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そこに居たはずの誰かへ  作者: 作者でしゅ
五章 楽しい夏休み前編
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2話 宮内感謝Day

 最近は色々と活動する場所を模索しております。


 魂の汚染は40代以下が中心となれば、病院は果たして上級ダンジョンに変化しているのか。

 連休中は学校もやってないし、寮生とかも部活によって違うかもだけど帰省しているだろう。


 それともう一つ懸念があるとすれば、映世と現世には繋がりがある。

 病院とかで何か壊してしまい、現世の機器に不調がでても困るんじゃないか。修復ができたとしてもさ、精密機械ってどんくらいの値段になるんだろう。


 まあそんなことを言ったら町中の信号機とか含むので、とても活動なんてできなくなるんだけど。そこら辺は運営、上手いこと調整してください。


 これらの理由から。


「もし夏休み中に都会へ出るとして、どこかお勧めありますかね。手始めはマイナス1から10までと考えているんですが」


「都心はどこもそれより低いのよね」


 映世がどういう仕組みなのかわからんけど、単純に人の多さやストレスだけで難易度が決まってるわけじゃないのかも。


「朝の駅とかは絶対ダメ。特に月曜日」


 ですよね。


「金曜の夜は逆に良いとか?」


「その通りよ。場所によっては上級じゃなくなる」


 なるほど。


「あんた覚えてないと思うけど、去年は住宅街で活動したのよ」


「えっ そうなん」


 まったく記憶にないんだけど。

 なんでも会社勤めは職場に行っており、学生は学校にいる。いや、夏休みだしそうとは限らんか。


「主婦層や引きこもりでもターゲットになさい」


 亭主関白が当たり前だった時代。

 家電なん揃ってなかった昭和初期。女性が外で働く余裕なんないだろとは何となく思う。


「育児疲れとか?」


「知らない。いろいろ大変なんじゃないの」


 今の専業主婦がどうかなんてさ、一学生でしかない俺や姉には分らんわな。うちは両親が共働きだったもんで。

 ただコミュ弱な私からすれば嫁姑問題とか、ママ友付き合いとか想像しただけで死ぬわ。


「そういや婆さんと母ちゃんって仲良かったのかね?」


「なによ急に。お葬式のとき泣いてたし、悪くはなかったんじゃない」


 子供の目線からじゃ解らんけど、喧嘩しながら介護してたのだけは覚えてる。

 最後は老人ホームだったけど、月になんどかは面会いってたな。付き添ったことあったわ。やっぱ喧嘩してたね。


「育児じゃ公園かね。いやでも悩んでんのは家の中か、引きこもり含めて在宅中の影がでてくるん」


「ツチノコ狩りでも活動したんでしょ。駐車場周辺で戦ったそうだけど、実際には山道や展望公園にいた時間の方が長くなかった?」


 言われてみれば確かに。

 じゃあなぜ駐車場に集中して敵が出現したのかと言えば。


「運営が調整してくれると」


「引きこもりもこのままじゃダメだと悩んでいる人は多いから、意識は外に向いてる場合もあるのよ。部屋と行き来してるわけね」


 苦しいのは家族だけじゃなく本人もってことか。迷い人になってれば、もしかすると改善に繋がるかも知れんね。

 映世は誰もいないし、お金も一応稼げるしで。だた問題は都会って活動難易度が高い。


「住宅街か。候補に入れとくわ」


「あとは大きい寺社の周辺ね」


 でっかい提灯が脳裏に浮かんだ。


 勉強になりましたお姉たま。


「お礼に手鏡を買いましたので、良ければお送りいたします。お誕生日のプレゼントですので、遠慮せず活動にお使いください」


「あら、いつからあんたそんな可愛い弟になったのよ」


 僕は昔から可愛い弟です。お姉ちゃん大しゅき。


「そういや姉ちゃんの武具ってなんなん?」


「〔闇明りのランタン〕と〔墓守のスコップ〕」


 おいおい、これまさにあれだよね。

 ハクスラの王道。


「ネクロマンサー?」


「ただの墓守よ」


 お姉ちゃん怖い。


「じゃあ、また連絡します」


「頑張りなさい、無理しないことね」


 スマホをタップして一息つく。

 人間。いつどうなるかわからん。

 就職で精神を病んで引きこもるかも知れん。

 虐めで学生からそうなったって人もいる。

 俺だって例外じゃない。


・・

・・


 水曜日はサッカーをしたいとのことで、宮内から連絡がくるまで校庭で待つことになった。もちろん神崎さんは校舎でソロ活中。

 巻島さんはバイトとのこと。


「あれ」


 校庭へ続く階段に座りながら、宮内の妹さんが練習風景を眺めていた。

 声をかけようか悩んでいれば、俺の熱い眼差しを察したのか、振り向いて気づかれる。


「お疲れさんです」


「どうもです、浦部さんはお帰りですか?」


 そんなところだと伝える。


「私は見学ですね」


 今日はお手伝いではないようだ。


 実はあのあと気づいたことがあった。


「そういや神崎さんとも同じ中学なんでしたっけ?」


「ですです、この前は久しぶりに会えて嬉しかったなぁ」


 俺がキモいからじゃなくて良かった。

 妹さんはこっちを向いて、にこっと微笑むと。


「せっかくだから、ちょっとお話しましょうよ」


「えっ 照れちゃうなあ。じゃあお言葉に甘えさせてもらいますかね」


 腰を下ろすときに相手の顔を見ると、その視線はすでにグラウンドへ向けられていた。


 ボールを見つめるその姿が、どこかあの夕焼けを彷彿とさせる。


「もしかしてあれか。サポートよりプレイしたい側の人だったりします?」


「まあ、そうですね。小学校まではやってましたけど、あんま上手くはなかったかな。でもよくわかりましたね?」


 すこし頬を搔き。


「やりたそうに見つめてた人を知ってるんで」


「そっかそっか」


 笑みを返してくれたが、少しだけ悔しそうな口調で。


「私これでも元気づけようと色々やったんですけど、浦部さんすごいですよね。本当に寺社巡りが切欠なんですか?」


 できそうなスポーツの紹介なんかも、俺より先にしてたようだしね。


「勘の良い子は嫌いだよ。だがバレてしまったのなら仕方ない、高校生というのは仮の姿で、人知れず心の闇と戦う正義のダークヒーローなんすよ」


「なんですかそれぇ」


 笑われてしまった。


「人知れずって、兄も家族も知ってますよ。浦部さんのお陰だって」


「でも近頃、精神患う人が減ってるそうじゃないっすか」


 どっかの大学も研究してたりするらしいし、やっぱ気になっている人は多い。

 美玖ちゃんも聞いたことがあると腕を組む。この癖は一緒なんだ君ら。


「先日テレビでやってましたよね。三好兄弟の会社が、それを調べるための部署創設したって」


「そう言えば弟さん病気療養中だったけど、けっきょくどうなったんですかねあれ」


 一時期はそれを苦にしたのか、行方不明になったってニュースで報道されてた。


「無事に発見されてよかったですよ」


 最初は東京のボロアパートから始めた事業を、兄弟2人でちょっとずつ大きくしてったとか、なんかのドキュメンタリーでやってた覚えがある。


「じゃあ去年の秋ごろ、人知れずスッキリさせてくれたのは、もしかして浦部さんかも知れませんね」


「えっ そんなことあったんすか?」


 しまった。実は俺なんですと名乗り出ればよかった。


「ここの文化祭に来たんだけど、それまでずっと悩んでたのが嘘みたく楽になったんですよ。まあたぶん、兄が楽しそうにしてたのを見たからですけど」


 彼女はボールの行方を追いながら。


「浦部さんも1年の時は、兄と同じクラスだったんですよね?」


「へい、今ほど関りありませんでしたが」


 もしサッカーができなくなっても。


「不良になるとか自暴自棄になるとか、兄ちゃんはそこまで追い詰められてはいなさそうだ。そう思ったんです」


「確かにね。だからもし君がサッカーを始めても、彼はとやかく思うような性格じゃないはずさ」


 返答はない。


「下手だとレギュラーは勝ち取れないかも知れんけど、上手くなきゃスポーツする資格がないとは誰もいわないよ」


「でもうちの学校に女子サッカー部ないですよ」


 そうだった。


「県内を探せば、いくつか活動してるとこもあるかと思いますけど」


「いろいろと偉そうに言ったけど、進路だなんだとなんも決められてないんですがね」


 スマホが鳴ったので確認すると、宮内からメッセージが来ていた。


「自分そろそろ行きますんで、気をつけて帰ってください」


「はーい」


 あっ そうだ浦部さんと呼ばれて振り返る。


「連絡先交換してくださいよ」


「うへっ あ、マジですか」


 あたふたしながらスマホを取り出し、言われるままに作業を終える。


「今は特に悩みもないんですが、もし困った時はヒーローに助けを求めちゃおっかな」


「いつも妖怪と戦ってましてね、そのとき余裕があれば参上いたしましょう」


 上級生らしく頑張ったのだけど、けっきょく先輩とは呼んでもらえませんでした。


・・

・・


 もう校庭は赤く染まっていない。持参したサッカーボールの感触を確かめていた宮内と合流する。

 ウォーミングアップはすでに終えているようで。


「俺は大して上手くないから、パスだしくらいしかできんよ」


「それでも助かる」


 こちらへと放たれたボールを足で止め、相手へと蹴り返す。

 10分ほどそれを繰り返すとゴール前に移動して、俺はサイドの位置から走り込んでくる宮内にボールを投げる。

 胸で受け止めて足もとに落し、歩幅を合わせてシュートした。


「かなり鈍ってるな」


「素人目には分らんけどね」


 でも映世で活動しているお陰か、運動不足というわけじゃない。


「パッシブは外してんの?」


「ああ、今のところそれで身体能力に変化はないしな」


 まだ活動を始めて2カ月くらい。現世での怪我が完治したといった報告もない。


「実際のとこ、今の足はどんな感じっすか?」


「パッシブつけてると気持ち違うかなってとこか。ただやっぱ痛みはあるな、前よりもガクッとすることもないし、踏ん張れてはいると思う」


 ただ極力、現世では運動しないようにしている。


 位置を変更したり、地面につけた印を敵選手に見立て、ドリブルしながらシュートなど色々なことをする。

 俺はボール拾いとパス出しに専念。


 結局この日は活動せず、宮内のサッカー練習に付き合った。


「これから水曜はサッカーの日でも構わんよ」


「良いのか?」


 途中で神崎さんが様子を見に来たが、彼女は頑張ってねぇとすぐにソロ活へもどる。宮内もパイセンも、二人ともとても楽しそうだった。


・・

・・


 6時を過ぎてもまだ明るい。

 自宅へ帰る道中、山の石段からケンちゃんが降りてきた。


「あれ、珍しいとこから」


「ギン兄おひさ」


 チャリを止めて彼を待つ。


「ちょっとケンちゃん。俺に吟次先輩って言ってくれないだろうか」


「えぇ 急になんでさ。やだよ」


 ぐすん。


「部活は休みかね」


 バトミントン部だったか。


「うん今日は休み。最近は野球部も元気なくてさ」


 あの先生が移っちまったんじゃな。


「まだ全校生徒100人はいるんだよな?」


「ギリギリだけど、数年後には怪しいかも」


 統合は時間の問題かも知れんな。


「時間でも潰してたん?」


「昔よく遊んだよね、ここの神社でさ」


 子供のころは今よりも接する機会が多かった。


「前に言ってた違和感はまだあんのかい?」


「たまに」


 付き合いが長いのでわかる。たまにじゃないな。

 もし雪谷家の誰かが消えているとして。

 原因を知ってる俺と、知らないケンちゃんでは、どちらがより多くのストレスを蓄積するのか。


「神社に行くと落ち着くとか?」


「まあ、そんな感じかなあ」


 ガキのころよく遊んだ。俺やケンちゃんともう一人。


「虫とか捕まえたよね」


「あっ うん、そうだな」


 去年の夏は太志や隆明と、ここで虫取りしました。


「おじさんとおばさんはどうなん?」


「特にかわった様子ないけど」


 お爺さんがまだ生きてるんですが、もうけっこう認知の症状がでてる。

 徘徊とかは今のとこないから、町内放送のお世話にゃなってないけどね。


 まあ実際のご両親がどうなのかは分かんねえよな。


「あんま難しく考え過ぎんなよ」


 全てが解決したら、俺は怒られたりするのだろうか。

 彼にも謝らなくてはいけないのだろうか。

 それ以前に記憶はもどるのか。


 これほどの犠牲を払ったうえで、高校一年の俺は、なにか残せたのだろうか。



 

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