21 懸念
「どうした?」
思いつめたような表情のエヴィにルシファーが声をかける。
「詐欺師の方たちは、どのように罰せられるのでしょうか?」
おばば様が口を開こうとしたが、ルシファーが留める。
「人間の占い師は人間側の法律に則って罰せられるだろう。魔族であるワーラットは……行なった悪事を全て詳らかにしてからではあるが、罰則分の魔力を徴収の上投獄になるだろう」
罰則分の魔力徴収。
魔族は種族によって魔力の強弱がある程度決まっていると聞いたことがあるが、ワーラットはどれほどなのだろうか。持てる魔力よりも大きい魔力を徴収された場合どうなるのだろうか……
ふと元悪魔であるタマムシを見た。
……お使いに来るワーラットの子どもを見る限り、あまり魔力が強いようには見えなかった。どちらかといえば小さくて可愛らしい魔族らしくない魔族だ。
「そうですか……」
「何か気がかりか?」
「いえ……確かに悪いことをしたのだと思いますが、彼らがどうしてそんなことをしてしまったのかなと思いまして……」
人が行動を起こすには理由がある。
それが造作もないことな場合もあれば、抗えないような重大なことな場合もある訳で。
「事情を汲むことも大切だが、規律を守るためにはそうも言っていられない場合もある」
「…………はい。それはその通りです」
統べる側の好ましくない所は、そういった部分だ。
エヴィもかつてそちら側の人間になるべく教育された人間であるが、必要以上に厳しく罰せられることが果たして正解なのか不正解なのか解らなくなることがあった。
(本来は反省して償って、人生を再生して行くものだと思うのですが……)
とはいえ甘すぎては抑制力にならないのも事実で。
国を統べることに、綺麗事だけで済まないということも解るだけに不安が増した。
ルシファーは人間界との和解を模索している。人間との関係をこれ以上悪化させないよう苦心しているのも強く見て取れる。
魔界の在り方に関してもそれまでの力一辺倒の在り方から、力や魔力だけでない総合的な能力を重視していく方向にシフトしていると聞く。
(それを阻害することになる行動は、厳しく罰せられてしまうのではないかしら)
高位魔族が小さなタマムシにされたのなら、魔力の弱いだろうワーラットは消滅してしまうのではないだろうか? そんな予感が胸に湧き上がる。
(……あまり言い過ぎると内政干渉になるわ)
エヴィは口を噤んだ。
責任をとれない者が、軽々しく口を出してはいけない。
「……取り敢えずなるべく早期、かつ穏便に捕まえた方がいいんだよね」
ハクが飄々とした雰囲気でマーリンとフラメルに確認する。
フラメルが何か言う前にマーリンが素早く頷き返した。
「はい。周囲に迷惑が掛からないようにと考えています」
ハクは指を鳴らして地図を出すと、テーブルの上に広げて見せる。
「纏めると、ふたり組がいたのはこの辺?」
フェンリルとユニコーン、そしてタマムシに確認する。
近くの国の王都にほど近い小さな集落を指差す。
「その辺りは先の流行病で大きく打撃を喰らった辺りのひとつだな」
フラメルが覗き込んで呟く。
大陸全土を混乱の渦に巻き込んだ流行病。罹患者が爆発的に多かった地域では重症者も必然的に多くなり、小さな村や集落は家人がいなくなって空き家ばかりになってしまった所もあると聞いている。
「空き家をアジトにしているのかもしれませんね」
マーリンも同じように覗き込み、ルシファーが誰にでもない呟きに頷いた。
「それならば、他にも似たような奴らがたむろしているかもしれないな」
「被害者に補填出来るようなものが残っていればいいけどねぇ。何もなさそうだよね」
「場所さえわかれば、さっさと捕まえに行くよ」
『我が案内しよう』
「ブヒヒン!」
子どもの姿から神獣であるフェンリルの姿に変わる。
ユニコーンもブヒブヒと同意する。
「全員で行っても過剰戦力だろう?」
『ルシファー様♡ガ言ッタヨウニ、他ニモ悪イ奴ラガ沢山イルミタイダッタカラ、イッキニ捕縛シチャエバイイジャン?』
魔人の言葉にタマムシが地図の上に寝っ転がっては前脚で頭を支え、後ろ脚で背中の羽を掻いた。
「たまにはまともなこと言うじゃねえか」
『フフン!』
魔人が茶化すように言うとタマムシな悪魔はあるのかないのか解らない鼻を鳴らした。
「じゃあ、一気に行って一気に片づけるかい」
おばば様はニヤリと人相悪く笑って言った。
「おう!」
『ぁぁぁぁ!』
「ヒエッ!」
気合の入る声に混じって、おばば様の顔を見たマーリンの恐怖に慄く声が聞こえた気がした。




