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24 魔塔からの召喚・後編


 困っている人の助けになればという考えが、時に自分の首を絞めることになるとは。

 そんなことを思いながらエヴィは、高い尖塔屋根を見上げていた。


 名だたる魔法使いと魔術師が目指す、魔法を扱う最高峰の者たちが集まると言われる魔塔。

 モノの本や嘘くさいゴシップ記事を読むと、非常にプライドが高く魔法と魔術に妥協を許さない者たちの巣窟だというが……



「ややや! 遠い所をどーもどーも!」


 紫色のローブを羽織っているのはおばば様と同じであるが、やたらと腰の低いおじさんがヘラヘラ・ペコペコしながら斜になって前を歩きながら塔内を案内していた。


「…………」


(どこがプライドが高いだって?)


 山小屋からやって来た者たち全員が心の中で口を合わせている。


「私は魔塔の責任者で魔法使いの端くれをしております、マーリンと申します。どうぞよしなにしてやってください!」


 だっははははは! と愛想笑いをしながら自己紹介をした。

 髪に白いものが混じり始めた壮年の魔法使いは、どぞどぞ、と言いながら再び歩き出す。


 魔塔内はロウソクと魔道具の明かりが混在しており、薄暗く足元を照らしている。

 吹き込む隙間風に、チラチラとロウソクの炎が揺れていた。


 そしてうず高く積まれた書籍に山の間には、魔力回復と体力回復のポーション瓶が転がっていた。

 天井の角を見れば大きな蜘蛛が糸を垂らしてせっせと蜘蛛の巣の補修をしている。


「……ちゃんと掃除をしているのかい?」


 聞くだけ野暮なことと知りながらも、つい確認してしまうおばば様。

 細かにヒビの入った壁に目をやれば、蜘蛛以外のものまで走り出してきそうな雰囲気である。


「いや~! 皆さんがいらっしゃると伺い急いで掃除はしたのですが。見ての通り清々しいばかりの男所帯ですので普段はなかなか」


 ブンブンと両手を勢い良く振り、あっけらかんと笑うマーリン。


 更には廊下だけでなく、作業部屋の扉から顔を出しているローブ姿の男どもが、キラキラした瞳で一行に視線を送っているのが視界にちらついてもいた。


「すみませんねえ。なにせ普段は皆、魔塔の人間以外と合わないものですから」


 カサカサという音をたてて小刻みに壁に張り付いたり、扉の陰からも話し声や激しく動く音が聞こえて来る。


「いい歳した奴らが、思春期真っただ中かっつうの」

 口の悪い魔人が呆れたように吐き捨てる。


 ユニコーンとフェンリルは、素材として自分達をつけ狙う奴はいないかと瞳を光らせていた。


 一行は大きな扉の前に立った。軋んだ音をたてながら扉を開ければ、かなり広い研究室のような部屋であった。数名の魔法使いたちが大きな羊皮紙を丸めたものを分厚い本と一緒に抱えては話し合いをしたり、何かを見ては確認し合っていた。


 奥へ進んで進むと、見知った禿げ頭が見える。フラメルだ。


「皆様はお知合いですよね? フラメル様には顧問を務めていただいております!」


 マーリンの大きな声に気づき、フラメルが振り返る。


「お前さんは責任者じゃなかったのかい」

「基本、僕は西側にいるからね。魔塔の責任者は上級魔法使い・マーリンだよ」


 魔法使いには(魔術師にも)上級・中級・下級・見習いというランク付けがあるそうだ。なお、上級を越えた実力者は特級魔法使いとなり、大魔法使いを目指すこととなる。


 現在特級魔法使いが二名いるが、このふたりが大魔法使い見習いのふたりである。


 もうお爺さんなのでだいぶ前に魔塔を引退して田舎へ引っ込んでいるのであるが、言うまでもなく本当は老化が遅くなり、未だ若いままの姿だ。そして大魔法使いになるべく研鑽を積みながら、とある場所で隠遁生活を送っているのである。


 おばば様とフラメルが話をしていると、部屋の隅っこにある転移魔法陣を使ってどんどんと人が集まって来る。


「青白く光ってます……!」

「転移陣ですよ。魔塔内の転移用の魔法陣と繋がっていまして、使用者は少量の魔力を流して発動させるのです」


 マーリンは物珍しそうに転移用の魔法陣を見つめるエヴィに簡単に説明をする。

 根が素直なエヴィは興味深そうに相槌を打ちながら、ほのかに光る魔法陣の模様を瞳で追った。


「……お嬢さんも魔法が好きなのですね」

「はい。魔法や魔術、大好きです」


 マーリンが優しい微笑みをたたえながら、満足そうに頷いた。


 そしてその周囲では、転移して来た魔塔の魔法使いと魔術師たちが、ざわざわしながら整列をしはじめた。

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