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10 資産が膨れました

「ひえぇぇ……」


 エヴィは通帳を開いては小さく叫び声をあげた。

 魔人にお願いをした際、おまけということで貰った通帳と一千万エーンは、今や十倍以上になっていた。


 過去の訓練の賜物ともいうべきか、エヴィが行う投資はこと如く成功を収めている。

 倍どころか数倍に膨れ上がる利益……膨れた分は貯金、そして別の投資に使われた。

 最近は目に見える資産というか、値崩れのしがたい金と宝石に分散投資を始めた。幾ら人里離れた山の麓とはいえ、むき出しで山小屋に置いておくのも物騒だからということで、エヴィにしか開けられない魔術が付与されているアイテムボックスを購入し収納している。


 ……どういう訳か少しずつ金の値が上がって行っているという現象が起こり始めているのはご愛敬だ。


 そんなこんなで、最近では正体不明な謎の天才投資家と呼ばれ、その手の界隈ではちょっと話題になっているエヴィなのである。


「また増えてたのかい?」

「はい……千切り機のお金も入って来てますし」

「あれ、そんなに売れてんのか?」


 おばば様と魔人が呆れたような声で言う。

 ハクはそんな三人を楽しそうににこにこと眺めていた。


 今日は四人で町に買い物に来ていた。町に来たついでに、通帳記入と代筆依頼の確認、良さそうな銘柄があれば購入する……というのが一連のルーティンになっているのであった。


「いつまで続くかわからないので、手堅い仕事もあるといいのですが……」


 何とも言えない表情で通帳をしまったエヴィは、ため息をついた。

 案の定というべきか、代筆業の仕事は、今日も一つも入ってなかったのである。


「今の生活ぶりじゃ、一生あっても使い切れないよ」

「まったくだぜ」


 何というか、エヴィが稼いだお金は殆ど減っていないのである。


 住まわせていただくので家賃をとおばば様に申し出たのだが、そもそもおばば様もビタいちエーンたりとも家を建てるのに使っていないのである。

 ……現在地に住むことに決め、荒れ地を魔法で開墾し、魔法で家を建てたのだ。そんな状況なのに家賃を入れて貰うというのも憚られ、結局無料で住まわせてもらっているのである。


 その代わり、こうして町に出た時に買うお菓子などはエヴィが持つことにしている。食材にもたまに使うが、肉や魚は魔人が適当に狩って来るし、野菜は畑で適当に栽培しているのでそれ程高値になることはない。


 年頃の少女らしくおしゃれを……普通ならそう考えるのかもしれない。


 ところが公務で綺麗なドレスは嫌という程着慣れているので、特におしゃれをしたいという欲求もないのだ。それどころかギュウギュウに絞られてキツイ上に動きにくいドレスも装飾バリバリな靴も、もう勘弁であるとすら思っている。


「……お金は幾らあっても困まりゃしないけどねぇ。増えすぎて怖いなら投資を控えてもいいんじゃないかい? もしくは若くても金のない起業家に援助するとか」


 勿論上手く行ったらそれ相応のキックバックはありで、とおばば様は心の中で呟く。心の声が聞こえているのだろう魔人も頷いた。


「そうですねぇ。未来の技術に投資するのは良い考えかもしれませんね、ですぜい」


 困っている人の力になるような活動を支援するのも良いであろう。


(……そうすると、莫大な資金が要りますわね。もっと資産を増やさないと、あっという間になくなってしまいますわ……)


 誰かに援助をするのも投資をするのも、責任が生じるのである。スポット的な援助ならともかく、投資したいと持ちかけておいて資金難で打ち切りというのは余りにも無責任であろう。


(取り敢えず〇回でとか、△エーン均一とか。初めに回数や金額を決めておけばいいのかしら)


「うーん」

 何やら難しい顔で考え始めたエヴィを見て、三人は顔を見合わせた。


「何だか、減らすどころか余計増やす方の考えで進んでいるんじゃねぇか?」

「エヴィは本当に面白いね」


 ハクは着物の袖で口元を隠すと、クスクスと楽しそうに微笑んだ。

 ご機嫌なのだろう、妖力で隠してあるふさふさのしっぽが揺れているのが見える気がした。


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