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雪解け

 



「……また、この夢か」


 枕もとの時計を見ると、時刻は6時30分を示していた。

 同じ夢を最近何回も見る。

 ――――慎太郎君との出会いの夢。

 あの頃はまだ1年生で……。

 あたしもまだ高校に慣れていなくて、憂鬱な日々を送っていた。

 しかし、彼がそれを変えてくれた。


「……もう、起きないと」


 行きたくもない学校に行く準備をするために。



 ――――――――――――――――――



 去年の夏、慎太郎君が事故にあった。

 普段通りに学校に行き、普段通りのホームルームで先生から告げられた。

 他のクラスの男子が事故にあった、と。

 その時はまだその男子が慎太郎君だなんて思わなかった。

 その日から、学校で慎太郎君を見ることはなくなった――――。


 植物状態。

 それが今の慎太郎君の状態だった。

 回復の見込みはほとんどないようだという。

 あくまで面識のないあたしが調べたことだから、信ぴょう性もそこまで高くはないけれど。

 でも、彼は今いない。

 それが全てであり、真実だ。




 あたしの世界は変わってしまった。

 一生分の涙は流したと思う。

 学校もかなり休んでしまった。

 それでも、最近はとりあえず足を運ぶことができるようになってきている。


 シャクシャクと、ローファーでかすかに積もった雪を踏みながら、一歩一歩学校へと歩みを進める。

 あたしは何をしているんだろう。

 何で学校に向かっているんだろう。もう彼もいないのに。



 ――――あたしは何で生きているんだろう。


 彼はあたしにとって生きる理由だった。

 それが、なくなってしまった。



 あたしはこれからどうなるのかな。

 彼という生きがいを失い、あたしはどうするんだろう。

 高校を卒業して。

 なんとなく、大学に行って。

 もしかしたら大学にもいかないのかもしれない。

 すぐに就職して。

 もしかしたら。

 また誰かを好きになることもあるのかな。



「そんなの嫌だな……」



 ため息が白く染まる。

 もう2月も終わりだというのに、肌を刺すような寒さにうんざりする。






 不意に。

 うつむきがちだった視界に、誰かの足が飛び込んでくる。


「……?」



 目の前に誰か立っている。

 学ラン?

 多分ウチの制服だ。

 この道で同級生に会ったことないのに。




「笹本さん……ですよね?」



「…………え」



「俺、学校久々で……、道を忘れてしまったんですよ」



 ***


 我ながら無理があるなと思った。

 学校への道を忘れるなんて、んなアホな。

 目の前の紗和も口をポカンと開けたまま、唖然としている。


 でも、こうでも言わないと、話しかけられなかったんだ。

 仕方ない。





「………学校まで、連れて行ってもらえませんか?」





 転瞬。

 目の前の女の子は、涙ながらに満面の笑みを浮かべた――――――。















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