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03 謁見

 自己紹介はされないものの、権威者特有のというかある種覚えのある雰囲気から、この城の主であろうと推測する。


 彼が魔界の王だ。


 その姿はエヴィと変わらない、成人したての若い青年にしか見えない。そんな、想像よりもかなり若い見目と、ハクとも共通するような妖しい美しさに驚いていた。

 エヴィは内心焦りながら礼をとるために姿勢を正そうとするが、面倒そうに片手を振られた。


「堅苦しい挨拶はよい。わざわざ城まで呼び寄せてすまなんだ」


 全然すまないようには見えない口調と態度である。


 断られたとしても、初見の上位者にはそれなりに尊敬と尊重の態度を見せるべきであるが、魔族はどうなのだろうか……せっかくの気遣いを、無碍にされたと思い丸焦げにされても困ると考えに至り、年長者である三人を見遣った。


「本当だぜ! 用事があるならてめぇで来りゃあいいだろ?」


 魔人だ。彼は尊敬も尊重も全くもって感じられない様子で言い放った。

 エヴィは酷く驚いて、ただでさえ丸い目をこれでもかと丸くして魔人を見る。


「魔人よ、お前は相変わらずだな」


 魔王は怒るでも気にするでもなく鼻であしらう。

 思わず他のふたりの様子を確認するが、こちらも全く気にする素振りはない。


 困ったようなエヴィの心のうちを知ってか、魔王が口を開いた。


「魔族と人間族の長い不和は知っての通りだ。異種族間の断絶は根深い問題ゆえ、今後も早々に解決はしないであろう」


 至極あっさりと、達観したように言う。

 悲しみや憂いの様子すら見受けられないのは、散々試行錯誤し、失敗して思い知った結果なのだろうか。


「……今更人間界で過去のように共に暮らすことは考えてはいないが、せめて隣人程度は理解をし合えればと思っている。それすらも長い時間がかかるであろうが……。

 古い者たちの価値観を変えることは難しいが、新しい世代の子ども達には魔族にも人間族にも様々な者がいると同時に考え方があると知り、他者を思い遣れるように育ってほしいと思っている」


 態度は尊大であるが、考え方はかなりまともであった。

 全然『魔』ではない。真っ当である。エヴィは感心をした。


「先日のオークが失礼をして、儂も同胞の多くも、大変申し訳なく思っている」


 頭を下げようとするので、押し止めさせるかのように口を開く。


「いえ! 先日魔王様にもお詫びのお言葉をいただきましたし、来訪された方のお父上がいらして、充分お詫びしていただきましたので……!」


 魔王は僅かに微笑んだように見えた。


「そう言ってもらえると助かる。そして、いつも子ども達に親切にしてくれて改めて礼を言う。ありがとう。今後も無理のない範囲で構わないので、奴らと友好関係を継続してもらえたら嬉しく思う」

「こちらこそ、子ども達や患者の方々と仲良く出来て嬉しく思っています」


 魔王は満足そうに頷くと、近くに控えていたハゲワシのような頭皮のお爺さんに向き直る。


「食事にする」

「畏まりましてこざいます」


 執事服のようなお仕着せを着たお爺さんは魔王に頭を下げると、滑るような足どりで広間を出て行った。


「心ばかりだが食事を用意した。是非寛いでいってくれ」


 そう言って玉座を立つと、一行の前に出て誘うように頷き示して歩き出した。


「エヴィに食事をご馳走したくて呼んだんだね」


 ハクがニコニコと微笑みながら耳打ちした。


 今日の彼は初めて会った時のようなシノワズリ風の服を纏っていた。白にも見える薄い水色から、足元に向けてどんどんと濃いグラデーションに変わって行く見事な服である。


 雰囲気が違うからか、周囲の様子を窺っているのか……少し疲れたようなフェンリルを抱いて、ふさふさのしっぽを揺らしている。


 長い廊下を歩く一行は、好き勝手に話しながら歩いている。言うまでもなく気遣いをしてるのはエヴィのみで、他のメンツはまるで山小屋にいるのと変わらない様子であった。


「魔王が奢るなんて珍しいじゃないか」


 おばば様も人が悪そうに笑っていた。ブヒン、とユニコーンも頷く。


「まあ、旨いモン食えるなら何でもいいがな!」


 相変わらずな魔人は、魔人である。ふよふよと浮きながらマイペースだ。

 エヴィは碧色の瞳を瞬かせた。


「全部聞こえているぞ。お前達はもう少し口を慎め!」


 魔王は呆れたように後ろを振り返えってはため息をついた。

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