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25  狭間の森にて

こちらのお話しにて第二章は完結となります。

お読みいただきましてありがとうございました!

大変申し訳ございませんが別作品の書籍化作業のため、3週間ほどお休みをいただきたいと思います。

第三章は11月21日開始予定です。

お時間をいただきまして申し訳ございませんが、次章もお付き合いいただけましたら幸いです。

「トレントさん、いかがですか?」

「…………!!」


 狭間の森へ薬草摘みに出掛けたエヴィは、小さなトレントの坊やにカチンコチンクッキーのかけらを差し出した。


 マンドラゴラとトレントが足元でペコペコとお辞儀合戦をしていたが、やはりサクサクと齧ると、一瞬雷に打たれたように身体を強張らせた後、ほわ~と蕩けるように身体をくねらせた。


「やはり植物には好評みたいだね」


 ハクは物珍しそうにクッキーを口にするトレントを見た。

 小さな欠片をそれぞれ手にしたマンドラゴラとトレントが、仲良く座ってクッキーを食べていた。

 話し声はマンドラゴラの小さな叫び声しか聞こえてこないが、仲良く談笑しているような雰囲気だ。しきりに身体を動かしながら顔を見合わせたりクッキーを頬張ったりしている。


「お友達になったのですね、ですぜ!」


 せっかくなので細かいクッキー屑を森の木の周りに撒くと、樹々が身体をくねらせては踊るように反応した。


「喜んでるんじゃねぇか?」

『あのような不味いものを、草や木の気が知れぬ』

「ブヒヒン」


 魔人の言葉に、フェンリルとユニコーンが嫌そうな顔をして答えた。



「エヴィ、この草いる?」


 シミアの兄弟が紫色の人間のような人間ではないような、何とも言えない紫色の花を持って来た。

 形はユーモラスに踊るかのような人だが、顔らしきところがとても人間には思えない形相をしていた。


「まあ。これはまた見たことがないお花ですね、ですぜ」


 魔族の子ども達はエヴィのために変わった草花を持って来てくれるのだが、世の中には変わった植物が多数あるのだなと感心することしきりだ。


 シミアの兄弟はワクワクした顔でエヴィの返事を待っている。エヴィは微笑みながら頷くと、おかしな植物を受け取った。


「せっかくの珍しいお花ですので、山小屋に飾りますね! ありがとうございます」

「良かったね、ウキキキ!」


 ちょっと猿に似た見た目通り、猿のような声で笑っては他の子ども達のところへ嬉しそうに戻って行った。

 おかしな風貌の花を見遣り、フェンリルが若干引きながら言う。


『エヴィよ。毎回毎回おかしなものを受け取るでないぞ。嫌なら嫌と申せ』

「別に嫌ではありませんが……こちらも苦手ですか?」


 フェンリルが良く見えるよう、顔の前に出すと、じりっと後ろに後ずさった。

 以前に猿に似た花を貰った際も、花に向かってずっと吠えていたことがあったのだが。


『我は、ど、どうってことないぞ!』

 言いながら瞳を左右に揺らしていた。……苦手らしい。


 ふと前を見ればマンドラゴラとトレントが手(根っこと枝)を繋いで楽しそうに歩いている。こちらはすっかり打ち解けたようだ。



「何事もなく戻ってよかったな」


 狭間の森の中なので、青年の姿をした魔王ルシファーが手ずから籠を持っていた。


 未だ流行病に苦しむ他の大陸に向けて、大量の薬と素材を送るために採取をしているのだ。

 人間界のギルドの冒険者たちも、どこかで採取に勤しんでいるだろう。もちろん魔界ギルドへもおばば様が依頼をかけている。子ども達もお小遣い稼ぎに魔界ギルドの依頼を熟しているのだ。


 ルシファーは狭間の森に行きたがる子どもたちをダシに息抜き中だ。

 普段は沢山の魔族に傳かれる彼だが、人間界で息抜きをする間はごく普通の青年のように振舞える貴重な時間なのである。


「ご心配をおかけいたしました。せっかくの通行証も割らずに済みましたし、何だか物凄く良い人達だったのです!」

「そうか。それは何よりだ」


 礼を言った後嬉しそうに魔塔での様子を語るエヴィに、無表情ながら律儀に頷いている。

 しかしおばば様も魔人もハクも知っているのだ。普段から無表情のため表情の作り方が解らないだけで、目元も口元も緩く緩んでいることを。


「まあ、おかしな連中だったけどねぇ」


 おばば様のため息まじりの言葉に、ルシファーは気遣わし気に問いかける。


「フランソワーズの正体はバレなかったか?」

「……南の奴には元々バレてるからね。しかし魔塔の人間は深追いはせずだね。エヴィに関しても、アコギな奴らから目隠しするための意味合いの方が強いようだよ」


 万一新しい魔法や魔術をエヴィが考えたとしても、魔塔の人間が考えたのだとか言って追及を誤魔化すのであろう。


 先日外部魔術師見習いとなったエヴィなので、全くの嘘という訳でもない。

 外部の権力者の圧力や政のあれこれを避けるため、魔塔内で開発された魔法や魔術は名前を開示しないで済むのだ。魔法の歴史上にのみ、その名前が刻まれることとなる。


「みんな魔法や魔術が大好きな、ただの魔法オタクだったよ? 一部変なのがいてユニコーンやマンドラゴラは大変そうだったけど」


 ハクは魔塔での様子を思い出しては、楽しそうに耳としっぽを揺らした。


「……ブヒヒン……」


 触らせてほしいとずっと付きまとわれていたユニコーンは、げっそりした様子で小さく嘆くと、イヤイヤと首を左右に揺らした。


「時折魔塔へ出かけて、結界を変更したり他のことにも首を突っ込む予定だよ」

「……大妖でも問題なく出入り出来るのか?」


 ルシファーが流石にそれはどうなのだと言いながら困った顔をすると、魔人が気持ちはわかると頷いた。


「ま、そんな変人の巣窟だったぞ」

「そうか。……魔塔も変わったのだな」


 しみじみと呟く。おばば様と魔人は顔を見合わせた。


「……まあ、人間にもいろんな奴がいるからねぇ」

「寿命が短い分入れ替わりも激しいからな。今の奴らは行動はちょっとおかしいが、考え自体はまともな奴だったぞ?」

「そうか」


 笑い声にふと見れば、魔族の子ども達にマンドラゴラとトレントが手を取り合って踊っている。うずうずするフェンリルをよそに、サキュバスがエヴィの手を取った。


「エヴィも踊ろう!」

「私、上手く踊れるか解らないです、だぜい?」


 ダンスは得意であるが、しかしワルツでもメヌエットでもないダンスを踊れるだろうか――エヴィは真剣な表情で子ども達のステップを凝視する。


「大丈夫大丈夫!」

「適当でいいよ!」


 そう促されるとみんなで輪になって踊り始めた。


 森の樹々も楽しそうに枝葉を揺らし、光るキノコが伸び縮みしながらリズムを刻んでいる。カラスが合いの手を入れ、コウモリが陽気な軌道を描いて空を舞う。


『我も! 我も仲間に入れるのだぞ!』


 堪らず輪に向かって走り出したフェンリルの後姿と輝くようなエヴィの笑顔を、大人たちは笑いながら見遣ったのであった。

お読みいただきましてありがとうございます。

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少しでもお楽しみいただけましたら幸いです。

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