのは今後重要かも。
特に上級とかの場合はさ。現状、ちょっと難しいんだけど、数年後は今より装備とかも増えてるはずだし。
アイテムチェストには私物だけでなく、仲間内の枠もあったりする。
神崎さんが購入した武器操作の触手とか、俺や巻島さんケンちゃんで金出しあって、共有にするか本人に相談すべきかな。
連戦ボスだけど、攻略初成功とのことでスキル玉以外にも、販売許可証をいくつか入手できた。
報酬の分配だけど、今はいいけど人口が増えてくなら見直した方が良いよ運営。
〖風刃の渦〗スキル玉
小規模の渦に風属性のHP秒間ダメ(極小)。
範囲内の味方と自分に属性耐性(極小)。
MP徐々に消費(中)。
このスキルは俺がもらうことになった。アイテムチェストにはお金も入れれるみたいなんで、こうやって私物にする場合は固定額(5万くらい?)を入れて活動費にでもしようという話になりました。
どんどん貯まってきそうだけど、そしたら仲間内で別けりゃいいか。
〖風の法衣〗と合成させることで、渦に風属性の秒間ダメ(極小)。
任意で発動可能。MP徐々に消費(中)。
突風を消費することで、10秒間ダメージが(中)に上昇。
あと弓スキルはゲットできなかったけど、〖風刃横断〗の販売許可証をゲットした。
両手持ちの武器専用。
鈍器だと〖風打横断〗になるらしい。
HPダメしか与えられないが、扇状に強風を発生させることが可能。中型までなら姿勢も崩せると思う。値段は35万。
神崎さんは縦斬りのスキルが欲しかったと言っていた。〖横断〗って名称からして、もう一方は〖風刃縦断〗かな。
こっちの突き抜ける風って、闘戦鬼すら足止めしてたから、大型の敵にも十分通用しそうだ。
〖盾の求光〗スキル玉。販売許可証。
盾専用
一定範囲にいる敵を確率で神聖視(意識を向けさせる・守り三種低下)させる。
MP消費(中)。
冷却1分。
あの盾使いが使ってたやつだ。
崇める対象はバラバラだけど、自然や神を信仰するような相手には通用する。邪神とか含めてね。
もしかすると日本人には効き難かったりするのだろうか。
神さまって畏れられる存在なわけだけど、そういうの薄いじゃん日本って。軽い気持ちで頼み事とかすんの、本当はすげえ危ないんじゃないかな。
〖白鎖〗と合成できるけど、〖閃光〗がなくなっちゃうからダメだ。
〖天の光〗スキル玉。
範囲内の味方にHP秒間回復(極小)。
守り三種強化(極小)。
発動は任意だけど、制限時間なし。
MP徐々に消費(小)。
とりあえず共用だけど宮内かな。〖超回復〗もあるから、あいつ現状でもめっちゃ硬い。
神崎さんでも良いか。
〖守光の法衣〗に合成させた場合だけ、発生スキル〖天の輝き〗に繋げられたようだ。
頭上に聖なる紋章が出現し、以降戦闘中はずっと闇耐性を得る。浸食だけでなく、クロちゃんとかの攻撃も弱められるんだと思う。
一定回復(中)。
状態異常治癒。
負傷治癒。
12秒間の身体強化(小)、状態異常耐性。
MP消費(大)。
風の法衣にしちゃったから選択してないんだけどさ、来シーズンはこっち使うのもありだね。
とりあえず共用の枠に入れておく。
2つ同時使用可能な〖障壁〗や、威力軽減と思われる〖十字架〗は出ませんでした。
あと地面に紋章が描かれる〖重力場〗も。
〖闇に潜む〗スキル玉。
8秒間姿が消える。
夜の方が効果が高くなる。
攻撃時もとに戻るが、HPダメ増加(小)。
日中だと使用者は徐々にHP毒(中)
MP消費(大)。
クロちゃんと合成させることも可能だけど、巻島さん〖肩腕〗を付ける予定とのことなんで無理だな。
それに《気づかれ度に応じてHPダメ増加(レベル比例)》があるしさ。
共用で使ってく予定。
もし黒の鎖が〔留め具〕でなく自分のスキルなら、合成できたかも知れないんだけど。
あと美玖ちゃんが〖青い雨〗ってスキルを習得した。
それとビー玉で興味深いのが出た。
《〖雷雲〗〖雨〗〖避雷針〗の同時使用であれば、属性限界突破の可能性あり(条件は最強の感電)》
上記3つのスキルなら全部つけれるようだ。属性デバフは弱並強だけど、その上に最強ってのがあるらしい。雷雲を優先して改造してかんと難しいかも。
属性限界突破ってのは、たぶん〖属性強化剤〗がなくても、肉体にダメージを与えられるんだろうね。
この〖錬金薬〗は作るのに数十万必要らしく、利益とかかった時間も込みで、今後買うには相応の値段を要求されます。
雫さん救出作戦で使いたいから、それまでは購入を控えてくれとも言われてる。だから今回渡されたのは、お試し用なんだろう。
仲間内で属性限界突破しそうなのは宮内の闇くらいか。その前に物理化しそうだけどね。
氷の牢獄も改造優先すれば、悪寒が最強には届きそうだな。
巻島さんはナイフや物質化で対応できてたりする。
なんつうか属性特化の前世には重要だね、あくまでもソロではだけど。たまに冒険者風の敵で居るし、魔法使いな人。
・・
・・
月曜日。
俺と宮内は廃校カフェの校庭に来ていた。
映世にて。
「草けっこう伸びてたな」
「なんやかんやで、夏休み中は一回も行かなかったしね」
初心者がいないと使わないんだよ、鏡社の周辺ってさ。
「そういえば浦部の腕は、ガントレットに強化されたのか?」
「両手だけってのがこれまた。他は普段着なんだもの」
〔咎人の腕当〕から〔籠手〕に改良されました。
「まあ、それを言ったら俺も学校ジャージに剣と盾だ」
「法衣のエフェクトが発生すりゃ違ってもきますかね」
試しにスキルを発動させてみる。
「だいぶ違和感も減ったな」
「これでどうよ」
〖風の盾〗を発動させ、法衣鎧へと変化させた。〔籠手〕になったお陰で装備性能もだけど、総HPMPが大きく上がったのは嬉しい。
「完璧だが、エフェクトだから服がうっすら見えてるのが難点か」
「これ以上は鎧下でも着ないと無理だ」
宮内は自分の武具を見て。
「俺はもう変化しそうにないか。あと神崎や槙島も最初から同じだな」
「宮内君のは騎士の武具から、勇者に変化した感じだよね。初のボス戦がそっちじゃなくて本当に良かったよ」
でも当時も空は燃えてたんだよな。
「たぶん夕焼けに染まるってさ、悪い意味での名前とは違うよ。そもそも原始の精霊なんて、人間がどうこうできる相手じゃないはずだろ」
「……そうか」
テスト期間に入り、しばらくは活動もしないとあって。
「じゃあ、さっそく検証といきますか」
「恐らく攻撃してくると思うが、事前に謝っておく」
スキルには説明分みたいなのもついてくるので、どんな事態になるかは知っているけど、体験はしておくべきだろう。
「いつもの癖で、味方として使わないようにしんと」
宮内に各色の〖鎖・敵〗を放つ。
「発動させるぞ」
「へい」
〖戦槌〗の影が全身を覆い尽くしていく。
本人に抵抗の意思がないためか、いつもよりか広がる速度が早い。
日中と夜の狭間。
最初のうちは宮内も意識を保っていたようだ。
「雷光剣を使ってみてくれ」
戦槌を地面に落し、宙に浮かぶ〖鞘〗へ手を伸ばすが、複数の触手が柄を掴むのを妨害する。
「難しそうだな。しゃあない、そのまま行ってくれ」
「……」
触手が無理やり【戦槌】を握らせた次の瞬間。
耳を覆いたくなるほどの慟哭が響き、やがて血走った赤い瞳は、俺を敵対者として捕らえた。
物理判定を得た触手は針や刃の形に変化し、本体の宮内も戦槌で攻撃してくる。
強烈な浸食と回復妨害。
【武器操作の触手】や【肩腕】も使いこなす。
闇と時空か。
夕焼けの空は赤く輝き、沈みゆく太陽が夜を喰い止める。
・・
・・
気づけば現世にもどっていた。
咎人のメイスは使わなかったけど、もし発動させても5分と持たなかっただろう。
「アレに呑まれた状態で敵を倒しても、報酬は得られないってんじゃなあ」
意識を保ってられるのは精々20秒ってところか。精神保護や安定でここら辺は調節できるようだけど、〖雷光剣〗で影を払うことは出来なかった。
「たぶん美玖ちゃんの鞘が必要になってくるんだろうな」
夕方の校庭は誰もおらず、この時間はカフェもやってない。
10分ほどが経過すると宮内が帰還する。
「大丈夫か?」
「ああ……これを実戦投入するのは厳しいか」
暴走中も意識はあったようだ。
少し気になる点がいくつか。
「やっぱ今の〖盾〗に原始の精霊が封印されてるわけじゃないんだよな?」
運営が再現したスキルなはず。もしそうじゃなかったら、下手すりゃ世界が終わっちまう。
「身体を乗っ取られたのが前世の結末なんだ。おそらく魂にまで浸食は伸びてたから、残滓はあるかも知れん」
「完全なコピー品ってわけじゃなく、部分的に実物も使われてんだね」
偽物で一番厄介なのってさ、そういう奴なんだってよ。本物を2つに分けて、まがい物と混ぜる。
「使いどころかぁ」
「映世での活動だと、負けてリスポーン地点にもどるか、こうやって帰還するだけだからな」
撤退時に無理して使ってもらう必要もない。
「意識を保ててる間に敵を倒して、俺らで報酬をさっさと回収しちまうって感じ?」
「さっきの状態ですら抵抗はあまりできなかった。精神バフ込みだとしても、実際に戦っている最中となれば、たぶん10秒も持たんよ」
時間の経過で段々と強くなってる感じだった。
「その10秒でボスを倒し切れるなら、たぶん使わなくても俺らだけで終わらせられるよ」
あともう一つ、大きな問題がある。
・・
・・
今日は俺の家で勉強をすることになっていた。
帰宅したのち。
「どうぞ上ってください」
「お邪魔します」
スリッパを用意する。
母が晩飯の支度をしていたので、宮内と挨拶を交わしたのち部屋へと招く。
「すまんな、晩飯までご馳走になって」
「お気になさらず。母上もお喜びでしたから」
父ちゃんトラックの運転だけでなく、積み込みなんかもやってるから、休日以外は家じゃ寝てることが多い。
最近は姉がいないので俺と2人、もしくは1人での飯が多かった。活動に夢中な息子でごめんよ。
2階の部屋に到着する。
「ギン兄お帰り」
美玖ちゃんと2人でゲームをしていたらしい。
落ちゲー得意だって聞いてたけど、あんま集中できなかったようで、ケンちゃんの方に勝利の文字が浮かんでいた。
彼女は俺らを見て、ふんっとそっぽを向く。
「えっと……その」
「まあ、なんだ。実戦での使用は難しそうだ」
美玖ちゃんは〖夕焼けに染まる〗を使うことに反対で、検証もやめておいた方が良いとの意見だった。
「浦部さんの予想どおり、再現しただけのスキルでしたか?」
「さすがに本体はいませんでしたよ」
本音を言えば〖暗黒の戦槌〗も嫌なんだろう。
「確かに残りカスみたいなのは感じたけどな。もし本当に危険なスキルだったら、運営がそもそも用意しなかったはずだろ」
「使わないって決めたなら、それで良いですけど」
ケンちゃんが空気を読んで動いてくれる。
「じゃあ、そろそろ勉強しようよ」
一回は検証しとくべきってのが俺の意見なんだが、美玖ちゃんを怒らせてしまった。
「修学旅行中とか、近くに私がいない場所じゃ使っちゃ駄目だからね」
たぶん〖真・雷光剣〗って、始まりの精霊と深い繋がりがあるんだろうね。
・・
・・
食後、ケンちゃんは一足先に帰宅する。
2人は電車の予定だったけど、うちの母が送っていくとのことで、俺らは庭にでて準備が終わるのを待っていた。
「あーあぁ、浦部さんなら折れてくれると思ったのになぁ」
「浦部は優先順位とか、そういうの決めたら曲げないぞ」
えっ そうなの。初耳なんすけど。
「神崎先輩と槙島先輩も言ってましたね。東京行くときも親の許可は絶対だって」
「けっこう詰められましたけど、そこ譲っちゃ駄目ですよ。俺ら未成年ですし」
俺って融通が利かない人間なのだろうか。
自分に厳しいなんて全くないぞ、むしろ自分には甘々だもの僕ちん。
まあでも1年のころは使命に没頭してたっていうし。
「固執しちゃうとこもあるんでしょうかね」
周りが見えてなかったのは確かだろうな。
たぶん嬉しかったんだろう。自分が何もできない無力な人間じゃないって思えてさ。
中二病が完治するくらいには、挫折の多かった思春期でした。
「私が可愛くお願いってしたら、うへへって腰をクネクネさせてさ。美玖ちゃんの言う事なら何でも聞いちゃうって、鼻のした伸ばしながら応えてくれると信じてたのになぁー」
「えぇ、俺って美玖ちゃんにそんな見られ方してたんすか」
「さすがに言い過ぎだと思うぞ」
はいはいごめんなさいと、心のこもってない謝罪を受けたのち。
「……悲しい結末に突っ走るのだけはやめてよ。もう本当に」
「そうだな」
ヤバイ存在を倒すために、兄は時空盾の力を頼った。
なんとか目的は達成できたけれど、弱まってしまった封印に少しずつ蝕まれ、妹に雷光剣を残して未開の地へ消える。
宮内から聞いた内容はこんな感じだったかな。




