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05 大魔法使いと大魔法使い見習い

「えー!! 魔王、俺も見たかったなぁ」

 東の大魔法使い見習いことアロンが、殊更残念そうに口を尖らせた。


「……狭間の森は魔界と人間界を隔てる森だとは聞いていましたが、本当にいるのですね」

 シモンは真面目そうな表情を崩すことなくそう言った。


 魔族が結界の中にある魔界に引きこもって数百年。魔法使いの間でもお伽噺のような存在となって久しい。

 当然のことながら、アロンもシモンも魔王どころか魔族魔族した絵に描いたような魔族なんて見たことがないのである。


「それよりも、探知機とやらは出来上がったのかい」

「バッチリ出来上がったよ!」


 そう言いながらハクを見遣る。

 この数日、ハクのゲルで瘴気探知機なる魔道具作りに勤しんでいたのである。


 何やら混み入ってそうなシロモノなため、機転を利かせた魔人がハクにふたりを押し付けたのである。ハクはハクで魔道具作りが趣味であるため、それなりに楽しく過ごしたのであった。


「ハク殿は東の国の魔族であられるとか」

「魔族じゃないよ、妖だよ。妖精や精霊の仲間だよ?」


 ハクがいつも通りの言葉を呟くと、おばば様と魔人がジト目でハクを見る。ここまでが一連の流れのようなものだ。


「エヴィの『何でも浄化しちゃう水』だっけ? 上手く行ったのかな?」


 ハクが、ニコニコと話を聞いているエヴィに問いかける。


「はい。ユニコーンさんがお手伝いしてくれたお陰で成功しました。綺麗に浄化出来ました!」

「ブヒヒン!」

「良かったねぇ」


 マウントをとるユニコーンはまるっと無視をして、まるで小さい子にするようにいい子いい子をするハク。


「ねえねえ、『何でも浄化しちゃう水』って何? 怪しい詐欺商法的なやつ?」


 魔塔を退職(?)してからは、大魔法使い見習いして研鑽を積んでいる……というのは表向きで、自分の管轄である大陸の東の方で何でも屋をしてのんびりと暮らしているアロン。魔法を使った探し物(人も物も)に定評があるのだが、魔道具作りの他、カラクリ仕掛けの機械などを作るのが趣味だ。


 アロンの問いかけに、よくぞ聞いてくれましたとばかりに薬瓶に入ったそれを差し出す。


 本来ならば胡散臭いことこの上ない名称のそれとやけに得意気なエヴィを、アロンとシモンは交互にと見遣る。


「聖女様が存在されなくなって浄化が充分でないと聞きましたので……お水ならどの世代のどんな方にも摂取していただけるので、一番良いかと思いまして」

「確かに、水の形をとれば人にも物にも使用し易い」


 シモンも感心したように頷きながら『何でも浄化しちゃう水』を覗き込んだ。


「これは凄い……」

「うっわぁ~、エグイ程に高純度だね」


 それぞれの様子と言葉で感心したふたりが、物珍しそうにエヴィを見た。


「魔塔初の外部魔術師見習いだっけ? フラメルとマーリンも思い切ったことするなぁと思ったけど」

「……本当に、清々しいまでに魔力がない事が悔やまれる」

「?」


 苦笑いをするふたりに、エヴィは首を傾げた。


「こんなおかしなことを考えるなんて、魔力があったらお仲間だっただろうにね」

「しかし悪用されないために、よくぞ思い切ったことをしたもんだ」


 シモンは先見の明ともいうべきか、おかしな制度を作ってエヴィを抱え込んだマーリンを褒め称えた。


「とにかく瘴気が浄化できることは判明しましたから、今後痕跡があった場所は綺麗に出来そうです。各地で浄化の力が弱まっているとのことですから、雨みたいに広範囲に散布できるとより良いのですが」

「雨かぁ。いい方法ないかな?」


 エヴィの言葉にシモンを見遣った。


「……機械や魔道具は君の管轄だろう?」


 やはり魔塔を退職(?)してからは、大魔法使い見習いして研鑽を積んでいるシモン。

 アロンに比べ生真面目な彼は、大陸の西側にある家もとい研究室で日々魔法と不思議生物の研究に時間を費やしている。


 仮にも大魔法使い見習いこと特級魔法使いであるため、魔法に関しての腕と知識は折り紙付きだ。よって研究の多くは不思議な植物や生物に傾いていることは言うまでもない。


 いわば大魔法使い(大魔法使い見習い)というのは、魔法オタクの総称である。


「つーか、ここいいねぇ。魔族はいっぱい来るし、変な生き物は沢山いるし。ハクもいるから魔道具作りがはかどりそうだし」

 心底羨ましそうなアロンに、シモンも同意と頷く。


『失礼な。変な生き物なのはお主の方だぞ』


 ジト目をしたフェンリルが、シモンに買ってもらったお菓子に齧り付きながら言った。


 この小さな幼年が実はフェンリルだと知って、不思議生物マニアであるシモンはその生態を調べるべく、フェンリル懐柔作戦に出たのである。お菓子を餌にいろいろと調べさせてもらったのは言うまでもない。


「広範囲に撒くんだったら、風魔法と水魔法をかけ合わせたらいいのかなぁ?」

 珍しく真面目な表情をしたアロンがシモンに問いかける。


「霧状にして拡散するのか」

「そうそう」


 魔法使いらしい話し合いに、おばば様は内心で目を細めた。

 仕事で魔法を生業にする者は地位や名誉を欲するが、本当に魔法を愛する者は魔法そのものを欲し、活かそうとするのだ。


 本来、大魔法使いも大魔法使い見習いもない。アロンとシモンも呼び名にはこだわっていないであろう。


 どちらもただ、魔法の真理を追い求める人たちのことなのである。

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