表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/146

23 お口に合いましたか?

  人里離れた山の麓の山小屋では、今日も全員忙しく立ち働いている。


「じゃんじゃんバラバラ作り倒すよ!」

「お~」


 おばば様の掛け声とともに、全員が右手を挙げる。

 ……一部やる気がなさそうな者もいるが、何だかんだで役目は果たしているため問題ない。万一支障が生じても、おばば様が喝を入れるだけのことである。


 庭の石窯は訪れた人間が驚かないように目隠しの魔法がかけられており、山小屋の者以外には一切見えないようになっていた。

 そんな目隠しをされた窯の中では、今日も忙しくサラマンダー達がクッキーを焼いている。


『真っすぐ切れたぞ!』

 小さな手で包丁を握り、クッキーを四角に切り分けたフェンリルが胸を張る。


「うわあ、上手ですね! ……私はいまだに綺麗に切れないです、ですぜ」

 フェンリルを称えながらも若干落ち込むエヴィが言った。


『うむ。エヴィは仕方がないのだ。人には向き不向きがある故、そう落ち込まぬことだ』


 小さいくせにやたらと偉そうなフェンリルが、珍しく気遣わし気にエヴィを見てはポンポンと慰めるように腕を叩く。

 既にフェンリルにまで家事の類いが苦手と認識されているらしい。


 自動かまどの前では、ユニコーンが角を超高速回転させてポーション作りをしている。

先日カラカラに干からびて帰ったフラメルの後ろ姿が焼き付いているユニコーンは、特に加減することもなくドバドバと魔力を流し込んだ。出力一杯に投入するのも疲れるが、ちまちまとコントロールする方がもっと面倒臭いのだ。


 その上一応聖獣という存在のため、困っている人間を見ればソワソワする。

 ユニコーンと言えば清らかな乙女以外には無反応と思われているが、そんなことはない。




「おばば様、原因の物体だけですよ?」

「解っているよ!」


 部屋の端っこに防護壁を張り、おばば様が病原だけを攻撃する練習をしていた。


 ルシファーの話では目に見えない程に小さいものらしいが、認識できないと練習のしようがないので、カビを培養しては板にくっつけて、攻撃・分解・消去するような練習を続けていた。


「…………」

「病原よ消えよ! 餡・ポン・端!」


 数秒後、部屋の隅から鈍い爆発音がする。そしてもくもくと煙が透明な防護壁の中で充満しているのが見えた。


 防護壁が爆発音も衝撃も、全てを閉じ込めてくれているので部屋の中は綺麗なままである。透明な防護壁にやたらと細かくなった木片が勢いよく当たっては、再び粉々に砕け散る。

 爆発と飛散の勢いの強さを思い知らされる。


 ……特訓は芳しくない。

 魔人も試してみたが、同じく盛大に爆散させて終了した。


「やはり魔力が大き過ぎて、小さく絞るのが難しいんだね」


 ハクがそう分析しておばば様と魔人を見る。極まりが悪いのか、殊更不機嫌そうなふたりが瞳を左右に揺らしていた。


「……もう、薬に特化した方がいいんじゃねぇのか?」

 ややあって魔人がそう提言する。


「幸いこの辺りは、重篤な患者が少ないからね。もうポーションのランクなんて関係なく、上物を飲ませて完全回復させちまえばいいんじゃないかね」


 業を煮やしたおばば様もそう言う。

 ちまちましたことが苦手らしいふたりは、風邪の患者にさえエリクサーを配りそうな勢いだ。


 他の大魔法使いたちが、各々の形の攻撃治癒魔法を完成させたこともあるのだろう。魔塔の魔法使いたちの中にも、数名程マスターしたものがいると聞く。


 流行病が猛威を振るっていた地域も、少しずつ沈静化して来たと報告があった。


「……対象物が小さいからいけないのでしょうか」

 エヴィがハクに向かって首を傾げる。


「いっそ、大陸全土に蔓延する病原をやっつけるイメージで行ったら成功するのでしょうか」


 力に対して対象物が小さすぎるなら、大きくすればいいじゃないということだ。

 安易な気もするが、確かになとも思う訳で。


「流石に、大陸全土に攻撃域を広げたら、その一点の破壊力は小さくなりますよね?」

「…………」


 確認をされたハクだけでなく、おばば様と魔人も想像してみる。


「…………」

 そして、無言で顔を見合わせた。


「そうだと思うけどね……。思うけど、でも万が一があるかも。試すのはかなりリスクがあるね」


 そう言って、ハクが申し訳なさそうな顔をする。いつもはピンと立っているお耳もぺたんと頭にくっついていた。


 そんな横を、マンドラゴラが忙しそうにゴミを拾って歩いていく。


「そう言えば、マンドラゴラさんは植物だから苦くは感じにくいでしょうか?」


 エヴィは、カチンコチンクッキーを作り始めの頃に出た試作品の欠片を差し出す。

 ユニコーンとフェンリルも消費すべく協力していたが、途中でギブアップした代物である。


 栄養満点で身体にいいことは請け合いのため、捨てるのも忍びなくアイテムボックスの中に大切に保管してあるのだ。


「どうぞ」

 小さな欠片を手渡すと、根っこの手で受け取った。


『ぅぁ?』

 受け取ってよいのかとオロオロしながらおばば様たちを順番に見ている。


「食べてごらんよ」

 おばば様の言葉に、アワアワしながらもひと口、小さく齧る。


 サクサクサク、サクサクサク。


 小さな口でモグモグと食べる。


『……ふぅぁぁぁぁぁ~~~~♡』


 つぶらな瞳をキラキラさせながら、ため息まじりの小さな叫び声が聞こえてくる。根っこの手で頬らしき場所を押え、非常に満足そうな表情を浮かべていた。

 その場にいる全員がマンドラゴラを見つめる。


「……口にあったようだねぇ」

 なんとも言えない表情をしたおばば様が、納得いかないような声で言った。


「やはり植物の仲間なので、草っぽい感じは嫌いではないのですね」

 そう言いながら、愛らしいしぐさのマンドラゴラを見たくて再びクッキーを差し出す。


『あのようなモノが旨いとは……』

「ブフフン!」


 これでもかと消費させられたことを思い出し、顔を青褪めさせたフェンリルとユニコーンが揃って口を押えながら、イヤイヤと首を横に振った。


「まあ、残飯処理できそうで良かったじゃねぇか」

 魔人が光の消えた瞳で、まるで感情のこもらない口調で言う。


「もしかしたら、トレントの坊やもお好きかもしれませんね、ですぜ!」


 狭間の森にいる小さな木の精にも分けてあげようと意気込むエヴィ。


「いつもお掃除を頑張ってくださってますから、沢山食べてくださいね!」

『ぅぁぁ~~♡』


 ニコニコしながら山盛りのクッキーだったものを差し出すエヴィと、これまた嬉しそうに食べるマンドラゴラのほのぼのとした空間に佇みながら、おばば様は苦笑いをした。


「何だか、どえらいメルヘンだねぇ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ