30 辺境の毎日
本日最終回となります。
次話は午後に更新いたしますので、
合わせましてお読みいただけましたら幸いです。
あれから数日が過ぎ、穏やかな日々が戻って来た。
人里離れた辺境の山小屋は、再びゆっくりした時間が流れ始める。
……ゆっくりしているのは風景と変化の少ない日常だけで、辺境の地で過ごす一日一日はなかなかにハードある。
「こらぁぁぁぁ! 待ちな!」
『ゲ……ゲコッ! ゲコッ!?』
おばば様が庭先でガマガエルを追いかけまわしている。春の恒例(?)カエルの脂取り放題である。
……なお、冬眠中のカエルも掘り起こして油をとっていたことを付け加えておく。
「……相変わらずうるせぇなぁ。追いかけまわすくらいなら、もう飼って飼育しろよ……』
魔人がホウキを片手に、うんざりした表情で窓から顔を覗かせた。
「家の中にカエルがいたんじゃうるさいから嫌だよ! それに生臭いじゃないか!」
おばば様は相変わらずの仏頂面で文句を言っている。
『……ゲコ……ッ!』
視線が自分から離れた瞬間、こっそり逃げようとしたカエルだったが、企み虚しく、魔人と言い合いをするおばば様にむんずと掴まれた。
「さあ……たっぷり脂を搾り取らせてもらうよ……?」
ニィ……と表現するのがピッタリの顔でカエルに迫って行く。
『……ゲッ、ゲココ!(くっ、殺せ!)』
「煩いね! くっころ・けっけろ言ってないで、いいから早く脂汗を出しなっ!」
『…………』
恐怖に顔を引きつらせていたガマガエルは、ジト目で不服そうな顔をすると、何か言いたげながらも必死に脂汗を流す。
それを見ておばば様はしめしめと人相悪く笑っては、脂汗を収穫しだしたのであった。
『いつもの風景だな。……それにしてもおばばは何故あんなにも恐ろしい顔をしておるのだ』
「ブヒヒン」
水汲みのお手伝いをしているフェンリルが呆れたように、なかなかに失礼なことを言う。
全くだ、とでも言わんばかりのユニコーンは庭先で洗濯物を干している。蹄でもってきちんと、器用に洗濯物を叩いては皺を取る念の入れようであった。
最近少しだけユニコーンの話していることが解かるようになって来たエヴィだ。出会った時ほどの気持ち悪さは薄まって来たものの、時折気持ち悪い発作を起こすことがあるので注意が必要である。
『ァバ、ァババババババ……!』
エヴィと一緒に庭の手入れをしていたマンドラゴラが、おばば様の様子を見てガタガタと震えていたのはご愛敬だ。
『ウンショ、ウンショ! メッチャ重インダケド!』
タマムシ……はなぜかニジイロクワガタに進化し(?)、専用のソリに乗せた薪を運んでいる。
辺境の地で暮らすためには、日々細々した仕事が山積みだ。
のんびりと田舎暮らしをスローライフというが、その実やることが多すぎて全くスローではない。どちらかと言えばファストライフである。
その上時に流行病が起こったり、それに乗じて商売をしてみたり。更には封印された大悪魔が現れたりとするのである。
「平和だねぇ」
近くの川で釣って来た魚を焼くハクがニコニコしながら言った。
今日は淡藤色の着物に、きりりと青鈍色の袴を穿いている。白い耳としっぽが映えて、うっとりするほど美しい佇まいである。
金色の瞳を緩く細めて笑っている顔はどこか艶やかであるが、何のことはない、何か悪戯でも考えているに違いなかった。
そんな麗らかな春の一日。あと数日もすれば、エヴィも誕生日を迎え十七歳になる




