7話 荒木場高校外周
宮内の提案で、今回はすぐに撤退できる外周での活動と決まった。
「やはりあの狼は厄介だったんだな」
「雷門で戦った大猿くらいには強かったよ」
スキルの数なら猿だけど、身体能力は狼の方が上かね。
俺たちは校庭やテニスコートで何度か戦った。
敵のパッシブによる強化もあるけれど、初戦ほどには苦労もせず。まあテニスコートの敵はマイナス3から5くらいだったんだけどさ。
次は道路向こうの体育館やグラウンドに行こうと決まり、そちらへの移動中。
「あっ、こっちから歩道橋あがれるよぉ」
校舎の側面。
「せっかくだし使ってみましょう」
「狭いスペースってのは怖いんすけどね、ちょっくら行ってみますか」
隙間から下が見える階段は、所どころに錆も見えるが丈夫な作りだった。
「ここから校舎の2階にも入れそうじゃん」
扉を開き中を覗く。
「うちとそんな変わんねえかな」
「幅は広くなってるか」
やはり空間は現世と異なっているらしい。廊下の突き当たりはかなり遠い。
「体育館の2階にも繋がってるみたいですね」
校舎内には入らず、道路の向こう側を目指す。
中腹あたりまで到着すると。
「やっぱそうきたか」
宮内は〖守護盾〗を全員に発動させる。
「挟み撃ちされちゃったねぇ」
「巻島さん、頼んます」
目を向けると、うなずきを返された。
「囲み返しちゃる」
〖天使〗と〖赤鳥〗を召喚して、上空から回り込ませる。
「ベルっちお願い!」
〖妖精〗もそっち方面を受け持つようだ。
「鎖の選択は浦部に任せる。宮内は触手でベルっち側のヘイトを稼いで!」
「わかった」
触手を3体の敵に放つ。
4本目の〖触手〗は〖赤剣〗を掴み、盾鞘の〖仕込み短剣〗には〖青剣〗をまとわせた。
《仕込み短剣と青剣が重なると守り三種強化(大)》
《盾鞘に収まった状態で青剣が重なっていると身体強化(大)》
冒険者風の両手剣持ち。身体が赤く光る。
盗賊風のナイフ持ち。腰には短剣で、ベルトのホルダーにはナイフが幾つか。ブーツが黄色く光る。
重装備の兵士は両手に戦槌を握る。身体が白く光っていた。
「美玖ちゃんとサトちゃんは逆側で、浦部はアタシと!」
盗賊は〖触手〗を回避して歩道橋の柵に飛び移った。
「今回は蓄電鞘にしますので、これお願いします」
「あいよ」
巻島さんに一点突破の槍を渡す。
敵も俺らの様子を見ていたのだろう。司令塔である彼女に向け、盗賊がナイフを投げるが、〔緑鋼の小盾〕で弾き落す。
「神崎さん、突っ込む前に叫んでくれ」
「あっ そっかぁ」
戦叫は範囲があるんでね。
「〖うぉおおおおっ!〗」
赤い光が周囲に広がり、戦意高揚と身体強化。
ゴブリンは両手持ちの短い槍。武器が黒く光る。
魔法使い風の女。杖が青く光る。
犬顔の二足歩行は片手剣。身長は150ほどか。全身が赤く光る。
「コボルトを狙って、美玖ちゃんはゴブリン!」
「さて俺はっと」
宮内に〖白と青〗。美玖ちゃんには〖赤と青〗。神崎さんは〖黄と白〗。
「浦部はベルっち側を見て」
「へい」
重装備の男が宮内に接近すると、両手持ちの戦槌を振りかぶるも、〖時空盾〗で問題なく受け止めに成功。
盗賊風の男がすぐさまナイフを投げるが、位置的に〖渦〗の範囲内。
「茶色だからそのまま来るぞ!」
「わかった」
ナイフは〖青剣〗に防がれ、触手に掴まれた〖赤剣〗が盗賊を狙うも、再び飛び跳ねて回避される。
だけど〖触手〗はしつこく追撃していた。
「やっぱまだ弱いな」
〖人造天使〗が冒険者の両手剣を盾で防ぐが、〖性能強化〗を使った上で押しこまれていた。
側面から〖赤鳥〗が攻撃するも実体はなく、そのまま通過する。
炎上に成功。熱感の付属とHP秒間ダメ。
「行けるか」
冒険者に向けて〖赤の鎖〗を射出した。
旋回する途中。妖精が〖ナイフ〗を転移させ、〖炎鳥〗に強化する。
「浦部上っ!」
見上げると【氷の塊】が頭上に浮かぶ。
「水耐性に変更」
本来は氷でなくても、あの重量だと水が落ちてくるだけでヤバイんだけどね。プールのでっかいバケツとか、分散するための板が下に設置されてるじゃん。
「しゃがんでください!」
〖風の盾〗を斜めに構え、さらに突風を表面より放つ。
氷塊は地面に落下すると砕けて散った。
破片も残ってはいない。
受け止めたときに腕と肩が白く光っていた。
「HPがなけりゃ、肩とか外れてたかもな」
「クロちゃんお願い!」
出現した〖黒豹〗は盗賊よりも素早い身のこなしで柵に飛び乗ると、魔法使いに向けて飛びかかる。
《黒豹の攻撃部位に物理強度(大)》
コボルトは神崎さんが押していた。
ゴブリンの突きを〖守護盾〗で防ぐと、少し横にそれてから〖雷光剣〗の切先を向ける。しかし短槍の柄を操作して剣を上に弾く。
「強くね?」
「そうなの、アイツ動きが凄くキレキレでさ」
パッシブも槍の浸食だから、身体強化とは違う。
「ゴブリンつったら、スライムの次くらいに弱い魔物なんだけどな」
まあそんなこと言ったら、強いスライムもいるか。
俺は宮内の方に集中する。
〖戦槌の影〗が顔にまで到着し、身体強化が1段階強化された様子。
「初戦よりも進行速度が遅いな」
浸食耐性だけでなく、精神状態なんかも関係すんのか。それでも宮内には〖黒鎖〗を撃ち込んでおく。
「サトちゃん、屈辱の角まだ使えない?」
「まだテンション足りない!」
強敵戦のほうがやっぱ戦意も上るんかね。
盗賊は〖触手と赤剣〗に意識を向けているので、頃合いを見て〖黄鎖〗を放つ。
「天使やられたな」
炎鳥は少し前に消えており、冒険者は宮内の方へと足を進めた。
それでも時間稼ぎという役目は果たしたようだ。
「テンさんよく頑張った」
第3の目でもあるのだろうか。
「トリ兵衛さん来てっ」
頭上に赤い光が集まれば、鳥の形になって空を駆ける。
宮内が叫ぶ。
「なにか使ってくる!」
重装兵の戦槌が【赤く光る】と、続けて燃え上がった。その一撃は障壁を突破して〖時空盾〗に直撃する。
盾ごと前腕が炎上。
「宮内くん、いったん下げるぞ!」
「了解」
〖巻き取り〗で各鎖の時間を延長をしたい。
「ついでにデバフ治療する」
白鎖《鎖解除でデバフの治癒をすると、自分と味方の身体強化(中)》
熱感は収まったはずだけど、左手は炎上したままか。
「あと美玖ちゃんの守護盾を掛け直してくれ」
「わかった」
守護の装飾品がリセットされるんでね。
宮内は下がった隙に戦槌を腰ベルトへ戻す。〖鞘〗から〖雷光剣〗を解き放てば、扇状の〖雷撃〗が放たれる。
〖妖精〗も〖赤鳥〗も浮いており、歩道橋の三体に直撃した。
兵士はHP0。残りの2体はまだ削り切れておらず、盗賊は感電にもなってないようだ。
「もしかすっとパッシブにゃ、各色の耐性があるかも知れんね。あと総HPも通常難度より多い」
「そうなら面倒だね」
俺が盗賊と繋がっている〖黄色の滑車〗を指させば、巻島さんは手に持った槍で破壊する。
「浦部やれば良いじゃん」
「いや、なんと言いますか」
実戦で使うと体に染みつくかなと。
「あっ 美玖ちゃん蓄電鞘完成した」
〖避雷針〗のエフェクトが向こう側に出現しており、鞘から電撃が放たれる。
魔法使いはHP0になり、負傷もしているが直にクロちゃんが消えてしまうか。
「美玖ちゃん後衛を電撃で狙って、痺れさせるだけでも良いから」
ゴブリンの足払いを〖青大将〗が氷で防ぐ。
「はいっ!」
〖鞘〗が魔法使いに向けて動き出す。
「浦部は宮内側に集中して」
「すんません」
剣よりも戦槌の方が重装備には有効と判断したのだろう。打撃が相手の装甲を陥没させる。
盗賊のナイフが彼を狙うけれど、〖青の浮剣〗が弾き落していた。触手に掴まれた〖赤い仕込み短剣〗を【短剣】で凌ぐ。
冒険者の方に意識を向ける。
「巻島さん、妖精にナイフを!」
〖炎鳥〗の特攻を両手剣で防ぐも、冒険者は鉄靴の底を削りながら後退。
「りょ」
《精霊具現化中の効果が妖精にも乗る》
彼女と妖精は姿が消えているけれど、互いの位置関係も把握しているのだろう。
《精霊の加護で姿消えてる時に、気づかれないで攻撃するとHPダメ増加(レベル比例)・姿が消える時間3秒増加》
相手の脇腹に両手で抱えた〖ナイフ〗が突き刺さり、冒険者のHP0。意識がそっちに反れたこともあり、〖炎鳥〗の嘴が両手剣を突破した。
戦いは未だ続く。
「勝負を仕掛けたな賊さん」
盗賊は〖赤い仕込み短剣〗を無視して、宮内へと【黄色く光った短剣】を構えたまま急接近する。
無理やりの行動で〖短剣〗が刺さり、HPは0となるけど肉体は未だ健在。
「させっか」
脇差からの〖一点突破〗で横から盗賊を突き抜け、〖衝撃波〗で吹き飛ばす。
こちらが片付いたこともあり、少しして決着がつく。
「スキル玉も武具もなしかぁ」
ビー玉の回収を終えたのち、俺たちは体育館に向けて移動を再開する。
片側が体育館の窓となっており、そこから中を覗けた。
「すげぇな、2階席つきかよ」
うちのは柵付の通路だけで、椅子なんて設置されてない。
「エアコンも新しいな」
ドアを無視して真っ直ぐ進めば、地面に下りるための階段がある。
「中に入るのは止めておくか」
時間的にもう部活が始まる頃だ。
神崎さんがドアから中を覗き込む。
「あっ 宝箱発見っ!」
満面の笑顔で振り返ると、見てみてといった様子で一歩さがる。
皆が揃って中を確認しようとしたので、ごっつんこしてしまった。ちょっと恥ずかしい。
「行くか」
「すっごいワクワクします」
鍵はかかっておらず、ゆっくりとドアを開ける。
細長いベンチが3列あり、扉の前は階段になっていた。その先に宝箱が設置されている。
「体育館にファンタジーの宝箱って、なんか凄い違和感がありますな」
神崎さんは前にでて。
「わーい」
「ちょっと、罠とかあるかもでしょ」
誰も解除とか確認のスキル持ってないんだけどね。
「じゃあ鎖ちょうだい、なんかあったら解除してぇ」
「へい」
〖青と白の鎖〗を放つ。
「守護盾も使うか。っていうか耐久的に俺が開けるべきでは?」
「やだー 私開けたいもん」
「もう、サトちゃん」
「神崎先輩、頑張ってください」
胸の前で手を擦ったのち。
「いっくよー」
カチャっと外して、宝箱を開放する。
「罠はなしか」
「スキル玉と、10万って書かれた木札だね」
姿見に入れるとポイントになるんかな。
「2万で山分けでいい?」
「ですね」
スキル玉を手に取り。
「炎の斬撃(剣)だってぇ」
「宮内君が喰らった【戦槌】の剣バージョンか」
〔失われし英雄の剣〕
〔受け継がれし宿命の剣〕
〔鉄塊の大剣〕
俺の脇差は駄目みたい。
「ジャンケンして勝ったのはお金なしでいいんちゃう?」
「だねぇ」
「まあそれが無難か」
「了解しましたぁ」
宮内はそう言いながらも腕を組み。
「基本、剣を抜く時は雷光剣なんだよな」
「〖前世のスキル〗にビー玉枠があるんで、やろうと思えば属性もつけれるんですよね」
2人は神崎さんに譲ることにしたらしい。
「本当に良いの?」
「どうぞどうぞ」
「構わんさ。ただ雪谷が参加する時は、一時的に貸したりもしてやって欲しい」
ケンちゃんは細剣だしな。
「うん、わかった。ありがとねぇ」
〖炎の斬撃(剣)〗
剣身が燃え上がり、斬ったさいの切断線。または傷から炎上する。
弱の熱感。HPダメ(小)。
使用後10秒間身体強化(極小)
冷却15秒。
その時だった。体育館の中に生徒の影が出現。
巻島さんが姿勢を低くとり。
「みんな屈んで」
「ミノタウロスか」
「まだこちらには気づいてないな」
「すっごい強そう」
オーガよりも頭一つ大きい。
「得物はハルバートってやつですかね?」
「ハルバードな」
美玖ちゃんは宮内を睨みつける。
「俺もガントレットかガンドレッドか分かりませんよ」
「ですよねえ」
にっこりと微笑まれちゃった。うへへ。
「あんた等、ちょっとは緊張感を持ちなさいよ」
「戦うにしても狭いっすね」
バスケ部とバレー部で共用しているらしく、一つの面にはネットが貼られていた。
巻島さんは少しだけ身体を起こし、そいつを眺めると。
「でもボスで出現する確率は高いんでないかな?」
神崎さんは言うまでもなく、戦いたいとウルウルしている。
「どのみち今日はそろそろ終わる頃相だ」
「そうっすね。修理費は覚悟しときましょう」
「私スキル玉貰ったし、多めに払うよ」
全員の意見がまとまる。
・・
・・
宮内が凌いでいる間に、俺たちは脱出してス―パーに逃げることになりました。夕焼けに染まるは使わないよう伝えておいた。
「すまん」
「兄ちゃんごめんよ」
「今日の晩御飯はアタシらで奢ろう!」
「私も残りたかったぁ」
あの巨体が追いかけてくると、体育館の出入口を壊しかねない。
「牛さんのスキル絶対欲しいっ!」
ミノタウロスが攻撃する前に、大きな牛のエフェクトが突進して一足先に攻撃を仕掛ける。
合成させた場合は、修羅鬼が同じ動作をしてくれるかも知れん。
「ただそうすると、攻猿は消えちまうかも」
「えぇ それは嫌だぁ」
「スキル玉をセットするでも良いじゃん」
次のシーズンに移った時、ビー玉は失われるらしいけど、幾つか持ち越せるとも姉ちゃんの姿見に書いてあった。
ゲットした〔武具〕や〖スキル玉〗はレベル1になるけど残るし、ショップで買うことも可能。装飾品も同じく。
合成したスキルはどうなるんだろう。
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