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01 相変わらずな面々

長いお休みをありがとうございました。

本日から第三章が始まります!

これからもどうぞよろしくお願いいたします。

「わぁ。なんだか混み入った魔法陣です、ですぜ!」


 魔塔から送られて来た魔法陣を見て、エヴィは感嘆の声を上げた。

 心なしか嬉しそうにも聞こえて、おばば様と魔人は嫌そうな顔をしている。


「どれどれ?」


 毎日毎日日参している白狐の大妖・ハクはウキウキ顔のエヴィに優しく笑いかけて微かに首を傾げた。

 彼は真っ白な髪と尻尾を持つ九尾の狐である。


 今日は浅葱鼠色あさぎねずいろという灰色のシャリっとした紬に、黒味の強い紺色の袴を合わせている。留紺色とめこんいろというらしい。ハクの出身である東の国の色の名前は聞きなれないが、雅で面白い名前の色が沢山ある。


 渋みのある色合いは、雪のように白いハクの髪色を引き立たせていた。


 骨格は男性のそれであるハクは、美しい女性と見紛うばかりの優美で中性的な顔立ちをしている。艶っぽい若い青年の姿であるが、かなり長い時を生きる妖怪だ。


 エヴィの魔法陣の師匠兼共同研究者でもあるので、エヴィは躊躇なく羊皮紙に描かれた魔法陣を渡した。


「これは張り切ってるね! 魔力消費が激しそうだ」

「仰る通り、魔力消費を軽減したいということのようですね」


 一緒につけられた手紙を見てエヴィが頷く。

 ふたりは再び羊皮紙を覗き込んでは魔法陣に顔を近づけた。


「……すっかり魔塔の一員だね」

 おばば様が薬草の乾き具合をチェックしながら呟く。


「魔塔もいつの間にリモート勤務になったんだろうな。随分と今風じゃねぇか」

 魔人がピンクのフリフリエプロンをたなびかせ、お昼ご飯を作成しながら首を振る。


 西の大魔法使い・フラメルと、魔塔長・マーリンの計らいによって『外部魔術師見習い』となったエヴィ。


 魔力はまるっきりであるものの、類まれなる発想力によって今までの魔術に確変魔法を齎す可能性があるため、悪い奴らからその存在を隠すために匿名性の高い魔塔所属とするために画策したのである。


 変人が多いと言われる魔法使いに魔術師たちであるが、魔法や魔術を愛する者への同胞意識は強い。今やエヴィの存在を守るため、魔塔の魔法使い・魔術師たちが総力を結集しているのだ。


 おばば様のもとで薬師見習いをしながら、こうやって魔塔から来る協力依頼に応えているのである。


 魔塔の若い魔法使いたちにも良い刺激となっているのであろう。

 なんやかんやで作成した魔法陣や新しい魔術を試しては、上手く行かないとエヴィのところへ送ってきては意見を求めているのであった。


「ここの並びを替えたらいいでしょうか……それともいっそ組み替えて……」


 魔法陣は緻密な紋様や数式と同じである。もしくは料理のようでもある。

 高度で完成されたものであるとされており、確かにその通りなのであるが、全く改良の余地がないのかといえばそうでもない。


 それこそ視点を替えれば思ってもみない改良――足し算・引き算、場合によっては掛け算も可能なのである。


 熱心に考えに耽るエヴィを微笑みながら、涼し気な金色の瞳を細めて楽しそうに見ていた。


「どうだい? いい方法はみつかったかい」


 耳障りのよい声は視線と同じように、ほのかに甘さを含んでいる。

 大妖らしく人を誑かすもののようでもあり、気に入っている娘に対する愛情のようにも感じる。何とも不確かで妖しいそれ。


 ……愛情にも気に入るにも、それはそれいろいろあるのだが、果たしてどんな愛情なのか聞いてもはぐらかされそうだ。


 小さく笑ったような気配に小首を傾げながらふと顔を上げると、優し気に微笑む顔を間近に見ることとなり、流石のエヴィもドキリとする。


「!!」

「…………。どうしたんだい?」


 細められた金の瞳から碧色の瞳を逸らすことが出来ず、顔を赤くしたままぶんぶんと首を振る。


「髪が乱れてしまっているよ」

 そういって白い指がエヴィの小さな耳に柔らかな亜麻色の髪をかけては撫でて離れて行く。


(――――っ! おじいちゃん妖怪とわかっていても、心臓に悪い!)


 鈍感と呼ばれるエヴィでさえも、見惚れるほどに美しい青年なのである。優しくされた上に意味あり気な態度ばかり取られていると、何だか勘違いしてしまいそうになるのは仕方がないだろうと思うのだ。


 しかし妖怪は、妖精と同じように気まぐれなもの。エヴィは揶揄っているハクに、騙されないぞと思いながら小さな口をへの字にした。


 ハクはそんな目の前の少女の動揺を知ってか知らずか、悠々と機嫌が良さそうにふわふわの尻尾を揺らしている。


 おばば様も魔人も、一緒に遊びに来ていたフェンリルも。外にいるユニコーンまでもがジト目でハクを見つめていた。


 元々妖怪は人間ほどに年齢の概念が薄いわけで。


「いい加減におしよ!」

 おばば様の言葉にフェンリルと窓の外のユニコーンが、力強く同意とばかりに頷いた。


「……超絶鈍感・純情少女を揶揄ってんじゃねぇぞ? 出禁にするからな!」

 魔人が太い眉を思いっきり顰めては、不快だとばかりに声を荒げる。


「失礼だね。私はいつだって本気だけどね?」 


 ね? といいながら、エヴィに向かって微笑えんだ。


 のらりくらりと掴みどころのない大妖の様子に、マンドラゴラが魔人の陰に隠れながら小さな叫び声を挙げた。


「……デェ……ギ、ン゛……!」

お読みいただきましてありがとうございます。

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少しでもお楽しみいただけましたら幸いです。

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