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そこに居たはずの誰かへ  作者: 作者でしゅ
六章 楽しい夏休み後編
42/83

4話 上級マップ・浅草雷門付近

各自のスキル内容は麗人戦時と大きな違いはありません。


 決して有料チャンネルなど観覧することなく、東京での朝を迎えた。1人だったら絶対に見てました。


 宮内君は洗面所でハミガキをしながら、鏡を指で操作している。行儀が悪いですよと母親なら怒っていたかも知れないが、俺もよくやるので文句は言えず。


「はいはいお邪魔しますよ」


 備え付けの使い捨て歯ブラシを取る。こういうのなんて言うんだっけ、ユニバーサリーグッツ。いやアメニティだったか。


 彼はうがいをしたのち。


「これを見てくれ」


 言われて覗きこめば、それはなんてことないショップ画面。指で操作してかなり下までスクロールすると、そこには鞘が売られていた。


「もし買えたら、美玖が居なくても真・雷光剣を使えるんだけどな」


「……1千万超えてますよあんた」


 性能は美玖ちゃんのと同じなんだろうか。


「例の武器を買ったあとは、これ目指すのかい?」


「いや、しばらくは他にするよ。ただ妹がいないと最高火力だせないのは不便だなと思って」


 あのビー玉も溶かしちゃったしね。


「美玖の方が雷光剣は使いこなしていた気がしてな、たぶん鞘を入手してもアイツほどには扱えんよ」


 咎人のメイス時に意識が混ざったのと同じ現象が起こったんかな。そういや美玖ちゃん、真・雷光剣の準備中も感電なしって説明欄に記載してあったな、終了後のHPダメはあったけど。


「君の場合はタンクに特化してるから、無理して火力をだす必要もないんじゃ」


 俺の好きなハクスラってのは、ソロでも戦えるのが全キャラの特徴だ。攻撃守り回復など、誰かと組んでも役割を分担することはあまりない。


「あの盾、なんかヤバイのを封印してたね」


「そっち系が生身に通じる攻撃スキルってことか」


 うなずいてハミガキを始める。


「ビー玉での調整は必要になってくるよ」


 敵の攻撃に耐えられる防御や回避手段を用意して、敵を削れる攻撃手段を用意する。魔法使いも戦士も両方同じことが可能。


「ただ超火力スキルってさ、疲労みたいなデメリット付なんだよね。上級ソロを目指すなら(小)にはしたい」


 赤く染まった空。


「俺は安定したタンクを選んだ方が無難か」


 その方が助かるのは確かだけど。


「選ぶの宮内君だよ」


 1日じゃそこまで伸びないけど、せっかくなので髭剃りもしちゃおっかな。グッツあるしアメニティ。


・・

・・


 ホテルの朝食をいただき、準備を済ませ女性陣と合流する。


 今日は活動が目的なので、皆はオシャレよりも動きやすさを重視した服装だ。


「よく眠れましたかな」


「はい、昨日歩き回ったし、けっこう疲れてたみたいです」


 俺も肉体的には疲れちゃいないけど、気づかれした所為かすぐに寝ちまった。


 まだ眠そうな神崎さんを揺すっているマキマキ。

 宮内と2人で朝の挨拶をする。


「ほら全員揃ったよ、そろそろシャキッとしなさい」


 ふへぇ おはよ~ ってな感じの可愛い挨拶を期待していたのだが。


「……おはようございます」


 テンション低。


「昨夜中々寝付けなかったみたいでね」


「はい。興奮が冷めず、お見苦しい限りです」


 神崎さん最近は何時もハッスルしてたから、少し新鮮な気分になった。


・・

・・


 ちょくちょく東京に来てるお二人も、寺社観光の経験はないようでした。

 俺は最初に巣鴨を思い浮かべたんだけど、客層の年代的に魂の汚染は少ない。


「ふへぇ 大きいねぇ」


「一度は展望台まで行きたいよね」


「エレベーターがすげぇ豪華らしいっすよ」


「へえ、そうなんですね」


「夕方になると太陽を背に、タワーの影が街に描かれるんだってな。もしいつか行くならその時間帯が良いか」


 目的地の最寄り駅はそのまんまだけど浅草駅という。革ベルトを装着してから、リュックなどはコインロッカーに預ける。


 マキマキは手に持った袋を握りしめ。


「うぅ、私大丈夫かなぁ」


「堂々としててください、逆に怪しいっすよ」


 すぐには取り出せないようにしてあるけど、彼女は鉈を持ち歩いていた。


 俺らが目指しているのは雷門前の広場だ。


 ここからでも大きく映るスカイツリー。


「まずはトイレっつうか鏡の場所を把握しときましょう」


「はーい」


 そこら辺の一般客が入れる建物に行き、男女別で便所がある位置を数か所探し、そこを進入兼脱出地点の候補とする。コンビニとかだと少し狭いかな。


・・

・・


 事前の確認作業を終えた俺らは、予定どおり門前の広場に到着する。時刻は9時半をまわり、段々と熱くなってきた。

 立ち止まっても邪魔にならない位置を探す。


「おぉ テレビなんかでよく見る奴だぁ」


 左右におっかない像を侍らせた、雷門と描かれているでっかい提灯。


「これなんの石碑ですかね?」


 広場には柵に囲われた細長い四角の石が設置され、漢字でなにか書かれていた。


「坂東礼所第十三……すんません、俺にもよくわかんないや」


「他には緑屋根の交番」


「見るな、職質されたらどうする」


 宮内の冗談にアハハと笑うマキマキ。目は笑ってない。


「浦部さん大丈夫ですか?」


「ありがとう。でも昨日で大分慣れましたよ」


 もちろん超有名なスポットだ。世界中からの観光客が集まって、もの凄い人込みとなっている。

 異国の地に旅行ってのは楽しいから訪れているんだけど、やっぱストレスも多いはず。


「ここで戦って石碑や交番が壊れたら困りますね、車道のほうで活動しましょうか」


 同じ理由で雷門は潜らない。だって向こう側には土産物店とか並んでるんだもん、危ないじゃん太志みたいのに壊されたらさ。


 宮内は手鏡をすでに確認していた。


「数値はマイナス8だ」


 寺が近くにあるからこそ、この数字で済んでいるのだろうか。浅草駅で確認した時はもっと低い数字だった。


「活動けってーい」


 嬉しそうな神崎さん。


「緊張する」


「私もです」


 その反応が普通ですよ、俺だって上級は始めてでドキドキしてるもん。


「じゃあ行くか」


 皆でうなずき、近場のトイレつきの建物を目指す。


・・

・・


 映世に移ると、洗面所の鏡にメッセージが表示される。


『雷門の前にボスが出現しますので、そこを目指してください』


 なるほどね。


「運営が指定してきましたか、報酬期待してますぜ」


「いよいよ上級本番だな」


 雷門から少し離れてしまったが、数値はマイナス8のまま。


「こっち無事なのあるよ」


「男子トイレも曇りだけだ、これならシート使わないで済む」


  曇り取りも持参していたので助かった。


 美玖ちゃんが恥ずかしそうにこちらへ顔だけ覗かせると。


「雷門前にボス出るってありましたけど、男子トイレにもメッセージでましたか?」


「適当に動き回るより、目的とかあったほうが動きやすいんで助かりますよ。そこまで行ったら、脱出って感じっすね」


 巻島さんが緊張した声で。


「じゃあさっさと外にでよ。店内で敵が出現したら大変だもん」


「りょっうかーい!」


 活き活きしてますね神崎さん。


「待ってください、HP0時の項目もあります」


「どうするか。敵が強くなるとかじゃないんだよな」


「報酬増えるんだし入れようよ!」


「えぇ 上級初挑戦でいきなりぃ」


「うーんどうしましょう」


 腕を組んで悩む美玖ちゃん。


「明日はさすがに休む予定ですし、まあ問題ないんじゃないっすか」


「こことは別のリスポーン地点に飛ばされるってのを避ければ良いか」


「それならまあ、いいかぁ」


「そうですね」


「やったー!」


 そこまで大きい建物じゃないので、敵が出たら普通に品物が壊れそうだ。


「じゃあこのHP0になったら、1日報酬半減ってのにしましょう」


 皆の了承をもらったので、さっさと外に出ようと伝える。


「歩道じゃなくて車道を進むぞ」


「見てください、車道からのほうがタワーよく見えますよ!」


「誰もいない都会の町並み。最高っすね」


「浦部はそっちなんね」


 こういったノンビリなやり取りは、もうさせてもらえなさそうだ。



 皆で車道に出ると、さっそく複数の影が車や歩道より出現した。


「美玖さん、蓄電をお願いします」


「はい、了解しました」


 〖蓄電の浮鞘〗 鞘に帯びる雷が徐々に強烈なものへと変化する。完成までに30秒を要する。

 最大電撃数15。


 敵のもとに鞘を移動させ、弱か並の感電とHPダメ(小か中)。

 雷光剣に落せば10秒のあいだ感電確率を上昇。

 自分に落すと素早さ関係強化(小)。

 〖白銀の鞘〗使用不可。

 ソケット1

 《味方に落すとHPダメ軽減(中)と素早さ関係強化(中)・鞘の飛行範囲増加(中)》


「宮内君、守護盾を俺以外の3人に頼む」


「了解」


 精霊の装飾品はすでに3人が買ってしまっており、全員に憑依させることもできないので、今日までに美玖ちゃんが用意したのは〔守護者のブローチ〕だった。


 ちなみに彼女のやつは。

〔蓄電鞘の装飾品〕《〖蓄電鞘〗の範囲内にいると疲労回復(小~大)・ランダム効果》


「ええっと、強度が中で一回防げるんだっけ?」


「そうだ。お前の鞘よりも性能は低いから、あまり過信するなよ」


 残りの効果は《〖浮鞘〗盾型障壁の物理・属性強度中増加》


「みんな来るよっ!」


 数は全部で7体と、俺らよりも多い。


「一番遠いのを精霊で足止めしてくれ。宮内は近い数体にヘイトスキルを頼む」


「わかった。クロちゃん行って」


 〖黒豹〗がオーガに向けて走り出す。確かに大きさは修羅鬼と同じだけど、威圧感が神崎さんとは全然違う。


「無視して抜けてきたらナイフ転移させるで良い?」


「それで頼んます」


 宮内は人狼と鈍器使い、弓使いへ向けて〖触手〗を伸ばす。本当に追尾機能は便利だよな、俺も欲しいわ。


「狼には避けられた」


「神崎さんはそいつを頼んます」


 彼女に〖赤と白〗を1つずつ。


「任せて!」


 〖叫び〗と共に〖修羅〗を背負い、一気に駆け抜ける。


「美玖さんは巻島さんの護衛。帯電完成後はどんどん落としてください」


「はい!」


 俺は歩道に佇む文官風の男に目を向ける。


「珍しいな」


 マキマキは俺の発言を受け、そちらに気づいたようで。


「戦闘職が優先されるんだよね、普通は」


「よっぽど活躍したってこんだ」


 戦の裏方を担当していたのか、彼は他の連中にサポートスキルを使っていた。


 大鬼は【豹】を無視せず交戦開始、巻島さんはいつでも〖ナイフ〗を転移できるよう備える。


「オーガへの対応はトリ兵衛さんとクロちゃんを交互に当ててくれ、青大将は神崎さんに憑依でお願いします」


「OK」


 〖青人〗が神崎さんの後を追う。


 【赤い矢】がもの凄い速度で宮内に放たれたが、〖青い仕込み短剣〗がそれを防ぐ。鈍器使いが回り込んで得物を振りかぶるも、難なく〖障壁と時空盾〗で弾き返した。


「宮内は黄色で良いか!」


「それで頼む」


 動体視力と素早さで凌いでくれ。


 ここは車道。

 宮内や神崎さんが戦っているのが雷門方面だとすれば、その逆からも敵は迫る。


 背後から短剣と突剣を左右にもった二刀使いが迫って来た。銃持ちの軍人も控えている。


「俺も出ます」


 〖白〗と〖青〗の鎖を両者へと放つが、やはり遠距離だと簡単に避けられてしまう。


 左手に握った脇差を構え、俺は二刀使いに向けて〖一点突破〗で駆け抜けた。鎖を回避してすぐの隙を突き、心臓部に銀色の光が発生。

 〖衝撃波〗が相手を吹き飛ばす。


 軍人の銃口が【茶色】の火花を連続で発する。〖法衣〗の渦により軌道がそれるかと思ったが、【重い弾丸】に変化したのか俺の身体に何発か命中。


 ダメージもそれなりだね。


 前方に無色の〖滑車〗を出現させ、それを俺へと打ち込み〖巻き取り〗を起動。


 姿勢安定の効果もあり、引き寄せられた勢いを利用して一気に軍人へ接近。

 〖無断〗で相手の守りを低下させたのち、〖メイス〗を銃ごと胴体に叩きつけ、脇差の柄尻を側頭部へとぶち込む。


 遠距離の敵だけあり、先ほどの攻撃でHPを0にしたらしく、柄尻で殴ったカ所からは出血を確認する。

 一度蹴って遠ざけたのち、重くした〖メイス〗でヘルメットを叩き落した。


 振り返ると、すでに2刀使いは起き上がり、美玖ちゃんへと駆け始めていた。


 【突剣】が黄色に輝くと、両足も光って一気に接近されたが〖守護盾〗で受け止める。そのまま短剣で彼女へと斬りかかるも、〖片手剣〗で押し返す。


 巻島さんの姿が〖消えて〗いた。


 背後に回り込んだと思われ、2刀使いは背中を鉈で叩きつけられ姿勢を崩した。片足を踏みだして耐え凌ぎ、振り向きざまに〖突剣〗を押し出すが、すでにそこにはいなかった。


 攻撃したらすぐに離れる。これがマキマキのポリシーだ。


 もう30秒は経過していたようで、〖鞘〗を操作して〖雷〗を落とす。


「任せられるな」


 俺は全体を見渡す。〖鞘〗や〖剣〗の感電を受けても敵は問題なく動ける様子。


 宮内は2人相手でも問題ない。時々弓使いは神崎さんに意識を向けるが、けっきょく矢を放つのは〖憎悪〗の対象だけ。

 遠距離攻撃には〖青い浮剣〗が自動で対応してくれるらしい。


 〖青人〗の守りを得た神崎さんに、人狼は片方の爪を砕かれている。すでに敵はHP0だし、こっちも彼女が押してるな。


 オーガも〖クロちゃん〗と〖とり兵衛さん〗さんが順番で対応しているため、宮内に接近はできていない。


 それでも敵はまだ崩れていない。

 全ての敵が【青い防護膜】をまとっており、もしかすると属性や状態異常の耐性が付いてんのか。


「裏方は重要な仕事だからこそ、野放しにはできんわ」


 前方に〖無色の滑車〗を出現させ、〖巻き取り〗の勢いで歩道へと急加速。


 文官姿の敵は俺に気づいて身構えるけど、戦闘能力が低く倒すのは簡単だった。


 闇に包まれた相手は地面に倒れたまま。


「こりゃまた珍しい」


 高齢の男性。こんな歩道が印象深いのか、それとも近くの建物か。


「浅草って場所なのかね?」


 彼はそのまま闇となって消えた。

 問題の改善解消はできなかったか。

 

・・

・・


 明らかに敵の動きがそれからは悪くなった。〖蓄電〗の完成もあり、こちらが一気に優勢。

 

 俺の〖重力場〗がオーガを押えつける。修羅鬼なら動作阻害を受けても、無理やり大剣を振るっただろう。

 動こうと【赤い光】をまとうけどもう遅い。


 毎度お馴染み、神崎さんの歓喜乱舞で最後の一体を仕留める。


「ひゃっはぁー!!」


 額当から発生しているツノが、一瞬モヒカンに見えた。


 宮内は肩で息をしながら。


「さすが上級だけあるな、中々に強敵だった」


 質より量って感じだったな。こっちより2体多いだけでけっこうキツイ。


「ほいこれ使え」


 〖黄色の鎖〗を放つ。


「浦部くん、私もハシャギ過ぎちゃったよぉ」


 宮内ほどじゃないけど、彼女も少し疲労したようだ。


「喜んで。あともしかしたらさっきの文官、迷い人かも知れない」


「えっ、そうなんですか?」


 確証もないんだけど、そんな気がした。


「相手が戦闘職じゃなかったのが幸いだったか」


「そもそもこのメンバーが強力な前世持ちってだけで、本来は迷い人もそこまで強いとは限らないんじゃねえかな」


 ストレスの蓄積度合いで強化されてはいたけど。


「なるほどぉ」


「たしかに大堀や細川の方がやばかったよ」


 鎖の制限時間が終わるのを待って、俺たちは移動を再開させた。


・・

・・


 2から3分ほど経過しただろうか、巻島さんは引きつった表情で。


「スタミナ系のポーション飲んだ方が良いね」


「えっ もうですか?」


 今までは10分に一度遭遇すれば早いという認識だった。


 宮内は〖浮鞘〗に挿入されている剣の柄を握り、〖黄剣〗を発動させる。


「雷門までたどり着けるだろうか」


「姉に言われて、買っといて正解だったな。脱出時はあれを使おう」


 人口密度の高いエリアなので、それだけ連戦になると教えられた。


 敵避けの香水。爽やかな香りをあなたに。

 30分間、敵の出現確率が減る。使用回数は30回で、お値段なんとお手頃の39800円。


「5人だから6回ぶんかぁ」


 皆で乾いた笑みを浮かべた。


「ほら、気を持ち直すぞ。敵は全部で6体、見落としがないか探してくれ」


 補助が主なんで戦闘中は俺が指示だすけど、もちろん僕らのリーダーは宮内くんさ。

 あと今回の東京遠征で気づいたけど、現世では巻島さんかね。


 まあ俺がそう思ってるだけで、誰が仕切るとかは特にない。

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